もふもふと異世界でスローライフを目指します!

カナデ

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スローライフ編

その34 その後!のオースト爺さんは

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「なんじゃその顔は。儂は別に喧嘩を売りに行く訳じゃないぞ。じゃあ、アリトや。夕食には戻って来るからの」

 そう言って家を出ると、降り立ったロクスに乗って空へと飛び立った。


 アリトのヤツは、気を使いすぎていかんのう。しっかりと意見を言う時は言うんじゃが、相手の気持ちをおもんばかりすぎるわ。
 確かに儂、オースティント・エルグラードは人との付き合いは好きじゃないし街も行こうとは思わん。が、別に頑なに避けている訳じゃないのだ。

「どれロクスや。アリトのヤツがいらん心配をする前に戻るからの。飛ばしていいぞ」
 この『死の森』からナブリア国の王都は近い。すぐに着くじゃろう。

 しばらくこちら側には飛んだことは無かったが、下を見渡すとだいぶ森が減っていた。森もあるが、それ程規模は大きくない。あのくらいなら、せいぜい中級の魔物や魔獣が何匹かうろついているくらいだろう。
 この辺りも、儂の若い頃は、ほぼ一面の森じゃった。森の隙間に少しだけ草原があるだけで、人が襲撃に怯えることなく暮らせる土地など、ほとんど存在しなかった。

 あれはもう、何百年前になるんじゃったかのう。
 キーリエフとリアーナ、それにイーティランと一緒に霊山を飛び出して、世界を飛び回ったがほぼ人の姿は無かった。森の中に妖精族と獣人が、岩肌の山脈にドワーフ族が、そして南の大陸に魔族が小さな集落を作って、細々と暮らしておっただけじゃった。
 人族は、いつから増えたんじゃったか。

 種族の中で、一番特出した力のないのが人族じゃ。だが、子を宿し、命を繋ぐという点では一番しぶとかった。
 四人で世界中の強大な魔物や魔獣を倒して周って何十、いや百年は経っておったか?絶対死に絶えたと思っていた人族が、強大な魔物を倒したことで森が減衰した土地で街を築いておったんじゃったな。
 その生命力には全員が驚かされたわ。これ程しぶといなら、なんの力も有さない人族が一番多くなるだろうと思ったが、やっぱりそうじゃったの。

 いつしか森の衰退が土地の魔力濃度を変化させていることに気がついて、もっと人の住める土地を増やしてみようと言い出したのは、最初は誰じゃったか。儂では無かったのは間違いがの。

 このままでも人が滅亡することはない、そうは思ったが、儂らエルフと精霊族だけが生き残ったとしても、何の発展もなくなって面白くないと最初に言ったのはリアーナじゃったか?なら、他の種族が増えたらどうなるかやってみるか。そう言ったのはキーリエフじゃったな。
 そしてイーティランがなら俺はエルフの数を増やすと言って、その時には霊山に住めなくなったエルフが多かったから、森の中に街を造って国を建国した。

 キーリエフと儂がエリダナの街を造ったのは、そのかなり後じゃ。その間に、いつしか儂は魔素と土地の魔力の研究が楽しくて夢中になり、それを植物へと求めた。そしてキーリエフは魔道具を生み出すことを求めた。
 一人残されたリアーナは、霊山には帰りたくないと言って今のミランの森へ住居を構えた。
 それからは皆バラバラじゃったな。まあ、思い返せば儂も永い時を生きて来たもんじゃ。まさかあの頃は、こんなに人が住める領域を増やせるとは思わなんだが。

「おお、見えて来たの」
 さて、どうするか。儂が国と関わるのもかなり久ぶりのことじゃからの。とりあえず確認からじゃな。
 ロクスに街の一番大きな建物、王城へ直接向かうことを指示すると、これからのことを考える。
 まあ、アリトは儂にとってかわいい孫のような者じゃからの。これから自由に世界を周ることもあるじゃろう。その時に、煩わされんようにビシっとやっとくかの。




「お前が今代の王か?儂はオースティント・エルグラードじゃ。知ってるな?」
「は?何故、ここまで侵入者が……!ええい、近衛は何をやっておるっ!」
「ふむ。もう一度だけ名乗るぞ?儂はオースティント・エルグラードじゃ。この名をお主は知らんのか?」


