理想メガネ男子と子猫

カナデ

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にゃん 7 子猫は踊る

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  ◇◆◇◆◇ 綾乃 side

 あうううっ。今日は晃さん、ちゃんと変装してくれているかな…。

 無事?に何事もなく定時の5時40分で帰れた水曜日。さすがに定時ピッタリにいつも帰れるかは分からないから待ち合わせの時間は7時。更衣室で着替えて念入りに化粧を直して(といっても所詮はどこをいじったって変わらない顔なのでナチュラルメイク)会社を出て地下鉄に乗って。待ち合わせには無事に20分前には着きそう、なんだけど。

 うううううっ。晃さんより早く行って、人目を引きつけて歩いてくる晃さんに声かけられるのとっ!この間みたいに遅れて行って待っている晃さんに声かけるのとっっ!どっちがいいのかわからないよぅっっ!!

 と、とりあえず待ち合わせ場所の手前で隠れて監視だな。とぶつぶつ考え事をしながら歩いていた。
 ちなみに今日はかなり迷ってブルーのジーンズ生地の襟元にフリルがあるシャツワンピースに白のカーディガンにした。いかにもお出かけ用って感じのワンピースは私だけ意識しているようで嫌だし、かといって完全にラフな服装で晃さんの隣に並ぶのも気おくれするし、で。映画なんだしスーツとかかたっ苦しいのも嫌で間を取ってこんな格好になった、んだけど…。

 ふううっ。晃さん、どんなつもりで誘ってくれているんだろうか…。先週の土曜に来週の金曜って言われただけでも驚いたのに。まあ、ついうれしくて受けちゃったんだけどねっっ!でも晃さんと外での待ち合わせって緊張しすぎてどうにかなりそうなんですけどっっ!!
「うん。今日は多分変装してるよ。この間だって結局変装してたんだしっっ!うん、大丈夫だよねっ!」
「プっ。何が大丈夫なの?綾乃。そんなに俺の素顔が嫌い?」

 っっっっ!!

「うっきゃぁぁぁっっ!なっ、何っっ!」
 今今今っ!なんか後ろから耳元で晃さんが囁いてついでになんか、なんかっっ!
「み、みみ、耳っっ!」
 耳に今チュっとかなんとかっっ!!

「プククククっ。ホラ綾乃、ここ街中だから。みんな見てるぞ。せっかく今日は綾乃のご希望通りに変装してきたっていうのに」
 目立ってるぞ。
 ふうっ。って耳に息を吹きかけて言うセリフですかっっ!それっっっ!!

「ふんにゃあぁっっ!や、やめて下さいっ晃さんっ!な、何するんですかっ」
「いや、待ち合わせ場所に来る途中で綾乃見つけたから声掛けたのに気づかないで、なんだか不穏なこと言っていたな?」
「いやいやいやっ!だって仕方ないじゃないですかっ!あ、晃さんと会うのはうれしいですけど、どうしても周りの目が気になっちゃうんですよっ」
「…ふうん。まあ、俺と会うのはイヤじゃなくてうれしいなら、まあ、今はいいということにしておくが。とりえず今日は変装して来たから大丈夫だな?ならほら行こうか。映画の時間もあるし。終わったらご飯にするが、その間にお腹減るだろうから売店で何か買おうか」

「えっ、あ、はいっ」
 ん?ん?んんんん?今何か意味深なこと晃さん言ってた?しかもなんかさっきまで散々人の耳元でやってくれたことも流された?
「あ、いや晃さんっ、今何やって?何言ってっ?」
「映画の時間になるから。ホラ、こっち」
 頭がショートして思考停止状態で行動まで停止していた私の手を晃さんが引っ張って歩き出す。
「ちょっ、晃さんっ?」
 引っ張られながらもまだ頭は?マークに支配されていて。全然働かない頭では気づくこともなくて。
 やっと気づいたのは映画館の売店で「綾乃は何が食べたい?」って聞かれて手が離された時で。

 あんれぇぇぇぇっ?あ、晃さん、手、繋いでたっ?
 し、しかも気づいたら恋人繋ぎっっ!え?えええ?な、なんでっっっ!!
 何か言って下さいよっ、晃さんっ!意味不明なんですけどっっ!

