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カナデ

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ナブリア国編

間話 変わった子 ~リナリティアーナ視点~

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 最初にアリト君を見たのはイーリンの街の宿屋の食堂だった。

 久しぶりに討伐ギルドの特級パーティ『深緑の剣』への依頼を受けての旅の途中だった。最近では一年で一、二回くらいしか依頼を受けない現状で、国の外れの辺境への依頼などここ何年も無かった。だから若い頃を思い出して前に良く泊まった宿に泊まり、良く利用した食堂で食事をしていた時のことだ。

「おいおいおい、なんでこんな処にこんなガキが一人でいんだよっ。ああっ。田舎から討伐ギルドへ憧れて出て来たのか?んな甘いもんじゃねぇぞっ!さっさと怪我しない内にお家に帰んなっ」
 ああ、やっぱりこういう宿は柄の悪い討伐ギルド員が多い、と思いながら絡まれた不運な相手は、と目を向けたのがアリト君を見たのが初めてだ。
 その後すんなり鮮やかな手並みで絡んだ相手をかわしたアリト君にガリードが声を掛けた。その時チラリとこちらを見たアリト君と一瞬目が合った。その目は「あ、エルフだ」と語っていた。


 私はエリンフォード出身のエルフだ。エリンフォードは始祖の一人とされるハイ・エルフのキーリエフ・エリド・エリンフォードが作った国だ。エルフの聖地とされる霊山の麓の森とその西の平原が国土で、エルフ以外にも霊山を起源とする妖精族、精霊族、他様々な種族が住んでいる。
 エルフは霊山の魔力濃度の結晶から産まれたとされる程所有魔力濃度が高く、この大陸の種族の中でもかなり長命な種族だ。まあ霊山を下り森を出て今の街に住んで産まれたエルフは、ハイ・エルフとされる方々と比べれば寿命は二、三百年とかなり短い。私も両親も森の外のエウラナの街産まれのエルフだ。

 エルフは身体の成長が遅く、三十年くらいかけて大人になる。他種族との混血ではなくても体内に有する魔力濃度の違いで成長も違うので一概には言えないのだ。まあ街で他種族と暮らしているから、成長は情緒的には他種族と変わらないが、身体の成長が止まるのに三十年はかかることから他種族と同年代でも付き合いずらいという面はある。
 そういう点ややはり寿命の点から、他種族との結婚を差別することはないけれどあまりする人がいないという現状があるのだろう。

 私はだから街で一緒に育った他種族の同年代が皆結婚して子供が産まれたりした頃に、身体も大人になったことだしと旅に出たのだ。長い寿命だ。大人になったからと言って、すぐ結婚をするつもりもなかった。幸い両親も、私のエルフとして鍛えた弓の腕が確かだったこともあって反対はせずに送り出してくれた。
 せっかくだからエリンフォード以外の世界を知りたくて、弓の腕と薬師として路銀を稼ぎながら色々な国を回って旅をした。
 その間様々な国で、どこへ行ってもエルフで女だというだけで嫌な視線で見られたものだ。どうもエルフは基本が森の種族な為にほっそりと背が高く、顔も比較的整っている人が多いことで世間ではエルフは美形だとささやかれているのだ。
 まったくもって迷惑この上ないことなので、出来るだけ髪を下して耳を隠すようにしていた。それでも若い女に見える一人旅ということもあって、トラブルになったり常にジロジロ品定めをするような視線を向けられたりしていたのだ。

 そして何年もの一人旅を経てこのナブリア国の山の中でまだ成人したばかりだった少年のガリードを助けたのだ。ガリードも変わった少年で、私をエルフと知っても気にも留めずに、エルフの女を見るいやらしさの欠片もない純粋な目で私を見て、一緒に討伐ギルドでパーティーでを組もう!と誘われたのだ。
 その時の言葉は今も覚えている。
「俺はいつか強くなって特級パーティにまでなるんだ!そして深い森でもどこにでも行って強い魔物も倒すんだ!」
 だから俺を助けてくれた腕で、俺と一緒に特級パーティにならないか。と。
 一人旅もその頃には少し寂しく感じていたし、真っすぐ私を見るガリードの目に一緒に居るのも悪くないって思ってその誘いに乗ることにしたのだ。
 その後色々様々なことがあって他の仲間と出会ってパーティーを組んで、幾多の戦いを経て『深緑の剣』として特級パーティにまでなっていた。ガリードが出会った時に語ったように。


