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エリンフォード編
間話 その頃『死の森』で ~オースト爺さん視点~
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「そろそろエリダナの街へ着いた頃じゃろうなぁ。アリトはあの街でどれだけ驚くかのぅ」
ふと書き物をした手を止め、傍に置いてある手紙に目を止める。その手紙と荷物が届いたのが二日前。ロンドの町だと書いてあったから、今日か明日にはエリダナの街に着くことだろう。
思わず手紙と一緒に送って来たマヨネーズを思い出し、笑みがこぼれた。
本当に『落ち人』は、いやアリトは生きるのに疲れて来ていた儂に、新しい道を教えてくれた。一緒に暮らした日々は、久しぶりに楽しいという感情と生きる喜びを思い出させてくれたように思う。いや、アリトとの暮らしで気づかされたんじゃな。すっかり生きるのに疲れていた自分のことを。
あの時ー…。スノーを導いたのはこの世界そのものなのか、はたまた何かなのか。アリトをあのままこの森で朽ちさせないで済んだことを儂は何度感謝したじゃろう。
あの時は、まだ産ませれて間もない(フェンリルは生まれてから十年くらいで一人前となりスノーは六歳だった)フェリルの子、アリトにスノーティアと名付けられたあの子にせがまれて森を歩いていたのじゃ。
森の奥へ採取や研究に行く時、いつも置いて行くのをつまらないと。だからフェリルが森の歩き方や狩りの仕方を教え始めた頃だった。なので何かに反応したと思ったら駆け出したスノーに驚いて追いかけたんじゃ。まだあの時のスノーでは、森を一人で歩いては襲われても撃退出来ないからの。
その先で。いきなりその場にいたアリトを見つけたのじゃ。
あの時は驚いた。慌てて見回しても何かがある訳ではなく、その周囲と変わらぬ森の中じゃった。『死の森』の奥で怪我も見たところなく倒れているなんてありえんからの。
ただ儂は『落ち人』のことを知っていた。だからその可能性が高いと思ってすぐさまその場の魔力を感知してみたら、奥地という訳ではなかったのに部分的にかなりの魔力濃度を感じとったのじゃ。でもそれだけじゃ。なんでその場、その時にアリトが『落ち人』としてあそこに『落ちて』来たかは何も分かってはおらん。
もういつ生まれたのかさえも忘れたような儂でも『落ち人』に会ったのは初めてじゃった。ただ『落ち人』が現れたと風の噂で知り、後になって記された文献を読む機会があった。その文献で書かれた『落ち人』は片手と片足を無くしていたと書かれておった。運良く魔獣に殺される前に辺境に住む種族に発見されたが、この世界に落ちて来た時に痛みと共に片手片足を失った、と。
だから見る限りではどこも怪我もなくそこに倒れていたアリトに驚いたのじゃが。本人は自分の姿が違っていたことに驚いて気を失ったがな。
世界を『落ちて』来た『落ち人』。どうして落ちて来たのかも、どうして身体が変換されるのかも、謎を追い求めた酔狂な同胞がいたと聞いたがその謎が解けたとは伝わって来てはいない。多分この世界でただ生きるのみの儂らでは知ることのない、知ることは決して出来ない文字通り『世界の謎』なのだろう。
アリトは見た目が成人前の子供のようになったことを実年齢は二十八だと言って嘆いていたが、この世界では子供のような姿で生まれて死ぬまで過ごす種族もいるくらいだ。見かけには意味などない。アリトの瞳には落ち着きある知性が宿り、儂の知る術もない異世界の知識を持っている。それで十分だと思ったがの。
