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4章 森の家~春から秋
49 お祝いと今後の予定
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秋は冬ごもりの為にあちこち採取に忙しく、気が付くと重ね着をするようになっていた。
本格的に寒くなる前に、ラウルと相談してリサちゃんの六歳のお祝いをすることにした。プレゼントにはこっそりと縫って、新しい洋服を用意してある。
これで家から持って来た布はほぼ無くなってしまったが、春か夏にはリンゼ王国の街に出掛けられるだろうから、そこで手に入れるつもりだ。
アダで織った布は目が粗く、夏用の服や手ぬぐい、シーツにするには十分だが冬用の服には寒そうだったのだ。繊維がしっかりとしている分固めなので、元々あったシーツと一枚交換して全員分の下着も作った。
……贅沢かもしれないけど、お金はお父さんとお母さんが遺してくれたのがあるし、貴重な薬草などを採っていけば換金も出来るかもしれないし。街に行けばアダ以外の布を買えるよね。
テムの町から持ち出した布も、前世の綿と比べてもかなり荒いしゴワゴワしているが、それでもチクチク肌に刺さる感じはないだけましだったのだ。
服につけるボタンは、魔物の素材を使えばいいと思いいたって、今までウィトとラウルが狩ってとっておいた魔物の素材、爪や牙、それに角を取り出して一番細くて鋭い物を選び、鋭く石で解いて千枚通しのような物を作って穴を空けることに成功した。
角ウサギの角は研いで槍に、私は見たことのない大型の魔物の爪が研いでナイフ替わりにラウルが加工し、それをリサちゃんのプレゼントにすると言っていた。
肉食系の獣人は女性でも力が強いので最低限の戦闘能力は持つように訓練するそうだ。全く戦えないと、これも集落から追放される要因にもなるのだそうだ。
調合については継続して水薬の研究と傷薬の改良を重ねている。
最近作った傷薬は、派手に木の枝で切ってしまったラウルの傷の手当に使ったところ、元々変換出来る傷薬程は傷の治りは早くはないが、四日でキレイに治ったのでテムの町の薬師が作っている傷薬くらいの性能はあるのではないか、と思っている。
「リサちゃん、六歳おめでとう!」
「リサ、おめでとう!」
「ウォフッ、ウォンッ!ウォーーーッ!」
「チチチッ!チチィ!」
森の木の紅葉していた葉が落ちた頃、ラウルとウィトに昼間連れ出して貰っている間にご馳走を作り、サプライズでお祝いをした。
「うわあ!すごいっ!これ、リサの為に作ってくれたの?お姉ちゃん、ありがとう!お兄ちゃんも、ウィトお兄ちゃんもプーアもありがとう!!」
春になってラウルが作ったテーブルと元々あったテーブルを並べ、広くなったテーブルにところ狭しと並べた数々の料理にリサちゃんはとろけるような笑顔でお礼を言ってくれた。
ランカ塩、プーアが食べられると判断してくれる茸類と木の実、そしてプーアに張り合うようにウィトが見つけて来てくれた果物の数々と去年に比べて味付けに使える食材がたくさんあり、味付けも塩と少しのハーブよりは進化している。
今日の一番のメインは、干し茸とボアの骨でしっかりと出汁をとったニョッキ入りスープ、それにそのスープに味付けをして似た角煮、そして様々な果汁とハーブを入れて作った焼肉のたれにつけ込んでおいて焼いた焼肉だ。勿論リサちゃんが気に入ってくれたハンバーグも作ってある。
残念ながら植物油はまだ手に入っていないが、プーアが気にしている木の実が秋になってどんどん大きくなっているから、もしかしたら?と期待をしていたりする。
もう家から持ってきた香辛料はなくなってしまったが、森でいくつかは見つけたので、もうそろそろ実が採れるかもしれない。
「お姉ちゃん、このお肉、すっごく、すっごく美味しい!いくらでも食べられそうだよ!もう、何を食べても美味しいの!」
「ふふふ、まだまだあるから、ちゃんと噛んでゆっくり味わって食べてね?」
「うんっ!」
にへらーと幸せそうに笑いながらもぐもぐするリサちゃんが可愛くて、久しぶりに萌えーーーっ!と叫びたくなってしまった。
