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終わりと再生
239 ドラゴンの防壁
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ホビットの国を滅ぼした大規模魔法の発動は、凄まじい轟音と振動が隣国に届く。
南側に位置するケンタウロスの国はともかく、西側に位置するドワーフの国中を震撼させた。
恐れていた事態が訪れた。
由々しき事態に、ドワーフ達は全軍を直ぐに、ホビットの国へ向かわせた。国境近くまで到着したドワーフ軍が見たのは、見渡す限りの焼け野原であった。
警戒を怠っていなかったはず。それはホビット側もだろう。なのに何故、こんな事態になってから気が付いた。
ドワーフ軍は、目の前の惨劇を見て尚、事実を受け入れられず、また事態を理解する事が出来ずにいた。
ドワーフとホビットの警戒を潜り抜け、反撃の機会を与えず、一方的な攻撃が出来た訳。それはエルフ達が、隠蔽の魔法をかけて移動していたからである。
ホビット側が気が付いた時には、国境沿いをエルフ達に囲まれていた。問答無用で戦争状態に突入し、僅かな時間で滅ぼされた。
そしてドワーフ達に救援が届く事は無かった。
だが隣国のドワーフ達が、この一方的な侵攻に気が付かなったのは何故か。それは、二つの種族を同時に相手取る事を嫌った、エルフの計略による。
隠蔽の魔法を応用すれば、広範囲に渡って事象を隠す事も可能になる。言わば、国境沿いに巨大スクリーンを張り、通常の光景を映す様なものだ。
そんな事が出来るなら、戦闘音を消す事も容易かろう。ただし、大魔法の破壊力を隠す事は出来なかった様だが。
ドワーフ軍は戦況を把握する為、部隊の一つを先行させる。
工芸の神に愛された、緻密な工作技術を持つドワーフは、望遠鏡にも似た遠見の機械でホビットの国を隈なく見渡す。
そして、数万にも及ぶエルフ達が南下しているのを発見した。
そのまま南下すれば、ケンタウロスの国である。
ライカンスロープの国に全軍を送っているケンタウロス達は、エルフ達に対抗する手段を持たない。
仮にケンタウロス達が、全軍を持って迎え撃てる状況であったとしても、荒ぶるエルフ達に対抗は出来ないだろう。
ドワーフ軍は、直ちに軍を進めた。
エルフ達がケンタウロスの国に入れば、また一つこの大陸から種族が失われる。有ってはならない事態を危惧し、ドワーフ軍は急いだ。
激しい焦りを感じ、進軍するドワーフ軍。
その時、唐突に一体の巨大なドラゴンが、ドワーフ軍の眼前に降下した。
「全軍撤退せよ。これは命令だ! 反論は許さん!」
威圧の籠る声が響く。ドワーフ軍は瞬時に、武器を手に身構える。
肉弾戦にかけては大陸随一の実力を持つドワーフ軍でさえ、初めて目にする巨大なドラゴンの姿とその声には戦々恐々とした。
ドワーフ軍の行く手を阻む様に、巨大なドラゴンが立ち塞がる。
戦いにかけても一流であるドワーフ達だからこそ、相手が絶対に逆らってはならない存在である事を直感する。
「今一度言う、全軍撤退せよ! これ以上、余計な犠牲を出してはならん! 奴らは俺に任せろ」
その言葉が理解出来ないドワーフ達ではない。そして、ただ頷くしかなかった。
ドワーフ達は反転し、国境へと引き返す。それを見届けると、巨大なドラゴンは飛び立った。
「長。あれでよろしかったのですか?」
飛び立ったミューモの後に続いた眷属ドラゴンが問いかける。
険しい表情を崩さずに、ミューモは眷属ドラゴンに応えた。
「一刻を争うんだ、多少の脅しは仕方ないだろう。それよりもお前は、俺の補助に徹しろ。決して奴らを殲滅しよう等と考えるなよ」
「それでは、長が危険です」
エレナと同様の危惧を、眷属ドラゴンも感じていた。
しかし、ミューモは首を横に振る。
「お前は後方で、俺にマナ供給を続けてくれ。相手は神でもなければ邪神でもない、ただの亜人だ。最古にして最強である俺が、負けるはずがない」
「長・・・」
「これ以上、世界から種族が失われるのは、冬也様とペスカ様が望むまい。我らが行うのは奴らを止める事、それだけで良い。いずれスールが来てくれる、冬也様とペスカ様も復活なさる。奴らを断罪するのは、我らではない。冬也様とペスカ様だ」
ドラグスメリアの戦いで、ミューモは神々の戦いを目の当たりしていた。
エンシェントドラゴンでも遠く及ばない力と、その使い方を。そして破壊ではない、もう一つの戦い方をミューモは学んでいた。
そう、かつてのミューモとは違い、守る為の術が有る。
高速で飛ぶミューモとその眷属は、瞬く間にエルフ達の前に立ち塞がる。
そしてミューモは、ありったけのマナを体内に集めた。
