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番外編
間話 面白い子供 ~ガリード視点~
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26話と27話の間にあったものを番外編へと移行しました。
*******
「おいおいおい、なんでこんな処にこんなガキが一人でいんだよっ。ああっ。田舎から討伐ギルドへ憧れて出て来たのか?んな甘いもんじゃねぇぞっ!さっさと怪我しない内にお家に帰んなっ」
そんなありきたりな酔っ払いの言葉が聞こえたのは久しぶりに訪れたイーリンの街の宿だった。
凄い面倒な依頼では無かったが久しぶりにパーティ全員が揃って受けた依頼に行く途中で、また断り切れない依頼が入るまではしばらくこうやって皆で旅をすることもないから、とわざと若い頃を思い出しながら若い頃に良く泊まった宿に久しぶりに泊まることにして、美味しさのました宿の飯に機嫌良く酒を飲んでいたところだった。
なんだぁ、ガキって言うくらいなら、ガキにいい大人が絡むなってぇんだよ、バカどもが。こっちは気分良く飲んでたってのに。
そう思って騒ぎの方に顔を向けると。まだ成人前だろう子供の声が聞こえて来た。
「ああ、いや。討伐ギルドなんてとんでもないです。田舎者ですが商人ギルドの見習い登録員です。この街には買い出しに来ただけなので、終わったら帰りますよ」
「はああ?」
はああ?お、あんなバカそうなヤツと同じ反応がでちまったぜ。なんだぁ、この子供は。酔っ払いでも相手は武器も持ってる討伐ギルド員だぞ。なんで平然としてやがる?
「では。子供なのでもう部屋に戻ります」
うん、おもしれぇ。おもしれぇな、こいつ。ああ、からんだヤツらポカーンとバカ顔さらしてやがる。そりゃあそうだ、お前らとこの子じゃ役者が違うわなぁ。
入り口近くの俺達のテーブルの方へ歩いて来るその子供を横目でじっくり見る。
ほおー、こりゃ凄いどころじゃねぇぞ、こいつは。なんて革の装備をつけてやがる。俺でもどの魔物だか魔獣だかの革だかわからねぇな。凄い魔力だぜ。
チラリと隣でやっぱり同じ方を見ていたリナに目配せしても、かすかに首を振って答えて来た。
はあー、リナも知らないってか。一体どこから出て来た子供なんだかなぁ?このイーリンの街は辺境だが今は魔物はそんなにいねぇただの田舎の街なんだがな。
しかし小せえな。背は俺の胸まであるか?髪は青みがかった銀に深い緑の目か。どの属性の魔法が得意かわかりずれぇ色したヤツだな。顔は普通の子供なのに雰囲気と落ち着き具合でそこらの子供とは全く違うと分かるってもんだぜ。こりゃあ、久々におもしろいヤツを見つけたな。
「アッハッハ。度胸があるな、坊主。討伐ギルド員じゃないのが残念だ。まあ、絡まれたくなかったら宿で飯を食うなら早めにするんだな」
近くに来た時、つい面白くて言葉が出ちまった。ニヤニヤ顔がとまんねぇぜ。おいミア、そんなバカ面してんじゃないわって顔するなよな。ったく。おめぇだって面白いって顔してやがるのに。
「はい。ご忠告ありがとうございます」
内心どう答えるかわくわくしながら反応を見ていたら、あっさりと礼だけして出て行きやがった。
おお、見事にかわされたな!いいねぇ、いいねぇ。凄くいいねぇ。しかもリナがエルフだって気づいたのにそのまま行きやがったしな。
「あの子、私がエルフだって気づいたわね。なのに見られもしないなんて興味深いわ。子供であんな対応出来るなんて、知り合いにエルフがいるのかしらね」
ほう、やっぱりリナも気が付いたってことは、リナに見とれもせずにあのまま行っちまったんで間違いねぇってこどだ。