プレゼントしたおさがりでない洋服も、ラウルお手製の魔物素材の武器もとても喜んでくれ、その日は皆が笑顔のまま眠りについたのだった。
それからミアちゃんが美味しい料理の為に調味料になるハーブや香辛料の発見に目覚め、秋の間はあちこち次々実る果実や木の実、植物の実などを集めて回った。
今年の冬は秋の準備が万端だったので、ゆっくりと毛皮で冬用のチュニックを全員分作ることが出来た。
毛皮に針が……と思っていたが、千枚通しもどきを作ったので目打ちをしてからアダの繊維で太目の糸をより、その糸で縫い合わせることが出来たのだ。
それでも縫うのは大変なので、最低限の縫い合わせとなったが、きちんとラウルとリサちゃんの分は後ろをスリットにして尻尾を動かせるようにもしたし、暖かいと喜ばれている。
「ウィト、春か初夏になったらこの家を出てリンゼ王国に行くけど、私、大丈夫だよね?」
「……グルゥ」
今年も早めに初雪が降り、何日か前から降り続いた雪は積もったが、今朝は晴れていい天気だったので、ラウルとリサちゃんは午後も森へプーアを連れて向かって行った。
ムグの実を今年もたくさん集めたが、まだ残っていたら採って来てくれるらしい。
私は久しぶりにウィトと二人きりで家でお留守番だった。
「え?ウィト、もしかしてなんか拗ねているの?……最近ずっとウィトと二人きりになってなかったもんね。でも毎日一緒に寝てたのに」
「グルゥグルルルル。ウォフッ」
「フフフ。そうだね。こうしてたまには二人っきりでゆっくりしたいよね。……ウィトも、すっかり大きくなったね」
ウィトのお腹をソファにしているのに、プイッと顔をそむけるウィトにクスクス笑いながら首筋に抱き着くと、もうすっかり私の腕では回らなくなっていた。
この一年で、私も身長は恐らく五センチ以上は伸びたと思う。しっかり栄養が足りて、無事に成長期を迎えている。
ラウルは栄養が不足していた分、一気に成長したのかこの一年で十五センチ以上伸びたので、私よりも少しだけ高くなっている。リサちゃんも成長したが、まだ抜かされる心配はさすがになかった。
ウィトもこの一年でまた成長し、今では体長は二メートルはありそうだ。それでもまだ成長しているから、大型の魔獣だったのだろう。
なので顔も私の顔よりも二回り以上大きく、ひと舐めで頬から額までびしょびしょになったりする。
その大きな顔に頬を寄せてすりよると、ちらちら見ているウィトの両頬を両手で掴み、いつものようにぐりぐりと遠慮なくこする。それでもこちらを見ないので、力いっぱい頬をビローンと引っ張る。
「ウィトーーー。本当になに拗ねているの?午前中、プーアとはしゃいでいたから?」
「グウウ。グルルゥ」
「んー?そうじゃないけど、って。んー?プーアは可愛いけど、私にとって一番はウィトだよ?ウィトが成獣したら、私と絆を結んでくれるんだよね?」
「ウォンッ!」
「あ、やっとこっちを向いた。……ウィトが何を言っているのか、私が分かったらよかったのにね。ねえ、ウィト。ウィトがいてくれて、ウィトと絆があるって思えるから、リンゼ王国の街へ行こうって思えたんだよ」
ランディア帝国には獣人を攫って奴隷にしている奴隷商人がいるのだ。私は知らなかったし、当然そんなことをするつもりは全くないが、そのことを考えればランディア帝国民に対する獣人の感情はいい物ではないに違いないのだ。
でも、魔獣と絆を結んで一緒に暮らしている獣人なら、ウィトと一緒にいる私のことを一目で敵視してくることはない、よね。ラウルもウィトが居れば私にそれ程危険はないだろう、って言っていたし。まあ危険がないだけで集落や街に滞在できるかどうかは分からないが。
「今回はとりあえず様子見で、ダメだったらまたこの家に戻ってくればいいんだものね。そう、またここで皆で暮らせば……」
最初にウィトと二人でこの家を造った時は、最低限の物しかなかった。でもラウルが去年から少しずつ家具や小物を作ってくれたので、今ではすっかり居心地の良い家になっている。
「ウォフゥ……。ウォフッ」
「ウィト……。うん、ごめんね。決めたのは私なのにね」
