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2章 国境の森

18 一緒に

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 ハッと気が付いた時には、薄暗くなりかけていた。やってしまったと慌てて結界を確認すると、三重に張っていた結界の一番内側のもの以外は全て消え、そして何故かすぐ近くに角ウサギの惨殺死体があった。

 え、ええっ!これはどういう状況なのっ!だ、誰か教えてーーーーーっ!!

 恐らく腕の怪我の出血と、魔獣の子に会って怪我を治療した興奮で昨日はほぼ徹夜出来たが、体力が限界だったのだろう。そこに来て温かな魔獣の子の温もりともふもふな毛並みに包まれて、抱き着いたまま寝落ちしてしまったらしい。

 そう気づいたのは、すぐ目の前にはもふもふな毛並みと怪我に巻いた腰布が見えたからだ。
 慌てて身体を起こし、魔獣の子を確認してみると。

「ちょっ、ちょっと、なんで口の周りが血で染まっているの?ねえ、もしかしてあの角ウサギは、あなたが倒して食べた、とか!?」

 そう、口の周りには飛び散った血痕が白い毛並みに点々とついており、私に言われてヤベッとばかりにペロペロと口の周りを舐め出したが、目元にまで飛び散っていた血痕はなかったことには出来ないだろう。

「クゥーーーーン。キューーーン」
「いやいやいや。かわいい声を出して誤魔化そうとしてもダメだからねっ!ええっ、ど、どういうこと?だって、一番内側の結界は消えてないのに、あなたは結界の外に出てここに戻って来れた、ってことになるよね?え、えええっ?」

 今まで何度も魔物や虫、それにヘビや鳥などの魔物に襲われたが、一度たりとも結界の中へは入れなかったのだ。それに私は最近では、結界を張る時に全ての攻撃を通さないイメージを思い浮かべて魔力を込めている。だから尚更外から中へは結界を壊さずには何も入って来れない筈……。

「ん?結界はイメージの通り攻撃とか、私に対する悪意を跳ねのけるけど、もしかして私に敵意が無ければ出たり入ったり出来たり、なんて?」

 じっと見つめると、まるで私のご機嫌をとるかのようにペロペロと頬を舐めて来た。

「こ、こらっ!ちょっと、今、真面目に考えているのにっ!」

 まあ、この通り、この子に私への害意は全くないと言っても過言ではないだろう。そのことにうれしくてニヤつきそうになるが、今はそれは置いておいて。

 ……この子が私に害意を持っていないのと、もしかしたら魔獣、だから?この子は魔力も凄そうだし魔力と親和性も高そうだから、私の魔力を壊さないように通過することも出来た、ってこと?……この子、一体何者なんだろう。

 それだけのことが出来るのなら、私にとっては十分森の奥だが、こんな浅い場所ではなくてもっと人が分け入れない程森の奥深くか、山奥にでも棲む種族じゃないのだろうか。

 ……もしかして狼型の定番のフェリル、とか言わないよね?この世界に神獣とかっているのかな?あの神のさらっとした説明じゃ言ってないってことは十分ありうるけど、町のみんなもそんなこと誰も言って無かった。でも寿命が長くて温厚な魔獣もいるとは聞いたことがあるし、もしかしたら存在しているのかも?

 この子がどんな種族でも私はこうして今一緒に居られてうれしいだけだが、どうしても気になってしまう。

「ごめんね。ちょっとだけ抜け毛をちょうだいね」
「クゥン?」

 さっきから考え込む私に、すりすり、ペロペロしている子の顔をガシッと掴んでおりゃおりゃと揉みしだくと、もふもふな毛並みから抜けたふわふわとした毛が手に何本もついていた。それをタブレットを出して中に収納する。

 恐らくどんな種族か、とかの説明は無理だけど種族名は出る筈だよね。今までもそこらの雑草でさえ名前で表示されていたんだし。

 スッとタブレットに毛が収納されたのをしっかりと確認し、チャージポイントを押して収納物のリストの名をじっくりと一つ一つ見て行く。

 このリストも入れた順とか何か法則があれば探すのも楽なんだけど。でも今まで毛だけを入れたことは一度もないから、見て行けばすぐわかる筈……。あっ、あった!