アリトとの会話は楽しいものだった。この世界のことを教えながら、アリトの世界のことを知っだのだ。それこそもう何年生きているかも数えるのは遥か昔に止めてしまった儂が思いつきもしなかったことを話し、魔力を使った魔法のことを教えれば、自分の居た世界には魔法は無かったと言いながら突拍子もない『魔法』を語ったのじゃ。その話は容易に儂にイメージをさせるくらいで、儂が魔法として発動出来たくらいじゃった。その魔法を見て、凄い凄いと目をキラキラさせておったが、儂の方がどれ程驚いていたことか。
アリトのこの世界ではない世界の知識はこの世界では力を持つ。そのことを実感したのじゃ。
だからこそ儂はアリトには『落ち人』としてではなく、この世界をありのままに見て受け入れて普通に暮らして欲しいと望んだのじゃ。
『落ち人』は『落ちて』来たとしてもほぼ生きて人里へたどり着くことはない。だから一部の人以外は『落ち人』の存在は知らない。どの国でも『落ち人』がいるとは発表することはないのじゃ。
じゃが知っているのは逆に言えば人を使う側の人間ばかりじゃ。じゃからもしアリトが『落ち人』で十分に身体を動かせ、異世界の知識も有り、何不自由なくこの世界で暮らして行けるだけの力もあると知れたらどの国でもアリトのことを欲するじゃろう。それは話を聞いた儂が一番理解しておる。
アリトが権力を求めるのなら、どんな国でも歓迎されるじゃろう。じゃがアリトが求めたのは普通の平穏な暮らしだった。なら生きる術さえ教えるだけでいい。アリトは教えんでも自分が『落ち人』だとバレることの危険性さえ自覚しておったのじゃから。
まあだからあのままここでアリトと暮らしても良かったんじゃが。じゃがこの世界を知らないが故にこの世界に怯えていては平穏な暮らしとは言えん。ならばこそアリトを外の世界へと放り出したのだ。せっかく無事にこの世界にたどり着いたアリトには、自由にこの世界で生きて貰いたかった。
アリトにはスノーもいる。身を守れる力も十分に身に着けた。だからいくらでも自分で選んだ場所で自分で選んだ生き方も出来るのじゃ。
アリトが自分の『寿命が分からない』ことに怯えていることは知っておった。外に『落ち人』の手がかりなどほとんどないのも知っておった。まあ数は少なくとも『落ち人』の生存者がいたということも知っておったがの。旅に出ればその『落ち人』の手がかりまでたどり着くことは叶わなくても、この世界のことはその目で見て知ることになるだろう。
この世界はアリトから聞いた世界とは全く違う。儂のような長命な種族も、十年も生きられないはかない種族さえ存在しとる。今では混血も進んでおるから、『寿命が分からない』ことはここでは普通なのじゃ。
じゃがそう儂がどう告げたところで、アリトは実感など出来なかったことじゃろうからの。…儂に比べたら遥かにアリトは短い生となることだろう。例えアリトの居た世界よりも長命となろうとも。
「このムームというのも美味しいの。マヨネーズに通じるものがあるわい。アリトが作ってくれる美味しいものも食材はこの世界の物じゃ。いずれアリトの世界のように美味しい物が溢れることがあるかもしれんの」
ロンドの町で見つけた!向こうの世界のチーズにそっくりだから、パンにのせて焼いても芋に乗せて焼いても美味しいから!マヨネーズは食べ過ぎないようにな!
