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大陸東部の悪夢
217 山の神の本領
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ドラグスメリア大陸東部、北側の沿岸は東の沿岸と同様に、海と大地が朽ち果て、膨大な瘴気が渦巻いていた。
そこで力を振るうのは、山の神ベオログであった。
☆ ☆ ☆
邪神ロメリアがラフィスフィア大陸で暴れていた頃、女神ミュールと山の神達は、女神フィアーナの呼びかけに応え、メルドマリューネの浄化を行っていた。
火の神だけは、ドラグスメリア大陸に残された。何故なら、大陸東部には邪神ロメリアが接触した痕跡があったからである。
火の神は、混沌勢と反フィアーナ派が繋がっている事を、知らなかったのかもしれない。
ラフィスフィア大陸で混沌勢が大暴れしており、神の国は混乱を極めている。混乱した状況下では、例え反フィアーナ派であっても、何も出来はしない。
そう考えた所に、油断があったのだろう。
その油断を、反フィアーナ派に突かれた。
火の神と大陸東部を拠点とする土地神達は、動きを封じられた後で神気を奪われた。そして新たな邪神の器となる様に、火の神の神格は様々な神の神格と統合させられた。
眷属である火の神の消失は、女神ミュールをして予想外だった言えよう。曲がりなりにも原初の神である。たかが邪神ロメリアの残滓に、簡単にやられるはずが無い。
警戒もしていた。だから、火の神を留守役として残した。
しかし、反フィアーナ派の方が一枚上手だった。もとい、反フィアーナ派は、ドラグスメリアが手薄になる瞬間を狙っていたのだろう。
そして、女神ミュールはいち早く事情を察した。
ただ、神の国では混乱がおさまっていない。直ぐに事態を明らかにすれば、神同士の諍いに発展し、更なる混乱が待ち受ける。
そうなれば、地上はただでは済まない。
事を荒立てずに、眷属に手を出した奴らに罰を与える。それには、明確な証拠を押さえて、罪を立証する必要がある。そうすれば、神の協議会で堂々と、断罪する事が出来る。
それ故に女神ミュールは、山の神を始めとした三柱の神を差し向けた。
「わかってると思うけど、フレイとの繋がりが切れているわ。東部の状況も少しおかしいみたい。あなた達、ちょっと様子を見てきてちょうだい。一応、手助けは用意するから」
「わかりました姉さん。でも、フレイが遅れを取るなんて考えられません」
「ゼフィロス。わたしも同感よ」
「確かになぁ。ちとおかしな予感がするが、大丈夫だろうかミュール」
「ベオログ。奴らの目があるわ、気を付けるのよ」
「ミュール様。手助けというのは?」
「カーラ。手助けに向かうのは、神の一員となるはずの子達よ。フィアーナには貸しがあるからね、承諾してくれたわ。協議会が終わったら直ぐに向かって頂戴ね」
女神ミュールは、火の神が無事であると考えていない。その考えは、三柱の神にも伝わっていた。仲間の安否は気になる。しかし場合によっては、火の神と事を構えなければならない。
ましてや、邪神ロメリアや反フィアーナ派の関与。それは、最悪の事態を示唆している。
元より山の神は、戦闘が得意ではない。
温厚な性格は戦闘に向いておらず、仲間内では補助的な役割をする事が多かった。水の女神は山の神と共に補助的役割を熟し、風の女神は攻撃と補助の両方を熟すユーティリティープレーヤーである。
火の神は、原初の神々の中でも戦い上手で知られた男神。もし邪悪に乗っ取られ、火の神を相手にする事になれば、三柱の神が揃っても無事で済むはずがない。
そして結果は、想定以上のものとなった。
三柱の神が大陸東部に到着した頃、複数の土地神達と統合され、既に火の神は元の神格を失っていた。そして新たに誕生した邪神は、エンシェントドラゴンであるニューラの身体を媒介にして、強靭な肉体を得た。
更に悪い事は続く。三柱の神は、反フィアーナ派の罠に、嵌り膨大な神気を奪われた。そして、風の女神と水の女神は、共に悪意の種を埋め込まれた。悪意の種を排除出来たのは、山の神だけであった。
原初の神から奪った神気で、反フィアーナ派と新たな邪神の力が増す。