「この盾は全てを通さない。この盾は破壊されない。神すらも断罪する力でさえ、この盾には通じない。悪意も狂気もこの盾が浄化する。全ての力は大地に還り、潤いを取り戻す。我が名はミューモ、世界の守護者! 絶対なる障壁をここに!」
ミューモが詠唱を終えると、光が溢れていく。光は瞬く間に、数万のエルフを包んでいった。それはかつて神々が、ドラグスメリア大陸東部で神々が張った結界。それに酷似した結界が、エルフを囲んだ。
しかし、エルフはエンシェントドラゴンの到来を予期していたのだろう。間髪入れずに、大規模魔法を行使する。結界内部に激しい光と共に衝撃が広がっていく。
しかし、ミューモの結界は大規模魔法を、いとも容易く打ち消した。それどころから、大規模魔法の力を吸収し大地を潤していった。
この結界はミューモの集大成でもあった。
かつてのミューモは、力任せに滅ぼす事しか出来なかった。神に命ぜられるがままに、数々の亜人や人間、魔獣に至るまで滅ぼしていった。
それは、今のエルフ達と何が違うのだろう。冬也との出会いが、間違いなくミューモを変えた。
冬也はモンスターを相手に、破壊ではなく浄化を行っていた。それは神の力による所かもしれない。
しかし、そんな冬也の戦い方に憧れた。
思うがままに力を振るい、断罪するのは簡単な事。許す事、認める事、それがどれだけ大変な事なのか。
だからこそ、冬也は強く温かい。
冬也は厳しかった、特にミューモに対しては。それは、優しさと甘さは違う事を、徹底して教えていたたのだろう。
だからこそ、力の使い方に、気が付く事が出来た。あの厳しさがなければ、既にミューモは命を落としていただろう。
俺はあの方に一歩でも近づきたい。だから今は戦わない。
俺の役目はエルフを止めるだけ、余計な悪意を生み出してはならない。
「ここから先に、一歩でも進めると思うな! 我が命を懸けて、貴様らは通さん!」
更に大規模魔法を放つエルフ達。しかし、ミューモの張った障壁は、びくともしなかった。
そして、枯れた大地から緑が溢れていく。ミューモの憧憬が、大いなる力と変わる。そしてエルフ達の前に立ち塞がる。
神々の御業にも及ぶマナの循環が、局所的に行われていた。
もしかすると、この騒乱において最大の功労者は、ミューモかもしれない。
混迷を極めるアンドロケインには、悪意や狂気が広がっている。その勢いは、他の大陸よりも遥かに強い。
飢餓により、世界には憤怒が蔓延している。
戦いにより、世界には慈悲が失われている。
狂気が蔓延した世界が、何を生み出すのか。どんな結果を齎すのか。
その流れを、ミューモは堰き止めようとしていた。
南側に位置するケンタウロスの国はともかく、西側に位置するドワーフの国中を震撼させた。
恐れていた事態が訪れた。
由々しき事態に、ドワーフ達は全軍を直ぐに、ホビットの国へ向かわせた。国境近くまで到着したドワーフ軍が見たのは、見渡す限りの焼け野原であった。
警戒を怠っていなかったはず。それはホビット側もだろう。なのに何故、こんな事態になってから気が付いた。
ドワーフ軍は、目の前の惨劇を見て尚、事実を受け入れられず、また事態を理解する事が出来ずにいた。
ドワーフとホビットの警戒を潜り抜け、反撃の機会を与えず、一方的な攻撃が出来た訳。それはエルフ達が、隠蔽の魔法をかけて移動していたからである。
ホビット側が気が付いた時には、国境沿いをエルフ達に囲まれていた。問答無用で戦争状態に突入し、僅かな時間で滅ぼされた。
そしてドワーフ達に救援が届く事は無かった。
だが隣国のドワーフ達が、この一方的な侵攻に気が付かなったのは何故か。それは、二つの種族を同時に相手取る事を嫌った、エルフの計略による。
隠蔽の魔法を応用すれば、広範囲に渡って事象を隠す事も可能になる。言わば、国境沿いに巨大スクリーンを張り、通常の光景を映す様なものだ。
そんな事が出来るなら、戦闘音を消す事も容易かろう。ただし、大魔法の破壊力を隠す事は出来なかった様だが。
ドワーフ軍は戦況を把握する為、部隊の一つを先行させる。
工芸の神に愛された、緻密な工作技術を持つドワーフは、望遠鏡にも似た遠見の機械でホビットの国を隈なく見渡す。
そして、数万にも及ぶエルフ達が南下しているのを発見した。
そのまま南下すれば、ケンタウロスの国である。
ライカンスロープの国に全軍を送っているケンタウロス達は、エルフ達に対抗する手段を持たない。
仮にケンタウロス達が、全軍を持って迎え撃てる状況であったとしても、荒ぶるエルフ達に対抗は出来ないだろう。
ドワーフ軍は、直ちに軍を進めた。
エルフ達がケンタウロスの国に入れば、また一つこの大陸から種族が失われる。有ってはならない事態を危惧し、ドワーフ軍は急いだ。
激しい焦りを感じ、進軍するドワーフ軍。
その時、唐突に一体の巨大なドラゴンが、ドワーフ軍の眼前に降下した。
「全軍撤退せよ。これは命令だ! 反論は許さん!」
