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4章 森の家~春から秋

44 雨期の到来

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 日に日に気温が上がり、いい天気の日が増えたが、最近では夕方から急に天気が崩れる日が続いていた。もうすぐ雨期が来るのだ。

 雨期は日本の梅雨とは違い、どちらかというと熱帯雨林のスコールのような雨がいきなり降り出すのだ。そういう雨が頻繁に降るので、こちらではその時期を雨期と呼んでいる。



 誕生日を祝って貰った翌々日は、ランカを採りに全員で小川の上流へ向かった。川の上流へ向かう、ということは森の奥へ向かうということで、かなりの警戒態勢だった。
 ただ前もってウィトが源泉が以外と近くの泉だということを確認してくれていたので、途中で何度か魔物に襲撃をされたが無事に辿り着くことが出来た。

 源泉の泉は、森の中にぽっかりと開けた場所にいきなりあった。水がこんこんと湧き出ている池のような泉で、そこに蓮の葉に似たランカが浮かんでいた。
 それはとても美しい景色で、泉に入ってランカを採るのを躊躇われたが、塩は重要なのでそこは皆で手分けして収穫した。

 ランカは今の時期だけ葉を大きく開くそうで、その時に根から吸い取った塩分が一気に葉に集まるのだそうだ。まあ、ファンタジーな世界だし、とそこは気にしなかったよ。

 そしてプーリだが、プーリと呼ぶと嬉しそうにジャンプして私の胸に飛び込んできてくれて、初めて抱っこした小さな身体は幼いからか毛並みが本当に柔らかく、ぬいぐるみを抱いているようで思わず頬すりしてしまった程だ。
 ただその後ウィトが拗ねてしまい、またウィトをもふもふ撫でまわし、ブラッシングを丁寧にしていた為、夕食が遅くなってしまったが。

 その後も少しずつ今の暮らしにも慣れ、元気に過ごしている。
 基本は木の上で生活する種族らしく、高い場所に登りたがるので、部屋に何箇所か細めの倒木を立て掛けたら喜んで自分で寝床を作っていた。
 食べる物は基本的に木の実や果実、それに木の葉や野草だったので、私達と一緒に森に行った時に食べたりしている。




「ノア。今日は早めに戻ろう。夜、雨が結構強く降りそうだから」
「そう。じゃあもう、雨期になるんだね……」

 思わず去年の雨期のことを思いだし、暗い気持ちになってしまった。

 テムの町を一人で出てから、もう一年以上経ったのか。お父さんとお母さんが亡くなってからも一年……。お墓参り、行きたかったな。いつか行くから待っててね、お父さん、お母さん。

 去年は春の終わり頃に一人で森へ入り、あちこち彷徨いながらなんとか森で夜を過ごすのを慣れて来た頃、雨期が来た。
 夜は森の中では月の光はほとんど届かずに真っ暗になる。その暗闇に怯えて最初の頃は毎晩ビクビクしながらほとんど寝れない日々を過ごしていた。

 やっと夜の暗闇に慣れた頃に大雨に振られ、慌てて大木の根元に走ったがそれでも雨の勢いが弱まる程度で、いつもびちょびちょに塗れた服と体を抱きしめ、震えながらただ雨が止むのを待っていた。
 運よく木の根が浮いている場所を見つけて雨宿りができても、雨が流れ込んで来て結局這い出る羽目になることが多く、これがずっと続く雨だったのなら恐らく風邪で私はもうこの世にいなかっただろう。

 去年の雨期の時、運よくあの木の洞を見つけてなかったら雨期を越えられなかっただろうな。もう少し大きければ、あそこを拠点に出来たんだけどね。

 何度も雨に降られてはずぶぬれになり、とうとう風邪をひき、熱を出していた。それでもどこか雨を避けれる場所を見つけなければ、とフラフラと歩いている時、かなりの古木に洞が空いているのを見つけたのだ。
 その洞は私が入るだけでギリギリだったが、それでも地面より高い位置にあり、入口を幌布で覆えばなんとか雨に濡れずに過ごすことが出来たのだ。

 雨期が終わっても安全に眠れるのでそこを使っていたが、身長が伸びてすぐにきつくなってしまい、諦めてまた森を彷徨うことになったのだ。

 まあそれでウィトにも出会えたし。今思えばそれで良かったのよね。


「雨期の雨は突然降る時も多いけど、僕は結構当たるから、森の奥に行かなければ濡れずに済むと思うよ」
「うん、ありがとう、ラウル。じゃあ、家に急いで戻ろうか」

 今日も今が時期だというハーブと薬草を森で採取していたが、どんどん暗くなって来た空に家路を急いだ。

 春を過ぎて新しく始めたことは、あとは畑を家の傍に作ったことだ。
 ネロや他の森に自生する芋を家の傍に植え替え、いつでも採れるようにしたのだ。あとはハーブや野草なども少しずつ移植している。