風の女神と水の女神は、埋め込まれた悪意の種に対抗する為、自らの存在を封印した。悪意の種に対抗出来た山の神でさえ、失われた神気を回復させる為、眠らざるを得なかった。
眠りについた山の神は、失意のどん底にあった。
それは力が及ばない自分に対しての失望だったのか、仲間の窮地や火の神フレイの消失に対する絶望だったのか。
恐らく両方だろう。
予感はあった。女神ミュールからも、注意を促されていた。にも関わらず、何も出来ずに敗北を喫した。
そして、ただ神気の回復を待つだけの日々は、山の神にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
だが山の神は、程なく目を覚ます事になる。
万全とは程遠い。しかし目覚める事が出来る位には、神気を与えて貰った。
山の神に神気を分け与えたのは、女神ミュールではない。誰あろう、女神フィアーナの息子にして、神の末席に加わったばかりの冬也である。
山の神が兄妹を初めて目にしたのは、旧メルドマリューネの地。その時、半神とは思えない程の、勇ましさを感じた。
山の神に流れ込んだ神気が、教えてくれる。そして近くによれば、より鮮明に伝わる。冬也の神気は、半人前とは思えない程に力強い。また、とても穏やかで心地が良い。
山の神はやや圧倒されながらも、極力平然を装って冬也と接した。その後に会ったペスカには、全てを見透かされている様な恐れすら感じた。
ペスカと冬也を間近で見て、山の神は確信した。
この兄妹こそが、ロイスマリアに変革を起こす未来の可能性であると。
原初の神と反対派で争う、神の世界。それに伴い、荒らされる地上。そんな争いの繰り返しを、終わらせる事が出来るなら、自分はこの兄妹を守ろう。
山の神は、心の中で強く誓った。
☆ ☆ ☆
大規模浄化魔法を邪神に利用され、力を増したモンスター達。邪神は今尚、猛威を振るい続ける。それでも皆が抗い続ける。
山の神は多くのモンスターを屠りながら、気を吐いていた。まるで鬱憤を晴らすかのように、モンスターを薙ぎ払い、声を荒げた。
「こんな滓どもで、止められると思うな! 儂を舐めるなよ!」
決して万全ではない。
未だ神気が回復しきっていない山の神は、ハンデを背負っての戦いである。しかし、山の神の目には、闘志が漲る。
「ミュールよ。お主の力も少し借りるぞ」
山の神は神気を高めて、大地に流す。大地が光り輝くと、浄化が始まる。
調和を図り、自然な状態へ。
全てが融和し、穏やかな環境へ。
厳しい世界は緩和し、生きるべき者が生きられる世界へ。
大気が清浄される。
海が美しさを取り戻す。
モンスターが消えていく。
淀みが無くなる。
「これが、儂の力じゃ! 見たか馬鹿者!」
美しい自然が、山の神を中心に蘇っていった。
青々とした緑、透き通った海、優しく頬を撫でる風。全てが調和された様に、マナが循環し互いに融和をする様に、自然があるべき姿を取り戻す。
これこそが、山の神が思い描いた世界。
「待っていろ。直ぐに行くぞ冬也、ペスカ。無事でいろよ」
山の神は兄妹を想い、深部の空を見つめた。
深部に向かった兄妹達は、邪神と最も近い場所に居る。周辺でもたついてる場合では無い。直ぐにでも駆けつけて兄妹を守らなければ。
そして山の神は、走り出した。
ドラグスメリア大陸の東部を囲む沿岸部は、東側をクロノスが、北側を山の神が浄化し、それぞれ深部に向かって進み始めた。
西側からは、水の女神カーラが浄化を進めながら、深部に向かって侵攻している。南側からは、風の女神ゼフィロスが他の神々と共に、深部に向かい浄化を続けていた。
神々が壁となりモンスターは一切外には出さない。そんな気迫に満ちていた。
東部を囲む四方向から浄化が進む。
大陸深部では、グロア大火山を凍らせた後に、周辺数十キロを浄化した。魔獣達を強襲した邪神は、冬也によって撃退させられた。
大陸東部は大半が浄化され、既に邪神の領域とは言えなくなっていた。再び深部に戻った邪神は、変わり果てた光景を見て切歯扼腕し、禍々しい邪気をまき散らした。
邪神を追いかける様に、ペスカの下に冬也が転移をする。戻った冬也にペスカが抱きつき、冬也は辺りの光景を見てペスカの頭を撫でる。
