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終わりと再生
225 終焉の序曲
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静かに、だが確実に、世界は変化を起こしていった。
いつしか風が止んでいた。いつしか水は清らかさを失い、いつしか雨は止んだ。そして大地は枯れ、新たな芽吹きは行われなくなった。
ドラグスメリア大陸の悪夢から数か月、世界は緩やかに死へと向かっていた。
山からは鉱石が採れなくなった。海からは魚が居なくなった。畑では作物が育たなくなった。家畜はやせ細っていった。森からは緑が失われ、実りが失われていった。
何よりも、世界からマナが失われつつある。
誰も気が付かない間に、世界からは色々な物が失われていった。それは、地上で暮らす生き物に、多大なる影響を与えた。
飢える者が増えていった。病める者が増えていった。医療を魔法に頼っていた世界では、誰も救う事が出来なくなった。
あらゆる者が知恵を使い、あらゆる者が生きるために抗った。しかし気が付いた時には、全てが終わりに向かい進んでいた。
誰にもその流れは止められなかった。
やがて、多くの者が神殿に訪れる様になった。しかし各地にあるどの神殿でも、神との交信が一切出来なくなっていた。
どれだけ祈りを捧げても、願いに応える事は無かった。
ある者は諦めた様に、ただ祈りを捧げた。
ある者は荒んで、苛立ちをぶつける様に他者を嬲る。ある者は幼い子供を守る為に、ある者は年老いた両親を守る為に、他者を殺し奪う事さえ厭わない様になっていた。
悲しみが蔓延していた。憎しみが蔓延し始めていた。病気が蔓延し、死が蔓延していた。
神に祈りを捧げても、救いは無い。助けを求めても、英雄は現れない。
世界が壊れ、生きる者が壊れる。
それでも英雄の意思を継いだ者達は、諦める事は無かった。
~エルラフィア王国、王立魔法研究所~
「所長! ようやく旧メルドマルリューネから発掘された、技術資料の解析が終わりました」
「良くやった! 早く東の三国に情報を送れ! ペスカの残した他の世界の技術と合わせれば、我々はまだ戦える! ここが踏ん張りどころだぞ!」
「マルス殿。陛下への報告と各領への伝達は、私がやりましょう」
「メイザー卿。よろしく頼む」
「いえ、何よりも姉上が残された研究です。私が出来る事は広める事だけ」
「いや、それが今はそれが大事なのだ。今は世界が何かおかしい」
「生き残る為には、何が何でもですね。では、所長」
「おぅ。疫病対策もせんとな。また頼むぞメイザー卿」
「えぇ。お任せを」
~エルラフィア王国、ルクスフィア領~
「備蓄は全て分配しなさい!」
「しかし、奥様。それでは!」
「黙りなさい! 今はペスカ様が残された、研究資料が有るのです。新たな生産体制が整うまで繋げれば良いのです!」
「はっ。出過ぎた言葉、お許しください」
「良いのよ。これからメイザー領に向かいます、馬車の準備は?」
「整っております」
「留守を頼みます。あちらでの、生産体制も確認しないと。それと東からの反応が来たら、直ぐに教えて頂戴。まだ改良する事は沢山あるんだし」
「畏まりました奥様。お戻りになるまで、資料は全て揃えておきます」
「頼むわね」
「いってらしゃいませ。奥様」
「ペスカちゃん。冬也君。どこに居るの? 私達は絶対にあなた達が帰る場所を守るからね」
~グラスキルス王国、郊外~
「何も閣下が、お出でにならなくても」
「馬鹿か、ミーア。俺が指揮しなくちゃ始まんねぇだろ」
「ですが閣下は何日も、お休みになってらっしゃらないんですよ。たまには体をお休め下さい」
「その言葉は、モーリスとケーリアに言ってやれ! 俺は牢の中で暫くさぼってたからな。ここで働かなきゃ、ペスカ殿に怒られちまうよ。ところで、エルラフィアからは連絡が来たか?」
「シルビア殿からは、新たな農業技術の経過報告が届いてます。マルス殿からは、旧メルドマリューネの技術解析が終わったと連絡が有りました」
「よし。暴れてる馬鹿どもを捕まえたら、強制労働だ。こっちは土地が有り余ってるんだからよ」
「病気の対策は、如何いたしましょう」
「俺が治療してやる」
「またですか? 倒れても知りませんよ!」
「倒れねぇよ。俺を誰だと思ってんだ、ミーア」
~シュロスタイン王国、王都~
「陛下、民が飢えているのです」
「しかしな、モーリス」
