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混乱のドラゴンとゴブリンの進撃
177 女神の中に潜む闇
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悪意に呑み込まれ様としていたミューモを、スールが救った。そして、暴れ続ける四体の魔獣を一蹴し、浄化を終えた。
ペスカは倒れ伏す巨人達に治療を行い。冬也は大地に神気を流し、神を封じていた結界を解く。
そして姿を現したのは、美しい容姿の女神。ゆっくりと姿を現す所を眺めていた冬也は、低い声色で言い放つ。
女神じゃない、お前には邪悪な感じがすると。
未だ巨人達の治療は、終わらない。スールは、ペスカを守る様に結界を張る。緊張が辺りに漂い始める中、当の女神は目を閉じ、黙して何も語らず、微動だにしなかった。
そして冬也は、大地に突き刺したままの神剣を手に取る。
冬也が目の前の存在を、女神ではないと語ったのには、理由が有る。存在自体は、女神で間違いは無い。だがその奥底から、ほんの僅かであるが、邪神と同じ闇を感じたのだ。
冬也の言葉で、じりじりとした緊張が、周囲を包んでいく。数秒が永遠の様に感じる程に、時の流れが遅い。
ペスカは、巨人達の治療を急ぐ。スールは訪れようとする事態に備え、神気を強める。そして冬也は、ゆっくりと女神との距離を詰めていく。
やがて瞬く様な光が、女神から漏れる。そしてゆっくりと、女神の口が開かれる。
「限界。逃げて」
掠れた声で、静かに呟かれた言葉は、アトラスが最後の巨人を運ぶのとほぼ同時であった。
次の瞬間、女神から高らかな笑い声が上がる。様変わりした様に、口は横に裂けて、いびつでいやらしい笑みが女神の顔に浮かぶ。
体に纏う光は、どす黒く塗りつぶされていく。
闇が溢れた。
邪気が暴風の様に女神から放たれる。そしてスールの結界は、ビリビリと震える。
スールは更に神気を高めて、ペスカや巨人達の間に張った結界を強化する。邪気がペスカや巨人達に届かない様に、スールは懸命に堪えた。
「ハハハ。良く気がついたね。この女神は優秀でね。取り込む為に僕がどれだけ苦労したと思うんだい? 君のおかげだよ。女神が自分を封じる為に作った結界を壊した挙句に、僕を開放するきっかけをくれたんだからね。感謝するよ、能無しの混血。まぁ時間の問題だったけどね。僕は優秀なんだよ、わかるかい? 優秀な僕は他の奴らと違って、原初の神を手に入れたんだ。君には感謝しなくてはならないよ。その恩に応えて君も取り込んであげるよ」
その笑い声と共に放たれる言葉は、生き物を震え上がらせる、おどろおどろしい恐怖に満ちていた。
禍々しい殺意が溢れる。全てを飲み込もうとする闇が、女神から流れ出す。
並みの魔獣では意識を保つ事さえ難しいだろう。ミューモは震えあがり、スールとて心の底から湧き上がる恐怖を、懸命に堪えていた。
声も出せない程に震えるミューモは、意識を保つ事すら難しくなっていた。
これが邪神の姿。
邪神の恐怖。
抗える相手では無い。
抗ってはいけない。
相手は神なのだ。
駄目だここで全て滅びてしまう。
終わりだ。
すべて終わりだ。
ミューモが恐怖に屈しようとしたその時、雄渾で美しい声が響いた。
「あんた、本当にエンシェントドラゴンなの? しっかりしなさいよね」
ミューモに話しかけたのは、治療でマナを使い果たし座り込んだ、ペスカであった。
「見えるよね。あんたごと私達を守ろうとしてるスールの姿。わかるよね。邪神と相対しても、びくともしないお兄ちゃんの姿。あんたとスール、あんたとお兄ちゃん、どこが違うかわかる?」
スールは震えて言葉が出ない、恐怖に怯えて頭が働かない。
それでもペスカは言葉を続けた。
「あんたとふたりが違うのは、戦う力じゃ無い。戦う意志だよ。誇りだよミューモ! 巨人達を守れって言われたんでしょ! 意地をみせなよ!」
恐怖に震えるミューモの頭に、ペスカの声が届く。それはミューモの心に宿る、黒雲を振り払った。
「俺は、俺は!」
ミューモの目に意志が戻る。
巨人達を守れとスールは言った。しかし巨人達ごと自分が守られているではないか。
不甲斐ない。情けない。これでも原初のドラゴンなのか。世界を守る守護者なのか。
「ぐあぁぁぁぁ~!」
弱った己の心を打ち壊す様に、ミューモは咆哮する。そして意志は伝わる。
スールは、ミューモの激しい咆哮を聞いて、少し安堵した。
スールは慣れない神気を扱った上に、大量の悪意を浴びて意識が朦朧としている。それでも湧き上がる恐怖に耐え、懸命に結界を強化していた。
人間の体でペスカ様は、マナを使い過ぎた。直ぐには立つ事は難しいだろう。
自分の結界は、長くは持たない。だが少しの時間が稼げればいい。後は、主とペスカ様が何とかしてくれる。
迫る恐怖を乗り越え、二体のドラゴンが敢然と立ち向かった。
一方、ペスカの心は凪いでいた。ただ静かに、兄を信じて時を待っていた。
苛立ちも焦りもない。ペスカは、ゆっくりと自分の体に流れる神気を練り上げる。そしてマナの回復を待った。
「大丈夫、お兄ちゃんなら大丈夫」
ペスカの意志は、冬也に伝わる。何よりも心強い妹の想いが、冬也を奮い立たせる。
女神の体を乗っ取った邪神は、にやける様に笑う。高笑いをしながら、悪意を振り撒いていく。
しかし、冬也は憐れむ様な目で、女神を見つめた。
「今すぐに開放してやるからな。待ってろよ」
「混血風情が生意気な目を向けるな!」
「てめぇは黙ってろよ。いくら出てきても、てめぇじゃ俺には勝てねぇよ」
冬也の手にある神剣は輝きを増す。
「何だい? やる気かい? ここに居る魔獣を誰が操ってたと思うんだい?」
邪神の言葉に、スールが浄化したはずの魔獣達が起き上る。凄まじい速さで四体の魔獣は、冬也を取り囲む。
冬也が甚振られる様を想像したのだろう。邪神の笑みは深まり、恍惚としていた。
「それがどうした糞野郎」
その言葉と共に、神剣が横薙ぎに振られる。冬也の神剣は、悪意を切り裂いた。
一刀の下に、起き上った四体の魔獣は、再び意識を失った。
「次はてめぇだ、糞野郎。ここで消滅するか、逃げた先で消滅するか、どっちかを選びな」
邪神の顔は一転し歯噛みをする様に、歪んだ表情を浮かべる。
「きさま~! 僕の邪魔を何度すれば気が済むんだ! 消えろ半端者!」
「消えるのはてめぇだよ、糞野郎!」
大陸西部の戦いが佳境に近づく。正体を現した元凶は、女神の体を乗っ取り、邪気を吹き上がらせる。
大陸西部の平和を取り戻す為、本当の戦いが始まろうとしていた。
ペスカは倒れ伏す巨人達に治療を行い。冬也は大地に神気を流し、神を封じていた結界を解く。
そして姿を現したのは、美しい容姿の女神。ゆっくりと姿を現す所を眺めていた冬也は、低い声色で言い放つ。
女神じゃない、お前には邪悪な感じがすると。
未だ巨人達の治療は、終わらない。スールは、ペスカを守る様に結界を張る。緊張が辺りに漂い始める中、当の女神は目を閉じ、黙して何も語らず、微動だにしなかった。
そして冬也は、大地に突き刺したままの神剣を手に取る。
冬也が目の前の存在を、女神ではないと語ったのには、理由が有る。存在自体は、女神で間違いは無い。だがその奥底から、ほんの僅かであるが、邪神と同じ闇を感じたのだ。
冬也の言葉で、じりじりとした緊張が、周囲を包んでいく。数秒が永遠の様に感じる程に、時の流れが遅い。
ペスカは、巨人達の治療を急ぐ。スールは訪れようとする事態に備え、神気を強める。そして冬也は、ゆっくりと女神との距離を詰めていく。
やがて瞬く様な光が、女神から漏れる。そしてゆっくりと、女神の口が開かれる。
「限界。逃げて」
掠れた声で、静かに呟かれた言葉は、アトラスが最後の巨人を運ぶのとほぼ同時であった。
次の瞬間、女神から高らかな笑い声が上がる。様変わりした様に、口は横に裂けて、いびつでいやらしい笑みが女神の顔に浮かぶ。
体に纏う光は、どす黒く塗りつぶされていく。
闇が溢れた。
邪気が暴風の様に女神から放たれる。そしてスールの結界は、ビリビリと震える。
スールは更に神気を高めて、ペスカや巨人達の間に張った結界を強化する。邪気がペスカや巨人達に届かない様に、スールは懸命に堪えた。
「ハハハ。良く気がついたね。この女神は優秀でね。取り込む為に僕がどれだけ苦労したと思うんだい? 君のおかげだよ。女神が自分を封じる為に作った結界を壊した挙句に、僕を開放するきっかけをくれたんだからね。感謝するよ、能無しの混血。まぁ時間の問題だったけどね。僕は優秀なんだよ、わかるかい? 優秀な僕は他の奴らと違って、原初の神を手に入れたんだ。君には感謝しなくてはならないよ。その恩に応えて君も取り込んであげるよ」
その笑い声と共に放たれる言葉は、生き物を震え上がらせる、おどろおどろしい恐怖に満ちていた。
禍々しい殺意が溢れる。全てを飲み込もうとする闇が、女神から流れ出す。
並みの魔獣では意識を保つ事さえ難しいだろう。ミューモは震えあがり、スールとて心の底から湧き上がる恐怖を、懸命に堪えていた。
声も出せない程に震えるミューモは、意識を保つ事すら難しくなっていた。
これが邪神の姿。
邪神の恐怖。
抗える相手では無い。
抗ってはいけない。
相手は神なのだ。
駄目だここで全て滅びてしまう。
終わりだ。
すべて終わりだ。
ミューモが恐怖に屈しようとしたその時、雄渾で美しい声が響いた。
「あんた、本当にエンシェントドラゴンなの? しっかりしなさいよね」
ミューモに話しかけたのは、治療でマナを使い果たし座り込んだ、ペスカであった。
「見えるよね。あんたごと私達を守ろうとしてるスールの姿。わかるよね。邪神と相対しても、びくともしないお兄ちゃんの姿。あんたとスール、あんたとお兄ちゃん、どこが違うかわかる?」
スールは震えて言葉が出ない、恐怖に怯えて頭が働かない。
それでもペスカは言葉を続けた。
「あんたとふたりが違うのは、戦う力じゃ無い。戦う意志だよ。誇りだよミューモ! 巨人達を守れって言われたんでしょ! 意地をみせなよ!」
恐怖に震えるミューモの頭に、ペスカの声が届く。それはミューモの心に宿る、黒雲を振り払った。
「俺は、俺は!」
ミューモの目に意志が戻る。
巨人達を守れとスールは言った。しかし巨人達ごと自分が守られているではないか。
不甲斐ない。情けない。これでも原初のドラゴンなのか。世界を守る守護者なのか。
「ぐあぁぁぁぁ~!」
弱った己の心を打ち壊す様に、ミューモは咆哮する。そして意志は伝わる。
スールは、ミューモの激しい咆哮を聞いて、少し安堵した。
スールは慣れない神気を扱った上に、大量の悪意を浴びて意識が朦朧としている。それでも湧き上がる恐怖に耐え、懸命に結界を強化していた。
人間の体でペスカ様は、マナを使い過ぎた。直ぐには立つ事は難しいだろう。
自分の結界は、長くは持たない。だが少しの時間が稼げればいい。後は、主とペスカ様が何とかしてくれる。
迫る恐怖を乗り越え、二体のドラゴンが敢然と立ち向かった。
一方、ペスカの心は凪いでいた。ただ静かに、兄を信じて時を待っていた。
苛立ちも焦りもない。ペスカは、ゆっくりと自分の体に流れる神気を練り上げる。そしてマナの回復を待った。
「大丈夫、お兄ちゃんなら大丈夫」
ペスカの意志は、冬也に伝わる。何よりも心強い妹の想いが、冬也を奮い立たせる。
女神の体を乗っ取った邪神は、にやける様に笑う。高笑いをしながら、悪意を振り撒いていく。
しかし、冬也は憐れむ様な目で、女神を見つめた。
「今すぐに開放してやるからな。待ってろよ」
「混血風情が生意気な目を向けるな!」
「てめぇは黙ってろよ。いくら出てきても、てめぇじゃ俺には勝てねぇよ」
冬也の手にある神剣は輝きを増す。
「何だい? やる気かい? ここに居る魔獣を誰が操ってたと思うんだい?」
邪神の言葉に、スールが浄化したはずの魔獣達が起き上る。凄まじい速さで四体の魔獣は、冬也を取り囲む。
冬也が甚振られる様を想像したのだろう。邪神の笑みは深まり、恍惚としていた。
「それがどうした糞野郎」
その言葉と共に、神剣が横薙ぎに振られる。冬也の神剣は、悪意を切り裂いた。
一刀の下に、起き上った四体の魔獣は、再び意識を失った。
「次はてめぇだ、糞野郎。ここで消滅するか、逃げた先で消滅するか、どっちかを選びな」
邪神の顔は一転し歯噛みをする様に、歪んだ表情を浮かべる。
「きさま~! 僕の邪魔を何度すれば気が済むんだ! 消えろ半端者!」
「消えるのはてめぇだよ、糞野郎!」
大陸西部の戦いが佳境に近づく。正体を現した元凶は、女神の体を乗っ取り、邪気を吹き上がらせる。
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