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エリンフォード編

間話 面白いヤツ ~ドルムダ視点~

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そヤツのことを知ったのは、久しぶりにオーストから来た連絡鳥が持って来た手紙だった。

オーストとは長い付き合いだ。それこそ俺が生まれる前からオーストともう一人、キーリエフは永い時を生きている。
俺は爺さんが二人と知り合いだったから、子供の頃から知っていた。
最初はオーストおじさんと呼んだが、嫌がられてからは呼び捨てだ。

爺さんが亡くなり、親父が隠居し、俺の代になってもたまに何かを作る時には連絡が来る。
まあ、キーリエフはエリダナの街で自分で発明三昧だから、たまに面白いの作るから来い!と呼び出されたが。
オーストは人が住む場所で魔力が溢れることもほとんど無くなって、『死の森』へもう煩わしいのは嫌だと引っ込んでからは、本当にたまにしか連絡が来ることも無かったのだが。

だから連絡鳥が来た時も、珍しいなと思いつつ手紙を開けたら……。
いやー、まさかその内容が五体満足の落ちたばかりの『落ち人』を保護した、なんてヤツだとはちっとも思ってなかったから、驚いたのなんの。

『落ち人』は昔から語り継がれているが、まあ、落ちて来る場所が場所だけに実在する人物に会ったことがある、なんて話はドワーフの間でもほとんど聞いたことがねぇ。
俺の爺さんだって、小耳にはさんだことがある、って言ってただけだ。

でも、その手紙の中の、その『アリト』というヤツの生まれた世界の話のことを読んで、もう興奮しちまったぜ。
確かに魔法があるからよ、まあ、魔物がいない場所ならどこにだって今は生きて行ける。
……オーストとかキーリエフとかが尽力してそうなった、ってのは爺さんからも聞いているが、俺の生まれた頃は、もう魔物が溢れて人里を襲う、なんてことはほとんどなかったからな。まあ、実感はねぇな。

まあ、だから魔法があるから、俺達のような物造りが好きなドワーフにとっては、逆にちっとばかし物足りねぇ。
魔道具だってキーリエフが作ったように、色々発展性があるんだがよ。
なんていったって、魔力結晶なんてものは普通はそう簡単には手に入らねぇ。
だから、どうしたって魔道具を買って使う、なんてことが出来るヤツらは限られてくるからな。

作る方だってそうだ。どこでも簡単に手に入らなければ研究のしようがねぇからな。
まあ、それでも魔物や魔獣が人を襲って来るのは変わらねぇから、鍛冶仕事はいつだって無くならねぇがよ。

俺は武器だって、防具だって作るのは嫌いじゃねぇが、どっちかっていうと新しい物を作るのが好きだ。
だからキーリエフに呼び出されるし、まあ、呼び出されればつい行っちまう。
だってよ。新しいものを作り出す、なんて最高じゃなねぇか。
それを使って便利になるなら、尚更だ。

だからオーストからの手紙を舐めるように読んで、そりゃあ想像力を掻き立てられたさ。
そのアリトってヤツが作り出した、『マジックバッグ』ってヤツも興奮したぜ。
だってよ。魔力の濃度の違いでカバンの中の面積を増やせないか、なんて想像さえしたこともなかったぜ!

良くオーストにもキーリエフにも、魔法は想像することが大切だ、って小せぇ頃から言われてたがよ。
成程、こうゆうことかっ!って思ったもんだ。
出来る、と自分が信じ込めれば魔力や魔素は反応してくれる。
それを、魔法のない世界から来たヤツに新しい魔法を教えられるとはな!