そう楽しそうな文と共に送られて来たムームは我が同胞のエルフが作った物だと。保存がきかないからすぐ食べろとあったからすぐ食べてしまったが、ムーダの乳を加工して作ってあるというムームは儂も初めて食べる味わいじゃったわい。
食事は身体を動かす為にするようになって久しかったが、アリトが来てからはアリトが作ってくれた食事を食べることによって食事をすることの楽しみも思い出せた。まあ、アリトが異世界風の食事を作ってくれるから、食べたことがない味わいで美味かったから夢中になってしまったのじゃが。
アリトを旅へと送り出してまた食事も面倒にはなったが、適当に肉を焼いてアリトが作った調味料で味つけするだけでも十分美味いと感じられた。まあ一人で食べる食事が味気ないと思うようになってしまったがの。
旅に出す口実で美味い物を見つけたら送れと手紙に書いたが、アリトは律儀に見つけた調味料などを料理の仕方を書いた物と一緒に送ってくれる。この世界のものなのに、儂が知らなかった調味料も食べると美味しくて驚いたわい。特にラースじゃ。ラースをあんなに柔らかくして食べる方法があるとは思わなんだ。
長く生きていてもまだまだ知らないことがあると儂までわくわくしてきたわい。
お陰でエリンフォードを飛び出して世界を飛び回って調べ回って、やかましく言って来る国や貴族などに煩わされながらも研究し続けている『世界の魔力の偏り』についても、アリトと会ってもっと研究せねばと気持ちを入れなおしたわ。
永い、永い年月を生きて来たが、アリトと出会ったことでまだまだやりたいことが湧いて来る。ふふふ。キーリエフのヤツの気持ちもちょっとは分かったわ。
まあそれでもこの『死の森』を出るつもりにはならんがな。ロックに乗れば世界を回るのもすぐじゃ。どこに住んでも変わらんわ。ここでは皆ものんびり暮らせるしの。
皆と言えばアリトを旅出させた後に、少し拗ねられたわい。アリトはいつもあいつらを楽しそうに撫でまわしておったからの。もふもふ?とか言いながら。恐れられている上級魔獣の、その中でも格上になるやつらもキラキラした目で毛並みに埋まるアリトを拒絶できずに受け入れておったからの。あれは流石に呆れたがのぅ。
皆もアリトとじゃれるのは気に入っておったから、寂しく思っているんじゃろ。まあちゃんと交代にブラッシングはしてやってるがの。儂とアリトは別らしい。
エリダナの街は、儂とキーリエフが作った街じゃ。儂は霊山と森を調べつくして外に飛び出し、キーリエフは新しい物を求めて平原へと出ることを望んだ。
あんな大きな街にしたのはキーリエフだがの。キーリエフの作る新しい物に人が集まり、どんどん大きくなって行った街。キーリエフは変わらん。いくつになっても、常に新しい物を求めて目を輝かせておる。
だからアリトのことを話して身分証明書を手配した時、さっさとエリダナへ来させろ、何だったら俺がお前のとこに行くとうるさかった。
あの街はキーリエフのせいで森の奥に棲んでいた妖精族や精霊族が街へと出て来て様々な種族と交わり混血が多い。だからアリトがあの街へ行けば道を見出すのは分かっておった。アリトは物事の裏を読んで自分なりに飲み込むのが上手いからの。
わざとあの国ではないナブリア国から旅をさせたが。大陸中を周ってからエリンフォードへ行ってもそれはそれでいいと思っておった。
なあアリト。エリダナの街でお前は何を感じるじゃろうかの?
なあアリト。お前の前には自由だけが広がっているんじゃ。好きなように、自由に生きていいのじゃ。この世界にお前の世界の知識を持ち込んだって別にかまわない。それで変わるのならそれもこの世界の意思なんじゃろうからの。ただアリトが前に出る必要はないがの。まあそこら辺の自分の身を掛けた選択はアリトはちゃんと出来るだろうからその辺は心配はしとらんがの。
まあさっさと儂の処にも顔を出して、旅先で作った上手いトンカツを炊き立てのラースラと一緒に食べさせて欲しいがの。卵も乳もそんなに美味い料理になるなら、もっと早く飼育を研究しとけば良かったと思ってしまったくらいじゃ。オウル村で手に入ったら、もっと早く美味い飯が食えたと思うとそれだけが残念じゃ。
まあそれはその内誰かが解決するじゃろ。ムームも美味かったしの!