「なぁに。私に見とれないなんて男じゃないんじゃないの?ってこと?まあ男っていうよりは男の子だけれどね、あの子は見た感じ」
「ミアだってあの子は気になったんじゃないの?あの革の防具も何の革で誰が作ったのか分からないけれど見事な物だったし、それにその革の魔力をちゃんと自分の魔力で覆ってたわ。あの年では考えられないくらいの魔力操作技術だわ」
「ふふふ。確かにね。久しぶりに面白い子を見つけたわよね」
「おいおい、ちょっと待てよ。いくらあの子が興味を掻き立てられる面白い子だとしても、俺達はこの街には依頼で寄っただけだし、もう討伐ギルド員としての活動はほとんどしていないだろう?パーティに誘う訳にもいかないんだから、そっとしておいてあげなよ?」
「なんだよ、ノウロ。おめぇはあいつを見て何も感じなかったのか?」
「いいや。気配の殺し方とかあの年にしては面白い子だと思ったよ?でもどうにもならないだろ?十五年前ならすかさずパーティへスカウトしに行ったさ」
「あー。ちっ、面白味がないこと言うなよなぁ。せっかく楽しい気分だってぇのによ」
「そうだわよね。本当に面白そうな子だから私も凄く気になっちゃんだけれど。…ダメよ、ねぇ?」
「そうねー。ダメじゃないの?皆は。私は一人だから別に大丈夫だけどね?」
「うっわ、リナずりーな!俺も一緒に旅に出ようかなぁ」
「ダメに決まってるだろ、お前は。ナリサに言いつけるぞ?ガリルも待ってるだろ?それにリナも興味だけならあんな子供にちょっかいかけるんじゃないぞ?ったく」
ったく、そんなの俺だって分かってるってぇの。でも気になるんだからしょうがねぇじゃねぇか。
「…さっさと依頼を終わらすかー」
「ぷっ。じゃあ貸し馬車の手配をしてくるわ。急げば二、三日で戻って来れるでしょ」
だな。あいつがいつまでこの街にいるかわからねぇが、さっさと依頼は片付けるとするか。
次にあいつを偶然だが見かけたのは依頼をパッパと終わらせて戻って来た街の中でだ。
「…おいリナ、あいつが連れているのはもしかしてフェンリルか?まだ子供みてぇだが」
「…そうね。エルフだってフェンリルなんて連れている人なんてほとんどいないのに。しかもまだ成獣前の子供なんて…。良く親が手放したものだわ」
そう。思わず二度見処か三度見、四度見もしたけれどあの宿でたまたま会った興味深い子供なのは間違いない。が、その足元にその少年にまとわりつくように楽しそうに歩く一匹の狼型従魔の姿があった。
宿を出る前にちらっと聞いてあの子供が狼型の従魔を連れてるってのは聞いたのは聞いたんだが。なんだってぇんだ、あれは。
白銀に輝く毛並みとかなり濃度が濃い、濃すぎるくらいの魔力。多分本来はあの大きさなのではなく、魔法で小さくなっているからその分濃すぎる魔力に感じるているのだろう。そんなことが出来る魔獣は上位魔獣だけだ。それをあの子供は当たり前のように足元にまとわりつかせながら街中を連れ歩いているのだ。
「うふふふふふ。凄いわー、本当に興味深いわー。もう、持って帰ってもいいかしらね?あの従魔の子も凄いかわいいし。あの子供のことが大好きなのが分かるわ。あんなに従魔に慕われているなんて、屈服じゃないちゃんとした契約を結んでいるってことよね。うふふふ。ぜひあの子とお話したいわ」
「ミア…。ダメよ?人さらいは犯罪になるからね?もう。まあ私もあの子とは話してみたいと思うけれど」
「でしょう?ね、ほら、じゃあ宿で見張って話しかけましょうよ」
「…それはダメだろう、ミア。いくらなんでも」
「…いや、それはいいな!そうするかっ!確かに今の俺達では今ではあいつをパーティに誘えないけどな!でもこんなに楽しい気分になったのは久しぶりだぜ!ぜひとも話をしてみようぜ!」