 ぼーぜんとしたまま気づいたらもう席で映画の予告画面を見ていた。


  ◇◆◇◆◇ 晃 side


「はい、綾乃。この席だ。そしてこれ持ってて。ちょっとトイレ行ってくる」

 売店で結局定番の飲み物とポップコーンを買うと呆然としたままの綾乃の手を引いて指定席まで連れて行き、座らせてポップコーンを渡してそのまま席を離れた。
 勿論わざと耳元で囁いた声にビクっと震えた綾乃の頬をそっとなででから、だ。
 なんだか声も出せずにパクパクと口を開いて涙目になっている綾乃を見ると、無性に今すぐ連れ帰って口づけて、そして…。もうそう思う衝動がこみ上げて自分自身を押さえることが苦痛になりかけている。
 待ち合わせ場所の手前で見かけた綾乃が全然自分に気づかないことにいら立ち、つい聞こえた言葉もあって耳元で囁いて耳にキスしたのはのは出来心からだったが。慌てて反応する綾乃の姿に更に触れたくなって気づいた。

 ああ、もうとっくに落ちているんだな、と。

 何段階も計画なんて立ててみたのも。自分の気持ちなんて多分初めて会ったあの場所でもう決まっていたからなんだと。
 あー、恭介と和樹のニヤニヤ笑う顔が浮かんでうざい。
 とちらっと頭の片隅をよぎったが、そんなことではもう多分止まれない。
 だから。初志貫徹で計画通りに進めよう。とりあえず今は。

 急ぎ足でトイレに入り、鏡の前に立つと櫛を取り出して髪を整える。ワックスで流した前髪を抑えるとメガネケースを出してメガネを変える。綾乃が選んでくれた顔が映えるメガネへと。勿論度が入ってないメガネなど本来は掛けなくても構わないのだが、周りを牽制するのに役に立つのと、綾乃に対する餌でもある。
 ちらっと鏡で確認だけすると、急いで綾乃の元へと戻った。予告が始まっていたから周囲に顔を気づかれることもなく綾乃の隣の席に座る。

 そっと耳元に小声で声をかけ(勿論わざと息を吹きかけながらだ)ポップコーンを受け取った。
 ビクンとして飛び上がらんばかりの綾乃の口を手で塞ぎ、しーっと自分の口元に人差し指を立ててスクリーンを指さした。
 コクコクと頷く顔が赤くなっている綾乃の口を塞いでいた手を外したが、その際親指が下唇をなぞったのは勿論わざとだ。またビクっとなった綾乃をにんまり笑いながら隣から見つめた。

 抗議するかのように睨まれたって、そんな涙目ではこっちを煽ることにしかなっていないことを、多分綾乃は絶対に気づかないんだろう。まあそれを教える気もないけれど。
 ただあんまり煽られると本当に速攻ここから出て二人きりになれる場所に連れ込みたくて仕方なくなるから今はちょっと止めて欲しい。
 うーうー小声で唸っていた綾乃も、映画が始まるとスクリーンから目を離すことなく映画の世界に入り込み出したようだ。
 映画の場面場面でコロコロ変わる表情を見逃したくなくて、スクリーンを見ることもなく映画の内容は声だけで判断しつつ横目で綾乃のことだけを見ていた。


  ◇◆◇◆◇ 綾乃 side


 映画が終わって電気がついて。映画を見終わった高揚感からか少し浮足立ったざわめきを残しつつ他の客が館内から退場していく。
 今日はレディースデイの水曜日の夜、ということで女同士で来ている人が多く、だからか晃さんは隣で顔を伏せている。私の手を握って、だ。

 うにゅううぅううっっ!どうして逃げ出そうとしてるのが分かったのっ、晃さんっ!なんで、なんで今日は思わせぶりなことばっかりするのっ!し、か、もっっ!