ベロンと舐められ、さっきまで拗ねていたウィトに心配そうに覗き込まれ、その瞳に自分の不安が暴かれた心地になる。
本当は分かっているのだ。ラウルは冬生まれで来年の冬は十歳になる。だからこの家を春か初夏に出たら、次に戻って来るのは早くても再来年の春かそれ以降だ。
そして、戻って来てここでラウルが成人まで過ごすにはどうなのか、ずっと迷ってもいることも。
一番いいのは、リンゼ王国でどこか私を受け入れて貰える場所を見つけること、なんだよね。私がウィトと戻るって言っても、二人は恐らく一緒に戻ると言うだろうから。
どれだけ考えても、でもラウルの十歳の儀式を受けない、という選択肢を選ぼうとは思えないのだ。だから決めたなら、こうして迷うべきではないし、ラウルの前で不安を出す訳にもいかない。
「フフフ。こうして不安を口にして甘えられるのは、ウィトだけだね。ねえ、ウィト。ウィトだけは私を置いていかないでね」
「ガウッ!」
「キャアッ!ウィト、もうウィトは私よりもかなり大きくなったんだから潰れちゃうよ!」
ラウルとリサちゃんが来てから、表に出せなかった不安が一気に出てきて気が付くと弱音が口に出ていた。その弱音に、ウィトに押し倒されて上からべろべろと舐め回されてしまった。
最近では私が上に乗るばかりで押し倒されたのは久しぶりだ。
「ウォフゥ、グルルルル、ウォンッ!ウォーーーッ!」
「え?すぐにでも契約して絆を結ぶし、守るから大丈夫だって?もしかして、最近ずっと狩りをしっぱなしだったのは、早く成獣になる為だったの?私と絆を結ぶ為に、頑張ってくれていたの?」
じっと私を見つめる真剣な瞳に、ウィトがずっと私のことだけを考えて、準備に奔走してくれていたのだと感じられた。
言葉が通じなくても、ウィトと私の間には確かに絆がある。その瞳にそう改めて信じられて、さっきまで感じていた不安はすっかりと消え、久しぶりに二人切りでゆっくりともふもふして過ごしたのだった。
ーーーーーーーーー
なんだか纏まりませんでしたが、とりあえず更新しちゃいます!(おい)
次は幕間を一本はさんで、次章になります。ついに家を出てリンゼ王国へ向かいます。
明日も更新できるかもしれません。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
本格的に寒くなる前に、ラウルと相談してリサちゃんの六歳のお祝いをすることにした。プレゼントにはこっそりと縫って、新しい洋服を用意してある。
これで家から持って来た布はほぼ無くなってしまったが、春か夏にはリンゼ王国の街に出掛けられるだろうから、そこで手に入れるつもりだ。
アダで織った布は目が粗く、夏用の服や手ぬぐい、シーツにするには十分だが冬用の服には寒そうだったのだ。繊維がしっかりとしている分固めなので、元々あったシーツと一枚交換して全員分の下着も作った。
……贅沢かもしれないけど、お金はお父さんとお母さんが遺してくれたのがあるし、貴重な薬草などを採っていけば換金も出来るかもしれないし。街に行けばアダ以外の布を買えるよね。
テムの町から持ち出した布も、前世の綿と比べてもかなり荒いしゴワゴワしているが、それでもチクチク肌に刺さる感じはないだけましだったのだ。
服につけるボタンは、魔物の素材を使えばいいと思いいたって、今までウィトとラウルが狩ってとっておいた魔物の素材、爪や牙、それに角を取り出して一番細くて鋭い物を選び、鋭く石で解いて千枚通しのような物を作って穴を空けることに成功した。
角ウサギの角は研いで槍に、私は見たことのない大型の魔物の爪が研いでナイフ替わりにラウルが加工し、それをリサちゃんのプレゼントにすると言っていた。
肉食系の獣人は女性でも力が強いので最低限の戦闘能力は持つように訓練するそうだ。全く戦えないと、これも集落から追放される要因にもなるのだそうだ。
調合については継続して水薬の研究と傷薬の改良を重ねている。
最近作った傷薬は、派手に木の枝で切ってしまったラウルの傷の手当に使ったところ、元々変換出来る傷薬程は傷の治りは早くはないが、四日でキレイに治ったのでテムの町の薬師が作っている傷薬くらいの性能はあるのではないか、と思っている。
