184 / 415
混乱のドラゴンとゴブリンの進撃
183 魔獣軍団と総司令官ペスカ
しおりを挟む
「じゃあ行くんだな」
「気を付けるんじゃぞブル」
「わかってるんだな。山さんこそ、油断は禁物なんだな」
「わかっとるよ。必ず帰って来るんじゃぞ」
「大丈夫なんだな。寂しがらずに待っていると良いんだな」
ブルと山の神は、笑顔で挨拶を交わした。
ブルは争う事を好まない。短い付き合いではあるが、山の神は純粋で心優しいブルに親愛の情を抱いていた。それ故に、ブルを憂いた。
どうか、この優しき子に災い無きことを。
対するブルは、山の神が隣に居る生活が、当たり前の様に感じていた。ここが自分の帰る場所。そして山の神を、家族の様に想っていた。
僅かな会話の中に籠められた哀愁は、死地へ赴く子供を送り出す親の如く、親を置いて旅立つ子供の如く。確かめ合う様に重ね合う視線は、互いの想いを伝えあう。
そんな別れの時を、無粋に叩き割る様な声が響く。
「いつまでそうしている。急ぐぞ貴様のせいで荷物が増えたのだ。運ぶ我が身も考えよ!」
「焦っちゃ駄目なんだな」
「何を言っておる! それにこの山の様な荷物は何だ!」
怒鳴る様に、声を荒げるドラゴン。その脇には大きな木桶が三つと、中には山の様に積まれた果物があった。
「絶対に必要なんだな。貴重な果物だから、落としたら駄目なんだな」
木桶には運搬用の幅広のベルトらしき物が取り付けられている。ドラゴンは、木桶と魔攻砲を十門、加えて巨体のブルをどう運ぼうか思案していた。
一度引き受けた任務をやり遂げられなくては、スールの眷属としての沽券に関わる。思案の末、ブルが魔攻砲を全て抱え、そのブルを背に乗せた上、ベルトを掴んで運ぶ事に決めた。
ブルだけでもかなりの重量なのだ。その上、大量の荷物を抱えた飛行である。ドラゴンは、大きく息を吐きマナを集中させる。
そして、慎重に空中での姿勢を制御しながら、ゆっくりと浮かんでいく。
「遅いんだな」
「うるさい! 喋るな、動くな!」
ブルを黙らせつつ、ドラゴンは飛んだ。ペスカ達の待つ大陸西部へ。
☆ ☆ ☆
一方、ズマ率いるゴブリン軍団は、エレナと共にドラゴンの谷へ辿り着いた。
道中での度重なる戦い、そして期限を守る為の強行軍で、皆は疲れ果てていた。その為ズマは、全軍を休ませる。
しかし、皆が腰を下ろし休息を取り始めた所に、大きな翼をはためかせて、ドラゴンがゴブリン軍団が降り立った。
「休んでいる暇は無いぞ。お前達は、これから北へ向かうのだ」
現れたのは、谷を守っていたスールの眷属である。そして、威圧する様に言い放つ。しかしその言葉に異を唱え、敢然と立ち向かったのはエレナであった。
「ふざけんニャ! みんな頑張って疲れてるニャ! それでも冬也との約束を守ったニャ! お前らなんて、もう怖くないニャ! 舐めた事を言ってると、痛い目にあわすニャ!」
「矮小な存在よ。我が主の意志を妨げるなら、死して償え」
「上から抑えつけるだけで、誰もが言う事を聞くと思うニャ! お前らみたいな役立たずより、こいつ等の方が偉いニャ! 私はこいつ等を守るニャ!」
睨み合うドラゴンとエレナ。少し前までドラゴンに怯えていたエレナとは、明らかに異なっていた。
エレナはこれまでの日々で、ゴブリン達に友誼の様な感情を抱いていた。共に苦難を乗り越えた仲間達が、蔑まれ顎で使われる事に我慢が出来なかった。
「至高なるドラゴンよ。我らはペスカ殿と冬也殿のご意志の下で、ここまで辿り着いた。ここまでの戦いで皆、疲れ果てている。大陸の異常には、我らとて気が付いている。しかし、全力が出せずにこれからの戦いが生き残れようか。ペスカ殿ならこう言うであろう。急いで足元が揺らいでは、本懐は果たせないと」
エレナに続いて、ズマも立ち上がり、ドラゴンに言い放つ。
ズマは既に一軍の将である。これから死地に向かう仲間達を、むざむざ殺させる訳にはいかない。
ズマの意地が、ドラゴンへの恐怖を克服した。
「そう言う事ニャ! お前も冬也の命令で動いているのは、感づいてるニャ。だから、私達にご飯を寄こすニャ! 肉が良いニャ!」
