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番外編
村の祭り *書籍発売記念!番外編です*
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このお話はアリトが落ちて来て半年くらいの頃のオウル村での話です
(弓とかを習いだした後くらいです)
*******
その日は、浮かれているような、気が重いような感じで過ごしていた。
この世界に『落ち人』として落ちて来てからもう半年以上が過ぎた。すっかりオースト爺さんとの生活にも慣れ、様々な用途を魔法で、という感覚にも慣れて来た。まあ、俺はやっとトイレ用に簡単な汚れ落としの浄化や家事で使う生活魔法くらいしか使えないのだが。
今はスノーと契約を結ぶ為にも魔力操作などを毎日頑張っているのだ。
でも今日はいつもと変わらない毎日とはちょっと違う。今日の午後からは予定が入っているのだ。
「おい、アリト。昼食を食べたらオウル村へと行くからの。準備をしておくんじゃぞ」
「……本当に行くのか?ロクスで行くんだよな?……俺は行かなくてもいいから、留守番をしているよ」
ロクスに乗せられて気絶したのは記憶に新しい。まだ三回だけだが、今日気絶しないで無事にオウル村へ着く自信などないのだ!
あんなに高度が高い場所を手すりもなしにあの速度は、やっぱり体験しないで済むならしたくない!
「往生際が悪いのう。アリトも今日の収穫祭に招待されておるじゃろ?諦めることじゃ。まあ、諦めなくても儂が担いでロクスにのせるがの」
「……そりゃあ俺だって収穫祭って聞いて楽しみだったけど。でも、オウル村までの往復手段がロクスなのがイヤなんじゃないか!」
「この前までダメでも、今日は慣れて大丈夫かもしれんじゃろ。ホラ、そろそろ昼飯の準備する頃合いじゃないか?」
昼飯を食べたらロクスに乗らなきゃならないのなら、昼飯なんて作りたくない……。
そうは思っても、俺の腹も減ってるしな。……まあ、招待されているんだから仕方ないか。今回は。普段見ない野菜とかあるかもしれないしな。
そう、招待なのだ。オースト爺さんは、一番近いというオウル村に、薬草や薬などを融通している。それに大量のパンを定期的に注文することで、小麦の安定需要とかにも貢献してるしな。
招待されたのは、この間村へ買い出しに出た時に、丁度風邪が流行っていて何人もの子供も熱を出していた。それを見てオースト爺さんは、俺に教えるから、という名目で治療をして回ったのだ。
勿論俺も傍で、爺さんが診断しながら浄化魔法をかけるのを見ていた。
その時に、村の人達から是非収穫祭には来てください。とお誘いを受けたのだ。
毎年誘いは受けるらしいが、治療のお金も爺さんは突っぱねて受け取って無かったから、逆に今回は行かないと、って感じになったのだ。去年まではたまにしか顔は出さなかったらしいのだが。
「収穫祭ってどんな感じなんだ?村で食べ物を食べるなら、昼は軽いものだけ用意するけど」
「収穫祭か?そうじゃな、収穫した小麦や野菜を仕入れに行商人が来て店を開くぞ。あとは村の女性達が食事を作ってふるまったりしておるの。他は宴会じゃな。村中の人が集まるから賑やかじゃぞ」
ふんふん。屋台とかは出ないんだな。まあオウル村は小さな村だから、食事処もないしな……。宿だって集会所の部屋を泊まりたい人に貸すって言ってたものな。
つい日本での祭りを思い出して、少しだけ寂しい気分になる。
俺の住んでいたのは田舎の村だから、そんなに店もなかった。けど夏と秋の祭りは、それなりに盛大にやっていたのだ。神社に出店が並んで、夏は一応花火も上げていた。
