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混乱のドラゴンとゴブリンの進撃
191 邪神の抵抗
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目の前には消したはずの混血の姿がある。
邪神は驚き、目を見開いた。
自分が使った技は、反フィアーナ派から齎されたもの。決して混血如きが破れるものではない。あの領域から出るのは、闇に染まった時。そういう話しだったはずだ。
なのに何故、目の前にいる。何故、数分前までと何も変わらない神気のままでいられる。
そんなはずは無い。それは有り得ない。三柱の神から力を奪い去った技が、容易に破られて良いはずが無い。
「何を呆けてやがんだ。俺が戻って来たのがそんなに不思議か?」
言い放たれる言葉に、邪神は激しい怒りを膨らませる。放たれる邪気は、大気を淀ませた。
黒いスライムを使って、大地から力を絞り取った。水の女神からも同様に、神気を吸い取り続けている。神格こそ染め切っていないが、時間の問題であろう。未だ、大陸北部は結界が張られており、内部は邪神の空間と言っても過言では無い。
地の利は、邪神に有る。だが混血が、あの領域から出て来られた理由が、理解出来ない。
自分は格が違う、負ける事は無い。邪神には、確信めいた自信があった。そう信じて疑わなかった。
一方冬也は、邪神との間合いを取り、少し辺りを見回す。
大陸北部を囲う様に、壁が出来ている。それを破ろうと、躍起になっているスールの姿が見える。
下に目をやれば、一面が黒く染まっている。
「あれが、少し邪魔だな」
冬也は邪神から放たれる禍々しい邪気を、意にも介さず神剣に力を籠める。そして、横薙ぎに神剣を振る。
剣先の延長線上にある結界には、一本の筋が入る。一本の筋は、ひび割れる様に裂け目を広げていく。そこから砕ける様に、甲高い不快音を立てて、結界は壊れていった。
邪神の目は更に見開かれる。だが冬也は、神剣を片手にあっけらかんと言い放った。
「驚く事か? あの結界は、外側にだけ強力なんだろ? 内側からは脆いよな」
「何を言っている」
「はぁ? てめぇがしかけた糞ムカつく空間と、仕組みは一緒だろ! あそこから出られた俺が、こんな結界を壊せねぇとでも、思ってるのか?」
「だから何を」
「わかんねぇか? これがてめぇの奥の手なら、もう終わりだって言ってんだよ!」
与えられた力を、意味もわからず使っていた邪神とは違う。冬也は、意志を持って虚無の空間から抜け出した。
それは、歴然とした差として、結果に現れる。
結界の崩壊と共に、再び冬也とスールの間に、神気のパスが繋がった。冬也の意思は、神気によってスールに伝わる。
冬也の無事を信じてたスール、ただその表情には少し安堵が浮かぶ。
スールは猛烈な速度で、大陸北部の中央に飛んでいく。そして大きく息を吸うと、極大のブレスを吐く。神気が乗ったブレスは、黒いスライムを消し飛ばし、僅かに大地が見えた。
「良くやったなスール。そのまま奴らの勢いを削げ」
距離の離れたスールには、冬也の言葉は届かない。しかし、スールは頷いた。
冬也は再び神剣を振るう。淀んだ大気は、瞬く間に清浄化する。
結界の崩壊、黒いスライムを撃退出来る神の力を持ったドラゴンの出現。それは、邪神の自信を揺らがせる。何よりも神域を抜け出し、この事態を引き起こした、冬也の力は脅威に値した。
同時に許せなかった。蔑んでいた存在が、自分を追い込んでいる事に怒りが溢れる。
「殺す! 殺してやる!」
「てめぇには無理だ」
邪神は禍々しい邪気を膨らませ、黒い塊を連続で冬也に向けて、銃弾の様に放つ。
まるで機関銃の様に次々と放たれる黒い塊は、数百にも及ぶ。黒い塊が豪速で飛び、冬也を襲う。だが、冬也は神剣を振るい、黒い塊を消滅させていった。
「糞野郎、これで終いか?」
「調子に乗るな! 混血風情が!」
淀んだ悪意が、邪神の体から膨れ上がる。ただ、冬也は隙を見せずに、神剣を振るった。邪神の周囲に亀裂が入る。
それは、一つの可能性を断つ。
「これで、スライムとの連結が途絶えただろ。もう、てめぇは力を吸収出来ない」
「はは、ハハハ! フフッハッ! ハハハハハ! お前はやはり愚かだ」
「お前の希望は、女神の力か? 俺には神格が見えてるってのにか?」