そして二人の侵攻が再開される。長く続いた戦いが、終盤に差し掛かろうとしていた。
そこで力を振るうのは、山の神ベオログであった。
☆ ☆ ☆
邪神ロメリアがラフィスフィア大陸で暴れていた頃、女神ミュールと山の神達は、女神フィアーナの呼びかけに応え、メルドマリューネの浄化を行っていた。
火の神だけは、ドラグスメリア大陸に残された。何故なら、大陸東部には邪神ロメリアが接触した痕跡があったからである。
火の神は、混沌勢と反フィアーナ派が繋がっている事を、知らなかったのかもしれない。
ラフィスフィア大陸で混沌勢が大暴れしており、神の国は混乱を極めている。混乱した状況下では、例え反フィアーナ派であっても、何も出来はしない。
そう考えた所に、油断があったのだろう。
その油断を、反フィアーナ派に突かれた。
火の神と大陸東部を拠点とする土地神達は、動きを封じられた後で神気を奪われた。そして新たな邪神の器となる様に、火の神の神格は様々な神の神格と統合させられた。
眷属である火の神の消失は、女神ミュールをして予想外だった言えよう。曲がりなりにも原初の神である。たかが邪神ロメリアの残滓に、簡単にやられるはずが無い。
警戒もしていた。だから、火の神を留守役として残した。
しかし、反フィアーナ派の方が一枚上手だった。もとい、反フィアーナ派は、ドラグスメリアが手薄になる瞬間を狙っていたのだろう。
そして、女神ミュールはいち早く事情を察した。
ただ、神の国では混乱がおさまっていない。直ぐに事態を明らかにすれば、神同士の諍いに発展し、更なる混乱が待ち受ける。
そうなれば、地上はただでは済まない。
事を荒立てずに、眷属に手を出した奴らに罰を与える。それには、明確な証拠を押さえて、罪を立証する必要がある。そうすれば、神の協議会で堂々と、断罪する事が出来る。
それ故に女神ミュールは、山の神を始めとした三柱の神を差し向けた。
「わかってると思うけど、フレイとの繋がりが切れているわ。東部の状況も少しおかしいみたい。あなた達、ちょっと様子を見てきてちょうだい。一応、手助けは用意するから」
「わかりました姉さん。でも、フレイが遅れを取るなんて考えられません」
「ゼフィロス。わたしも同感よ」
「確かになぁ。ちとおかしな予感がするが、大丈夫だろうかミュール」
「ベオログ。奴らの目があるわ、気を付けるのよ」
「ミュール様。手助けというのは?」
「カーラ。手助けに向かうのは、神の一員となるはずの子達よ。フィアーナには貸しがあるからね、承諾してくれたわ。協議会が終わったら直ぐに向かって頂戴ね」
女神ミュールは、火の神が無事であると考えていない。その考えは、三柱の神にも伝わっていた。仲間の安否は気になる。しかし場合によっては、火の神と事を構えなければならない。
ましてや、邪神ロメリアや反フィアーナ派の関与。それは、最悪の事態を示唆している。
元より山の神は、戦闘が得意ではない。
温厚な性格は戦闘に向いておらず、仲間内では補助的な役割をする事が多かった。水の女神は山の神と共に補助的役割を熟し、風の女神は攻撃と補助の両方を熟すユーティリティープレーヤーである。
火の神は、原初の神々の中でも戦い上手で知られた男神。もし邪悪に乗っ取られ、火の神を相手にする事になれば、三柱の神が揃っても無事で済むはずがない。
そして結果は、想定以上のものとなった。
三柱の神が大陸東部に到着した頃、複数の土地神達と統合され、既に火の神は元の神格を失っていた。そして新たに誕生した邪神は、エンシェントドラゴンであるニューラの身体を媒介にして、強靭な肉体を得た。
更に悪い事は続く。三柱の神は、反フィアーナ派の罠に、嵌り膨大な神気を奪われた。そして、風の女神と水の女神は、共に悪意の種を埋め込まれた。悪意の種を排除出来たのは、山の神だけであった。
原初の神から奪った神気で、反フィアーナ派と新たな邪神の力が増す。
風の女神と水の女神は、埋め込まれた悪意の種に対抗する為、自らの存在を封印した。悪意の種に対抗出来た山の神でさえ、失われた神気を回復させる為、眠らざるを得なかった。
眠りについた山の神は、失意のどん底にあった。