「しかし何だと言うのです! 彼らは我らが守らなければいけない民。生きる術を無くし、止むを得ず犯罪を犯したのです! それを咎めると仰るか! そこまで民を追い込んだのは、我らの失策ではありませんか? どうなのです陛下!」
「今はほとんどの兵を開墾や、新しい医療の研究にまわしているのだぞ。お前は一人しかおらんのだぞ! これ以上、犯罪が増えたらどうする? この国を、お前が一人で守れるとでも言うのか!」
「やるしかないでしょう! 私の力はこの為に有るのです。グラスキルスでは、犯罪を犯した者に更生の場を与えています。私が責任を持って彼らに道を示します。師匠が私を救ってくれた。ペスカ殿が私に道を示してくれた。今度は私の番です」
「そこまで言うならやってみよ、モーリス」
~アーグニール王国、王都~
「閣下、エルラフィアから追加情報が届きました」
「見せてみろ。・・・そうか、こちらでの成果は返しておけよ。農業、医療の両方だ」
「畏まりました」
「ところで犯罪件数はどうなっている?」
「日々、増加中です。飢えが深刻となっている今、止むを得ないのかもしれません。それと疫病が蔓延しつつあります」
「止むを得ないで終わらせる訳には、いかんだろう。配給にも限界がある。城の備蓄も少ない。早く成果を出さねばならんぞ。疫病の情報は、隣国にも伝えとけよ」
「はっ。それと、グラスキルスのサムウェル将軍から、連絡が来ております」
「なんだ?」
「たまには休め。だそうです」
「馬鹿な事ばかり言いおって! お前こそ休めとでも送ってやれ!」
~ドラグスメリア大陸、西部~
「貴重な食糧は、全て管理しろ! 今は取り合ってる場合じゃないぞ! 狩りも手分けをして行え!」
「しかし族長。我ら南の魔獣はともかく、巨人達やあのでかい魔獣を賄えるほどの食糧はもうないぞ」
「今は他の手段を検討中だ。今は知恵を出し合わなければ、生きていけん」
「族長。食料が無くなると、皆が不安がる。今はまだしもこれからは不味い。教官も旅立たれたし」
「我らは我らだけの力で生き残るしかない! 我々は、あの戦いで生き延びる事が出来た。その後の結果は、お前らも聞いただろう? 我らは英雄を失ったのだ。神も居ない。必ず皆で生き残るのだ!」
「ズマ、お前の言う通りだ。それに他の大陸よりも、ここはまだましだ。何せ冬也様の置き土産が残っている」
「ノーヴェ殿。ところで植物の育成とやらは、どうなっているのです?」
「巨人達を中心に、南部で展開中だ」
「ノーヴェ殿、引き続き管理をお任せしてもよろしいですか? 南部で成功すれば、北部での展開も考えても良いかもしれない」
「あぁ、任せろ。お前は魔獣達をしっかりとまとめろ」
「えぇ。お任せ下さい」
各地で英雄の意思を継いだ者達が、足掻いていた。
例えそれが、微々たる力であったとしても。例えそれが、世界を大きく変えるものではなくても。救いを求める声が有る限り、抗わなければならない。
それが残された者に、力を持つ者に、与えられた義務なのだから。
そして大空にも、英雄の意思を継いだ者がいた。
それは生物の頂点にして、最古の生物。最強の生物とその眷属達が、大群を成して大空を飛翔する。
彼らの背には、大きな籠が乗っている。その背には、巨人と猫の亜人の姿もあった。
「スール、急ぐんだな」
「そうだニャ。私は故郷の奴らが心配ニャ」
「お主らうるさいぞ! それとエレナ! 大変なのはアンドロケインだけではないのだ!」
「うるさいのは、ブルのお腹ニャ!」
「うるさくないんだな。おでは、もう食べないんだな。これはみんなの物なんだな」
「なら、我らはアンドロケインに向かうか。手分けをした方が良いだろう」
「賛成ニャ! ミューモもたまには良い事言うニャ」
スールは眷属達を連れて、空を駆けていた。主の意思を継ぎ、世界を守る為に。
ブルはスールの背に跨っていた。大好きな友人が守りたかった世界を守る為に。
エレナはミューモの背に跨っていた。もう悲しい思いはしたくないし、誰にもさせたくなかった。
ミューモは、己の使命を果たそうと懸命だった。冬也からかけられた言葉が、頭から離れなかった。
誰もが悲しい思いを抱え、乗り越えようとしていた。辛い経験を乗り越えて、亡き友の為に戦おうとしていた。
今この瞬間にも、世界が少しずつ壊れていく。今この瞬間にも、生き物が死んでいく。
確実に世界は終焉へ向かっている。
しかし、抗う者達は確実に存在した。 最後まで諦めないと誓った者達は、過酷な運命に立ち向かっていた。