「……お前さんのいた場所では、もっと賑やかだったんじゃな。それは明日にでも、オウル村の祭りを見てから違いを話しておくれ。さあ、今は昼食が先じゃわい」
そう促されて、食事の用意にとりかかった。一応村の料理をいただくかもしれないから、今日は軽めにスープとパンに野草と肉の炒め物だけでいいか。
そうして昼食も終わり、オースト爺さんが広場でロクスを呼んだ。
「グルゥ」
担がれるのも嫌だから大人しく爺さんの隣にいると、白が俺の足にすり寄って来た。
「お、白。白もロクスに乗ってオウル村へ一緒に行くか?」
「ウォン、ウォンッ!!」
「じゃあ一緒に行こうか。爺さん、白も連れて行っていいよな?」
「まあまだロクスに乗れる大きさだし、いいだろう。だた白よ、儂とアリトの傍から離れるでないぞ?今日は人が多いからの」
「ウォンッ!」
尻尾を振りつつご機嫌にじゃれられて、思わず抱き着いてもふもふした。
白は今、大型犬よりも二回り以上大きくなっている。小さな子供よりも高さがあるから、村では気をつけないとな。
「キエーッ!」
「お、ロクスが来たわい。それじゃあ行くぞ。アリトは怖ければ白でも抱いてるといいぞ」
丁度広場に下りて来たロクスに、いやいやながらも乗ってオウル村へと向かったのだった。
村に着くと、いつも静かな村が賑わっていた。門を入って広場へ行くまでの間にも、いつもは畑仕事をしていて見ない若い人達の姿を見かける。
「あ、あれが行商人の店か?爺さん、ちょっと見て来ていいか?」
「ああ、行っておいで。儂は村長に挨拶でもして広場にいるでの。白のこと、頼むぞ」
「分かった。白、俺の足元を歩いてついて来てな!あそこの店では邪魔にならないように、店の脇でお座りして待っていてくれな」
「グアウッ!」
ポンポンと頭を撫でながら言うと、尻尾を振りながら返事をしてくれた。本当に白は賢い。
爺さんと別れて店に近づく。店は広場に大きな敷物を広げて、その上に様々なこの村にない商品を置いていた。
「こんにちは。見せて貰っていいですか?この子は大人しくていい子なので、ちょっと店の脇にいさせて下さい」
「ああ、どうぞ。気になった物があったら取るから、気軽に声を掛けてくれ」
中年に見える獣人だろう商人のおじさんに声を掛けてから品物を見る。
このオウル村はほとんど人族しか住んでいないが、今日は行商人や行商人と一緒に来た護衛だろう人達など普段見ない人達がいて、獣人や混血だろう人も見かけられた。
つい視線が釘付けになりそうになって、なんでもない風を装うのが大変だったりする。
商品の普段見ない野菜や果物、それに塩や砂糖などを買い足し、それと鍋を大きい物を買い足そうと見ていると。
「おう、アリト君。もしかして石鹸の売り込みかい?あれは俺は浄化の魔法を何度も使えないから助かっているんだよ」
「い、いや商品を見せて貰っているんです。あれは売り物になるような物じゃないですよ」
油はオリーブのような実を絞って植物油を使っている。でも毎日狩って来た獲物の獣脂が勿体ないから、つい石鹸を作る研究などしていたのだ。
最近では俺も汚れを落とす浄化の魔法は使えるが、手を洗う時など気軽にはまだ浄化の魔法を使えないのだ。
だから爺さんにはいらないが、自分用になんとか一番簡易な獣脂と木灰から石鹸を作った。勿論四角に固めた石鹸じゃない。甕に入れたままのゆるい石鹸だ。
石鹸を作って使っていた時、爺さんにオウル村にも教えたら便利じゃないか?と言われ、風邪が流行った時に教えたのだ。手洗いうがいは風邪予防にいいからな!