フンとばかりに小さい胸を張るエレナ。その姿に、流石のズマも目を見開いて、エレナを見やる。ドラゴンは、まさかの要求に唖然とし、口を開いたままで固まった。
「聞こえて無いのかニャ? 肉を寄こせって言ってるニャ。肉だニャ、肉。肉が食べたいニャ!」
ズマの言葉は尤もである。それには返す言葉も無い。しかも、冬也とペスカの名前を出されれば、引き下がるしかない。しかし、エレナの要求は腹に据えかねる。
「猫の分際で生意気な!」
ドラゴンが怒りを露わにした瞬間、腰を下ろしていた魔獣達が一斉に立ち上がり、エレナとズマの周囲を固めた。命がけでボスを守ろうとするかの様に。
ドラゴンは驚きを感じていた。
大陸南部で起きている事態を、スールから聞いていた。しかし、たかが亜人の小娘と最弱の魔獣が、本当に南部の魔獣達を統率すると、信じてはいなかった
主の命令である、しかも主の命を救い、眷属とした神の意向もある。目の前の連中を、無下に扱う事は出来ない。
プライドを傷つけられ、腹立たしく感じながらも、使命故に手が出せない。そんな葛藤をするドラゴンに対し、ズマは諫める様に、静かに言葉を紡いだ。
「だが食料は戦略上、最も重要である。おわかりでしょう? 我らは強行軍故、補給が出来ていない。申し訳ないが、分けては頂け無いでしょうか。至高のドラゴンよ」
ズマの言葉に、ドラゴンは大きな溜息をつく。そして要求に同意し、備蓄の食糧を分け与え、休息を取る場所を提供した。
また、ドラゴンの谷の少し北では、大陸北部と西部から逃げ出した魔獣達が、ノーヴェの眷属とスールの眷属の指示で、隊の編成を行っていた。
逃走中に傷を負った魔獣の手当ては、終了している。後は、ゴブリン軍団が北上するのを待ち、合流した後に進軍するだけである。
南部の魔獣統率に成功したゴブリン軍団。更に北部や西部の魔獣を加えれば、ドラグスメリア大陸でも類を見ない一大勢力となる。
大陸北部を解放する為の戦力は、着々と整いつつあった。
☆ ☆ ☆
そして、本隊となるだろうペスカ達は、作戦会議を開いていた。
ペスカと冬也を中心に、スール、ミューモ、テュホンが囲む。そして風の女神は、ペスカ達と少し離れた場所に腰を下ろし、話しを聞いていた。
「あのね。大陸北部には、黒いスライムが溢れてる。黒いスライムには、原初のドラゴンでもブレスが利かないらしいの」
ドラゴンのブレスが利かない。それは、ミューモにとって、最大の武器を奪われたのと同義。その言葉を聞いて、ミューモは漏らす様に呟いた。
「そうでしたか。だから冬也様はあれだけ」
「あぁ? 何か言ったか糞ドラゴン?」
「いえ冬也様。それでペスカ様、如何されるのですか? 我らのブレスが利かないなら、他の魔獣では打つ手が有りません」
「この戦いの鍵になるのは、ゴブリン軍団とあんた達巨人よ」
「我々ですか?」
テュホンは少し驚いた様な声を上げた。
「サイクロプスのブルって知ってる?」
「えぇ。南へ旅立った我が同胞です。あいつが何か?」
「ブルが対抗できる武器を、ここまで運んでくれるはずなの」
「あいつがですか?」
「そう。それが届き次第、巨人達に持たせて進軍を開始する。予定通りならドラゴンの谷に、ゴブリンの軍団が集まっているはず。進軍は南側と同時に行う。ミューモ、あんたの眷属は動ける?」
ペスカはミューモに視線を向ける。そしてミューモは、軽く頷いてペスカに答えた。
「そろそろ目を覚ましても良い頃かと」
「なら、あんたの眷属を連絡係に使うからね」
「畏まりました、ペスカ様」
「この作戦は、西と南で同時に行うのが重要なんだよ。だから迅速な連絡が大事。期待してるよミューモ」
「お任せください、ペスカ様」
「出来たら何体か、ブルを迎えに行ってもらえる?」
「直ぐに手配いたします」
ミューモは自分の眷属を目覚めさせるために、自分の住処に向い飛び立つ。続いてペスカはスールに視線を向けた。
「スール、あんたはこれから直ぐに飛んで、ノーヴェと合流する事。あんたの眷属も回収して来なさい」