「ホワイトウルフの毛、ってことは、あなたの種族はホワイトウルフなのね?」

 じっと見つめて問いかけると、キョトンとした顔で小首を傾げる。その姿があまりに可愛すぎて、もうどうでも良くなってきてしまった。

「もう、そんな可愛い仕草して、ズルすぎる!まあ、フェリルがこの世界にいるかどうか知らないけど、ホワイトウルフなら、多分そんなに珍しい魔獣じゃないわよね。まだ無理はして欲しくないけど、動けるようになったのなら良かった!」

 どうやら許されたのが分かったのか、パタパタと勢い良く振られるふさふさな尻尾が私の足を撫でていき、そのくすぐったさにクスクスと笑ってしまった。

 なんとなく眠る前よりも格段に体調が良くなったように見えるのも、朝しっかりと傷薬を塗りなおしたことだけではなく、恐らく襲撃して来て結界に阻まれた角ウサギを倒して食べたことによるものだろう。文字通り、血肉を食べて血肉としたのだ。

「……ねえ、動けるようになったみたいだけど、今日一日くらいは一緒に居てね?お父さんとお母さんの元に、群れに帰るのは明日にして。もうちょっとだけでも、あなたと居たいの」

 回復した、ということは別れが近づいて来た、ということで。思わず離れたくない、という心のまま、ギュッと抱き着いてしまった。

「ウォンッ!グルグルグル、ウォンッ!クキューーーーンッ」

 私の言葉が分かったのか、まるでどこにも行かない、ずっと一緒に居る、と言わんばかりにスリスリ、ペロペロされて、この子とずっと一緒にいていいんだ、と信じてしまいたくなる。

 ……明日の朝、怪我の具合を見てもう包帯もいらないようだったら。別れるかついて来るか、しっかりと聞いてみよう。もし、ついて来てくれそうならその時は……。

 いや、今はまだ期待しちゃダメだ、と自分に言い聞かせ、とりあえずこの子が立って歩けるならこの場所から少しでも移動しよう、とぎゅっと抱き着いたままの手をほどいた。

「ねえ、動けるなら少しだけでも移動しようか。ここの血の匂いも、あの角ウサギの血で少しは誤魔化せるかもしれないし。ね?」

 ポンポンと軽く頭を撫でてから立ち上がり、あっち、と昨日人と遭遇した方とは逆の斜め左、森の奥の方を示して歩き出すと、ゆっくりと立ち上がり、思ったよりもずっとしっかりとした足取りですぐ横に並んだ。
 その姿を見ると、昨日の夜、死に掛けていたようには到底見えない。

 確かに傷薬は効果のある方のだけど、それでも本当に回復が早いのね。……そのことは本当にうれしいけど、やっぱりちょっと寂しいな。

 血の匂いのするあの場所からは離れたいが、今無理をしてまた怪我の具合が悪くなったら本末転倒なので、ゆっくりと約十五分程歩いて見つけた大木の根元を今夜の寝床とすることにした。

「今日はここで寝ましょう。はい、ここに寝転がってね。今水と、一応ベリーを用意するからね」

 とりあえず一番外側の、この辺りを囲む大きな結界を張り、寝転がったホワイトウルフの子の前に置いた大皿に生活魔法で水を注ぎ、もう一つの小皿にベリーを置いた。
 ペロペロと水を飲む姿を微笑みながら見守ってから、結界に囲んだ中で薬草や野草を探すことにする。

 傷薬の変換に必要な薬草が、少しでもあったらいいんだけど……。あと一つしか変換できないから、最低でもあと三つ分くらいは欲しい。

「キュウ?」
「すぐそこにいるから大丈夫よ。ちょっとだけそこで待っていてね」

 なんとか薬草を少しだが見つけることができ、それ以外のそれなりに採れた野草もタブレットに収納してから大木の根元へと戻り、今度はしっかりと内側に結界を二重に張った。

 それから甘えて来るホワイトウルフの子とじゃれあいながら過ごし、夕食にはまた変換でパンを出して食べるとホワイトウルフの子の隣に座り、寄りかかるように目を閉じたのだった。






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HOT(女性)ランキング7位まで来ました!お読みいただきありがとうございます<(_ _)>
明日も様子を見て、こっそり欲を出して更新を増やすかもしれませんが( ´艸`)一応2話は必ず更新します。
もふもふの子が出てほのぼの感が増していきますので、良かったらお気に入り登録などお願いいたします<(_ _)>
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