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4章 森の家~春から秋

幕間 男同士の内緒話 ~ラウル視点

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注: この話はラウル視点です。そしてウィトが会話します。
   イメージが違う!とかなりそうな方は、読み飛ばしていただいても支障はありませんのでご注意下さい。



「え、ええっ、ど、どうしたの、この子。……もしかして、怪我をしているの?」



 奴隷商人に捕まり、奴隷の契約と首輪をされることはリサのお陰でなんとかまのがれたが、リサを隠すのには成功したが追いつかれて切りつけられ、それでもなんとか振り切って追手をまいた時。切られた傷口からの出血で意識は朦朧としていて、もうダメかと思っていたが、それでもまだ幼いリサのことは諦めきれず、ぼんやりとする意識のままか細い悲鳴をあげたのだ。

『誰でもいい、リサを、幼い妹だけでも助けて!!』

 助けてくれる人がいる筈もないと思いながらも、その願いだけで力の入らない手足で這いずりながらあてもなく進んでいた時に、ウィトとノアが来てくれたのだ。

 自分とそう変わらない少女の高い声が聞こえ、朦朧としている自分をそっと抱き上げてくれたことはかすかに覚えている。
 生まれて来てから状況に流されるままに必死だった僕はあの時、本当の意味で無条件の救いの手を差し伸べられたのだ。

 そして僕が獣人だと、人だと全く察していなかったのに当たり前のように手当をしてくれて、リサも助けに行ってくれた。
 そうしてもう頼れるのは僕達兄妹二人きりしかいないと思っていたのに、『家族になろう』と手を差し伸べてくれた。

 あの時から、僕にとってノアは特別な存在になったのだ。




「なあ、ウィト。僕の為に、ってだけでなく、ノアがずっとこの家に居られる訳じゃないって分かっているからリンゼ王国に行ってみたい、ってのは分かっているんだけど。でも、本当に春か初夏になったらリンゼ王国に向かって大丈夫なのかな?……今度九歳になるけどまだまだ僕は子供だし、ウィトがいてくれても人族のノアを守り切れるかな?」

 去年の冬、気遣うようにそれまで僕の過去に触れないでいてくれたノアに聞かれ、僕とリサの過去のことを話した時、ノアも自分のことを話してくれた。
 ノアの生い立ちやその両親の死には、まあ、リンゼ王国でのはぐれ物の寄せ集まった集落ではありふれた話だったけど、生まれる前、前世の別の世界で生きていた記憶がある、ということは最初理解できなかった。

 あの時はただ、泣きわめくノアをなだめるのに必死だったのでその意味を理解していなかったけど、その後でゆっくりとその意味を考えてみた。でも、生まれる前、別の世界、と言われてもとても想像はつかなくて。

 ……ノアは僕よりも確かに一つ年齢は上だけど、それ以上に大人びている処が合って、それで信じる気になったんだよな。まあ、普段は物知らずで世間知らずのただの少女にしか見えないんだけど。

 森のことなど何も知らないノアが、ウィトと出会うまで無事でいたことは奇跡に近い。それこそ何か月も一人で森に居たと知って、ノアに結界というスキルがあったことを、ノアが言っていた神様に感謝したいくらいだった。

 そんなことを言ったら絶対にノアは凄い顔をして嫌がるんだろうけどね。神様なんて人の都合なんて考えてくれるわけないんだから、それこそ何でどうしてなんて考えたって無駄だと思うんだけど。それでもこうして僕とリサとノアを引き合わせてくれたことに、生まれて初めて神様という存在に感謝したけどね。

 リンゼ王国では神は信仰されてはいない。戦いに赴く時、信じるのは闘神の加護ではなくそれまでに身に着けた自分の力であるべき、というのが国の見解だからだ。
 一応街には闘神を祀る神祠はあるが、それもスキルを確認するモノリスを置く為の場所となっていると母さんに聞いたことがある。


 そんなリンゼ王国だから、人族という前に戦う力が全くないノアには居ずらい国となるのは間違いないのだ。

「ランディア帝国の街や出身のテムの町へ僕達と一緒には行けない、っていうのは、まあ、そうなんだろうけど。僕とリサは耳と尻尾を隠せばいいし、バレた処で逃げられるけど、ノアは……」

 それこそ大事に、大事に守られて育てられたのだろうし、前世も争いがない国だったということだから根本的なところで人に対しての危機感が足りないのだ。本人は一人で森で過ごした経験からかなり警戒心を身に着けたと思っているらしいが、ただ歩いているだけで力が足りなければ理由なく殺されたり奴隷にされることなんてざらなのだ。ノア一人では、とても街なんて歩かせられないだろう。

 集落で育って、街のことはお母さんから少し聞いただけの僕だってそんなこと分かるのに。でも、確かにだからずっとここで閉じこもっていよう、と言うのも酷だっていうことは分かる。