「リサちゃん、六歳おめでとう!」
「リサ、おめでとう!」
「ウォフッ、ウォンッ!ウォーーーッ!」
「チチチッ!チチィ!」
森の木の紅葉していた葉が落ちた頃、ラウルとウィトに昼間連れ出して貰っている間にご馳走を作り、サプライズでお祝いをした。
「うわあ!すごいっ!これ、リサの為に作ってくれたの?お姉ちゃん、ありがとう!お兄ちゃんも、ウィトお兄ちゃんもプーアもありがとう!!」
春になってラウルが作ったテーブルと元々あったテーブルを並べ、広くなったテーブルにところ狭しと並べた数々の料理にリサちゃんはとろけるような笑顔でお礼を言ってくれた。
ランカ塩、プーアが食べられると判断してくれる茸類と木の実、そしてプーアに張り合うようにウィトが見つけて来てくれた果物の数々と去年に比べて味付けに使える食材がたくさんあり、味付けも塩と少しのハーブよりは進化している。
今日の一番のメインは、干し茸とボアの骨でしっかりと出汁をとったニョッキ入りスープ、それにそのスープに味付けをして似た角煮、そして様々な果汁とハーブを入れて作った焼肉のたれにつけ込んでおいて焼いた焼肉だ。勿論リサちゃんが気に入ってくれたハンバーグも作ってある。
残念ながら植物油はまだ手に入っていないが、プーアが気にしている木の実が秋になってどんどん大きくなっているから、もしかしたら?と期待をしていたりする。
もう家から持ってきた香辛料はなくなってしまったが、森でいくつかは見つけたので、もうそろそろ実が採れるかもしれない。
「お姉ちゃん、このお肉、すっごく、すっごく美味しい!いくらでも食べられそうだよ!もう、何を食べても美味しいの!」
「ふふふ、まだまだあるから、ちゃんと噛んでゆっくり味わって食べてね?」
「うんっ!」
にへらーと幸せそうに笑いながらもぐもぐするリサちゃんが可愛くて、久しぶりに萌えーーーっ!と叫びたくなってしまった。
プレゼントしたおさがりでない洋服も、ラウルお手製の魔物素材の武器もとても喜んでくれ、その日は皆が笑顔のまま眠りについたのだった。
それからミアちゃんが美味しい料理の為に調味料になるハーブや香辛料の発見に目覚め、秋の間はあちこち次々実る果実や木の実、植物の実などを集めて回った。
今年の冬は秋の準備が万端だったので、ゆっくりと毛皮で冬用のチュニックを全員分作ることが出来た。
毛皮に針が……と思っていたが、千枚通しもどきを作ったので目打ちをしてからアダの繊維で太目の糸をより、その糸で縫い合わせることが出来たのだ。
それでも縫うのは大変なので、最低限の縫い合わせとなったが、きちんとラウルとリサちゃんの分は後ろをスリットにして尻尾を動かせるようにもしたし、暖かいと喜ばれている。
「ウィト、春か初夏になったらこの家を出てリンゼ王国に行くけど、私、大丈夫だよね?」
「……グルゥ」
今年も早めに初雪が降り、何日か前から降り続いた雪は積もったが、今朝は晴れていい天気だったので、ラウルとリサちゃんは午後も森へプーアを連れて向かって行った。
ムグの実を今年もたくさん集めたが、まだ残っていたら採って来てくれるらしい。
私は久しぶりにウィトと二人きりで家でお留守番だった。
「え?ウィト、もしかしてなんか拗ねているの?……最近ずっとウィトと二人きりになってなかったもんね。でも毎日一緒に寝てたのに」
「グルゥグルルルル。ウォフッ」
「フフフ。そうだね。こうしてたまには二人っきりでゆっくりしたいよね。……ウィトも、すっかり大きくなったね」
ウィトのお腹をソファにしているのに、プイッと顔をそむけるウィトにクスクス笑いながら首筋に抱き着くと、もうすっかり私の腕では回らなくなっていた。
この一年で、私も身長は恐らく五センチ以上は伸びたと思う。しっかり栄養が足りて、無事に成長期を迎えている。
ラウルは栄養が不足していた分、一気に成長したのかこの一年で十五センチ以上伸びたので、私よりも少しだけ高くなっている。リサちゃんも成長したが、まだ抜かされる心配はさすがになかった。