普通に暮らす人は、魔法を常に使う訳じゃないって爺さんに聞いていたからだ。浄化の魔法自体も難しい魔法だしな。
「そうか?今ではみんな家で作って、ちょっとの汚れ落としは石鹸を使っているぞ」
村では獣脂はろうそくとして使っていたそうだ。でもやはり全部は使う訳ではなく、余っていた。ろうそくとして使っているのも、灯りの魔法をずっと長い時間使っているのも普通は難しいからだ。
「その石鹸、っていうのはどういう物なんですか?見せて貰ってもいいですか?」
村の人と会話をしていたからか、商人の人まで身を乗り出して来た。
「えっと。商品というか作り方ですね。簡単なものですけど」
「そう、簡単に出来るから助かっているんだ」
そう笑顔で村の人が言うと、更に商人の人が乗り出して来て。
「ええと、あ、この鍋とフライパン下さい!あとこの器具も。俺、爺さんのとこ行かないとなんで、石鹸の作り方は商人の人に教えてあげて貰えますか?商人さん、簡単なんで広めてくれてもいいですから。じゃあこれ代金です」
これはまずい感じだ!と見ていた爺さんの家にある鍋とフライパンよりも一回り大きい物や、フライ返しっぽい物など鉄製の調理器具を手に取ってさっさと代金を払う。
「おい、いいのかっ!」
「いいんですよ!すいませんが使い方も教えてあげて下さい!白、行くよ!」
村の人に手を振ると、とりあえず人混みの中に入って行く。白がいると人が避けるが、まあこの人出なら追いかけられないだろう。
石鹸の作り方は、オウル村ならたまに来る行商人の人などしか外と交流も無いからいいか、と俺が作ったって言って教えてしまったのだ。
まずいよな。俺は目立ちたくなんて無いのに。……まあまだ魔法を使えない小さな子供とかに、石鹸が広まれば風邪くらいは予防出来たらいいけど。
石鹸の作り方が広まるのはかまわないのだが、俺が作ったことが広まるのはダメなのだ。
「なんじゃアリト。もういいのか?」
「あ、爺さん。いや、買い物は終わったぞ。……行商人に村の人が石鹸のことを言ったからさ」
「ほっほっほ。あれくらいなら、別にアリトが作ったで広めても大丈夫じゃろうに」
「いやいや!俺の名前が広まるなんて耐えられない!いつバレるかとドキドキしっぱなしになるじゃないか!」
俺は気も小さい普通の一般人なんだから!
「白がいるだけで、十分この村でも目立っておるがの。まあ、それじゃあホラ、そこで料理を配っているから貰って、せっかくの祭りなのじゃからアリトもこの雰囲気を楽しむといい」
そう言われて周りを見ると、皆楽しそうに料理や酒を片手に騒いでいた。誰もが笑顔で、見ていると俺も笑顔になって来る。
その時広場の片隅でふいに音楽が鳴り、歓声が上がる。
そちらを見ると、若者が男女ペアになって躍り出したのが見えた。
「おお、踊りが始まったの。収穫祭では恋人がペアになって踊るんじゃ。そして踊ったペアは結婚すると幸せになれると言うな。まあ、この村の独自の習慣じゃがな」
だからか踊りの輪を、周囲の大人たちがはやし立てている。でも踊る男女は幸せそうに笑っていた。
楽器は笛みたいな物や、弦がある胡弓のような物だった。歌はなく、軽快なメロディーを奏でている。
なんかいいな。こういうのも。田舎を思い出して。
「グルゥクルル」
「ん?白も楽しいか?そうだな。楽しいな!」
俺の足元の白も、いつの間にか楽しそうに飛び跳ねていた。
爺さんともふもふ達との生活に不満は別にない。だけど、こうして世界は違っても人の中にいるのもいいものだ、と思えたのだった。
*****
本日、とうとう発売日です!地域によって発売日は異なりますが、とりあえず発売記念!ということで!
(うちも田舎なのでまだ置いてませんでしたが)
予約してくれた方、又は買ってもうお手元にある方。ありがとうございます!
いつも読んでくれている方も、ありがとうございます!
今のところ通販サイトさんで受付ているサイトや発送がまだなサイトもあります。
予約や在庫を確認してから本屋へ行かれるといいかもしれません。
(ツイッターでつい状況を呟いていたり( ´艸`)落ち着かなくて…)
よろしくお願いします!!
今回は一応アリトもこんなこともしてたんだよ、という番外編です( ´艸`)
まあ基本魔法で済むんですが、村に住んでいる普通の人とかはそこまで魔法を自由には使いこなせません。
なので便利道具などもこっそり作って使ってました!
久しぶりにオースト爺さんを書いて、ちょっと楽しかったです。もふもふ要素が足りませんが><
明日も発売記念カウントダウンで更新(まだ本屋に並んでない地域も多いですからね!)する予定です!
