妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠

文字の大きさ
上 下
241 / 415
終わりと再生

240 最強の守護者ミューモ

しおりを挟む
 無数の刃が降り注ぐ。風は嵐の様に強く打ちつける。巨大な氷の柱が、全てを貫かんと襲い来る。
 雷鳴が轟き、数多の雷が走る。炎は巨大な渦となり、あらゆる物を焼き尽くそうとした。
 極めつけは、国一つを一夜で滅ぼした超爆発。数万キロを荒野にした一撃の威力は、如何に地球の現代兵器でも叶うまい。
 
 妄想を具現化する魔法があるロイスマリアにおいて、机上の空論は現実となる。 高い知能とマナを有するエルフは、どの種族よりも群を抜いて強かった。

 管理者たれ。

 いつしか、驕った考えを持つ様になったエルフ達は忘れていた。この世界には、自分達よりも強い生物が居る事を。

 原初の生物にして、地上の守護を神より託された存在、エンシェントドラゴン。その一翼であるミューモが、エルフ達の前に立ち塞がっていた。

 ミューモは、あらゆる魔法を無効化した。それは、絶対防御の盾。ミューモの覚悟でもあった。
 冬也に誓った、己の魂に刻んだ約束は、いま果たされようとしていた。
 
 己にむけた計り知れない殺意を持った相手であろうとも。誰であろうと救う、その覚悟がミューモを突き動かす。
 ミューモは、ひたすら耐えた。そして、どんな魔法でも防いで見せた。
 数時間が数日になろうとも、どれだけの時間が掛かろうとも、いずれ時は来る。その為に耐えていた。
 
 エルフ達を釘付けにする。それは未だ止まぬ、アンドロケイン各地で起こる戦乱を拡大させない、最良手段であった。
 己の眷属が、今なお抗っている。エレナは、ミノタウロス達をまとめ始めたばかり。
 彼らの足掻きを、決して無駄にはしない。
 
 耐え続けるミューモ、止まらないエルフ達。両者は、一歩も引かなった。

 何故エルフは、そこまで力を誇示しようとするのか。かつて、神の先兵として戦って来たミューモには、その気持ちが理解出来た。

 力が有れば使いたくなる。しかし、理性的な存在で有れば有るほど、力を行使する為には理由が必要となる。正義と言う名の、絶対的な理由が。
 ミューモの場合は、神の命であった。だがエルフ達は、溺れたのだろう。その強さに酔いしれたのだろう。
 故に驕ったのだろう。
 
「この世界には、管理者も裁定者も要らない。互いが互いを認め合う世界、それが有るべき姿だ! 貴様ら如き驕った屑共に、俺の盾は壊せない! 世界はこれ以上の死を望んでいない!」

 爆発の轟音すらもかき消す様に、ミューモは怒声を上げた。
 言葉で説得が出来るなら、エルフ達は既に攻撃を止めていたはず。しかし、ミューモは怒鳴らずにはいられなかった。
 
 彼らは知らないのだ、行動の先に何が待ち受けているのか。戦いによって生まれた狂気や悪意が、何を生み出すのか。
 知恵者が聞いて呆れる。

 ミューモはエルフ達に、かつての無知な自分を重ねていた。
 何も考えずに破壊と殺戮を繰り返す事が、本当に正しい事なのか。違うはずだ。
 世界とそこに生きる者達は、もっと優しくなくてはならないのだ。

 攻撃の手を緩めないエルフ達、説得をしながらも耐え続けるミューモ。時と共にエルフ達の魔法は激化する。
 
 ふとした瞬間であった。
 ミューモは世界が揺らぐのを感じた。防御に集中していたミューモは、その揺らぎを気に留めなかった。
 だが揺らぎと共に、ミューモの待っていた時が訪れる。ミューモの下に心強い味方が現れる。
 均衡は今、完全に破られようとしていた。

「まるで理性の有る狂気じゃのう」

 戦いに集中していたミューモは、スールの到来に気が付いていなかった。はっと首を捻った時には、隣にはスールの存在が有った。
 いずれ来る、そう思いつつ耐えていたミューモにとって、これ以上も無い援軍。
 それだけでは無い、予想を超えた朗報が届けられる。

「スール! ラフィスフィアはどうしたのだ?」
「それは問題ない。わからんか? 主とペスカ様が戻られた。神々もだ。よく頑張ったなミューモ」
 
 スールの言葉で、ミューモの中には安堵、はたまた歓喜の様な、入り乱れた感情が込み上げる。
 
「そうか、冬也様が・・・」

 想いが溢れ、言葉が続かなかった。
 そしてミューモは、判然としない想いを噛みしめていた。スールには、ミューモの想いが痛い程に理解が出来た。
 何よりも敬愛する主の帰還は、これまでに無いほどの喜びであった。
 
