理想メガネ男子と子猫

カナデ

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にゃん 1 子猫は歓喜した

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 うっそ、何あれ何あれ何あれーーーーー!!
 な、なんでタイプ違いの理想が3人もそろって歩いているのーー!し、信じられないっ!
 私、知らない間に実は天国に来ちゃったのかしら!

 残暑がまだ色濃く残る9月の半ば。ちょうど半袖で出るか上着を持って出掛けるかで迷う季節。
 そんなこれでも残暑か!ってくらいにサンサンと太陽が照りつける中。
 私、三宅綾乃はそんな汗ばむアウトレットモールで小さな頃から妄想し続けていた理想のメガネ男子を見つけてしまった!

 しかも3人も!大事なことだからもう一回叫んじゃいます!
 3人、3人も!理想のメガネ男子を見つけちゃいましたーーー!

 まあ、顔がちょっとイケメン過ぎるのがあれなんだけど…。

 メガネ男子と言っても色々ある。メガネのフレームが色々あるように。
 縁なし、上縁、下縁ありから野暮ったい黒縁メガネから優美な曲線を描くメタルフレームまで。どれを選ぶかは好み次第であって、似合う顔はそれぞれだ。

 でも!しかし!世の中にはメガネが似合う、メガネを掛ける為に産まれた顔がある!

 メガネをかける鼻の形や耳の形だけではなく、メガネのブリッジを上げる指先まで。微妙なラインで全てが変わって見えるのだ!と三宅綾乃は今までの理想のメガネ男子を追い続けて早もう19年。もうすぐ20年のアニバーサリー!の私が断言する!

 あそこに並んで歩いているメガネ男子3人はそれぞれにその理想をクリアしている!と!

 私の脳内では盛大にファンファーレが鳴り響き、激しく踊り出してイヤッホー!と叫びまくっていた。狂乱の宴状態なのだ。もう3人以外に目に入らない。呼吸が荒くなり、胸が苦しくて動機息切れするくらいには!
 なのでつい無意識にもうふらふらとその3人組しか目に入らずに、気がつけば後を追っていた。
 のは、仕方がないことだったと思うの!!例え変質者のようでも、この衝動だけは止められないから後悔はしない!


  ◇◆◇◆◇ 晃 side

「ねえ、さっきからあの娘ずっとついて来てる、よね?」

「ああ?まあいつものことだろ?女が付いて来るなんて」
「えー、でもいつも声かけて来る女ばっかりじゃん?それにあの子の視線はなんか違う気がするんだよね。ねえ、晃。晃もいつもと違うと思わない?」
 んー。と話しかけて来た花村和樹に頷く。確かにさっきからずっと同じ視線は感じていた。

 確かに顔は見られている気はするんだけど、なんだろうな。視線の見てるとこが違うような?

「ああ、ホラ彼女たちとかさ。その娘も声かけるタイミングうかがっているんじゃないの?」
 和樹とコイツ、相沢恭介とは幼馴染だ。まあ腐れ縁とも言う。
 同じアパートで3部屋並んで何故同じ年のしかも男が出来たのか。今でも不思議だが、それから腐れ縁が続いているのは必然としか言いようがない。
 もうそのアパートはそれぞれ出ているから今は別に隣に住んでいる訳じゃあないが。それでも一緒に出掛けるのはコイツらくらいだ。

「すいませーん。あの、良かったら一緒にお店回りませんか?」
 恭介がさっき言ってた女の集団が予想通りに声をかけて来た。この集団は和樹が気にしていた娘とは違い分かりやすく、さっきからチラチラこちらの隙を窺がっていたのはバレバレだった。こっちが店の出口で止まったから、このタイミングで声を掛けてきたんだろう。
「ああ~…。ごめんねー。かわいい女の子は俺は好きなんだけど、ちょっと人見知りのヤツが一緒だからさー。今日はごめんねー」
「ごめんね。俺らも今日は久しぶりで集まったからさ。男同士のお付き合いの日なんだよ」
 一緒に育って来たようなものなのに、なんでコイツらはこんなに口が回るのか。
 まあとっかえひっかえの女好きだからな…、恭介は。和樹もそこまではひどくはないけど、いつでも彼女は切れたことないしな。俺にはそれだけはこの二人とは気が合わない。

 女なんて面倒なだけだ。現にコイツらだって、和樹と恭介の顔外面に寄って来てるだけだろうし。顔が良ければ誰でもいい女なんて、碌なもんじゃない。
 女になんか近寄りたくもないから、二人が散らしている間はそっと距離を取った。

 ん?あの娘がさっき和樹が言ってた子か。んんー…?
 やっぱりあの娘から視線は感じる。今和樹と恭介から離れた俺にも変わらずに視線?

 なんだろうあの娘…。確かにちょっと気にはなる、な。

「おい晃。お前他人事みたいにさっさと逃げるなよ。いつものことながら、お前も追っ払うくらいは手伝えよ」
「まあまあ、恭介。晃は女の子嫌いだしね。それこそいつものことだし。ん?晃どうしたの?何か気になった?」
 なんとなくあの視線の娘の方を気にしていると、和樹に気づかれた。
「お?珍しいな晃が女を気にするなんて」
「んー。なんか変じゃないか?あの娘。お前らの顔を見てるんじゃない気がするんだよな、視線が。俺の方も見てるし」
「んん?あ、本当だ。なんか3人交互に視線送ってるね」
「んー?そうか?そんあに気にしてるなら、声掛けた方が早いだろ。ホラ、行くぞ」
 止める暇もなくあの娘の方に行ってしまう恭介に、まあいいかと和樹と目線を合わせると恭介の後をついて行った。

「ねえ君、君ってさっきからずっと俺達のあとつけて来てるいるよね?それなのに君は俺達に声を掛けてこないでいいの?」


  ◇◆◇◆◇ 綾乃 side


 うひゃあっ!
 気づかれてたっっっ!!!