ウィトもこの一年でまた成長し、今では体長は二メートルはありそうだ。それでもまだ成長しているから、大型の魔獣だったのだろう。
なので顔も私の顔よりも二回り以上大きく、ひと舐めで頬から額までびしょびしょになったりする。
その大きな顔に頬を寄せてすりよると、ちらちら見ているウィトの両頬を両手で掴み、いつものようにぐりぐりと遠慮なくこする。それでもこちらを見ないので、力いっぱい頬をビローンと引っ張る。
「ウィトーーー。本当になに拗ねているの?午前中、プーアとはしゃいでいたから?」
「グウウ。グルルゥ」
「んー?そうじゃないけど、って。んー?プーアは可愛いけど、私にとって一番はウィトだよ?ウィトが成獣したら、私と絆を結んでくれるんだよね?」
「ウォンッ!」
「あ、やっとこっちを向いた。……ウィトが何を言っているのか、私が分かったらよかったのにね。ねえ、ウィト。ウィトがいてくれて、ウィトと絆があるって思えるから、リンゼ王国の街へ行こうって思えたんだよ」
ランディア帝国には獣人を攫って奴隷にしている奴隷商人がいるのだ。私は知らなかったし、当然そんなことをするつもりは全くないが、そのことを考えればランディア帝国民に対する獣人の感情はいい物ではないに違いないのだ。
でも、魔獣と絆を結んで一緒に暮らしている獣人なら、ウィトと一緒にいる私のことを一目で敵視してくることはない、よね。ラウルもウィトが居れば私にそれ程危険はないだろう、って言っていたし。まあ危険がないだけで集落や街に滞在できるかどうかは分からないが。
「今回はとりあえず様子見で、ダメだったらまたこの家に戻ってくればいいんだものね。そう、またここで皆で暮らせば……」
最初にウィトと二人でこの家を造った時は、最低限の物しかなかった。でもラウルが去年から少しずつ家具や小物を作ってくれたので、今ではすっかり居心地の良い家になっている。
「ウォフゥ……。ウォフッ」
「ウィト……。うん、ごめんね。決めたのは私なのにね」
ベロンと舐められ、さっきまで拗ねていたウィトに心配そうに覗き込まれ、その瞳に自分の不安が暴かれた心地になる。
本当は分かっているのだ。ラウルは冬生まれで来年の冬は十歳になる。だからこの家を春か初夏に出たら、次に戻って来るのは早くても再来年の春かそれ以降だ。
そして、戻って来てここでラウルが成人まで過ごすにはどうなのか、ずっと迷ってもいることも。
一番いいのは、リンゼ王国でどこか私を受け入れて貰える場所を見つけること、なんだよね。私がウィトと戻るって言っても、二人は恐らく一緒に戻ると言うだろうから。
どれだけ考えても、でもラウルの十歳の儀式を受けない、という選択肢を選ぼうとは思えないのだ。だから決めたなら、こうして迷うべきではないし、ラウルの前で不安を出す訳にもいかない。
「フフフ。こうして不安を口にして甘えられるのは、ウィトだけだね。ねえ、ウィト。ウィトだけは私を置いていかないでね」
「ガウッ!」
「キャアッ!ウィト、もうウィトは私よりもかなり大きくなったんだから潰れちゃうよ!」
ラウルとリサちゃんが来てから、表に出せなかった不安が一気に出てきて気が付くと弱音が口に出ていた。その弱音に、ウィトに押し倒されて上からべろべろと舐め回されてしまった。
最近では私が上に乗るばかりで押し倒されたのは久しぶりだ。
「ウォフゥ、グルルルル、ウォンッ!ウォーーーッ!」
「え?すぐにでも契約して絆を結ぶし、守るから大丈夫だって?もしかして、最近ずっと狩りをしっぱなしだったのは、早く成獣になる為だったの?私と絆を結ぶ為に、頑張ってくれていたの?」
じっと私を見つめる真剣な瞳に、ウィトがずっと私のことだけを考えて、準備に奔走してくれていたのだと感じられた。
言葉が通じなくても、ウィトと私の間には確かに絆がある。その瞳にそう改めて信じられて、さっきまで感じていた不安はすっかりと消え、久しぶりに二人切りでゆっくりともふもふして過ごしたのだった。
ーーーーーーーーー
なんだか纏まりませんでしたが、とりあえず更新しちゃいます!(おい)
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