 畑は部屋と同じくらいの面積だが、皆で草を抜き、土を掘る時にはリサちゃんが活躍した。
 スコップで掘るのも固い場所も、土魔法で柔らかくしてくれたのだ。お陰で十日程で畑にすることが出来た。それから少しだけ森の土を混ぜ、十日ほど馴染ませた後に芋などを移植し始め、最近ではほぼ全て埋まっている。

 ただ薬草は移植して効果が変わることが心配だったので、相変わらず森で探して採取している。当然群生地でもある程度残すようにしているので、来年は探さずに採ることが出来るだろう。

「あっ、降って来た!ノア、急いで!」
「わあっ!うん、頑張るっ!」

 家が見え、もうすぐ着く、という時、真っ暗くなった空からポツリと雨が顔に当たる。まずい!と走る足を速めて、なんとかザアーーっと豪雨が降り出す前に家の軒下に滑りこむことが出来た。

「ふう……危なかった。夕方前には止むだろうけど、もう今日は外には出歩けないね」

 雨期の雨はスコールのように一気に豪雨となるが、スコールのようにすぐに降りやまずに一時間くらいは降る。まだ昼を過ぎてそれ程経っていないが、豪雨が降った後はぬかるんで歩けないだろう。

「まあ、どろどろで大変だけど、この雨が降った後だけ採れる野草と薬草があるよ。川沿いに生えるから、裸足で雨が止んだら行ってみる?」
「え?この雨の後だけ採れるの?……どろどろになるのはイヤだけど、やっぱりそれは見てみたいかも」
「じゃあ雨が止んだら、汚れてもいいように丈の短いズボンを履いて行こう」

 ニッコリと笑う、いたずらっぽい笑顔を浮かべるラウルに、あの私と一緒に泣いた日から表情が明るくなったなとしみじみ思う。

「あっ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえり!雨に降られたかと思って心配したよ!」
「ギリギリ大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう、リサちゃん」

 扉を開けると、リサちゃんが飛びついて来たから抱きしめてから頭を撫でまわす。
 石の天井に当たる轟轟という雨音が部屋の中に響いていて、この家に一人でいたら雨に濡れなくても今年の雨期も憂鬱だったに違いない。とリサちゃんを撫でながらそう思った。

「ウォフッ!」
「あ、ウィト、おかえり。この雨で濡れちゃったよね。今拭く布を出すから……ん?なんでウィト、あんまり濡れてないの?」

 少し濡れてしまったのを拭きつつ、焚火に火をつけているとウィトが扉から入って来た。びしょびしょに濡れてしまっただろうウィトを拭いてあげよう、と近寄って行くと、ほとんど毛並みが濡れていなかった。

「グルグルル、ウォフッ!」
「ああ、成程。すごいな、ウィトは。ノア、雨が降って来たから、濡れないように風で身体を包んで走って帰って来たんだって」
「えええっ!いつの間にそんな器用に風を使えるようになったの、ウィト。凄いね!!」

 心なしかドヤ顔で胸を張ったように見えたウィトに抱き着いても、いつもどおりもふもふの毛並みだった。とても雨の中走って来たとは思えない。

 得意げな顔のウィトを思う存分ぐりぐりと撫でまわし、ウィトの魔法の制御に少しだけ嫉妬を覚えた。

 春になって外に出られるようになって、リサちゃんと一緒に大きな魔法を使えるように訓練を始めた。冬の間リサちゃんに教えながら自分でも小説で見たような魔法のイメージを固めておいたので、いざ!と勇んで使ってみたが。

 ……ウィトのようにウィンドカッター!とか思って風の刃のイメージで魔法を放ったのに、結局草を揺らしただけだったしね。ハア……。リサちゃんに追い抜かされないように頑張ろう。

 攻撃にはやはり風が便利だろう、と思い、攻撃用にかまいたちのような真空の刃をイメージして放ったウィンドカッターはあえなく失敗し、以前は失敗したけどリベンジ!と思って放った水のウォーターボールは、顔の前に拳大の水を浮かべることまでは成功した。

 他は火炎放射器をイメージした火の魔法や、リサちゃんの穴を掘ったのをイメージした土魔法は全くと言っていい程反応が無かったから、私は水の魔法に適正があるのかも?と思い、最近では水の魔法を訓練している。

 雨期の豪雨の後にしか採れない薬草って、どんなのかな?どんな効果があるのかも楽しみ!

 岩山に当たる雨の轟音を聞きながらお湯をわかし、皆で飲んだお茶はとても暖かかったのだった。 







ーーーーーーー
今日で連載一か月です。なんとか毎日更新できました。
ただストックがもうほぼないので、無くなったら二日に1度くらの更新になるかと思います。
気温変化についていかず、なかなか文章が書けずに申し訳ありませんが、よろしくお願いします<(_ _)>
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