(弓とかを習いだした後くらいです)
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その日は、浮かれているような、気が重いような感じで過ごしていた。
この世界に『落ち人』として落ちて来てからもう半年以上が過ぎた。すっかりオースト爺さんとの生活にも慣れ、様々な用途を魔法で、という感覚にも慣れて来た。まあ、俺はやっとトイレ用に簡単な汚れ落としの浄化や家事で使う生活魔法くらいしか使えないのだが。
今はスノーと契約を結ぶ為にも魔力操作などを毎日頑張っているのだ。
でも今日はいつもと変わらない毎日とはちょっと違う。今日の午後からは予定が入っているのだ。
「おい、アリト。昼食を食べたらオウル村へと行くからの。準備をしておくんじゃぞ」
「……本当に行くのか?ロクスで行くんだよな?……俺は行かなくてもいいから、留守番をしているよ」
ロクスに乗せられて気絶したのは記憶に新しい。まだ三回だけだが、今日気絶しないで無事にオウル村へ着く自信などないのだ!
あんなに高度が高い場所を手すりもなしにあの速度は、やっぱり体験しないで済むならしたくない!
「往生際が悪いのう。アリトも今日の収穫祭に招待されておるじゃろ?諦めることじゃ。まあ、諦めなくても儂が担いでロクスにのせるがの」
「……そりゃあ俺だって収穫祭って聞いて楽しみだったけど。でも、オウル村までの往復手段がロクスなのがイヤなんじゃないか!」
「この前までダメでも、今日は慣れて大丈夫かもしれんじゃろ。ホラ、そろそろ昼飯の準備する頃合いじゃないか?」
昼飯を食べたらロクスに乗らなきゃならないのなら、昼飯なんて作りたくない……。
そうは思っても、俺の腹も減ってるしな。……まあ、招待されているんだから仕方ないか。今回は。普段見ない野菜とかあるかもしれないしな。
そう、招待なのだ。オースト爺さんは、一番近いというオウル村に、薬草や薬などを融通している。それに大量のパンを定期的に注文することで、小麦の安定需要とかにも貢献してるしな。
招待されたのは、この間村へ買い出しに出た時に、丁度風邪が流行っていて何人もの子供も熱を出していた。それを見てオースト爺さんは、俺に教えるから、という名目で治療をして回ったのだ。
勿論俺も傍で、爺さんが診断しながら浄化魔法をかけるのを見ていた。
その時に、村の人達から是非収穫祭には来てください。とお誘いを受けたのだ。
毎年誘いは受けるらしいが、治療のお金も爺さんは突っぱねて受け取って無かったから、逆に今回は行かないと、って感じになったのだ。去年まではたまにしか顔は出さなかったらしいのだが。
「収穫祭ってどんな感じなんだ?村で食べ物を食べるなら、昼は軽いものだけ用意するけど」
「収穫祭か?そうじゃな、収穫した小麦や野菜を仕入れに行商人が来て店を開くぞ。あとは村の女性達が食事を作ってふるまったりしておるの。他は宴会じゃな。村中の人が集まるから賑やかじゃぞ」
ふんふん。屋台とかは出ないんだな。まあオウル村は小さな村だから、食事処もないしな……。宿だって集会所の部屋を泊まりたい人に貸すって言ってたものな。
つい日本での祭りを思い出して、少しだけ寂しい気分になる。
俺の住んでいたのは田舎の村だから、そんなに店もなかった。けど夏と秋の祭りは、それなりに盛大にやっていたのだ。神社に出店が並んで、夏は一応花火も上げていた。