 はい!あまりにも理想のメガネ男子過ぎてふらふらと後をつけてました!
 もう店に入ったら出てくるまで外で眺め、女の子に囲まれて声を掛けられている姿を何度も眺め、更に店に…と繰り返すくらい観察してました!!(キッパリ)

 うっわーんっ。これってそのまま言ったら変質者だよ、ね?ストーカー?ストーカーになるの?今日ここで見かけてからだけれど!!
 もう若くない!学生じゃなくてもう会社にも責任ある社会人。ここで変質者って訴えられたら…ど、どうしよう!

「え、えっとー…。あ、あのっ」
「見てたよね?結構前から」

 うわっ、囲まれてしまいましたよ、理想のメガネ男子に!
 たまらーんって興奮して喚き散らしたいけど、それはどうにか脳内で済ませて、やっぱりここは社会的責任くらいは果たさないとダメだよね。
 正面のふんわり茶髪で大き目な目にフレームレスのメガネが凄く似合う男子に、見てませんっ!って逃げ道を塞がれちゃったし。ごねるより素直が一番だよねっ!よし、思いっきり頭を下げてっ。

「す、すいませんでしたぁっっ!あ、貴方たち三人があまりにもメガネが似合っていて、素敵で私の理想のメガネ男子具合なのでついふらふらっとついて来てしまってました!」

 って思ったら。ああああっ。うっかり心情に素直になりすぎて本音で謝っちゃった。
 ああ…。すっごいビックリされてる。もしかしてこれってもろ変質者っぽい言い訳だったんじゃない?うっわーんっ。どうしたらいいの!これ!

 下げた頭を上げられずに固まっていると、上からブフッと噴き出す声がした。しかも三重奏で。
 ええええーっと…。
 恐る恐る顔を上げれば、思った通り爆笑する3人の姿が。ああ、笑いすぎてお腹抱えているから顔が目の前に。しかも3人とも声までもいいなんて…。でも。

 やっぱりいい!なんてノースパットとブリッジがいい角度で似合う鼻のラインなんだろう!ああ、あのテンプルのかかった耳のラインが…!
 思わずぽーっと笑う3人の顔をまじまじと見つめてうっとりとしてしまった。こんな状況なのに、なんて私は自分の心に素直すぎるのか。

「す、すごいねっ!そんな、そんなこと言われたのは初めてだよっ」
「グハハハっ。た、確かにほかの女とは違うわな、これはっ」
 目の前のフレームレスの茶髪の人と右のオールバックの銀のフルフレームのメガネ男子が笑いながら言った。
 ううううっ。いいじゃないか、理想のメガネ男子を追い求めてもうすぐ20年アニバーサリーな人種がいたって!
「おい晃ッ。お前が気にしてた彼女、おもしろすぎるわ」
 右のオールバックの銀のフルフレームの人が、残るもう一人の太い黒ぶちの無言で脇を向いて笑っているメガネ男子の背中をバンバン叩いた。
 あああっ、もうちょっとこっち見てくれないと顔が見えないっ。実はさっきからこの人を近くで確認したくて仕方なかったのだ。挙動不審でもいいから下から覗き込んでもいいですか!!という脳内欲望を抑えているのが大変だったりした。
「ね、ねえ君。僕達そんなにメガネ似合っているかな?」
 ププププっと口元を押さえながら問いかけて来た茶髪のフレームレスメガネ男子に。

「ええっ!なんていったって理想のメガネ男子探し続けてもうすぐ20年アニバーサリーの私が保証しますっ!三人ともすっごいメガネを掛けるのに理想的な顔立ちだと思いますっっ!」

 ぶわっはっは!
 途端にまた沸き上がった3人の爆笑に、うっかりまた本音を出しすぎた!と思ったけれど、もういいや!と開き直ってゆっくり3人の顔を堪能することにした。
 ああー。もう至福の時って今この時のことを言うんだね!もう幸せ過ぎて日ごろの会社疲れも全部ふっとぶというものだ。至福の時って続かないよね?ああ、でもでも!贅沢でも!写真だけでも撮らせて貰えたら、もういつでも眼福を味わえるかも…!

「ね、ねえ。3人とも随分顔立ちとか顔のタイプとかが違うと思うんだけど、僕達3人ともなんだよね?」
「ええっ!それぞれメガネを掛けるうえでの理想のラインの場所が違いますが!皆さんすっごく私の理想に近いラインをそれぞれに持っていますので!」
「り、理想のラインっ!お、面白すぎるだろっ、これっ!」
 ぶわははははっ。っとまたオールバックの銀のフルフレームの人がまた噴出した。
「もう恭介、ちょっとうるさいからどいてて。ねえ君、3人ともって言うけど一人選んで、って言ったら誰を選ぶの?」

 え?選ぶ?3人とも理想のメガネ男子だけど…。一番気になっているのは私が特に好きな部位を持ってる…。
「え、ええと。この方、です!」
 気分的にはジャーンって効果音をつけて両手で指示したのは。さっきから肩を震わせてほとんど声も出さずに笑っていた残るもう1人の太い黒縁メガネの人。さっきからずっと下からじっくり見たいと狙っていた人だ!

「ふーん。晃なんだ?今晃は前髪がメガネまでかかっちゃって顔があんまり見えないけど?」
 確かにこの人だけは顔自体はほとんど見えない。長い前髪と太いフレームで。でも…!

「そんなの関係ないんですっ!この方のノースパットとブリッジを支える鼻のラインから、テンプルを掛ける耳の角度までが絶妙なんです!更に耳のラインも完璧!メガネを掛ける為にあるようなパーツですよねっ!」

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