だから、見せてみろ!それか俺がそっちに行くから迎えをよこせ!って返事を出したんだが。
まだそいつがこの世界に慣れてないから、様子を見ているから家には来るな。
って返事が来てよ。なんだと!と思ってたら、完成形じゃないが、二人で作ったからちょっと使って検証してくれって現物が届いたから、もうそれからは夢中だったさ。

勿論届いた様々な大きさのカバンに、説明に書かれていた通りに魔力を通して使ってみた。
あの時は驚いたのなんの。半信半疑だったから、イメージが不足していたんだろうな。
入ったのは見た目の1.5倍くらいの量だった。
だがよ。それだけでも明らかに入る量が多いってぇのは分かるってもんだ。

その後はきっちりイメージして魔力でカバンを包んで使ってみたさ。
あれはな、キーリエフのとんえもねぇ発明なんかようりも強烈だったさ。
そんくらいビックリしたぜ。

後はよ。魔力結晶を俺の魔力でなじませ、その拡張の魔法を入れてカバンにつけて拡張の改良をしたりさ。
様々な検証をやったぜ。
まあ、アリトのやつもそこには気づいて改良してやがったがな。

でも魔道具ってのは、魔力結晶に魔法を仕込んで、それを道具に連結させて作るもんだ。
魔力結晶に魔法を仕込むのは、まあ、あれは相性っていうか才能っていうかな。
出来るヤツには出来るし、出来ねぇやつには出来ねぇ。まあそういうもんだ。

だからそこは技術ってぇか感覚でやるからいいとして。
まあ、人によって魔力結晶の魔力を全部使えるか、半分しか使えねぇかの違いがあるがよ。
その魔力結晶を道具に連結させるのは技術がいるんだ。

アリトのヤツはそこも感覚でやってやがったから、つなぎ方を教えてやったんだが。
感覚で魔道具を造っちまうようなヤツだから、くやしいくらいにすんなり覚えやがったがな!

で、それからはアリトのヤツが生まれた世界の知識から作った試作品だかまだ未完成だかの魔道具類を一緒に仕上げていったぜ。
念話の魔道具もよ。説明されれば、なんで今まで思いつかなかったんだ!
って思ったが、あの奇抜な発想をするキーリエフのヤツだってそこまで気づかなかったんだから、やっぱり考え方がこことは違うっていうヤツなんだろうなぁ。
着眼点の違いってヤツよ。

魔力結晶と魔力結晶をパスで繋いで作り上げたら、かなり範囲が広がったぜ。
まあ、魔力結晶に魔力を馴染ませて込められる精度と周囲の環境にもよるから、一概には言えねぇがな。
魔力を使うから、やはり周囲の魔力濃度に作用されるのは仕方ねぇんだがな。
アリトのヤツはずっとあの『死の森』にいたからか、そこら辺の感覚はまだまだ鈍いみたいだったが。

覗きに来たキーリエフのヤツが興奮して、そのまま勢いでアリトとキーリエフの念話の魔道具を作ると、ルーリィで飛んでいっちまいやがった。
それで検証が出来たんだがな。霊山付近は魔力濃度が極端に高いから、まあ無理だったが。
平地なら隣国までも通じるようになったぜ。
まあ、送る方も受け取る方も念話に精通してなけりゃあ無理だがな。
だからこれは、一般に普及するものでもねぇが、それでも使い方を考えれば恐ろしい魔道具だぜ。

まあな、俺にもキーリエフにも、勿論オーストにも、これを国に利用させようとは思わねぇからな。
連絡が便利になったぜ!ってなもんだがな!

皆が気軽に使える便利な魔道具ってなぁ、一歩間違えれば恐ろしいもんだ。
まあ、魔力結晶が気軽に手に入らねぇってのは、それを考えれば良い面もあるぜ。
キーリエフが作っているのが、こっちだ。

誰もが使えて便利だが、恐ろしいものにはならず、生活に使える物だ。
これをぽんぽん作っているんだから、キーリエフがどんだけすげーのかは分かるがよ。
まあ、本人には言いたかねぇから言ったことはねぇがな。

アリトのヤツも、他にも構想だけでまだ成功してないんだって出した魔道具は、とんでもねぇヤツばっかりだったが、この屋敷に来てから、キーリエフの興味を引く餌のように次々に作ってくれって言われて作ったもんは、正しく誰もが使えて便利になる普通の『道具』ばかりだった。
これにもえらい驚いたがよ。本当に別の世界ってのは、発想が違うって感心しきりだったぜ。