「……お前さんのいた場所では、もっと賑やかだったんじゃな。それは明日にでも、オウル村の祭りを見てから違いを話しておくれ。さあ、今は昼食が先じゃわい」
そう促されて、食事の用意にとりかかった。一応村の料理をいただくかもしれないから、今日は軽めにスープとパンに野草と肉の炒め物だけでいいか。
そうして昼食も終わり、オースト爺さんが広場でロクスを呼んだ。
「グルゥ」
担がれるのも嫌だから大人しく爺さんの隣にいると、白が俺の足にすり寄って来た。
「お、白。白もロクスに乗ってオウル村へ一緒に行くか?」
「ウォン、ウォンッ!!」
「じゃあ一緒に行こうか。爺さん、白も連れて行っていいよな?」
「まあまだロクスに乗れる大きさだし、いいだろう。だた白よ、儂とアリトの傍から離れるでないぞ?今日は人が多いからの」
「ウォンッ!」
尻尾を振りつつご機嫌にじゃれられて、思わず抱き着いてもふもふした。
白は今、大型犬よりも二回り以上大きくなっている。小さな子供よりも高さがあるから、村では気をつけないとな。
「キエーッ!」
「お、ロクスが来たわい。それじゃあ行くぞ。アリトは怖ければ白でも抱いてるといいぞ」
丁度広場に下りて来たロクスに、いやいやながらも乗ってオウル村へと向かったのだった。
村に着くと、いつも静かな村が賑わっていた。門を入って広場へ行くまでの間にも、いつもは畑仕事をしていて見ない若い人達の姿を見かける。
「あ、あれが行商人の店か?爺さん、ちょっと見て来ていいか?」
「ああ、行っておいで。儂は村長に挨拶でもして広場にいるでの。白のこと、頼むぞ」
「分かった。白、俺の足元を歩いてついて来てな!あそこの店では邪魔にならないように、店の脇でお座りして待っていてくれな」
「グアウッ!」
ポンポンと頭を撫でながら言うと、尻尾を振りながら返事をしてくれた。本当に白は賢い。
爺さんと別れて店に近づく。店は広場に大きな敷物を広げて、その上に様々なこの村にない商品を置いていた。
「こんにちは。見せて貰っていいですか?この子は大人しくていい子なので、ちょっと店の脇にいさせて下さい」
「ああ、どうぞ。気になった物があったら取るから、気軽に声を掛けてくれ」
中年に見える獣人だろう商人のおじさんに声を掛けてから品物を見る。
このオウル村はほとんど人族しか住んでいないが、今日は行商人や行商人と一緒に来た護衛だろう人達など普段見ない人達がいて、獣人や混血だろう人も見かけられた。
つい視線が釘付けになりそうになって、なんでもない風を装うのが大変だったりする。
商品の普段見ない野菜や果物、それに塩や砂糖などを買い足し、それと鍋を大きい物を買い足そうと見ていると。
「おう、アリト君。もしかして石鹸の売り込みかい?あれは俺は浄化の魔法を何度も使えないから助かっているんだよ」
「い、いや商品を見せて貰っているんです。あれは売り物になるような物じゃないですよ」
油はオリーブのような実を絞って植物油を使っている。でも毎日狩って来た獲物の獣脂が勿体ないから、つい石鹸を作る研究などしていたのだ。
最近では俺も汚れを落とす浄化の魔法は使えるが、手を洗う時など気軽にはまだ浄化の魔法を使えないのだ。
だから爺さんにはいらないが、自分用になんとか一番簡易な獣脂と木灰から石鹸を作った。勿論四角に固めた石鹸じゃない。甕に入れたままのゆるい石鹸だ。
石鹸を作って使っていた時、爺さんにオウル村にも教えたら便利じゃないか?と言われ、風邪が流行った時に教えたのだ。手洗いうがいは風邪予防にいいからな!