『ガウッ(人のことは俺には分からない。でも、もうすぐ成獣になれる。きちんと契約をして絆を結べば、ノアのことはどこに居ても分かるから、俺が守る)』
「うん、ウィト。優しい、ノアみたいに無条件で情けを掛けてくれる人は確かにいるけど、そんな人は本当にごく一部だ。ほとんどの人は悪意を持って近づいて来ると思っていい。僕も頑張るから、ウィト、二人でノアのことは何としてでも守ろう」


 僕には恐らく生まれた時から黒狼族特有の「体術」「身体能力向上」のスキルがある。それは灰色狼族の血が濃いリサも同じだ。
 黒狼族は己の肉体を至上としる傾向があり、武器なども扱うが基本的に体術を用いて魔物を倒す。
 死んだ父さんも身体能力向上のスキルの扱いがとても上手く、そこに魔力を扱って更に身体強化を掛けられたから集落で三番目という順位だった。

 灰色狼族は体術が得意な狼族の中でも基礎能力が低めで、どちらかというと唯一魔力の適性が高い一族だ。だからと言って身体能力や戦闘能力がない訳ではなく、魔力を使って身体強化や魔法を使いながら武器を扱って戦う戦闘が上手だった。

 僕は一時期とはいえ灰色狼族の集落で過ごして母さんにも武器の扱いの基礎を学んだから、武器を扱った戦闘もできる。
 母さんを無くし、はぐれ者の集まる集落へリサと行ってからはとりあえず毎日食べて生活することに必死で訓練もほとんど出来ていなかったが、ノアに助けられてからは薪割用と言っていたが鉄製の斧を使わせて貰うことが出来たことによって、恐らく武技のスキルも身に着けることが出来ている。

 母さんが死んでしまって、僕に残されたただ一人の家族、妹のリサの為に頑張らなきゃ、と集落で精一杯頑張っていたつもりだったけど、やっぱりどこかもういつ死んでもいい、という諦めがあったのだと今考えれば分かる。
 でもノアに救われた今、絶対にノアのことは守る!とそれだけを考えて、この一年はウィトにも協力して貰って森の奥地で狩りをしたり、とノアに心配かけないようにしながらも必死だった。

 その結果、元々の黒狼族の能力もあってかスキルを一年で覚えることが出来たのだ。
 スキルを覚えると、フッと適性行動をどうとればいいかが理解できるようになるから、それでスキルを覚えることが出来たことは自覚できるのだ。

 それでもモノリスでスキルを確認すると、修行して覚えた覚えのないスキルを持っていることがある、と母さんが言っていたから、街でスキルを確認することはリサとノアにとっても有用だとは思うが、それでも一度も行ったことのない街でまだ子供な自分が二人を守り切れるのかは自信が無かった。


『グルウ、グルルウル。ウォフッ(ノアは人だから、ここでずっとは無理なのは分かってたことだ。でも、ノアが望む通りに行動しても大丈夫なように、俺達が守ればいいことだ。出発までに、なんとしても俺は成獣になるぞ)』

 ウィトも一刻も早く成獣となる為に魔物を倒すことで魔力を吸収することで成長を早めていた。そのことをノアに全く悟らせずにいるウィトに、自分も頑張らねばと鼓舞しているのだ。


「うん、そうだよね。……十歳の儀式をノアが気にしているから何としてでもこなして、悔しいけど力及ばない時はノアに説明してこの家に戻って来よう。リサが十歳になるまでには、何としてでもノアを守り抜く力を手に入れよう」

 ノアはこの世界のことについては驚く程に知らないことが多いけど、前世の大人の意識があるからか先のことを見通せている。ノアのいう通り、十歳の儀式を受けておくことは、確かに未来の選択しを増やすことにも繋がるのだろことはなんとなく分かってはいるのだ。


『ガウッ(ああ。……不甲斐なかったら、ノアの隣にいることを許さんからな?)』
「うん。頑張るよ。いつか胸を張って、ノアの隣を歩けたら、その時は……」


 そう。魔獣との契約を交わした絆は、何者にも代えがたい固い絆だということは分かってはいるけれど、ウィトにも頼らずに僕一人でノアのことをどんなことからも守れる、と自信がついたら。


『グフッ(フン。とりあえずノアを安全に隣国へ導けるように、入念に準備をしないとな)』
「分かってる。春になったら、山まで足を伸ばしてみよう」


 そう、いつか。ノアがずっと気にしている、両親のお墓に堂々と顔を見せにいけるようになれるまで。

 もっと、もっと頑張って、お父さんよりもずっとずっと強くなるんだ、僕は!









ーーーーーーーーーーー
もうちょっとウィトが話す筈だったのに……。ウィトのイメージが違かった方、ごめんなさい。
ウィトは意外と俺様系です( ´艸`)
次は新天地へ、の章になりますので、更新は週末からになるかもしれません。
(金曜か土曜には更新できるとは思うのですが)
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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