 なんで晃さんまたいつの間に変装解いているのよぉぉぉぉっ!!心臓に悪いよっっ!

 映画が始まってつい映画に夢中になっていた時には忘れていた。エンドロールが終わって電気がついて、ふと晃さんと来ていることを思い出して隣を見てしまった。
 なんで見ちゃったのかなっ私っ!晃さんのことなんて忘れてそのまま出て行けば良かった!
 映画が始まる前に戻って来た晃さんの姿は動揺していたけど気づいてはいた。もう、選んだメガネがイヤというくらい似合ってて、イケメンという言葉では追いつかないくらい美形で美形な晃さん。その、晃さんをなんの気構えもなく見てしまったのだ。

 ぐっはぁぁっ!な、ん、でっ!なんで私のことを見て笑っているのよぉっ!しかもっ、なんか今まで見たことないくらい柔らかい微笑みなんて浮かべているのよっっ!

 瞬間に沸騰して顔は多分真っ赤だし思考回路はまた支離滅裂状態だしっ!
 だからとっさに逃げようとしたのに。手を掴まれて阻止されてしまったのだ。
「もうちょっと待ってて。みんあ出てからそっと出れば多分大丈夫だから。ここの近くに隠れ家的な落ち着いた店があるから、そこで食事にしよう」

 そしてまたっ!また耳元で囁かれて。金縛りにあったように真っ赤のまま動けなくなってしまった。
 もうっ、もうっ。なんで?なんで晃さんこんなことするの?

『ねえ、それってデートとかいうんじゃないの?まさしくっ』

 うっかり日曜に会った佳代ちゃんの言葉を思い出して、ボンっと更に頭がショートする。
 あ、あううううっっ。き、聞きたいのに、なんかっ!なんか聞けないよっっっ!
 『なんで私を誘うんですか?』なんてっ!
 だって、どう答えが返って来ても、今自分が受け入れられる自信がっ。

 ってなんて図々しいのよ私っっ!普通に知り合い、とか友達、とか言われたらそれでいいんじゃないの?

 う、うにゅうううう。。。

「くっくっくっ。こうやって赤面して動揺して百面相している綾乃の顔を見ているのも楽しいが、そろそろ移動しようか。係員に追い出される前に。もうみんないないから」
「えっ、えええっ?」
 うっかりここがどこだかもまた頭から飛んでいた私は、またまた晃さんに腕を掴まれて映画館から連れ出され、そのまま裏通りを歩いた処にあった店に連れられていた。


  ◇◆◇◆◇ 晃 side


「ここならホラ、大丈夫だろ?」

「あ、う、うん。落ち着いた、いい店だね」
 また真っ赤で固まったままの綾乃の手を引いて映画館を出て裏道で裏通りにあるこの店に連れて来た。この店は分かりずらい場所にあって、知る人ぞ知る、という店で気に入って何度も通っている店だ。
 まあ素顔で来るのは初めてだが。

「ああ。食事も美味しいから期待してて」
「う、うん」
 クラシックがかかり、1つ1つのスペースが観葉植物で区切られた落ち着いた雰囲気のこの店を、もの珍しそうにキョロキョロと見回す綾乃を見ていると、本当に子猫を連想する。さっきまで俺に動揺してたのに、興味があるものが目の前にあるとそっちに意識がそれる。

「映画、面白かった?楽しそうに見てたから」
「えっ、あっ、う、うん。面白かった。見たかった映画だったから。え、でも。楽しそうにって…」
「ああ、見てたから。綾乃が楽しそうに映画を見ている姿を」
 だからつい興味を自分に戻したくてわざと告げた。

「はあっ?え、ええええっ!え、映画見てたんじゃ、なくて?」
「綾乃を見てた」
「な、なんでっっ?あ、晃さん、なんでそんなっっ」
「勿論映画よりも綾乃見ていた方が楽しいからだ」
「ふぇっっ!」