「いいわね、それ!ガリードもたまにはいい決断をするじゃない」
「「いやいや、それ、なんかダメそうなんだけれど!」」
まーそれからノウロにギャーすか言われたがとりあえずこの間と同じ宿に泊まり、それとなく今夜までの予約だと聞き出して作戦会議をした。
「あれからあいつは食堂には顔だしてねぇみてぇだし。今から泊まっている部屋に押しかけるよりは、明日の出立を待って声かけるほうが確実だぜ。だから、な。明日は日の出前から見張ろうぜ!」
「おい、だから、な!じゃないだろう!さすがにそれは犯罪だからよせ。そうするくらいなら今から部屋を訪ねた方がいいくらいだ。まあそうは言ってもお前達が言い出したら聞かなさそうだから、明日の朝は日の出と共に西門から出る。で、王都まで一本道だし途中で待ってあの子が来たら話掛ける。来なかったら諦める。くらいにしろ」
ふん。ノウロのヤツも興味津々なくせになー。ちえっ。さっきからフェンリル見ては耳がピクピクしてるのには気が付いているんだぜ。まったくよー。
でも、まー、仕方ないか、とその案に俺達はのることにしたのだ。東門から出れば逆方向だ、どうせ一緒には旅出来ないし、西門から出ればかなりの確率で王都には寄るだろうから、その間に上手くすれば一緒に旅出来るだろうしな!
仕事が終わったってのに日の出とともに起きて手早く食事を取ってから東門へと向かった。
まあ食堂からつい受付の方をみながらヤキモキしてたのは、まあ、皆も同じだからいいだろうよ。こんな年になってまでこんなにわくわくすることになるとは思わなかったがな!
混雑する西門前に並び、それとなく後ろを皆がそわそわちらちら見ていると。
「うおっ!やったぜ、賭けに勝ったな!ふっふっふ。これで話掛けても文句はねぇだろ?ノウロ」
「…まあ仕方ないな。ただ出たところで待ち伏せとか怪しい行動するのは嫌だからな。ちゃんと先に行って、そうだな森にさしかかる辺りまではそのまま行くからな」
「むう。ちえっ。分かったよ。おっ」
後ろの人並の後方から、あの子からだろう視線を感じてちらっと振り向いたらうっかり視線が合った気がした。
「向こうも俺達に気がついたみたいだな」
「そりゃあガリードが大きすぎるからよ。どこにいても貴方がいる場所は分かるもの」
まあ確かに人よりも頭一つ近く視界が高いから周りの様子は良く見ることが出来る。だから向こうが俺に気が付いたのも同じ理由なのは分かるが。
「一度目があったくらいで絶対にこっちを見ねぇな。…何かあまり深くかかわりあいになりたくないことがある、か」
まあフェンリルの子を従魔にしているだけでも十分だろうが、それ以外にもあるに違いない。まあ、でも。
「いいね。ますますいいね。秘密を暴きたい訳じゃあねぇが、やっぱり話をしてみてぇな。凄いわくわくして来たぞ」
だから。街の門から草原が続いて初めて視界が遮られる森の入り口で。
「よお坊主。お前さん、宿の食堂にいた子だろ。あの後も従魔を連れて歩いているのが見えたから気になってたんだ。お、すまん。俺はガリードって言う。こんな年だがまだ討伐ギルド員なんてやってるぜ」
その姿が見えた時には笑いがこみ上げて来るままに声をかけてたぜ。不審そうなあいつのツラにも笑えて来てな。
ミアの勢いのまま答えたアリトという名前。
なんで声を掛ける為に待ってたかって?そんなの考える前にわかるだろ?それがわからねぇアリトが面白そうで仕方がねぇからだ!ガッハッハ!いやぁ、もう楽しくて仕方がないってぇの!こんなに楽しいのはこいつらと組み始めていつか特級パーティになってやる!って毎日依頼に討伐にって過ごしてた時以来だな!