ただ、世界は残酷に時を刻む。崩壊まであと少し。
これはただの序章に過ぎなかった。
いつしか風が止んでいた。いつしか水は清らかさを失い、いつしか雨は止んだ。そして大地は枯れ、新たな芽吹きは行われなくなった。
ドラグスメリア大陸の悪夢から数か月、世界は緩やかに死へと向かっていた。
山からは鉱石が採れなくなった。海からは魚が居なくなった。畑では作物が育たなくなった。家畜はやせ細っていった。森からは緑が失われ、実りが失われていった。
何よりも、世界からマナが失われつつある。
誰も気が付かない間に、世界からは色々な物が失われていった。それは、地上で暮らす生き物に、多大なる影響を与えた。
飢える者が増えていった。病める者が増えていった。医療を魔法に頼っていた世界では、誰も救う事が出来なくなった。
あらゆる者が知恵を使い、あらゆる者が生きるために抗った。しかし気が付いた時には、全てが終わりに向かい進んでいた。
誰にもその流れは止められなかった。
やがて、多くの者が神殿に訪れる様になった。しかし各地にあるどの神殿でも、神との交信が一切出来なくなっていた。
どれだけ祈りを捧げても、願いに応える事は無かった。
ある者は諦めた様に、ただ祈りを捧げた。
ある者は荒んで、苛立ちをぶつける様に他者を嬲る。ある者は幼い子供を守る為に、ある者は年老いた両親を守る為に、他者を殺し奪う事さえ厭わない様になっていた。
悲しみが蔓延していた。憎しみが蔓延し始めていた。病気が蔓延し、死が蔓延していた。
神に祈りを捧げても、救いは無い。助けを求めても、英雄は現れない。
世界が壊れ、生きる者が壊れる。
それでも英雄の意思を継いだ者達は、諦める事は無かった。
~エルラフィア王国、王立魔法研究所~
「所長! ようやく旧メルドマルリューネから発掘された、技術資料の解析が終わりました」
「良くやった! 早く東の三国に情報を送れ! ペスカの残した他の世界の技術と合わせれば、我々はまだ戦える! ここが踏ん張りどころだぞ!」
「マルス殿。陛下への報告と各領への伝達は、私がやりましょう」
「メイザー卿。よろしく頼む」
「いえ、何よりも姉上が残された研究です。私が出来る事は広める事だけ」
「いや、それが今はそれが大事なのだ。今は世界が何かおかしい」
「生き残る為には、何が何でもですね。では、所長」
「おぅ。疫病対策もせんとな。また頼むぞメイザー卿」
「えぇ。お任せを」
~エルラフィア王国、ルクスフィア領~
「備蓄は全て分配しなさい!」
「しかし、奥様。それでは!」
「黙りなさい! 今はペスカ様が残された、研究資料が有るのです。新たな生産体制が整うまで繋げれば良いのです!」
「はっ。出過ぎた言葉、お許しください」
「良いのよ。これからメイザー領に向かいます、馬車の準備は?」
「整っております」
「留守を頼みます。あちらでの、生産体制も確認しないと。それと東からの反応が来たら、直ぐに教えて頂戴。まだ改良する事は沢山あるんだし」
「畏まりました奥様。お戻りになるまで、資料は全て揃えておきます」
「頼むわね」
「いってらしゃいませ。奥様」
「ペスカちゃん。冬也君。どこに居るの? 私達は絶対にあなた達が帰る場所を守るからね」
~グラスキルス王国、郊外~
「何も閣下が、お出でにならなくても」
「馬鹿か、ミーア。俺が指揮しなくちゃ始まんねぇだろ」
「ですが閣下は何日も、お休みになってらっしゃらないんですよ。たまには体をお休め下さい」
「その言葉は、モーリスとケーリアに言ってやれ! 俺は牢の中で暫くさぼってたからな。ここで働かなきゃ、ペスカ殿に怒られちまうよ。ところで、エルラフィアからは連絡が来たか?」
「シルビア殿からは、新たな農業技術の経過報告が届いてます。マルス殿からは、旧メルドマリューネの技術解析が終わったと連絡が有りました」
「よし。暴れてる馬鹿どもを捕まえたら、強制労働だ。こっちは土地が有り余ってるんだからよ」
「病気の対策は、如何いたしましょう」
「俺が治療してやる」
「またですか? 倒れても知りませんよ!」
「倒れねぇよ。俺を誰だと思ってんだ、ミーア」
~シュロスタイン王国、王都~
「陛下、民が飢えているのです」
「しかしな、モーリス」
「しかし何だと言うのです! 彼らは我らが守らなければいけない民。生きる術を無くし、止むを得ず犯罪を犯したのです! それを咎めると仰るか! そこまで民を追い込んだのは、我らの失策ではありませんか? どうなのです陛下!」