リバーシにしても、調理器具にしても。これからの生活が豊かに、笑顔が増える場面しか想像も出来ねぇもんばかりだ。
これに関しては、アリトのヤツは、「騒がれてバレたら面倒だから、そちらでそれとなく広めるならどうぞ」とかぬかしやがってよ。

こんなの、この国だけの道具じゃねぇんだぞ?それこそこの大陸どころか南の大陸にだって広めてぇ道具ばかりだぜ。
リバーシは、家族で、村で、街で、どこでも皆が一緒に、子供から年寄りまで種族関係なく遊べるすげーもんだ。
調理道具もよ。酒のつまみがより美味しくなるのは、誰もが歓迎するってもんだぜ。
ましてや難しいことはアリトはやってねぇんだ。
使って料理しているのを見てたって、どうしてこんなにささっと美味いもんが出来上がるのか、と驚きだぜ。

だから、もう動き出してるんだがな。
料理はゲーリクが屋敷の料理人に次から次へと教えているし。
俺もまとめて作った後は、作り方を職人へ渡せるように纏めもしたぜ。
リバーシも調理道具もそれを使った料理も、キーリエフの孫の今の領主が、上手いこと広めてくれるだろうぜ。

アリトは「それでどこでも美味しいものが食べられたらうれしいです」とかニコニコ笑っているだけだがよ。
オーストから金はあり余る程貰っているから、何もいりませんって言ってたしな。
まあ、食材が色々あればアリトのヤツが喜んでどんどん美味い料理を作るから、ゼラスのヤツが張り切って手配してるがな。
新しい食材で料理しているのが、一番うれしそうだがな。
まあ、従魔を撫で回しているのが一番でれっとしてるがな。

それに風呂だ!お湯に浸かるのが、あんなに気持ちいいものだとは驚きだったぜ。
確かに山で湯が沸いている場所を見たことあったがな。
そのことを話したら、アリトのヤツが「それは温泉ですよ!温泉はもっと気持ちいいですよっ!」
って興奮してたから、今度山へ行ったら入ってみてぇよな。
まあ、魔物が居たら無理だがよ。

風呂も領主がこっそり入りに来てたから、そのうち本館にも作られるだろ。
そうしたら客から広まって。まあ、悪いことじゃねぇしな。広まるのもいいことだろ。

本当に面白いヤツだよな、アリトは。
アリトの生まれた世界の話も、そりゃあ興味深いもんばっかりだがよ。
ここでは、ちょっと前まで魔法があったって生きるだけで精一杯だったからな。
これからどんどん便利な道具が増えていくだろうが、その何倍も先をいってやがるからな。

でも、勿論その話にも興味は尽きねぇが、やっぱりアリトのヤツが一番興味深いな。
『落ち人』だから、全然成長しない身体が不安だから、とうじうじしてやがるが、後ろは向いてねぇ。
今を楽しんで、俺達周りのことも考えて、笑ってやがる。

……最近ふさぎ込んでたオーストの元に、アリトのヤツが来たのは、アリトにはどうかは知らねぇが、俺達オーストの知り合いにとってはかなりの行幸となった。
なあ、アリトよ。どうかこの世界を嫌わず、笑っていてくれ。
そしてその笑顔をオーストにも向けてやってくれ。

いつまで生きるか分からねぇのはオーストもだ。あの永い、永い年月にどうか少しでも寄り添ってやってくれ。
あんなに嬉しそうに手紙を書いて送ってきたのは初めてなんだ。

……まあよ。俺もどんどん新しい物を作るのは、作りて冥利に尽きるってもんだから、どんどんアイデアを出して欲しいんだがよ!
さて。またキーリエフのヤツにとられる前に、アリトのヤツを捕まえて、新しい道具を教えて貰わないとな!


****
…青ハル注意報が出たので、ちょっと閑話を!おっさんを!と思ったら
ちょっと乙女なドルムダさんに( ´艸`)誰得なんでしょうかね?
一応ドルムダさんと色々裏でやってるんだよ!という話だったのですがね?
次は本編です!……青ハル注意報ですよ?多分。
ちょっと風邪引いたので、次は来週半ばになるかもです。よろしくお願いします!
つ、次こそもふもふも……
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