 ナブリア国は飛行タイプの従魔を従える軍はなく、個人で何人か契約しているのみだったか?まあ、面倒じゃ。高高度からの急降下で王の執務室へ直接行くか。城は変わってないみたいだし、部屋の位置も変わってないじゃろ。
 そんな思いつきで王都が見えた時点で雲の上へと高度を上げ、周囲に飛行している者がいないのを確認してから王城へと直接向かった。雲を突き抜け、王城が視界に大きくなる頃には、気づいた兵士たちが騒ぎ出したが、ロクスの飛行速度に対応できる訳がない。

 じゃが面倒じゃから、痺れさせておくか。
 執務室の窓に飛び込む前に周囲の窓から顔を出した兵へ向けて雷撃を放ち、そのままロクスから飛び降りて窓を破って王の前へと着地する。
 そして今、目の前の王は、かなり愚鈍な者に見える。

「オースティント?……オースティント・エルグラード。その名は、どこかで聞いたことが……ハッ!こ、この国の建国の英雄、ハイ・エルフのオースティント・エルグラード様ですかっ!!」
 やっと王が気づいた時には、扉から駆け込む兵の無力化は完了していた。
 いくら平和になったとはいえ、鈍すぎないか。代えた方が世の為か?

「ふう……。遅いの。確かに儂もここ二百年くらいは人前に出たことはほぼ無かったがの。儂の名は、もう廃れてしまったのなら、ギグラールを連れて来た方が良かったかの。そうしたらすぐに分かったかもしれんの?」
「ギ、ギグラールっ!い、いえいえいえ、大変申し訳ございませんでしたっ!貴方様のお名前は、王位継承の折にきちんと伝えられております。私の不明はお詫び申しあげます。どうか、それだけはっ!!」

 ふう、とため息をつくと、間抜け顔で固まっていた王が足元にひれ伏した。やれやれじゃな。
 ギグラールは、儂と契約した従魔じゃ。付き合いはもう五百年程になる。五百年程昔、この国は全土が森に覆われており、そこの主ギグラールじゃった。儂がギグラールと戦い、お互いの雄姿を認めて契約を結んで連れ出してからは、森が縮小されてこの場所に人族が国を建国したのじゃ。
 そういえばアリトのヤツとは顔を合わせたことは無かったか。久しぶりに戻ったら呼んでみようかの。

 ギグラールは普段は火山の麓でほぼ寝て過ごしている。起きるのも年に一、二度というくらいにものぐさじゃが、呼ぶのも久しぶりだから起きて来るじゃろうな。
 そんなことを思いながらも、足元にひれ伏す王の姿を見降ろす。
 これ以上余計な輩が来られても面倒じゃから、威圧でもしておくか。

 扉の近くに気配を感じて、普段は隠蔽している魔力を圧力として解き放つ。
「ヒ、ヒイッ……ど、どうかお助けを。命だけは、どうかっ!」
 足元の王も更にひどい有様だが、扉の近くに気配を殺していた者まで全員が気絶するか取り乱すかしたようだ。
「まあ、うるさいよりはいいかの。さて。では用件の確認じゃ」
 そう言うと、足物の王を掴み上げ、近くのソファまで放り投げた。
「ふぎゃっ!?」

「今の反応では届いてないと思うが、儂は討伐ギルドの『新緑の剣』というパーティに手紙と薬を持たせた。上からの圧力で無理やり受けさせられた依頼で、どうしようもなくなったら渡せ、とな。子供が病気なのはお前なのだろう?」
「こ、子供?あ、ああ、側妃の子の一人が、確か難しい病気だと報告を受けた記憶があるが、我は討伐ギルドへ依頼など出しては……」

 ほう。そうなると、その側妃の後ろの貴族の仕業か。王位争いとはくだらない。
「では、その妃の実家じゃろう。その病にある薬草が効果があると調べ上げ、採取の依頼を出したのじゃ。その薬草が生えているのは『死の森』の深部じゃ」
「バ、バカなっ!『死の森』の深部になぞ、行ける討伐ギルド員などおらんだろう!そんな依頼を受けるなんて……」
「だから無理やりじゃ。上から権力を使っての。たまたまそのパーティは儂の保護しておる子の知り合いでの。それで儂が手を貸したのじゃが……。よし。その妃の親を呼び出せ。いいか、すぐにじゃぞ?逃げたら、どうなるか分かるの?」

 魔力で圧力をかけて威圧すると、ブルブル震えながら転がるように扉から出て行った。
 まったく面倒なことよ。政治なぞ、くだらん。権力争いが原因でも、その子に罪はないからの。そう思って薬の作り方まで教えたんじゃがの。