「承知しましたペスカ様。西と同じ状況なら、いま水の女神を目覚めさせるのは、厄介な事になりますしな」
「そう言う事。姐さんと同じ様な結界を、水の女神が張っているなら、あんたの眷属は結界に干渉出来ないはず。一応は万が一の事も考えて、退避するのがベターだよ」
「回収の後は、私もスライム達を浄化って事ですな」
「良くわかってるね。頼むね、スール」
「お任せくださいペスカ様。では主、行って参ります」
「おう、気をつけてな」
スールはペスカと冬也に頭を下げた後に、飛び立っていった。
最後にペスカは、風の女神に視線を向けた。
「姐さん。一連の騒動が、全て反フィアーナ派の仕業。新たに生まれた邪神が、ロメリアの残滓から生まれたとすれば、必ず過去を踏襲するはずだよ」
風の女神は、メルドマリューネで起きた出来事を思い出した。そして、少しぞっとする様な感覚を覚えた。
ペスカが示唆しているのは、モンスターの大量発生、死んだ魔獣のゾンビ化であろう。
大陸の東は、既に邪神の領域となっている。大陸の北は、黒いスライムで溢れている。大量の魔獣が既に命を落としている状況でゾンビ化が行われたら、幾ら戦い慣れたドラグスメリア大陸の魔獣達でも、ひとたまりも有るまい。
それこそ大陸の終わりだ。
「そうならない為の、秩序ある軍隊なんだよ。本番は、黒いスライムの浄化以降。姐さんは、山さんと一緒にいつでも戦える様に、神気を溜めといて!」
「山さん? 誰だい?」
「あれ? 通じない? 山さんは、山の神の事だよ」
「あぁ、ベオログの事かい。わかったよ。にしても、あんたは神に仇名を付けるなんて」
少し溜息を突きながらも、風の神は頷いた。
こうして、大陸北部の解放をかけたペスカ達の戦いが、いま始まろうとしていた。
「気を付けるんじゃぞブル」
「わかってるんだな。山さんこそ、油断は禁物なんだな」
「わかっとるよ。必ず帰って来るんじゃぞ」
「大丈夫なんだな。寂しがらずに待っていると良いんだな」
ブルと山の神は、笑顔で挨拶を交わした。
ブルは争う事を好まない。短い付き合いではあるが、山の神は純粋で心優しいブルに親愛の情を抱いていた。それ故に、ブルを憂いた。
どうか、この優しき子に災い無きことを。
対するブルは、山の神が隣に居る生活が、当たり前の様に感じていた。ここが自分の帰る場所。そして山の神を、家族の様に想っていた。
僅かな会話の中に籠められた哀愁は、死地へ赴く子供を送り出す親の如く、親を置いて旅立つ子供の如く。確かめ合う様に重ね合う視線は、互いの想いを伝えあう。
そんな別れの時を、無粋に叩き割る様な声が響く。
「いつまでそうしている。急ぐぞ貴様のせいで荷物が増えたのだ。運ぶ我が身も考えよ!」
「焦っちゃ駄目なんだな」
「何を言っておる! それにこの山の様な荷物は何だ!」
怒鳴る様に、声を荒げるドラゴン。その脇には大きな木桶が三つと、中には山の様に積まれた果物があった。
「絶対に必要なんだな。貴重な果物だから、落としたら駄目なんだな」
木桶には運搬用の幅広のベルトらしき物が取り付けられている。ドラゴンは、木桶と魔攻砲を十門、加えて巨体のブルをどう運ぼうか思案していた。
一度引き受けた任務をやり遂げられなくては、スールの眷属としての沽券に関わる。思案の末、ブルが魔攻砲を全て抱え、そのブルを背に乗せた上、ベルトを掴んで運ぶ事に決めた。
ブルだけでもかなりの重量なのだ。その上、大量の荷物を抱えた飛行である。ドラゴンは、大きく息を吐きマナを集中させる。
そして、慎重に空中での姿勢を制御しながら、ゆっくりと浮かんでいく。
「遅いんだな」
「うるさい! 喋るな、動くな!」
ブルを黙らせつつ、ドラゴンは飛んだ。ペスカ達の待つ大陸西部へ。
☆ ☆ ☆
一方、ズマ率いるゴブリン軍団は、エレナと共にドラゴンの谷へ辿り着いた。
道中での度重なる戦い、そして期限を守る為の強行軍で、皆は疲れ果てていた。その為ズマは、全軍を休ませる。
しかし、皆が腰を下ろし休息を取り始めた所に、大きな翼をはためかせて、ドラゴンがゴブリン軍団が降り立った。
「休んでいる暇は無いぞ。お前達は、これから北へ向かうのだ」