だから。声を掛けて無理やり一緒について歩いて、アリトのヤツの採取や魔法の使い方を見て、作ってくれたスープの美味さに驚いて。
あんまりうれしくてついはしゃいじまって森の奥まで美味い獲物を求めて入って行ったら魔獣を見かけたからつい狩って持ってったら、ぶーぶー文句を言いながらも中級魔獣にも驚かずに解体して肉を焼肉にして出してくれたんだぜ。
はっはー!楽しくて仕方ないぜ!普通は中級魔獣なんて見たら卒倒して腰抜かすぜ?中級魔獣が魔物や下級魔獣を連れて襲い掛かってきたら街だってヤバイんだからな!
まあ上級魔獣、しかもその中でもとびっきりのフェンリルの子供なんて従魔にして、リナが目を剥いた鳥型のこれまた上級魔獣ウィラールまで従魔にして偵察や探索に使ってやがるからな!それくらいは訳はねぇか!ガッハッハ!
なあアリトよ。お前さんの見かけは成人前の子供の見かけなのに、瞳に宿る知性はまるで同世代のように感じるぜ。それなのに俺達の手を頼りない目で見る姿はまだ子供だとも思える。そんなお前さんが気になって気に入って。ただそれだけなんだ。
ただ旅の間、お前と楽しく話しながら旅をしたい、そう思っただけなんだぜ?だから諦めて一緒にほんの少しの間だが宜しく頼むぜ!
*******
……ス、ストーカーじゃ、ない、です、よ?うん。ない、はずですから!
犯罪じゃないギリギリ感?そんな感じでお願いします。怪しいかもしれませんが怪しい人達ではないんですよ?
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「おいおいおい、なんでこんな処にこんなガキが一人でいんだよっ。ああっ。田舎から討伐ギルドへ憧れて出て来たのか?んな甘いもんじゃねぇぞっ!さっさと怪我しない内にお家に帰んなっ」
そんなありきたりな酔っ払いの言葉が聞こえたのは久しぶりに訪れたイーリンの街の宿だった。
凄い面倒な依頼では無かったが久しぶりにパーティ全員が揃って受けた依頼に行く途中で、また断り切れない依頼が入るまではしばらくこうやって皆で旅をすることもないから、とわざと若い頃を思い出しながら若い頃に良く泊まった宿に久しぶりに泊まることにして、美味しさのました宿の飯に機嫌良く酒を飲んでいたところだった。
なんだぁ、ガキって言うくらいなら、ガキにいい大人が絡むなってぇんだよ、バカどもが。こっちは気分良く飲んでたってのに。
そう思って騒ぎの方に顔を向けると。まだ成人前だろう子供の声が聞こえて来た。
「ああ、いや。討伐ギルドなんてとんでもないです。田舎者ですが商人ギルドの見習い登録員です。この街には買い出しに来ただけなので、終わったら帰りますよ」
「はああ?」
はああ?お、あんなバカそうなヤツと同じ反応がでちまったぜ。なんだぁ、この子供は。酔っ払いでも相手は武器も持ってる討伐ギルド員だぞ。なんで平然としてやがる?