「今はほとんどの兵を開墾や、新しい医療の研究にまわしているのだぞ。お前は一人しかおらんのだぞ! これ以上、犯罪が増えたらどうする? この国を、お前が一人で守れるとでも言うのか!」
「やるしかないでしょう! 私の力はこの為に有るのです。グラスキルスでは、犯罪を犯した者に更生の場を与えています。私が責任を持って彼らに道を示します。師匠が私を救ってくれた。ペスカ殿が私に道を示してくれた。今度は私の番です」
「そこまで言うならやってみよ、モーリス」
~アーグニール王国、王都~
「閣下、エルラフィアから追加情報が届きました」
「見せてみろ。・・・そうか、こちらでの成果は返しておけよ。農業、医療の両方だ」
「畏まりました」
「ところで犯罪件数はどうなっている?」
「日々、増加中です。飢えが深刻となっている今、止むを得ないのかもしれません。それと疫病が蔓延しつつあります」
「止むを得ないで終わらせる訳には、いかんだろう。配給にも限界がある。城の備蓄も少ない。早く成果を出さねばならんぞ。疫病の情報は、隣国にも伝えとけよ」
「はっ。それと、グラスキルスのサムウェル将軍から、連絡が来ております」
「なんだ?」
「たまには休め。だそうです」
「馬鹿な事ばかり言いおって! お前こそ休めとでも送ってやれ!」
~ドラグスメリア大陸、西部~
「貴重な食糧は、全て管理しろ! 今は取り合ってる場合じゃないぞ! 狩りも手分けをして行え!」
「しかし族長。我ら南の魔獣はともかく、巨人達やあのでかい魔獣を賄えるほどの食糧はもうないぞ」
「今は他の手段を検討中だ。今は知恵を出し合わなければ、生きていけん」
「族長。食料が無くなると、皆が不安がる。今はまだしもこれからは不味い。教官も旅立たれたし」
「我らは我らだけの力で生き残るしかない! 我々は、あの戦いで生き延びる事が出来た。その後の結果は、お前らも聞いただろう? 我らは英雄を失ったのだ。神も居ない。必ず皆で生き残るのだ!」
「ズマ、お前の言う通りだ。それに他の大陸よりも、ここはまだましだ。何せ冬也様の置き土産が残っている」
「ノーヴェ殿。ところで植物の育成とやらは、どうなっているのです?」
「巨人達を中心に、南部で展開中だ」
「ノーヴェ殿、引き続き管理をお任せしてもよろしいですか? 南部で成功すれば、北部での展開も考えても良いかもしれない」
「あぁ、任せろ。お前は魔獣達をしっかりとまとめろ」
「えぇ。お任せ下さい」
各地で英雄の意思を継いだ者達が、足掻いていた。
例えそれが、微々たる力であったとしても。例えそれが、世界を大きく変えるものではなくても。救いを求める声が有る限り、抗わなければならない。
それが残された者に、力を持つ者に、与えられた義務なのだから。
そして大空にも、英雄の意思を継いだ者がいた。
それは生物の頂点にして、最古の生物。最強の生物とその眷属達が、大群を成して大空を飛翔する。
彼らの背には、大きな籠が乗っている。その背には、巨人と猫の亜人の姿もあった。
「スール、急ぐんだな」
「そうだニャ。私は故郷の奴らが心配ニャ」
「お主らうるさいぞ! それとエレナ! 大変なのはアンドロケインだけではないのだ!」
「うるさいのは、ブルのお腹ニャ!」
「うるさくないんだな。おでは、もう食べないんだな。これはみんなの物なんだな」
「なら、我らはアンドロケインに向かうか。手分けをした方が良いだろう」
「賛成ニャ! ミューモもたまには良い事言うニャ」
スールは眷属達を連れて、空を駆けていた。主の意思を継ぎ、世界を守る為に。
ブルはスールの背に跨っていた。大好きな友人が守りたかった世界を守る為に。
エレナはミューモの背に跨っていた。もう悲しい思いはしたくないし、誰にもさせたくなかった。
ミューモは、己の使命を果たそうと懸命だった。冬也からかけられた言葉が、頭から離れなかった。
誰もが悲しい思いを抱え、乗り越えようとしていた。辛い経験を乗り越えて、亡き友の為に戦おうとしていた。
今この瞬間にも、世界が少しずつ壊れていく。今この瞬間にも、生き物が死んでいく。
確実に世界は終焉へ向かっている。
しかし、抗う者達は確実に存在した。 最後まで諦めないと誓った者達は、過酷な運命に立ち向かっていた。
ただ、世界は残酷に時を刻む。崩壊まであと少し。
これはただの序章に過ぎなかった。
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