現れたのは、谷を守っていたスールの眷属である。そして、威圧する様に言い放つ。しかしその言葉に異を唱え、敢然と立ち向かったのはエレナであった。
「ふざけんニャ! みんな頑張って疲れてるニャ! それでも冬也との約束を守ったニャ! お前らなんて、もう怖くないニャ! 舐めた事を言ってると、痛い目にあわすニャ!」
「矮小な存在よ。我が主の意志を妨げるなら、死して償え」
「上から抑えつけるだけで、誰もが言う事を聞くと思うニャ! お前らみたいな役立たずより、こいつ等の方が偉いニャ! 私はこいつ等を守るニャ!」
睨み合うドラゴンとエレナ。少し前までドラゴンに怯えていたエレナとは、明らかに異なっていた。
エレナはこれまでの日々で、ゴブリン達に友誼の様な感情を抱いていた。共に苦難を乗り越えた仲間達が、蔑まれ顎で使われる事に我慢が出来なかった。
「至高なるドラゴンよ。我らはペスカ殿と冬也殿のご意志の下で、ここまで辿り着いた。ここまでの戦いで皆、疲れ果てている。大陸の異常には、我らとて気が付いている。しかし、全力が出せずにこれからの戦いが生き残れようか。ペスカ殿ならこう言うであろう。急いで足元が揺らいでは、本懐は果たせないと」
エレナに続いて、ズマも立ち上がり、ドラゴンに言い放つ。
ズマは既に一軍の将である。これから死地に向かう仲間達を、むざむざ殺させる訳にはいかない。
ズマの意地が、ドラゴンへの恐怖を克服した。
「そう言う事ニャ! お前も冬也の命令で動いているのは、感づいてるニャ。だから、私達にご飯を寄こすニャ! 肉が良いニャ!」
フンとばかりに小さい胸を張るエレナ。その姿に、流石のズマも目を見開いて、エレナを見やる。ドラゴンは、まさかの要求に唖然とし、口を開いたままで固まった。
「聞こえて無いのかニャ? 肉を寄こせって言ってるニャ。肉だニャ、肉。肉が食べたいニャ!」
ズマの言葉は尤もである。それには返す言葉も無い。しかも、冬也とペスカの名前を出されれば、引き下がるしかない。しかし、エレナの要求は腹に据えかねる。
「猫の分際で生意気な!」
ドラゴンが怒りを露わにした瞬間、腰を下ろしていた魔獣達が一斉に立ち上がり、エレナとズマの周囲を固めた。命がけでボスを守ろうとするかの様に。
ドラゴンは驚きを感じていた。
大陸南部で起きている事態を、スールから聞いていた。しかし、たかが亜人の小娘と最弱の魔獣が、本当に南部の魔獣達を統率すると、信じてはいなかった
主の命令である、しかも主の命を救い、眷属とした神の意向もある。目の前の連中を、無下に扱う事は出来ない。
プライドを傷つけられ、腹立たしく感じながらも、使命故に手が出せない。そんな葛藤をするドラゴンに対し、ズマは諫める様に、静かに言葉を紡いだ。
「だが食料は戦略上、最も重要である。おわかりでしょう? 我らは強行軍故、補給が出来ていない。申し訳ないが、分けては頂け無いでしょうか。至高のドラゴンよ」
ズマの言葉に、ドラゴンは大きな溜息をつく。そして要求に同意し、備蓄の食糧を分け与え、休息を取る場所を提供した。
また、ドラゴンの谷の少し北では、大陸北部と西部から逃げ出した魔獣達が、ノーヴェの眷属とスールの眷属の指示で、隊の編成を行っていた。
逃走中に傷を負った魔獣の手当ては、終了している。後は、ゴブリン軍団が北上するのを待ち、合流した後に進軍するだけである。
南部の魔獣統率に成功したゴブリン軍団。更に北部や西部の魔獣を加えれば、ドラグスメリア大陸でも類を見ない一大勢力となる。
大陸北部を解放する為の戦力は、着々と整いつつあった。
☆ ☆ ☆
そして、本隊となるだろうペスカ達は、作戦会議を開いていた。
ペスカと冬也を中心に、スール、ミューモ、テュホンが囲む。そして風の女神は、ペスカ達と少し離れた場所に腰を下ろし、話しを聞いていた。
「あのね。大陸北部には、黒いスライムが溢れてる。黒いスライムには、原初のドラゴンでもブレスが利かないらしいの」
ドラゴンのブレスが利かない。それは、ミューモにとって、最大の武器を奪われたのと同義。その言葉を聞いて、ミューモは漏らす様に呟いた。