なあアリト。次に会うのが楽しみじゃ。お前の瞳にこの世界がどう映ったか。エリダナの街を見てどう感じたか。どんな顔をして儂に会いに来るんじゃろうな。
まあ今は次の送ってくる土産を楽しみにしておるよ。
***
おっさん祭りの前に爺さんを( ´艸`)
おらおらなやんちゃな若いころのオースト爺さんをいつか…。
ふと書き物をした手を止め、傍に置いてある手紙に目を止める。その手紙と荷物が届いたのが二日前。ロンドの町だと書いてあったから、今日か明日にはエリダナの街に着くことだろう。
思わず手紙と一緒に送って来たマヨネーズを思い出し、笑みがこぼれた。
本当に『落ち人』は、いやアリトは生きるのに疲れて来ていた儂に、新しい道を教えてくれた。一緒に暮らした日々は、久しぶりに楽しいという感情と生きる喜びを思い出させてくれたように思う。いや、アリトとの暮らしで気づかされたんじゃな。すっかり生きるのに疲れていた自分のことを。
あの時ー…。スノーを導いたのはこの世界そのものなのか、はたまた何かなのか。アリトをあのままこの森で朽ちさせないで済んだことを儂は何度感謝したじゃろう。
あの時は、まだ産ませれて間もない(フェンリルは生まれてから十年くらいで一人前となりスノーは六歳だった)フェリルの子、アリトにスノーティアと名付けられたあの子にせがまれて森を歩いていたのじゃ。
森の奥へ採取や研究に行く時、いつも置いて行くのをつまらないと。だからフェリルが森の歩き方や狩りの仕方を教え始めた頃だった。なので何かに反応したと思ったら駆け出したスノーに驚いて追いかけたんじゃ。まだあの時のスノーでは、森を一人で歩いては襲われても撃退出来ないからの。
その先で。いきなりその場にいたアリトを見つけたのじゃ。
あの時は驚いた。慌てて見回しても何かがある訳ではなく、その周囲と変わらぬ森の中じゃった。『死の森』の奥で怪我も見たところなく倒れているなんてありえんからの。
ただ儂は『落ち人』のことを知っていた。だからその可能性が高いと思ってすぐさまその場の魔力を感知してみたら、奥地という訳ではなかったのに部分的にかなりの魔力濃度を感じとったのじゃ。でもそれだけじゃ。なんでその場、その時にアリトが『落ち人』としてあそこに『落ちて』来たかは何も分かってはおらん。
もういつ生まれたのかさえも忘れたような儂でも『落ち人』に会ったのは初めてじゃった。ただ『落ち人』が現れたと風の噂で知り、後になって記された文献を読む機会があった。その文献で書かれた『落ち人』は片手と片足を無くしていたと書かれておった。運良く魔獣に殺される前に辺境に住む種族に発見されたが、この世界に落ちて来た時に痛みと共に片手片足を失った、と。
だから見る限りではどこも怪我もなくそこに倒れていたアリトに驚いたのじゃが。本人は自分の姿が違っていたことに驚いて気を失ったがな。
世界を『落ちて』来た『落ち人』。どうして落ちて来たのかも、どうして身体が変換されるのかも、謎を追い求めた酔狂な同胞がいたと聞いたがその謎が解けたとは伝わって来てはいない。多分この世界でただ生きるのみの儂らでは知ることのない、知ることは決して出来ない文字通り『世界の謎』なのだろう。
アリトは見た目が成人前の子供のようになったことを実年齢は二十八だと言って嘆いていたが、この世界では子供のような姿で生まれて死ぬまで過ごす種族もいるくらいだ。見かけには意味などない。アリトの瞳には落ち着きある知性が宿り、儂の知る術もない異世界の知識を持っている。それで十分だと思ったがの。