「その前に染め上げてやるよ。真っ黒にね」
「お前ごと、女神の神格を斬るだけだ!」
「原初の神を斬れるのか? 半端者の分際で!」
「原初の神が一柱くらい消滅したって、俺には関係ねぇよ! 忘れんな糞野郎!」
邪神は、周囲に溢れる悪意の塊を集めて、剣に変える。そして、冬也に向かって飛び掛かった。
直ぐに詰められる間合い。邪神は、上段から剣を振り下ろす。そして冬也は、邪神が剣を振るった直ぐ後に、剣を振り下ろした。
やや早く邪神の剣が冬也に迫る。しかし冬也の神剣は、剣ごと邪神を斬る様に振るわれる。
互いの剣が交わう。その瞬間、邪神の剣は冬也の神剣により、軌道を変えられた。
剣術の極意の一つである技、切り落とし。軌道を変えられた邪神の剣は、冬也の脇を掠めていく。神剣はそのまま振り下ろされ、邪神を頭部から真っ二つに切り裂いた。
真っ二つに切り裂かれた邪神は、それでも蠢く。そして高笑いを上げる。
「僕の勝ちだ、混血!」
冬也は、女神の神格を斬っていない。冬也が斬ったのは、邪神の悪意。故に邪神が乗っ取った女神の体が、裂かれるはずが無い。
これは、邪神が仕掛けた最後の罠。女神の体と己の存在を贄にした、とっておきの罠が発動する。
二つに分かれた女神の体は消え、邪神の悪意が霧散する。そして、大地に降り注いだ。
大陸北部の大地を覆う黒いスライムは、爆発的に増加し姿を変える。
黒いドラゴン、黒い巨人、そしてかつてラフィスフィア大陸を混沌に変えたモンスターの数々とゾンビ。邪神の消滅と共に、大陸北部に混沌の軍勢が湧き出した。
そして、悍ましい咆哮が次々と上がり、大陸北部に反響する。既にマナが枯れ果てた大地、ノーヴェにより高い山脈で囲まれた大地は、邪悪な存在の坩堝と化した。
大空に浮かぶ冬也は、残された女神の神格を握りしめて、歯噛みする。
大陸北部の度重なる異変は、結界の崩壊と共に南部や西部にも伝わる。ペスカは顔を顰め、風の女神の肌は粟立ち、眷属を連れ立ってミューモは焦り空を駆ける。
そして、ブルを運ぶスールの眷属はスピードを上げ、エレナとズマは顔を見合わせた。
終わりが見えないまま、事態の悪化は加速する。
冬也とスールは、前線で歯を食いしばる。そして、魔獣軍団は腰を上げる。
大陸北部を巡る戦いは、佳境を迎えようとしていた。
邪神は驚き、目を見開いた。
自分が使った技は、反フィアーナ派から齎されたもの。決して混血如きが破れるものではない。あの領域から出るのは、闇に染まった時。そういう話しだったはずだ。
なのに何故、目の前にいる。何故、数分前までと何も変わらない神気のままでいられる。
そんなはずは無い。それは有り得ない。三柱の神から力を奪い去った技が、容易に破られて良いはずが無い。
「何を呆けてやがんだ。俺が戻って来たのがそんなに不思議か?」
言い放たれる言葉に、邪神は激しい怒りを膨らませる。放たれる邪気は、大気を淀ませた。
黒いスライムを使って、大地から力を絞り取った。水の女神からも同様に、神気を吸い取り続けている。神格こそ染め切っていないが、時間の問題であろう。未だ、大陸北部は結界が張られており、内部は邪神の空間と言っても過言では無い。
地の利は、邪神に有る。だが混血が、あの領域から出て来られた理由が、理解出来ない。
自分は格が違う、負ける事は無い。邪神には、確信めいた自信があった。そう信じて疑わなかった。
一方冬也は、邪神との間合いを取り、少し辺りを見回す。
大陸北部を囲う様に、壁が出来ている。それを破ろうと、躍起になっているスールの姿が見える。
下に目をやれば、一面が黒く染まっている。
「あれが、少し邪魔だな」
冬也は邪神から放たれる禍々しい邪気を、意にも介さず神剣に力を籠める。そして、横薙ぎに神剣を振る。
剣先の延長線上にある結界には、一本の筋が入る。一本の筋は、ひび割れる様に裂け目を広げていく。そこから砕ける様に、甲高い不快音を立てて、結界は壊れていった。
邪神の目は更に見開かれる。だが冬也は、神剣を片手にあっけらかんと言い放った。
「驚く事か? あの結界は、外側にだけ強力なんだろ? 内側からは脆いよな」
「何を言っている」
「はぁ? てめぇがしかけた糞ムカつく空間と、仕組みは一緒だろ! あそこから出られた俺が、こんな結界を壊せねぇとでも、思ってるのか?」
「だから何を」
「わかんねぇか? これがてめぇの奥の手なら、もう終わりだって言ってんだよ!」