「失礼します」
 わたわたする綾乃をつい笑って見ているとウェイターが食事を並べて去って行った。ここはウェイトレスではなくウェイターだから、顔に注目されることもなく助かっている。さり気なく店の奥の人目につきにくい席に案内してくれたから、いつも変装して来ていても俺が通ってきている客だと気づいているのだろう。

「ほらとりあえず食べて。明日も綾乃は会社だろ。遅くなってしまう」
「あっ、う、うん。いただきます」
 湯気を立てている並べられた食事に、少し落ち着いたのか両手を合わせて挨拶をするとフォークに手を伸ばして食べだした。

「お、美味しいっ!」
「だろ。ここは何食べてもはずれはないよ。デザートも絶品だから」
「ええっ。晃さん、甘いものも食べるんですか?」
「ああ。嫌いじゃないよ。パソコンばっかり見てるから疲れると欲しくなるし」
「ああ、成程っ」
 さっきまでうろたえていたのに、もう美味しい美味しいと食べる姿に、自然と笑みがこみ上げる。

「綾乃は本当に美味しそうに食べるね。この前も思ったけど」
「うっ、だって、美味しいもの食べると幸せになりませんか?」
「ぷっ。確かに。そうだな」
 幸せ、か。確かに幸せだと顔はゆるむんだな。今日、それが分かったが。
「あううっっ。あ、晃さん、そ、その顔は反則ですっっ!なんで映画館で、その、変装を解いたんですか?」
 つい浮かんでいただろう微笑みを見て真っ赤になる綾乃の方が俺にとっては反則なんだが。

「綾乃はこの顔嫌い?」
「えっ、ええええっ!あ、あのっっ」
「綾乃の選んだメガネも掛けてみたんだけど」
「いやっ、すっごく似合ってますっ!もう、そりゃあ私にとっては眼福なんですけどっっ!で、でも、晃さんは目立つのはイヤなんではっ?」
「眼福、ね。じゃあ嫌いじゃないんだ?綾乃は。この顔」
「う、ううううっ。ず、ずるいです、晃さん。そうやって私のこと振り回してっ。き、嫌いな訳ないじゃないですかっ。理想のメガネ男子だって初対面の時に押しかけてまで言ったのにっっ」
「それ、メガネがなければダメってこと?」
「ええっ、いやっ、それはっ。だってメガネは確かに私の好みですけど、晃さんがメガネをするかどうかは別に関係がある訳じゃあっ」

「じゃあ素顔の俺も嫌いじゃない?」
「うっっ。そ、それこを晃さん程のイケメン嫌いな人なんている訳ないですよっ。でもそれが晃さんはイヤなんですよね?」
「うん。確かに顔で騒がれるのは嫌いだけど。綾乃が俺の顔を好きか嫌いかとそれは別に別の話だし」
 そう。イケメンとか美形とか。産まれてからずっと言われ続けているけど、その言葉に迷惑以外の感情を感じたことは今まではなかった。そう。今までは。

「へ?あ、あれ?あの?」
「ぷっ。その綾乃のぽかんってした顔もいいけど、ご飯食べないと冷めるぞ」
「うっっ。ず、ずるい。ずるいです。晃さんはっ!」
「うん。そうかもな。ちゃんと説明するから。次の約束で。だからちゃんと来てよ。金曜日」
「うううっ。ほ、本当にずるいですっ!晃さんはっ!」

「そうかな。俺にしたら綾乃の方がずるいけど」
 だってこんなに会うたびに君に落とされてる。今まで一人で生きて行くのも全然平気だと思ってたのに。
「はあっ?な、なんですか、それはっ!私よりも絶対晃さんの方がずるい、ですっ!」
「クククっ。とりあえず今日はこの後、駅まで送るから。さあ、もう遅くなるよ」
「晃さんっ!」

 ねえ綾乃。次の金曜日、楽しみだ。やっと計画は次で最終段階なんだから。
 ここまでは計画通り。だから、綾乃。そのまま俺のところに落ちておいで。

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