「そうでしたか。だから冬也様はあれだけ」
「あぁ? 何か言ったか糞ドラゴン?」
「いえ冬也様。それでペスカ様、如何されるのですか? 我らのブレスが利かないなら、他の魔獣では打つ手が有りません」
「この戦いの鍵になるのは、ゴブリン軍団とあんた達巨人よ」
「我々ですか?」
テュホンは少し驚いた様な声を上げた。
「サイクロプスのブルって知ってる?」
「えぇ。南へ旅立った我が同胞です。あいつが何か?」
「ブルが対抗できる武器を、ここまで運んでくれるはずなの」
「あいつがですか?」
「そう。それが届き次第、巨人達に持たせて進軍を開始する。予定通りならドラゴンの谷に、ゴブリンの軍団が集まっているはず。進軍は南側と同時に行う。ミューモ、あんたの眷属は動ける?」
ペスカはミューモに視線を向ける。そしてミューモは、軽く頷いてペスカに答えた。
「そろそろ目を覚ましても良い頃かと」
「なら、あんたの眷属を連絡係に使うからね」
「畏まりました、ペスカ様」
「この作戦は、西と南で同時に行うのが重要なんだよ。だから迅速な連絡が大事。期待してるよミューモ」
「お任せください、ペスカ様」
「出来たら何体か、ブルを迎えに行ってもらえる?」
「直ぐに手配いたします」
ミューモは自分の眷属を目覚めさせるために、自分の住処に向い飛び立つ。続いてペスカはスールに視線を向けた。
「スール、あんたはこれから直ぐに飛んで、ノーヴェと合流する事。あんたの眷属も回収して来なさい」
「承知しましたペスカ様。西と同じ状況なら、いま水の女神を目覚めさせるのは、厄介な事になりますしな」
「そう言う事。姐さんと同じ様な結界を、水の女神が張っているなら、あんたの眷属は結界に干渉出来ないはず。一応は万が一の事も考えて、退避するのがベターだよ」
「回収の後は、私もスライム達を浄化って事ですな」
「良くわかってるね。頼むね、スール」
「お任せくださいペスカ様。では主、行って参ります」
「おう、気をつけてな」
スールはペスカと冬也に頭を下げた後に、飛び立っていった。
最後にペスカは、風の女神に視線を向けた。
「姐さん。一連の騒動が、全て反フィアーナ派の仕業。新たに生まれた邪神が、ロメリアの残滓から生まれたとすれば、必ず過去を踏襲するはずだよ」
風の女神は、メルドマリューネで起きた出来事を思い出した。そして、少しぞっとする様な感覚を覚えた。
ペスカが示唆しているのは、モンスターの大量発生、死んだ魔獣のゾンビ化であろう。
大陸の東は、既に邪神の領域となっている。大陸の北は、黒いスライムで溢れている。大量の魔獣が既に命を落としている状況でゾンビ化が行われたら、幾ら戦い慣れたドラグスメリア大陸の魔獣達でも、ひとたまりも有るまい。
それこそ大陸の終わりだ。
「そうならない為の、秩序ある軍隊なんだよ。本番は、黒いスライムの浄化以降。姐さんは、山さんと一緒にいつでも戦える様に、神気を溜めといて!」
「山さん? 誰だい?」
「あれ? 通じない? 山さんは、山の神の事だよ」
「あぁ、ベオログの事かい。わかったよ。にしても、あんたは神に仇名を付けるなんて」
少し溜息を突きながらも、風の神は頷いた。
こうして、大陸北部の解放をかけたペスカ達の戦いが、いま始まろうとしていた。
0
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説

異世界転生 剣と魔術の世界
小沢アキラ
ファンタジー
普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。
目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。
人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。
全三部構成の長編異世界転生物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる