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プロローグ

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「何よっ!何で上手くいかないのよ!この世界は乙女ゲーム『虹の薔薇を君に』の世界でしょ?私はヒロインのリリアーナなのに、もうとっくにゲーム開始しているのに今だに王子に近づけないなんておかしいじゃないのっ!?」


 そんな叫び声を聞いたのは、国の貴族の子息は全員通うことが義務付けられている国立アーセリム学園の中庭を寮へ帰る為に歩いている時だった。
 さり気なく声の方に目をやると、ピンクブロンドの髪に学園指定の制服にゴテゴテとピンクのリボンをつけた生徒の姿がある。

 その叫び声を聞いた時私は、『ああ、ここは乙女ゲームの世界だったんだ。これが流行りの乙女ゲームの世界への転生なのね。でも、私は悪役令嬢じゃないし、モブで良かったわ。乙女ゲームになんてバカバカしくて付き合っていられないもの』とそう思い、すぐに自分は今、何を思ったの?と気が付いた。

 それでもその場で立ち止まるには自称ヒロインが気になり、内心の動揺を隠して何気なくそのまま歩きながら自分の思考を思い返してみると、ぼんやりと地球の日本で暮らしていた前世の記憶が蘇って来た。

 名前などの個人情報や何歳で死んだのかなどは何も思い出せなかったが、前世でも自分が女性で、日本で暮らしていて恐らく働いていた年齢だったことは朧気ながら分かった。

 ここが本当に先ほど叫んでいた、自称ヒロインのリリアーナさんがいうところの『虹の薔薇を君に』という乙女ゲームの舞台の世界だったとしても、乙女ゲーム自体に興味が無かったのか懸命に思い出そうとしてもやった記憶は一切なかった。


 悪役令嬢物の小説で読んだように、ゲーム的に強制力があるのならあの自称ヒロインは王子と出会っているだろうから、ここがゲームの世界ではなく現実の世界ということで間違いないだろう。
 例え乙女ゲームと同じ名前の国や人物が存在していたとして、ゲームのように何度もやり直せるものでも、結婚して物語が終わるように人生が終わる訳ではない。それに乙女ゲームに出ている人物など、せいぜい十数人だろうに、こうして王都の街にも私の育った領地にも大勢の人が暮らしているのだ。


 まあ、ここが例えその乙女ゲームの世界だったとしても、私は所謂モブキャラだろうし気にするだけ無駄よね。そんなことより日本での暮らしを思い出して、自分の名前も覚えてないのに、美味しいご飯が食べたくなるのはこれは日本人としての本能か何かなのかしらね。

 ふと暇つぶしに読んでいた無料の転生物のファンタジー小説の所謂定番的なチート能力のことを思い出し、今の自分の状況と照らし合わせて苦笑が漏れてしまった。

 でも、料理無双とか、普通の人には無理なことよね。味噌や醤油の作り方なんて知らないし、マヨネーズの作り方くらいは思い出せたけど、ここでは卵を生では食べられないし。作って食中毒にでもなったら文字通りに死活問題だもの。それに便利な家電だって構造なんて当然知る訳もないし。記憶があっても知識チートなんて早々出来るものでもないわよね。

 そう思うと、笑いがこみ上げて来てふふっと笑ってしまった。
 自分のことはほとんど思い出せないのに、異世界転生物のネット小説のことは思い出せるなんて所謂転生物小説で良くみかけた設定と同じだが、小説の主人公と自分との違いに思わず吹き出すのをこらえるのが大変だった。

 前世を思い出しても所詮私だということには変わりはないし、突出した才能なんてないしモブで丁度良かったわよね。堅実に手堅く生きるという目標は、前世の記憶を思い出したところで変えるつもりはないし。まあ、どうせこれから領地へ戻るのに馬車で十日もかかるから、その間に少しでも何か役に立てる知識を思い出せば御の字ね。


 前世を思い出したからといって高熱を出すことも倒れることもなく、そのまま女子寮の自分の部屋へ戻って制服から地味な町娘の着る古着のワンピースに着替えると、すぐに纏めておいた荷物を持って部屋を出た。

 そして学園の門で明日からの長期休暇中の帰省の手続きを済ませると、徒歩で市民街にある乗合馬車の乗り場へと向かって歩き出したのだった。







***
ここのところ書けなくてスランプだったので、以前最初だけ書いたのを引っ張り出してリハビリ(またかと思った方!その通りです)に勢いで投稿します。
私なりに乙女ゲームを書いてみたら?がテーマですが、ほぼ乙女ゲームは関係ない話になりました( ´艸`)
ざまぁもほぼないですが、よろしかったらお付き合いくださるとうれしいです。

本日のみ2話、明日以降は一話ずつ最初の一週間は毎日更新を目指して頑張る予定です。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

(リハビリである程度気力が回復したら他連載も再開予定です)
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