アリトとの会話は楽しいものだった。この世界のことを教えながら、アリトの世界のことを知っだのだ。それこそもう何年生きているかも数えるのは遥か昔に止めてしまった儂が思いつきもしなかったことを話し、魔力を使った魔法のことを教えれば、自分の居た世界には魔法は無かったと言いながら突拍子もない『魔法』を語ったのじゃ。その話は容易に儂にイメージをさせるくらいで、儂が魔法として発動出来たくらいじゃった。その魔法を見て、凄い凄いと目をキラキラさせておったが、儂の方がどれ程驚いていたことか。
アリトのこの世界ではない世界の知識はこの世界では力を持つ。そのことを実感したのじゃ。
だからこそ儂はアリトには『落ち人』としてではなく、この世界をありのままに見て受け入れて普通に暮らして欲しいと望んだのじゃ。
『落ち人』は『落ちて』来たとしてもほぼ生きて人里へたどり着くことはない。だから一部の人以外は『落ち人』の存在は知らない。どの国でも『落ち人』がいるとは発表することはないのじゃ。
じゃが知っているのは逆に言えば人を使う側の人間ばかりじゃ。じゃからもしアリトが『落ち人』で十分に身体を動かせ、異世界の知識も有り、何不自由なくこの世界で暮らして行けるだけの力もあると知れたらどの国でもアリトのことを欲するじゃろう。それは話を聞いた儂が一番理解しておる。
アリトが権力を求めるのなら、どんな国でも歓迎されるじゃろう。じゃがアリトが求めたのは普通の平穏な暮らしだった。なら生きる術さえ教えるだけでいい。アリトは教えんでも自分が『落ち人』だとバレることの危険性さえ自覚しておったのじゃから。
まあだからあのままここでアリトと暮らしても良かったんじゃが。じゃがこの世界を知らないが故にこの世界に怯えていては平穏な暮らしとは言えん。ならばこそアリトを外の世界へと放り出したのだ。せっかく無事にこの世界にたどり着いたアリトには、自由にこの世界で生きて貰いたかった。
アリトにはスノーもいる。身を守れる力も十分に身に着けた。だからいくらでも自分で選んだ場所で自分で選んだ生き方も出来るのじゃ。
アリトが自分の『寿命が分からない』ことに怯えていることは知っておった。外に『落ち人』の手がかりなどほとんどないのも知っておった。まあ数は少なくとも『落ち人』の生存者がいたということも知っておったがの。旅に出ればその『落ち人』の手がかりまでたどり着くことは叶わなくても、この世界のことはその目で見て知ることになるだろう。
この世界はアリトから聞いた世界とは全く違う。儂のような長命な種族も、十年も生きられないはかない種族さえ存在しとる。今では混血も進んでおるから、『寿命が分からない』ことはここでは普通なのじゃ。
じゃがそう儂がどう告げたところで、アリトは実感など出来なかったことじゃろうからの。…儂に比べたら遥かにアリトは短い生となることだろう。例えアリトの居た世界よりも長命となろうとも。
「このムームというのも美味しいの。マヨネーズに通じるものがあるわい。アリトが作ってくれる美味しいものも食材はこの世界の物じゃ。いずれアリトの世界のように美味しい物が溢れることがあるかもしれんの」
ロンドの町で見つけた!向こうの世界のチーズにそっくりだから、パンにのせて焼いても芋に乗せて焼いても美味しいから!マヨネーズは食べ過ぎないようにな!