 もうそのパーティーの皆も結婚して子供も大きくなって…。色々な種族の人と出会ったけれど、やっぱり同じ時間をずっと過ごせないのは寂しい。私もそろそろ国に戻って結婚して子供を産むことを考える頃なのかしら。
 パーティーで仕事も受けることもほとんど無くなったし、とそう思い始めた頃にアリト君と出会ったのだ。
 いくらまだ成人もしてなさそうな若い男の子でも、私をエルフと見破ったのにジロジロと見ることもなくあっさりと視線を外して去って行った姿は新鮮だった。ガリードに会って以来だったのだ。そんな目で見られなかったのは。だからガリードが声を掛けると言った時にも止めることもしなかった。

 でもガリードと強引に会って話して一緒に旅をすることになって。そうやって知り合ったアリト君は凄い面白い子だった。何をやっているのを見ても、凄いことをサラリとしてしまう。
 魔法を自然に使って採集をし、料理も魔法を使ってあっという間に作り上げ、しかも何を食べても美味しいのだ。様々な国を旅して来たけれど、アリト君が作ったご飯程美味しいご飯を食べたことはほとんどない。 
 アリト君のそんな凄い姿を見て皆で凄いと感心して笑って。皆が若い時の旅を思い出した位、楽しい旅をすることが出来た。

 アリト君が連れている従魔も規格外だ。フェンリルのスノーちゃんとウィラールのアディー。どちらも上級魔獣でどちらも辺境の奥地にいるとされ、見ることさえほぼないと言われている魔獣だ。そんな魔獣を二匹も従魔契約を結んで、ケロリとして連れ歩いている。そんなアリト君に興味を引かれない訳がない。
 王都のパーティーで買った拠点の家で二人で暮らしていた時にも。

「ほーら、スノー。ごめんな、一緒にいられなくて。たっぷりブラッシングしてたっぷりもふもふしような~。ほーら、ほーら」
「フガァ…クウーン。フキャァーン」
 図書館へ毎日通っているアリト君は、いつも夕方になると帰ってきて最初にスノーちゃんの処に行く。そしてそのまま抱き着いて構い倒すのだ。
 ブラシを持ってスノーちゃんの毛並みを整えたのにそのまま抱き着いて全身をがしがし撫でまわし、楽しそうに転げまわるスノーちゃんを追いかけながらも更に撫でまわす。
 うん、すっごくスノーちゃん楽しそうだわ。アリト君が家に居ないとしょんぼりしながら大人しく中庭か部屋にいるだけなのに、今は尻尾をぶんぶん振って楽しそうにはしゃいでいる。スノーちゃんがアリト君のことが大好きで仕方ないのが一目で分かる。アリト君も普段の落ち着いていた態度ではなく、スノーちゃんと一緒に戯れていると普通に子供に見える。本当に仲がいいのだ。

 普通従魔と契約するのは、騎獣とする為に無理やり捉えて何人かがかりで戦い、屈服させて服従の契約を結ぶことがほとんどだ。討伐ギルドでも従魔を持つ人は少なくてもいるけれど、大抵の人はこの契約だ。
 私はまだエリンフォードに居た時に森で暮らす親戚の家で暮らしていた時があって、その時にモランと出会って気があって契約を結ぶことが出来た。モランは中級魔獣のオラルという種族で、私としても良く契約出来たと思うくらいなのだ。
 エルフは霊山や森で暮らしていたから、比較的契約を結んで従魔がいる人は多いが、中級魔獣以上になるとほとんどいないのだ。中級魔獣というと普通は森の奥深くまで行かなければ出会うこともないのだから、それも当然とも言える。まして上級魔獣なんて、ということだ。上級魔獣と契約をしているなんて、エリンフォードでもそんなに聞いたことがない。それこそ伝説のハイ・エルフの方々くらいではないだろうか?