それは力が及ばない自分に対しての失望だったのか、仲間の窮地や火の神フレイの消失に対する絶望だったのか。
恐らく両方だろう。
予感はあった。女神ミュールからも、注意を促されていた。にも関わらず、何も出来ずに敗北を喫した。
そして、ただ神気の回復を待つだけの日々は、山の神にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
だが山の神は、程なく目を覚ます事になる。
万全とは程遠い。しかし目覚める事が出来る位には、神気を与えて貰った。
山の神に神気を分け与えたのは、女神ミュールではない。誰あろう、女神フィアーナの息子にして、神の末席に加わったばかりの冬也である。
山の神が兄妹を初めて目にしたのは、旧メルドマリューネの地。その時、半神とは思えない程の、勇ましさを感じた。
山の神に流れ込んだ神気が、教えてくれる。そして近くによれば、より鮮明に伝わる。冬也の神気は、半人前とは思えない程に力強い。また、とても穏やかで心地が良い。
山の神はやや圧倒されながらも、極力平然を装って冬也と接した。その後に会ったペスカには、全てを見透かされている様な恐れすら感じた。
ペスカと冬也を間近で見て、山の神は確信した。
この兄妹こそが、ロイスマリアに変革を起こす未来の可能性であると。
原初の神と反対派で争う、神の世界。それに伴い、荒らされる地上。そんな争いの繰り返しを、終わらせる事が出来るなら、自分はこの兄妹を守ろう。
山の神は、心の中で強く誓った。
☆ ☆ ☆
大規模浄化魔法を邪神に利用され、力を増したモンスター達。邪神は今尚、猛威を振るい続ける。それでも皆が抗い続ける。
山の神は多くのモンスターを屠りながら、気を吐いていた。まるで鬱憤を晴らすかのように、モンスターを薙ぎ払い、声を荒げた。
「こんな滓どもで、止められると思うな! 儂を舐めるなよ!」
決して万全ではない。
未だ神気が回復しきっていない山の神は、ハンデを背負っての戦いである。しかし、山の神の目には、闘志が漲る。
「ミュールよ。お主の力も少し借りるぞ」
山の神は神気を高めて、大地に流す。大地が光り輝くと、浄化が始まる。
調和を図り、自然な状態へ。
全てが融和し、穏やかな環境へ。
厳しい世界は緩和し、生きるべき者が生きられる世界へ。
大気が清浄される。
海が美しさを取り戻す。
モンスターが消えていく。
淀みが無くなる。
「これが、儂の力じゃ! 見たか馬鹿者!」
美しい自然が、山の神を中心に蘇っていった。
青々とした緑、透き通った海、優しく頬を撫でる風。全てが調和された様に、マナが循環し互いに融和をする様に、自然があるべき姿を取り戻す。
これこそが、山の神が思い描いた世界。
「待っていろ。直ぐに行くぞ冬也、ペスカ。無事でいろよ」
山の神は兄妹を想い、深部の空を見つめた。
深部に向かった兄妹達は、邪神と最も近い場所に居る。周辺でもたついてる場合では無い。直ぐにでも駆けつけて兄妹を守らなければ。
そして山の神は、走り出した。
ドラグスメリア大陸の東部を囲む沿岸部は、東側をクロノスが、北側を山の神が浄化し、それぞれ深部に向かって進み始めた。
西側からは、水の女神カーラが浄化を進めながら、深部に向かって侵攻している。南側からは、風の女神ゼフィロスが他の神々と共に、深部に向かい浄化を続けていた。
神々が壁となりモンスターは一切外には出さない。そんな気迫に満ちていた。
東部を囲む四方向から浄化が進む。
大陸深部では、グロア大火山を凍らせた後に、周辺数十キロを浄化した。魔獣達を強襲した邪神は、冬也によって撃退させられた。
大陸東部は大半が浄化され、既に邪神の領域とは言えなくなっていた。再び深部に戻った邪神は、変わり果てた光景を見て切歯扼腕し、禍々しい邪気をまき散らした。
邪神を追いかける様に、ペスカの下に冬也が転移をする。戻った冬也にペスカが抱きつき、冬也は辺りの光景を見てペスカの頭を撫でる。
そして二人の侵攻が再開される。長く続いた戦いが、終盤に差し掛かろうとしていた。
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