そう楽しそうな文と共に送られて来たムームは我が同胞のエルフが作った物だと。保存がきかないからすぐ食べろとあったからすぐ食べてしまったが、ムーダの乳を加工して作ってあるというムームは儂も初めて食べる味わいじゃったわい。
食事は身体を動かす為にするようになって久しかったが、アリトが来てからはアリトが作ってくれた食事を食べることによって食事をすることの楽しみも思い出せた。まあ、アリトが異世界風の食事を作ってくれるから、食べたことがない味わいで美味かったから夢中になってしまったのじゃが。
アリトを旅へと送り出してまた食事も面倒にはなったが、適当に肉を焼いてアリトが作った調味料で味つけするだけでも十分美味いと感じられた。まあ一人で食べる食事が味気ないと思うようになってしまったがの。
旅に出す口実で美味い物を見つけたら送れと手紙に書いたが、アリトは律儀に見つけた調味料などを料理の仕方を書いた物と一緒に送ってくれる。この世界のものなのに、儂が知らなかった調味料も食べると美味しくて驚いたわい。特にラースじゃ。ラースをあんなに柔らかくして食べる方法があるとは思わなんだ。
長く生きていてもまだまだ知らないことがあると儂までわくわくしてきたわい。
お陰でエリンフォードを飛び出して世界を飛び回って調べ回って、やかましく言って来る国や貴族などに煩わされながらも研究し続けている『世界の魔力の偏り』についても、アリトと会ってもっと研究せねばと気持ちを入れなおしたわ。
永い、永い年月を生きて来たが、アリトと出会ったことでまだまだやりたいことが湧いて来る。ふふふ。キーリエフのヤツの気持ちもちょっとは分かったわ。
まあそれでもこの『死の森』を出るつもりにはならんがな。ロックに乗れば世界を回るのもすぐじゃ。どこに住んでも変わらんわ。ここでは皆ものんびり暮らせるしの。
皆と言えばアリトを旅出させた後に、少し拗ねられたわい。アリトはいつもあいつらを楽しそうに撫でまわしておったからの。もふもふ?とか言いながら。恐れられている上級魔獣の、その中でも格上になるやつらもキラキラした目で毛並みに埋まるアリトを拒絶できずに受け入れておったからの。あれは流石に呆れたがのぅ。
皆もアリトとじゃれるのは気に入っておったから、寂しく思っているんじゃろ。まあちゃんと交代にブラッシングはしてやってるがの。儂とアリトは別らしい。
エリダナの街は、儂とキーリエフが作った街じゃ。儂は霊山と森を調べつくして外に飛び出し、キーリエフは新しい物を求めて平原へと出ることを望んだ。
あんな大きな街にしたのはキーリエフだがの。キーリエフの作る新しい物に人が集まり、どんどん大きくなって行った街。キーリエフは変わらん。いくつになっても、常に新しい物を求めて目を輝かせておる。
だからアリトのことを話して身分証明書を手配した時、さっさとエリダナへ来させろ、何だったら俺がお前のとこに行くとうるさかった。
あの街はキーリエフのせいで森の奥に棲んでいた妖精族や精霊族が街へと出て来て様々な種族と交わり混血が多い。だからアリトがあの街へ行けば道を見出すのは分かっておった。アリトは物事の裏を読んで自分なりに飲み込むのが上手いからの。
わざとあの国ではないナブリア国から旅をさせたが。大陸中を周ってからエリンフォードへ行ってもそれはそれでいいと思っておった。
なあアリト。エリダナの街でお前は何を感じるじゃろうかの?
なあアリト。お前の前には自由だけが広がっているんじゃ。好きなように、自由に生きていいのじゃ。この世界にお前の世界の知識を持ち込んだって別にかまわない。それで変わるのならそれもこの世界の意思なんじゃろうからの。ただアリトが前に出る必要はないがの。まあそこら辺の自分の身を掛けた選択はアリトはちゃんと出来るだろうからその辺は心配はしとらんがの。
まあさっさと儂の処にも顔を出して、旅先で作った上手いトンカツを炊き立てのラースラと一緒に食べさせて欲しいがの。卵も乳もそんなに美味い料理になるなら、もっと早く飼育を研究しとけば良かったと思ってしまったくらいじゃ。オウル村で手に入ったら、もっと早く美味い飯が食えたと思うとそれだけが残念じゃ。
まあそれはその内誰かが解決するじゃろ。ムームも美味かったしの!
なあアリト。次に会うのが楽しみじゃ。お前の瞳にこの世界がどう映ったか。エリダナの街を見てどう感じたか。どんな顔をして儂に会いに来るんじゃろうな。
まあ今は次の送ってくる土産を楽しみにしておるよ。
***
おっさん祭りの前に爺さんを( ´艸`)
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1巻から5巻(完結)発売中です。文庫化も始まりました!3巻3/8日発売です!無事に完結巻を刊行できたこと、お礼申し上げます。ありがとうございました!また寺田イサザ先生による、コミカライズ版の3巻まで好評発売中です!どうぞよろしくお願いいたします。
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