 それからソファに座って待っていると、半刻もかからず王が初老の男を連れて戻って来た。
「ふむ。ちゃんと連れて戻って来たことは評価してやろう。お前が討伐ギルドの『新緑の剣』に圧力をかけ、無理やり依頼を受けさせたの?」
「うっ……くっ、そ、そうだ。ま、孫が病気になったのだからな!」

 じっと圧を掛けながら見つめると、怯みながらも答えた。その根性が腐ってなければたいしたものじゃが。
「では、儂の手紙と薬を受け取ったの?作り方も書いておいたのじゃが?」
 手紙には、儂の名前と薬の調合方法を書いておいた。

「あ、ああ。でも、お抱えの薬師は作れなかったと言っていた!」
「フン。いきなりあの薬草を扱える訳がなかろう。特級薬草なぞ、扱ったこともない薬師ごときにな。では、同封した薬はどうした?」
「あっ、あれは、どこのどいつが作ったのかわからん薬を孫に飲ませるなぞっ!」

 儂を前にしても言い切るか。
「ほお?儂が手紙の主のオースティント・エルグラードと知ってもそう言うか。なあ、王よ。儂は国家や政治には全く興味はないが、蔑ろにされるのは我慢ならん。どうやら忘れ去られているようだから、思い出して二度と儂の名を忘れんように、また暴れまわるしかないのかのう?」

「ヒッ、ヒイイイイーーーーッ!!も、申し訳ありません。申し訳ありませんでしたっ!もう二度と、二度と貴方様の名前を知らぬ不届き者がおらぬように、きちんと言い聞かせますので、なにとぞ今回はっ!」
 フン。怒気を込めた威圧を一人に狙いを定めたら、あっさりと気絶しおったか。つまらんの。じゃが、これも上の責任か。

「別に国民全員にとは言わん。それこそ煩わしい。ただ、貴族や兵には徹底しておけよ?儂の名を出しても融通が利かずに、儂の名を出した者が虐げられたらどうなるか、分かるの?」
「は、はいーーーーーっ!承知いたしましたっ!」
「とりあえずそこの者に、しかと言い聞かせるんじゃな。それとな。薬が欲しければ、その新緑の剣の者が作れる。きちんと対価と敬意を払って依頼するなら、薬草も融通しよう。子供に罪はないからの。ただし。このようなことは二度とないぞ?そのパーティのメンバーやその家族への手出しも許さん」
「は、ははーーーーーーっ!!」

 泡をはいて倒れる貴族の横で土下座する王を見下ろし、しっかりと圧力をかけてから立ち上がると窓へと近づく。

「ああ。次にこのようなことがあったら、国民には何の罪も問わんが、王と貴族は別じゃ。全員が正気を失うことになるだろうから、気をつけるんじゃぞ?では、二度と会わんことを儂も祈っておるぞ」

 そう言い残すと、ロクスを呼んで飛び移り、家へと向かった。ちょっかいを掛けて来た魔法は打ち返し、雷で痺れさせながら。

「ふう。無駄な時間じゃな。アリトの作る料理を食べていた方が、何倍も有意義じゃ。さて。今夜の献立はなんじゃろうのう?」
 さすがにここまでやれば、二度とアリトやあの者たちに害があることはないじゃろう。ほんとうに、人の社会は煩わしいことが多くて好かん。儂は面倒事は大嫌いじゃからの。

 今夜の夕食に思いをはせながら家路を辿り、アリトの用意してくれた揚げ出し豆腐と豆乳鍋を食べた頃にはもう、王の顔など忘れていた。
 


 ナブリア国の貴族の間ではその日のことをこう語る。
 晴れ渡った空から雷鳴が王城へ落ち、天罰が下された。決して忘れてはならない。忘れると天罰が下される。
 そして今はほぼ忘れ去られていた建国史の一番最初に語られる名、その名を忘れる者は、いなくなったという。




******
リクエストいただけたので、書いてみました!せっかくなので、若い頃の話もちらっと。
まあ、予想通りだとは思いますが!!
今回は大魔王ほどは怒りませんでした。直接アリトに被害がいけば、大魔神と化したでしょうけどね( ´艸`)

明日から4巻の電子書籍が発売になるみたいです!
サイトさんによっては明日以降になりますので、ご確認ください。
まだお読みでない方!是非、かきおろしを!よろしくお願いします<(_ _)>
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1巻から5巻(完結)発売中です。文庫化も始まりました!3巻3/8日発売です!無事に完結巻を刊行できたこと、お礼申し上げます。ありがとうございました!また寺田イサザ先生による、コミカライズ版の3巻まで好評発売中です!どうぞよろしくお願いいたします。
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