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大陸東部の悪夢
221 虚飾の終焉
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時は少し遡る。
邪神を追って転移しようとした冬也であったが、深部に向かう先で邪神の気配を見失う。止む無くペスカを目標にして、冬也は転移をする。
転移後に飛び込んでくる風景は、美しい自然そのものであった。
「お兄ちゃん! お帰り!」
「いや、お帰りってペスカ。これお前がやったのか?」
「そ~だよ。偉い? ご褒美はチューね!」
「しねぇよ!」
軽口を叩きながらも、ペスカは覗き込む様に冬也の表情を見る。冬也は変わった周囲の光景に驚きながらも、何か探す様に視線を動かしていた。
ペスカは冬也の表情を見て、驚き以外の何かを感じていた。
無傷である所から、邪神を見事に撃退したのであろう。東部に蔓延する邪気が薄まっているのが、良い証拠であろう。
だが邪神と魔獣達では、力の差があり過ぎる。強襲を受けた魔獣達は、全滅してもおかしくない。
冬也の晴れない顔は、そういう事なのであろう。
何が起きたのか? そんな事は、簡単に想像がつく。冬也の口から告げられるだろう現実は、決して受け入れられる物ではない。
しかし、こんな所で心を折られている場合じゃない。
少なくとも冬也は、しっかりと現実を受け止めて前を向いている。前を向き、決着を付けようとしている。
故に、ペスカは尋ねた。
「・・・・・みんなは?」
「小さい魔獣達はほとんど死んだ。後は瀕死だ。あの状況で無事なのはゴブリンとドラゴンだけだ。むしろ、ゴブリンはここまで良く戦った」
四大魔獣、巨人達、ゴブリン、トロール等、生き残った魔獣は多くない。しかし、強大な力を持つ邪神を前に、唯の魔獣が生き残った。
それは奇跡であろう。
「ノーヴェとズマは、生き残った奴らの護衛で退却した。でもミューモとエレナは、意地を張りやがった。俺は奴らの覚悟に応えなくちゃならねぇ。何が何でも糞野郎を消滅させる!」
冬也の闘志に満ちた瞳。並々ならぬ覚悟を感じ、ペスカは敢えて笑顔を浮かべた。
そして冬也に抱き着いて、優しく言葉をかける。
「そうだね、お兄ちゃん」
そして冬也から離れると、浄化された周囲の様子を強調する様に、ペスカは両腕を大きく広げた。
「見て! この結果は、お兄ちゃんが邪神にダメージを与えたからだよ! それに感じるでしょ? 確実にこの大地から悪意が弱まってる! あと一息だよ、お兄ちゃん!」
「あぁ、やるぞペスカ!」
「うん!」
ペスカと冬也が、決意を新たにしたその時であった。突如として、空間が揺ぐ。空間の揺らぎは、まるでブラックホールの様に、ペスカと冬也を吸い込もうとしている。
「ペスカ、これ!」
「どうやら、向こうから誘ってくれてるみたいだね」
「なら、乗り込んで決着つけるか!」
「うん。でも、油断しちゃ駄目だよ」
「当たり前だ!」
冬也は感じていない。しかし、探知能力に長けたペスカは、やや違和感を感じていた。空間の揺らぎの先にあるのが、邪神の気配だけではない。
そして、その違和感は直ぐに明らかになる。
空間の揺らぎに飲み込まれる様に、ペスカと冬也は異空間に足を踏み入れる。
一番最初に目に飛び込んで来たのは、余りにも弱々しく覇気が無く、虚ろな表情で立つ邪神の姿であった。
胴体が上下で、少しずれている様にも見える。
邪神をここまで追い込んではいないはず。何が起きたのか?