「では。子供なのでもう部屋に戻ります」
うん、おもしれぇ。おもしれぇな、こいつ。ああ、からんだヤツらポカーンとバカ顔さらしてやがる。そりゃあそうだ、お前らとこの子じゃ役者が違うわなぁ。
入り口近くの俺達のテーブルの方へ歩いて来るその子供を横目でじっくり見る。
ほおー、こりゃ凄いどころじゃねぇぞ、こいつは。なんて革の装備をつけてやがる。俺でもどの魔物だか魔獣だかの革だかわからねぇな。凄い魔力だぜ。
チラリと隣でやっぱり同じ方を見ていたリナに目配せしても、かすかに首を振って答えて来た。
はあー、リナも知らないってか。一体どこから出て来た子供なんだかなぁ?このイーリンの街は辺境だが今は魔物はそんなにいねぇただの田舎の街なんだがな。
しかし小せえな。背は俺の胸まであるか?髪は青みがかった銀に深い緑の目か。どの属性の魔法が得意かわかりずれぇ色したヤツだな。顔は普通の子供なのに雰囲気と落ち着き具合でそこらの子供とは全く違うと分かるってもんだぜ。こりゃあ、久々におもしろいヤツを見つけたな。
「アッハッハ。度胸があるな、坊主。討伐ギルド員じゃないのが残念だ。まあ、絡まれたくなかったら宿で飯を食うなら早めにするんだな」
近くに来た時、つい面白くて言葉が出ちまった。ニヤニヤ顔がとまんねぇぜ。おいミア、そんなバカ面してんじゃないわって顔するなよな。ったく。おめぇだって面白いって顔してやがるのに。
「はい。ご忠告ありがとうございます」
内心どう答えるかわくわくしながら反応を見ていたら、あっさりと礼だけして出て行きやがった。
おお、見事にかわされたな!いいねぇ、いいねぇ。凄くいいねぇ。しかもリナがエルフだって気づいたのにそのまま行きやがったしな。
「あの子、私がエルフだって気づいたわね。なのに見られもしないなんて興味深いわ。子供であんな対応出来るなんて、知り合いにエルフがいるのかしらね」
ほう、やっぱりリナも気が付いたってことは、リナに見とれもせずにあのまま行っちまったんで間違いねぇってこどだ。
「なぁに。私に見とれないなんて男じゃないんじゃないの?ってこと?まあ男っていうよりは男の子だけれどね、あの子は見た感じ」
「ミアだってあの子は気になったんじゃないの?あの革の防具も何の革で誰が作ったのか分からないけれど見事な物だったし、それにその革の魔力をちゃんと自分の魔力で覆ってたわ。あの年では考えられないくらいの魔力操作技術だわ」
「ふふふ。確かにね。久しぶりに面白い子を見つけたわよね」
「おいおい、ちょっと待てよ。いくらあの子が興味を掻き立てられる面白い子だとしても、俺達はこの街には依頼で寄っただけだし、もう討伐ギルド員としての活動はほとんどしていないだろう?パーティに誘う訳にもいかないんだから、そっとしておいてあげなよ?」
「なんだよ、ノウロ。おめぇはあいつを見て何も感じなかったのか?」
「いいや。気配の殺し方とかあの年にしては面白い子だと思ったよ?でもどうにもならないだろ?十五年前ならすかさずパーティへスカウトしに行ったさ」
「あー。ちっ、面白味がないこと言うなよなぁ。せっかく楽しい気分だってぇのによ」
「そうだわよね。本当に面白そうな子だから私も凄く気になっちゃんだけれど。…ダメよ、ねぇ?」
「そうねー。ダメじゃないの?皆は。私は一人だから別に大丈夫だけどね?」
「うっわ、リナずりーな!俺も一緒に旅に出ようかなぁ」
「ダメに決まってるだろ、お前は。ナリサに言いつけるぞ?ガリルも待ってるだろ?それにリナも興味だけならあんな子供にちょっかいかけるんじゃないぞ?ったく」
ったく、そんなの俺だって分かってるってぇの。でも気になるんだからしょうがねぇじゃねぇか。