威圧の籠る声が響く。ドワーフ軍は瞬時に、武器を手に身構える。
肉弾戦にかけては大陸随一の実力を持つドワーフ軍でさえ、初めて目にする巨大なドラゴンの姿とその声には戦々恐々とした。
ドワーフ軍の行く手を阻む様に、巨大なドラゴンが立ち塞がる。
戦いにかけても一流であるドワーフ達だからこそ、相手が絶対に逆らってはならない存在である事を直感する。
「今一度言う、全軍撤退せよ! これ以上、余計な犠牲を出してはならん! 奴らは俺に任せろ」
その言葉が理解出来ないドワーフ達ではない。そして、ただ頷くしかなかった。
ドワーフ達は反転し、国境へと引き返す。それを見届けると、巨大なドラゴンは飛び立った。
「長。あれでよろしかったのですか?」
飛び立ったミューモの後に続いた眷属ドラゴンが問いかける。
険しい表情を崩さずに、ミューモは眷属ドラゴンに応えた。
「一刻を争うんだ、多少の脅しは仕方ないだろう。それよりもお前は、俺の補助に徹しろ。決して奴らを殲滅しよう等と考えるなよ」
「それでは、長が危険です」
エレナと同様の危惧を、眷属ドラゴンも感じていた。
しかし、ミューモは首を横に振る。
「お前は後方で、俺にマナ供給を続けてくれ。相手は神でもなければ邪神でもない、ただの亜人だ。最古にして最強である俺が、負けるはずがない」
「長・・・」
「これ以上、世界から種族が失われるのは、冬也様とペスカ様が望むまい。我らが行うのは奴らを止める事、それだけで良い。いずれスールが来てくれる、冬也様とペスカ様も復活なさる。奴らを断罪するのは、我らではない。冬也様とペスカ様だ」
ドラグスメリアの戦いで、ミューモは神々の戦いを目の当たりしていた。
エンシェントドラゴンでも遠く及ばない力と、その使い方を。そして破壊ではない、もう一つの戦い方をミューモは学んでいた。
そう、かつてのミューモとは違い、守る為の術が有る。
高速で飛ぶミューモとその眷属は、瞬く間にエルフ達の前に立ち塞がる。
そしてミューモは、ありったけのマナを体内に集めた。
「この盾は全てを通さない。この盾は破壊されない。神すらも断罪する力でさえ、この盾には通じない。悪意も狂気もこの盾が浄化する。全ての力は大地に還り、潤いを取り戻す。我が名はミューモ、世界の守護者! 絶対なる障壁をここに!」
ミューモが詠唱を終えると、光が溢れていく。光は瞬く間に、数万のエルフを包んでいった。それはかつて神々が、ドラグスメリア大陸東部で神々が張った結界。それに酷似した結界が、エルフを囲んだ。
しかし、エルフはエンシェントドラゴンの到来を予期していたのだろう。間髪入れずに、大規模魔法を行使する。結界内部に激しい光と共に衝撃が広がっていく。
しかし、ミューモの結界は大規模魔法を、いとも容易く打ち消した。それどころから、大規模魔法の力を吸収し大地を潤していった。
この結界はミューモの集大成でもあった。
かつてのミューモは、力任せに滅ぼす事しか出来なかった。神に命ぜられるがままに、数々の亜人や人間、魔獣に至るまで滅ぼしていった。
それは、今のエルフ達と何が違うのだろう。冬也との出会いが、間違いなくミューモを変えた。
冬也はモンスターを相手に、破壊ではなく浄化を行っていた。それは神の力による所かもしれない。
しかし、そんな冬也の戦い方に憧れた。
思うがままに力を振るい、断罪するのは簡単な事。許す事、認める事、それがどれだけ大変な事なのか。
だからこそ、冬也は強く温かい。
冬也は厳しかった、特にミューモに対しては。それは、優しさと甘さは違う事を、徹底して教えていたたのだろう。
だからこそ、力の使い方に、気が付く事が出来た。あの厳しさがなければ、既にミューモは命を落としていただろう。
俺はあの方に一歩でも近づきたい。だから今は戦わない。
俺の役目はエルフを止めるだけ、余計な悪意を生み出してはならない。
「ここから先に、一歩でも進めると思うな! 我が命を懸けて、貴様らは通さん!」
更に大規模魔法を放つエルフ達。しかし、ミューモの張った障壁は、びくともしなかった。
そして、枯れた大地から緑が溢れていく。ミューモの憧憬が、大いなる力と変わる。そしてエルフ達の前に立ち塞がる。
神々の御業にも及ぶマナの循環が、局所的に行われていた。
もしかすると、この騒乱において最大の功労者は、ミューモかもしれない。
混迷を極めるアンドロケインには、悪意や狂気が広がっている。その勢いは、他の大陸よりも遥かに強い。
飢餓により、世界には憤怒が蔓延している。
戦いにより、世界には慈悲が失われている。
狂気が蔓延した世界が、何を生み出すのか。どんな結果を齎すのか。
その流れを、ミューモは堰き止めようとしていた。
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