それは、邪神の後ろで睨みを利かせている男のせいなのだろう。
胡坐をかきつつも、威圧感を垂れ流す男。それは見覚えがある、仇の姿であった。
「アルキエルてめぇ! 何で居やがる! 神格が消滅したんじゃねぇのか! セリュシオネが裏切ったのか?」
冬也は声を荒げる。それもそのはず、かつて自分が倒した神が、目の前に再び現れたのだ。
「お兄ちゃん、たぶん違うよ。生まれ変わったんだよ、厄介な事にね」
「正解だペスカぁ~! んで、てめぇには用がねぇ! そこの滓と遊んでな」
尊大な態度で、言い放つアルキエル。その鋭い眼光は、何も反論を許さない迫力に満ちていた。
「おい滓! せっかく戦う機会をくれてやるんだ、有難く思えよ!」
アルキエルは邪神に向かい、さも面倒そうに言い放つ。
だがアルキエルは、邪神やペスカには全く興味が無く、その視線は冬也しか映していない様にも見える。
徐に立ち上がるアルキエル。そして、大剣を取り出す。それは冬也と同じ神剣。しかし冬也の神剣よりも、二回り程大きい。
アルキエルは、大剣を肩に担ぐ様に抱えると、ゆっくり歩きだした。
「とぉ~やぁ~! 待ってたんぜぇ! 俺が全力で戦える様に、こんな場所まで用意してやったんだ。さぁ、殺し合おうや」
アルキエルは神気を解き放つ。強力な神気がビリビリと感じ、肌が一気に粟立つ。
ペスカと冬也は一瞬で理解した。前に戦ったアルキエルとは、格が違う。
「こんなんで、ビビんなよ! そんなたまじゃねぇだろ?」
威嚇しながら、間合いを詰めるアルキエルに対し、冬也は神剣を取り出して構えた。
「ペスカ、こいつは俺が相手する。お前は糞野郎を頼むぞ」
「お兄ちゃん、無茶だよ! 流石に強すぎる!」
「無茶でもやるしかねぇよ。それに俺は負けねぇ」
問答無用とばかりに、冬也はアルキエルに向き合う。この世界を訪れてから、多くの試練を乗り越えて強くなった。その冬也でさえ、表情は硬く強張っている。
相手は、死を覚悟しなければ、対峙する資格がない。そんな相手に対しても、冬也は視線を背ける事をしなかった。
冬也を止める事が懸命だろう。逃げる事が最善だろう。しかし今のアルキエルからは、背を向ける隙を見つけるどころか、逃げる事など到底不可能だろう。
今は、冬也を信じて、己の役目を果たすしかない。
ペスカはやむなく邪神に視線を送った。
当の邪神は虚ろな表情で俯き、ブツブツと何かを呟いている。
「僕が、この僕が、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。みんな殺す。全部壊す、壊す、壊す、壊す、壊す、壊す、こわ、こわ、こわ、こわ、こわ」
邪神は、異様な雰囲気を漂わせていた。
しかし一見する限り、あれだけ強く感じた邪気は、欠片も感じない。今の邪神からは、恐怖を微塵も感じない。まるで抜け殻の様に虚ろな表情で、ただ呟いている。
しかし、矛盾するようだが、内に溜め込んだ悪意は、より一層の禍々しさを増している様にも感じた。まるで破裂寸前の風船の様に。
倒さなければならない。今ここで消滅させないと、後に遺恨を残す事になる。
そもそも、邪神を消滅させるために、この場所に乗り込んで来たのだ。
ペスカは神剣を取り出す。そして邪神へ素早く近寄ると、勢いよく神剣を振り下ろした。
ドラゴンの肉体、様々な神を融合した神格。強靭であった邪神の身体は、余りにも容易く裂かれる。
「痛い、痛い、痛いよ~。死にたくない、死にたくない、死にたくない。助けて、助けて!」
見苦しく叫び声を上げ、邪神は逃げ惑う。
これが、こんなのが、邪神の末路だと言うのか。こんなものに、皆が苦しめられたと言うのか。多くの魔獣を死に追いやったと言うのか。
邪神の醜態を目に映し、ペスカには怒りが込み上げていた。
「憎いんでしょ! 戦いなよ!」
ペスカは声を荒げた。
最後の最後まで、果敢に挑んでくるなら、救いもあっただろう。
「お願いします。助けて下さい。お願いします。お願いします。なんでもします。なんでも。だから助けて下さい」