普通に暮らす人は、魔法を常に使う訳じゃないって爺さんに聞いていたからだ。浄化の魔法自体も難しい魔法だしな。
「そうか?今ではみんな家で作って、ちょっとの汚れ落としは石鹸を使っているぞ」
村では獣脂はろうそくとして使っていたそうだ。でもやはり全部は使う訳ではなく、余っていた。ろうそくとして使っているのも、灯りの魔法をずっと長い時間使っているのも普通は難しいからだ。
「その石鹸、っていうのはどういう物なんですか?見せて貰ってもいいですか?」
村の人と会話をしていたからか、商人の人まで身を乗り出して来た。
「えっと。商品というか作り方ですね。簡単なものですけど」
「そう、簡単に出来るから助かっているんだ」
そう笑顔で村の人が言うと、更に商人の人が乗り出して来て。
「ええと、あ、この鍋とフライパン下さい!あとこの器具も。俺、爺さんのとこ行かないとなんで、石鹸の作り方は商人の人に教えてあげて貰えますか?商人さん、簡単なんで広めてくれてもいいですから。じゃあこれ代金です」
これはまずい感じだ!と見ていた爺さんの家にある鍋とフライパンよりも一回り大きい物や、フライ返しっぽい物など鉄製の調理器具を手に取ってさっさと代金を払う。
「おい、いいのかっ!」
「いいんですよ!すいませんが使い方も教えてあげて下さい!白、行くよ!」
村の人に手を振ると、とりあえず人混みの中に入って行く。白がいると人が避けるが、まあこの人出なら追いかけられないだろう。
石鹸の作り方は、オウル村ならたまに来る行商人の人などしか外と交流も無いからいいか、と俺が作ったって言って教えてしまったのだ。
まずいよな。俺は目立ちたくなんて無いのに。……まあまだ魔法を使えない小さな子供とかに、石鹸が広まれば風邪くらいは予防出来たらいいけど。
石鹸の作り方が広まるのはかまわないのだが、俺が作ったことが広まるのはダメなのだ。
「なんじゃアリト。もういいのか?」
「あ、爺さん。いや、買い物は終わったぞ。……行商人に村の人が石鹸のことを言ったからさ」
「ほっほっほ。あれくらいなら、別にアリトが作ったで広めても大丈夫じゃろうに」
「いやいや!俺の名前が広まるなんて耐えられない!いつバレるかとドキドキしっぱなしになるじゃないか!」
俺は気も小さい普通の一般人なんだから!
「白がいるだけで、十分この村でも目立っておるがの。まあ、それじゃあホラ、そこで料理を配っているから貰って、せっかくの祭りなのじゃからアリトもこの雰囲気を楽しむといい」
そう言われて周りを見ると、皆楽しそうに料理や酒を片手に騒いでいた。誰もが笑顔で、見ていると俺も笑顔になって来る。
その時広場の片隅でふいに音楽が鳴り、歓声が上がる。
そちらを見ると、若者が男女ペアになって躍り出したのが見えた。
「おお、踊りが始まったの。収穫祭では恋人がペアになって踊るんじゃ。そして踊ったペアは結婚すると幸せになれると言うな。まあ、この村の独自の習慣じゃがな」
だからか踊りの輪を、周囲の大人たちがはやし立てている。でも踊る男女は幸せそうに笑っていた。
楽器は笛みたいな物や、弦がある胡弓のような物だった。歌はなく、軽快なメロディーを奏でている。
なんかいいな。こういうのも。田舎を思い出して。
「グルゥクルル」
「ん?白も楽しいか?そうだな。楽しいな!」
俺の足元の白も、いつの間にか楽しそうに飛び跳ねていた。
爺さんともふもふ達との生活に不満は別にない。だけど、こうして世界は違っても人の中にいるのもいいものだ、と思えたのだった。
*****
本日、とうとう発売日です!地域によって発売日は異なりますが、とりあえず発売記念!ということで!
(うちも田舎なのでまだ置いてませんでしたが)
予約してくれた方、又は買ってもうお手元にある方。ありがとうございます!
いつも読んでくれている方も、ありがとうございます!
今のところ通販サイトさんで受付ているサイトや発送がまだなサイトもあります。
予約や在庫を確認してから本屋へ行かれるといいかもしれません。
(ツイッターでつい状況を呟いていたり( ´艸`)落ち着かなくて…)
よろしくお願いします!!
今回は一応アリトもこんなこともしてたんだよ、という番外編です( ´艸`)
まあ基本魔法で済むんですが、村に住んでいる普通の人とかはそこまで魔法を自由には使いこなせません。
なので便利道具などもこっそり作って使ってました!
久しぶりにオースト爺さんを書いて、ちょっと楽しかったです。もふもふ要素が足りませんが><
明日も発売記念カウントダウンで更新(まだ本屋に並んでない地域も多いですからね!)する予定です!
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1巻から5巻(完結)発売中です。文庫化も始まりました!3巻3/8日発売です!無事に完結巻を刊行できたこと、お礼申し上げます。ありがとうございました!また寺田イサザ先生による、コミカライズ版の3巻まで好評発売中です!どうぞよろしくお願いいたします。
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二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
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