 あの日、無残に転がった死体。その光景をスールは一生忘れないだろう。
 どれだけ悔しかったか、どれだけ悲しかったか。それでも、これが終わりではないと、自分に鞭を打ち続けて来た。
 それはミューモも同様である。エレナやブルも、同じ思いを抱えて耐え抜いてきたのだ。

 挫けたくなる程に、現実は残酷だった。神が消え恩恵が失われ、世界が崩壊していく。それを止める事など出来るはずも無い。
 それでも主の意思を継ぐ為、懸命に抗った。
 
 世界は飢餓に満ちている。世界は悪意に染まりつつある。そして、終焉が目の前に迫っている。
 それでも希望はあると、鼓舞し続けた。
 再び冬也との繋がりを感じた時は、自然と涙が溢れた。胸が詰まり言葉にならなかった。

 感慨に耽る気持ちはわかる、だが今はまだ・・・。
 スールは静かに口を開いた。

「ミューモ。お主が盾なら、儂は鉾になろう」

 ただ足止めするだけではない。ここで、エルフ達を沈静化させる。既に結界内は、エルフ達の悪意が満ち始め、禍々しい瘴気に変わろうとしている。
 一刻の猶予も無いのは事実であった。

 スールは自らの神気を体内で活性化させ、ブレスの様に放つ。神気のブレスはエルフ達に向かい、黒い霞を消し飛ばした。
 だが、スールのブレス一吹きで沈静化する程、エルフ達は大人しくない。直ぐに結界内は、黒い霞で満たされる。

 飽和状態にでもあるのか、エルフ達は狂気の眼差しを向ける。次々と放たれる魔法は、ミューモの結界の阻まれ届く事が無い。
 それが、エルフ達の怒りを増加させていた。

 浄化。
 今まで壊す事しかしてこなかったミューモには、無い感覚である。しかしミューモは、スールの見よう見まねで、体内のマナを極限まで高めていった。
  
 神気でのみしか出来ない事がある事があるのか? 否、マナでも行使出来るはず。
 神気とマナは、単に力の強さではないか。スールに出来て、自分に出来ない事が有ってたまるか。
 
「俺は、世界の守護者! 貴様ら全てをこれから救ってやる!」

 エンシェントドラゴンの膨大なマナが、凝縮していく。数万のエルフを揃えても、届く事の無い圧倒的な差。それだけのマナがミューモの体内を循環する。
 ミューモの体が光り輝く。眩い光と共に、ミューモは結界にマナを注ぎ込んだ。

「見ろエルフ共! これが力の使い方だ!」

 ミューモの結界は、瞬く間に内部の淀みを消していく。浄化の力が威力を発揮していた。

「スール、今だ!」

 ミューモの掛け声で、スールは再び神気のブレスを吐く。
 スールのブレスは、結界を抜けてエルフ達を覆い尽くす。それは、単に意識を奪うだけの力を籠めたブレス。
 そのブレスを受けたエルフ達は、次々と意識を失い倒れていった。

 結界のせいで逃げる事が出来ないエルフ達。そして結界に働く沈静効果のせいで、戦意を喪失していく。
 更に、次々と倒れる仲間のせいで、結界内でも身動きが取れなくなっていく。
 全てのエルフが倒れるまで、スールのブレスは止まらなかった。

「終わったか」
「一先ずはかの」

 エルフの鎮圧が完了したミューモとスールは、共に視線を交わし少し息をついた。

「エルフ達は拘束し、裁定は冬也様達にお任せする。それで良いなスール?」
「勿論だミューモ。拘束は儂に任せろ。その手の魔法は得意なのじゃ」

 そう言うと、スールは巧みにエルフ達の腕や足を魔法で縛る。無論、自傷行為も出来ない様に、口には枷を仕込んだ。
 神気の拘束である、例えエルフが集団で拘束を解こうとしても、力の差でびくともしないだろう。

 アンドロケイン大陸で、最大の脅威であったエルフ達の鎮圧が終了した。それは、平和への大きな一歩になった事は間違いない。
 そしてその裏側では、ペスカと冬也がエルラフィア王国へと辿り着こうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

王女殿下は家出を計画中

ゆうゆう
ファンタジー
出来損ないと言われる第3王女様は家出して、自由を謳歌するために奮闘する 家出の計画を進めようとするうちに、過去に起きた様々な事の真実があきらかになったり、距離を置いていた家族との繋がりを再確認したりするうちに、自分の気持ちの変化にも気付いていく…

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...