涙を垂れ流し、邪神は命乞いをする。
この姿に、何を感じろと言うのだろう。哀れみなど感じるはずがない。もう、怒りさえ既に通り越した。
ただ、感じるのは理不尽。
邪神は、多くの魔獣を殺戮し、大陸を悪意で呑み込んでいった。禍々しい瘴気で、ドラグスメリア大陸を壊していった。
その本性が、こんな些末なものであったのなら、戦いの中で倒れていった魔獣達は浮かばれまい。怯えて懇願する邪神の姿など、誇り高い魔獣達は許しはしまい。
「もう、終わりだよ。偽ロメ」
ペスカの神剣が降り下ろされる。神剣は、邪神を頭から真っ二つに割いていく。
仮初の肉体は滅び、歪んだ神格は消滅する。虚飾に彩られた邪神は、ここに消滅した。
邪神を追って転移しようとした冬也であったが、深部に向かう先で邪神の気配を見失う。止む無くペスカを目標にして、冬也は転移をする。
転移後に飛び込んでくる風景は、美しい自然そのものであった。
「お兄ちゃん! お帰り!」
「いや、お帰りってペスカ。これお前がやったのか?」
「そ~だよ。偉い? ご褒美はチューね!」
「しねぇよ!」
軽口を叩きながらも、ペスカは覗き込む様に冬也の表情を見る。冬也は変わった周囲の光景に驚きながらも、何か探す様に視線を動かしていた。
ペスカは冬也の表情を見て、驚き以外の何かを感じていた。
無傷である所から、邪神を見事に撃退したのであろう。東部に蔓延する邪気が薄まっているのが、良い証拠であろう。
だが邪神と魔獣達では、力の差があり過ぎる。強襲を受けた魔獣達は、全滅してもおかしくない。
冬也の晴れない顔は、そういう事なのであろう。
何が起きたのか? そんな事は、簡単に想像がつく。冬也の口から告げられるだろう現実は、決して受け入れられる物ではない。
しかし、こんな所で心を折られている場合じゃない。
少なくとも冬也は、しっかりと現実を受け止めて前を向いている。前を向き、決着を付けようとしている。
故に、ペスカは尋ねた。
「・・・・・みんなは?」
「小さい魔獣達はほとんど死んだ。後は瀕死だ。あの状況で無事なのはゴブリンとドラゴンだけだ。むしろ、ゴブリンはここまで良く戦った」
四大魔獣、巨人達、ゴブリン、トロール等、生き残った魔獣は多くない。しかし、強大な力を持つ邪神を前に、唯の魔獣が生き残った。
それは奇跡であろう。
「ノーヴェとズマは、生き残った奴らの護衛で退却した。でもミューモとエレナは、意地を張りやがった。俺は奴らの覚悟に応えなくちゃならねぇ。何が何でも糞野郎を消滅させる!」
冬也の闘志に満ちた瞳。並々ならぬ覚悟を感じ、ペスカは敢えて笑顔を浮かべた。
そして冬也に抱き着いて、優しく言葉をかける。
「そうだね、お兄ちゃん」
そして冬也から離れると、浄化された周囲の様子を強調する様に、ペスカは両腕を大きく広げた。
「見て! この結果は、お兄ちゃんが邪神にダメージを与えたからだよ! それに感じるでしょ? 確実にこの大地から悪意が弱まってる! あと一息だよ、お兄ちゃん!」
「あぁ、やるぞペスカ!」
「うん!」
ペスカと冬也が、決意を新たにしたその時であった。突如として、空間が揺ぐ。空間の揺らぎは、まるでブラックホールの様に、ペスカと冬也を吸い込もうとしている。
「ペスカ、これ!」
「どうやら、向こうから誘ってくれてるみたいだね」
「なら、乗り込んで決着つけるか!」
「うん。でも、油断しちゃ駄目だよ」
「当たり前だ!」
冬也は感じていない。しかし、探知能力に長けたペスカは、やや違和感を感じていた。空間の揺らぎの先にあるのが、邪神の気配だけではない。
そして、その違和感は直ぐに明らかになる。
空間の揺らぎに飲み込まれる様に、ペスカと冬也は異空間に足を踏み入れる。
一番最初に目に飛び込んで来たのは、余りにも弱々しく覇気が無く、虚ろな表情で立つ邪神の姿であった。
胴体が上下で、少しずれている様にも見える。
邪神をここまで追い込んではいないはず。何が起きたのか?