「…さっさと依頼を終わらすかー」
「ぷっ。じゃあ貸し馬車の手配をしてくるわ。急げば二、三日で戻って来れるでしょ」
だな。あいつがいつまでこの街にいるかわからねぇが、さっさと依頼は片付けるとするか。
次にあいつを偶然だが見かけたのは依頼をパッパと終わらせて戻って来た街の中でだ。
「…おいリナ、あいつが連れているのはもしかしてフェンリルか?まだ子供みてぇだが」
「…そうね。エルフだってフェンリルなんて連れている人なんてほとんどいないのに。しかもまだ成獣前の子供なんて…。良く親が手放したものだわ」
そう。思わず二度見処か三度見、四度見もしたけれどあの宿でたまたま会った興味深い子供なのは間違いない。が、その足元にその少年にまとわりつくように楽しそうに歩く一匹の狼型従魔の姿があった。
宿を出る前にちらっと聞いてあの子供が狼型の従魔を連れてるってのは聞いたのは聞いたんだが。なんだってぇんだ、あれは。
白銀に輝く毛並みとかなり濃度が濃い、濃すぎるくらいの魔力。多分本来はあの大きさなのではなく、魔法で小さくなっているからその分濃すぎる魔力に感じるているのだろう。そんなことが出来る魔獣は上位魔獣だけだ。それをあの子供は当たり前のように足元にまとわりつかせながら街中を連れ歩いているのだ。
「うふふふふふ。凄いわー、本当に興味深いわー。もう、持って帰ってもいいかしらね?あの従魔の子も凄いかわいいし。あの子供のことが大好きなのが分かるわ。あんなに従魔に慕われているなんて、屈服じゃないちゃんとした契約を結んでいるってことよね。うふふふ。ぜひあの子とお話したいわ」
「ミア…。ダメよ?人さらいは犯罪になるからね?もう。まあ私もあの子とは話してみたいと思うけれど」
「でしょう?ね、ほら、じゃあ宿で見張って話しかけましょうよ」
「…それはダメだろう、ミア。いくらなんでも」
「…いや、それはいいな!そうするかっ!確かに今の俺達では今ではあいつをパーティに誘えないけどな!でもこんなに楽しい気分になったのは久しぶりだぜ!ぜひとも話をしてみようぜ!」
「いいわね、それ!ガリードもたまにはいい決断をするじゃない」
「「いやいや、それ、なんかダメそうなんだけれど!」」
まーそれからノウロにギャーすか言われたがとりあえずこの間と同じ宿に泊まり、それとなく今夜までの予約だと聞き出して作戦会議をした。
「あれからあいつは食堂には顔だしてねぇみてぇだし。今から泊まっている部屋に押しかけるよりは、明日の出立を待って声かけるほうが確実だぜ。だから、な。明日は日の出前から見張ろうぜ!」
「おい、だから、な!じゃないだろう!さすがにそれは犯罪だからよせ。そうするくらいなら今から部屋を訪ねた方がいいくらいだ。まあそうは言ってもお前達が言い出したら聞かなさそうだから、明日の朝は日の出と共に西門から出る。で、王都まで一本道だし途中で待ってあの子が来たら話掛ける。来なかったら諦める。くらいにしろ」
ふん。ノウロのヤツも興味津々なくせになー。ちえっ。さっきからフェンリル見ては耳がピクピクしてるのには気が付いているんだぜ。まったくよー。
でも、まー、仕方ないか、とその案に俺達はのることにしたのだ。東門から出れば逆方向だ、どうせ一緒には旅出来ないし、西門から出ればかなりの確率で王都には寄るだろうから、その間に上手くすれば一緒に旅出来るだろうしな!
仕事が終わったってのに日の出とともに起きて手早く食事を取ってから東門へと向かった。
まあ食堂からつい受付の方をみながらヤキモキしてたのは、まあ、皆も同じだからいいだろうよ。こんな年になってまでこんなにわくわくすることになるとは思わなかったがな!