与えられた力を、意味もわからず使っていた邪神とは違う。冬也は、意志を持って虚無の空間から抜け出した。
それは、歴然とした差として、結果に現れる。
結界の崩壊と共に、再び冬也とスールの間に、神気のパスが繋がった。冬也の意思は、神気によってスールに伝わる。
冬也の無事を信じてたスール、ただその表情には少し安堵が浮かぶ。
スールは猛烈な速度で、大陸北部の中央に飛んでいく。そして大きく息を吸うと、極大のブレスを吐く。神気が乗ったブレスは、黒いスライムを消し飛ばし、僅かに大地が見えた。
「良くやったなスール。そのまま奴らの勢いを削げ」
距離の離れたスールには、冬也の言葉は届かない。しかし、スールは頷いた。
冬也は再び神剣を振るう。淀んだ大気は、瞬く間に清浄化する。
結界の崩壊、黒いスライムを撃退出来る神の力を持ったドラゴンの出現。それは、邪神の自信を揺らがせる。何よりも神域を抜け出し、この事態を引き起こした、冬也の力は脅威に値した。
同時に許せなかった。蔑んでいた存在が、自分を追い込んでいる事に怒りが溢れる。
「殺す! 殺してやる!」
「てめぇには無理だ」
邪神は禍々しい邪気を膨らませ、黒い塊を連続で冬也に向けて、銃弾の様に放つ。
まるで機関銃の様に次々と放たれる黒い塊は、数百にも及ぶ。黒い塊が豪速で飛び、冬也を襲う。だが、冬也は神剣を振るい、黒い塊を消滅させていった。
「糞野郎、これで終いか?」
「調子に乗るな! 混血風情が!」
淀んだ悪意が、邪神の体から膨れ上がる。ただ、冬也は隙を見せずに、神剣を振るった。邪神の周囲に亀裂が入る。
それは、一つの可能性を断つ。
「これで、スライムとの連結が途絶えただろ。もう、てめぇは力を吸収出来ない」
「はは、ハハハ! フフッハッ! ハハハハハ! お前はやはり愚かだ」
「お前の希望は、女神の力か? 俺には神格が見えてるってのにか?」
「その前に染め上げてやるよ。真っ黒にね」
「お前ごと、女神の神格を斬るだけだ!」
「原初の神を斬れるのか? 半端者の分際で!」
「原初の神が一柱くらい消滅したって、俺には関係ねぇよ! 忘れんな糞野郎!」
邪神は、周囲に溢れる悪意の塊を集めて、剣に変える。そして、冬也に向かって飛び掛かった。
直ぐに詰められる間合い。邪神は、上段から剣を振り下ろす。そして冬也は、邪神が剣を振るった直ぐ後に、剣を振り下ろした。
やや早く邪神の剣が冬也に迫る。しかし冬也の神剣は、剣ごと邪神を斬る様に振るわれる。
互いの剣が交わう。その瞬間、邪神の剣は冬也の神剣により、軌道を変えられた。
剣術の極意の一つである技、切り落とし。軌道を変えられた邪神の剣は、冬也の脇を掠めていく。神剣はそのまま振り下ろされ、邪神を頭部から真っ二つに切り裂いた。
真っ二つに切り裂かれた邪神は、それでも蠢く。そして高笑いを上げる。
「僕の勝ちだ、混血!」
冬也は、女神の神格を斬っていない。冬也が斬ったのは、邪神の悪意。故に邪神が乗っ取った女神の体が、裂かれるはずが無い。
これは、邪神が仕掛けた最後の罠。女神の体と己の存在を贄にした、とっておきの罠が発動する。
二つに分かれた女神の体は消え、邪神の悪意が霧散する。そして、大地に降り注いだ。
大陸北部の大地を覆う黒いスライムは、爆発的に増加し姿を変える。
黒いドラゴン、黒い巨人、そしてかつてラフィスフィア大陸を混沌に変えたモンスターの数々とゾンビ。邪神の消滅と共に、大陸北部に混沌の軍勢が湧き出した。
そして、悍ましい咆哮が次々と上がり、大陸北部に反響する。既にマナが枯れ果てた大地、ノーヴェにより高い山脈で囲まれた大地は、邪悪な存在の坩堝と化した。
大空に浮かぶ冬也は、残された女神の神格を握りしめて、歯噛みする。
大陸北部の度重なる異変は、結界の崩壊と共に南部や西部にも伝わる。ペスカは顔を顰め、風の女神の肌は粟立ち、眷属を連れ立ってミューモは焦り空を駆ける。
そして、ブルを運ぶスールの眷属はスピードを上げ、エレナとズマは顔を見合わせた。
終わりが見えないまま、事態の悪化は加速する。
冬也とスールは、前線で歯を食いしばる。そして、魔獣軍団は腰を上げる。
大陸北部を巡る戦いは、佳境を迎えようとしていた。
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