それは、邪神の後ろで睨みを利かせている男のせいなのだろう。
胡坐をかきつつも、威圧感を垂れ流す男。それは見覚えがある、仇の姿であった。
「アルキエルてめぇ! 何で居やがる! 神格が消滅したんじゃねぇのか! セリュシオネが裏切ったのか?」
冬也は声を荒げる。それもそのはず、かつて自分が倒した神が、目の前に再び現れたのだ。
「お兄ちゃん、たぶん違うよ。生まれ変わったんだよ、厄介な事にね」
「正解だペスカぁ~! んで、てめぇには用がねぇ! そこの滓と遊んでな」
尊大な態度で、言い放つアルキエル。その鋭い眼光は、何も反論を許さない迫力に満ちていた。
「おい滓! せっかく戦う機会をくれてやるんだ、有難く思えよ!」
アルキエルは邪神に向かい、さも面倒そうに言い放つ。
だがアルキエルは、邪神やペスカには全く興味が無く、その視線は冬也しか映していない様にも見える。
徐に立ち上がるアルキエル。そして、大剣を取り出す。それは冬也と同じ神剣。しかし冬也の神剣よりも、二回り程大きい。
アルキエルは、大剣を肩に担ぐ様に抱えると、ゆっくり歩きだした。
「とぉ~やぁ~! 待ってたんぜぇ! 俺が全力で戦える様に、こんな場所まで用意してやったんだ。さぁ、殺し合おうや」
アルキエルは神気を解き放つ。強力な神気がビリビリと感じ、肌が一気に粟立つ。
ペスカと冬也は一瞬で理解した。前に戦ったアルキエルとは、格が違う。
「こんなんで、ビビんなよ! そんなたまじゃねぇだろ?」
威嚇しながら、間合いを詰めるアルキエルに対し、冬也は神剣を取り出して構えた。
「ペスカ、こいつは俺が相手する。お前は糞野郎を頼むぞ」
「お兄ちゃん、無茶だよ! 流石に強すぎる!」
「無茶でもやるしかねぇよ。それに俺は負けねぇ」
問答無用とばかりに、冬也はアルキエルに向き合う。この世界を訪れてから、多くの試練を乗り越えて強くなった。その冬也でさえ、表情は硬く強張っている。
相手は、死を覚悟しなければ、対峙する資格がない。そんな相手に対しても、冬也は視線を背ける事をしなかった。
冬也を止める事が懸命だろう。逃げる事が最善だろう。しかし今のアルキエルからは、背を向ける隙を見つけるどころか、逃げる事など到底不可能だろう。
今は、冬也を信じて、己の役目を果たすしかない。
ペスカはやむなく邪神に視線を送った。
当の邪神は虚ろな表情で俯き、ブツブツと何かを呟いている。
「僕が、この僕が、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。みんな殺す。全部壊す、壊す、壊す、壊す、壊す、壊す、こわ、こわ、こわ、こわ、こわ」
邪神は、異様な雰囲気を漂わせていた。
しかし一見する限り、あれだけ強く感じた邪気は、欠片も感じない。今の邪神からは、恐怖を微塵も感じない。まるで抜け殻の様に虚ろな表情で、ただ呟いている。
しかし、矛盾するようだが、内に溜め込んだ悪意は、より一層の禍々しさを増している様にも感じた。まるで破裂寸前の風船の様に。
倒さなければならない。今ここで消滅させないと、後に遺恨を残す事になる。
そもそも、邪神を消滅させるために、この場所に乗り込んで来たのだ。
ペスカは神剣を取り出す。そして邪神へ素早く近寄ると、勢いよく神剣を振り下ろした。
ドラゴンの肉体、様々な神を融合した神格。強靭であった邪神の身体は、余りにも容易く裂かれる。
「痛い、痛い、痛いよ~。死にたくない、死にたくない、死にたくない。助けて、助けて!」
見苦しく叫び声を上げ、邪神は逃げ惑う。
これが、こんなのが、邪神の末路だと言うのか。こんなものに、皆が苦しめられたと言うのか。多くの魔獣を死に追いやったと言うのか。
邪神の醜態を目に映し、ペスカには怒りが込み上げていた。
「憎いんでしょ! 戦いなよ!」
ペスカは声を荒げた。
最後の最後まで、果敢に挑んでくるなら、救いもあっただろう。
「お願いします。助けて下さい。お願いします。お願いします。なんでもします。なんでも。だから助けて下さい」
涙を垂れ流し、邪神は命乞いをする。
この姿に、何を感じろと言うのだろう。哀れみなど感じるはずがない。もう、怒りさえ既に通り越した。
ただ、感じるのは理不尽。
邪神は、多くの魔獣を殺戮し、大陸を悪意で呑み込んでいった。禍々しい瘴気で、ドラグスメリア大陸を壊していった。
その本性が、こんな些末なものであったのなら、戦いの中で倒れていった魔獣達は浮かばれまい。怯えて懇願する邪神の姿など、誇り高い魔獣達は許しはしまい。
「もう、終わりだよ。偽ロメ」
ペスカの神剣が降り下ろされる。神剣は、邪神を頭から真っ二つに割いていく。
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