混雑する西門前に並び、それとなく後ろを皆がそわそわちらちら見ていると。
「うおっ!やったぜ、賭けに勝ったな!ふっふっふ。これで話掛けても文句はねぇだろ?ノウロ」
「…まあ仕方ないな。ただ出たところで待ち伏せとか怪しい行動するのは嫌だからな。ちゃんと先に行って、そうだな森にさしかかる辺りまではそのまま行くからな」
「むう。ちえっ。分かったよ。おっ」
後ろの人並の後方から、あの子からだろう視線を感じてちらっと振り向いたらうっかり視線が合った気がした。
「向こうも俺達に気がついたみたいだな」
「そりゃあガリードが大きすぎるからよ。どこにいても貴方がいる場所は分かるもの」
まあ確かに人よりも頭一つ近く視界が高いから周りの様子は良く見ることが出来る。だから向こうが俺に気が付いたのも同じ理由なのは分かるが。
「一度目があったくらいで絶対にこっちを見ねぇな。…何かあまり深くかかわりあいになりたくないことがある、か」
まあフェンリルの子を従魔にしているだけでも十分だろうが、それ以外にもあるに違いない。まあ、でも。
「いいね。ますますいいね。秘密を暴きたい訳じゃあねぇが、やっぱり話をしてみてぇな。凄いわくわくして来たぞ」
だから。街の門から草原が続いて初めて視界が遮られる森の入り口で。
「よお坊主。お前さん、宿の食堂にいた子だろ。あの後も従魔を連れて歩いているのが見えたから気になってたんだ。お、すまん。俺はガリードって言う。こんな年だがまだ討伐ギルド員なんてやってるぜ」
その姿が見えた時には笑いがこみ上げて来るままに声をかけてたぜ。不審そうなあいつのツラにも笑えて来てな。
ミアの勢いのまま答えたアリトという名前。
なんで声を掛ける為に待ってたかって?そんなの考える前にわかるだろ?それがわからねぇアリトが面白そうで仕方がねぇからだ!ガッハッハ!いやぁ、もう楽しくて仕方がないってぇの!こんなに楽しいのはこいつらと組み始めていつか特級パーティになってやる!って毎日依頼に討伐にって過ごしてた時以来だな!
だから。声を掛けて無理やり一緒について歩いて、アリトのヤツの採取や魔法の使い方を見て、作ってくれたスープの美味さに驚いて。
あんまりうれしくてついはしゃいじまって森の奥まで美味い獲物を求めて入って行ったら魔獣を見かけたからつい狩って持ってったら、ぶーぶー文句を言いながらも中級魔獣にも驚かずに解体して肉を焼肉にして出してくれたんだぜ。
はっはー!楽しくて仕方ないぜ!普通は中級魔獣なんて見たら卒倒して腰抜かすぜ?中級魔獣が魔物や下級魔獣を連れて襲い掛かってきたら街だってヤバイんだからな!
まあ上級魔獣、しかもその中でもとびっきりのフェンリルの子供なんて従魔にして、リナが目を剥いた鳥型のこれまた上級魔獣ウィラールまで従魔にして偵察や探索に使ってやがるからな!それくらいは訳はねぇか!ガッハッハ!
なあアリトよ。お前さんの見かけは成人前の子供の見かけなのに、瞳に宿る知性はまるで同世代のように感じるぜ。それなのに俺達の手を頼りない目で見る姿はまだ子供だとも思える。そんなお前さんが気になって気に入って。ただそれだけなんだ。
ただ旅の間、お前と楽しく話しながら旅をしたい、そう思っただけなんだぜ?だから諦めて一緒にほんの少しの間だが宜しく頼むぜ!
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……ス、ストーカーじゃ、ない、です、よ?うん。ない、はずですから!
犯罪じゃないギリギリ感?そんな感じでお願いします。怪しいかもしれませんが怪しい人達ではないんですよ?
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1巻から5巻(完結)発売中です。文庫化も始まりました!3巻3/8日発売です!無事に完結巻を刊行できたこと、お礼申し上げます。ありがとうございました!また寺田イサザ先生による、コミカライズ版の3巻まで好評発売中です!どうぞよろしくお願いいたします。
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<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
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いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
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