 それなのにこんな成人前の子供に見えるアリト君が上級魔獣と二匹と契約を交わし、じゃれて遊び回る相手がフェンリルなのだ。話だけを聞いたのなら、森で暮らす祖父母も信じてはくれないだろう程なのだ。

「まあ、ね…。それもこれも全部の疑問はアリト君が見せてくれた身分証明書を見たら納得したけれど、ね」
 オースティント・エルグラード。その名は姿を見た者はもう百年は居ないと言われながらも、エリンフォードではずっと語られるそれこそ伝説の人物なのだから。
 『国落としの魔獣使い』そう言えば、エリンフォードの子供なら誰もが震えあがることだろう。母親が子供が言うことを聞かないと言い聞かせる話がある。それは。「いい子にしてないと国落としの魔獣使いが魔獣のえさに攫って行ってしまうわよ」というもので。

 別にオースティント・エルグラードが国を落としたとは伝わっていないし、落とされた国がある訳ではないんだけれど…。フェンリルにラタトスク、チェンダにマードレル、ロックバードにグリフィー、他にもありとあらゆる辺境に住むと言われていた上級魔獣を討伐し、または契約し従魔として従えているとは言われているけれど。
 多分アリト君の様子を見ると、様々な上級魔獣をオースティント・エルグラードが従魔にしているのは本当なんだろう。けれど、多分別に誰彼構わずに襲うとかそういうことはない面倒見がいい人、なんだろうか?

 オースティント・エルグラードが語り継がれている理由に、今程様々な薬が発展したのは全てオースティント・エルグラードが研究し伝えたことがある。エルフだから薬草に詳しい、という訳ではなくて、オースティント・エルグラードが長年に渡って世界を回って研究しつくした結果だ、と。
 確かにエルフは霊山に生まれ、森と共に長く生活して来た種族でもあるから、他の種族と比べれば寿命も長いから格段に森や自然のことには詳しい。けれど、世界を回ってまで研究したのはオースティント・エルグラードだけだと言われている。

 そんな全て「言われている」というくらいの凄い人がアリト君の育ての親なのだ。そりゃあ凄い筈だ、と全てを納得してしまった。
 でも、そんな凄い人が育ての親でも、アリト君はアリト君なのだ。多分アリト君はオースティント・エルグラードの何百年にも渡る偉業を聞いても、多分笑って「やっぱり爺さんは凄い人だったか」って言うだろう。そしてさすがだな、って感心するのだ。ただ憧れだけをその瞳に写して。
 そのくらいはこの約二月の付き合いでなんとなく分かる。

 本当に凄い子だわ、アリト君は。こうやってミランの森でも普通に森を歩くように歩いて、いとも簡単に魔物も狩ってしまった。それなのに攻撃は苦手で身を守る為に身につけたのだ、って苦笑いするのだ。
 多分アリト君には簡単には口に出来ない秘密があって、その分本当は見た目程の子供でもないのだろう。私もこれでももう何十年も生きて幾多もの人の暮らしを見て来たからそう感じるのだ。でももう何十年も生きているから、私にとってはアリト君は年下の子であるのは変わらない。

 このミランの森でオースティント・エルグラードの知り合いという人に会って。アリト君はそれからどうするんだろう?私はどうするんだろう?アリト君と別れてエリンフォードへ里帰りして、またナブリア国へ戻って皆とパーティーを組むのを楽しみに待つのだろうか。

 エリンフォードは数多くのエルフが住んでいる国。私の産まれ故郷の国。そしてオースティント・エルグラードが建国の王、キーリエフ・エリド・エリンフォードを手助けして建てた国でもあると言われている国。
 アリト君と一緒にエリンフォードへ行ったら、私もこれからを決めることが出来るのだろうか?



******
すいません、結局間話です!にゃんこの正体?はまた明日です!
ご期待して?お待ちくださいです<(_ _)>

 
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