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2章 国境の森

15 怪我の手当て

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注:プロローグの続きへ戻ります



「ハア……。あの時、つい人に対しての警戒心を緩めてしまったのがいけなかったんだよね。いい人もいれば悪い人もいる。そして世の中には悪い人に当たる確率の方が高いってことは、前世で知っていた筈だったのに」

 あの翌日に休憩場所から離れて移動し始めたが何度もギルド員と遭遇しそうになり、ほとんどがやり過ごせたが何度か見つかって今日のように悪意を持って追いかけられた。そうしている内に少しずつ街道のそばから離れ、結局森の奥へ奥へと入ってしまっていた。

 だが森の奥はボアなどの大型の魔物が出ることが多く、ボアの突進をまともに受けたこともあったが、その時は一度で結界を破られてしまい命からがら逃げ出した。そうして街道の方へと近づくと人に、と何度も繰り返していて、今日のように傷を負ったことも何度かある。


 血止めにしている帯がどんどん血で染まって行くのを見て眉をひそめると、タブレットを出して材料の薬草の名前が全部そろっていることを確認し、変換リストで傷薬の文字を押した。
 家が雑貨屋で、薬草の買い取りリスト、そして現物の傷薬が揃っていたことはとても幸運だった。

 この世界の傷薬はポーションのように、傷薬に掛けたり飲んだりすればすぐに傷が治る物ではない。
 傷口を消毒して破傷風を防ぎ、ほんの少しだけ回復を早くする物で傷口に塗りつけて使う物と飲み薬がある。更に材料の薬草の違いで効能が高い傷薬もあり、その傷薬はテムの町の薬師は作れず、その為定期的にザッカスの街へ仕入れに出掛ける雑貨屋が取り扱っていたのだ。

 その傷薬をあの襲撃のあった時にも仕入れており、荷馬車の荷台から回収した荷物の中にもそれがあったのだ。
 その傷薬のお陰で何度も慣れない森での暮らしでした怪我の手当をすることができ、そして森の奥で採取した薬草を収納した時に変換リストに傷薬が表示されて変換できるようになっていた。

 今までの検証から、変換リストに出る物は最低限の食料と衣服、そして収納した物が変換出来る材料が揃った時にリストに表示されるのではないか、という推測がたっていた。
 そしてそれはリストに載った傷薬を変換してみたことで確信に変わったのだ。

 テムの町の薬師が作っている傷薬は、町の周囲の草原と近くの森で採取される薬草で作られており、その素材となる薬草は以前からタブレットに収納してあったが変換リストに傷薬の表示はなかった。それなのにどの薬草から調合されているか知らないザッカスの街で買った傷薬と同じ物が変換して出て来たからだ。

「薬草は乾燥させて使う物が多くて助かったな。お陰で頑張って森の奥へ行って薬草を採取できれば、まだまだ傷薬に変換できるし」

 傷薬はクリーム状な為、変換して出て来る時はどうなるのかと最初はビクビクしていたが、きちんと消毒効果の高いバナの葉に包まれて出て来て驚いた。
 バナの葉は森で採れ、テムの町でも屋台などでお皿替わりに使われている物で、雑貨屋でも取り扱っていた物だ。

 その時に変換リストの傷薬の材料を確認すると、薬草の名前の他にしっかりとバナの葉も表示されているのを確認し、本当に知れば知る程通販スキルは変換スキルだろう!と思わず大声でツッコミを入れてしまったのは仕方ないことだったと今でも思う。


 傷の治療の為に血止めの為に結んでいた腰布をゆっくりと外すと、まだ止まらない血が真っすぐに走る傷口から溢れ出る。
 眉を顰めつつまずは傷口を洗う為、右腕の傷口に左の手の平をかざして生活魔法で水を出す。

「イッ!……本当は消毒に度数の高いお酒があったら良かったけど。庶民はエールしか出回って無かったし」

 この世界にも蒸留酒があるのかどうかは知らないが、庶民には気の抜けたビールのようなエールが飲まれていて、家でもお父さんがたまに飲んでいた。
 一度だけお母さんに見つからないようにこっそり一口お父さんに飲ませて貰ったことがあり、その時はあまりの苦さにうえーっと吐き出しそうになり、それでお母さんにエールを飲んだことがバレてお父さんと一緒に並んで叱られたのだ。

 ……あの時は分からなかったけど、ほとんどアルコール成分もない感じだったよね。まあ、ないのは仕方ない。せめて沁みて痛くてもしっかり洗ってから薬を塗ってバナの葉を巻いておかないと。化膿したら大変だもの。

 それに急がないと血の匂いで魔物が襲って来るかもしれない。そう緊張感を高めて滲みそうになった涙を堪える。
 しっかりと水で洗い、傷口をキレイな布で拭いてから傷口に傷薬をしっかりと塗り、バナの葉で傷口を覆った。そして最後はタブレットから取り出しておいた新しい腰布を巻いてしっかりと縛る。
 右腕の怪我な為、左手で全ての作業をするのには苦労はしたが、なんとか傷の手当を終えた時には、すっかり暗くなっていた。

 もう今夜はここで夜を明かそう。幸いにも血の匂いで魔物が寄っては来てないようだし。……もしかして結界は匂いも遮断してくれていたりするのかな?一応血がかかった土は掘っておこう。それが終わったら今日はもうさっき採ったベリーで夕食にしちゃおう。

 ベリーを夢中で採っていてギルド員の男達に見つかって追いかけられたことを思い出すと複雑だが、果物はなかなかとれないごちそうなのだ。とれる時に、しっかりとビタミンを補充しておきたい。

 まずは夕食の前にタブレットを開いてスコップを取り出し、土に両手をついて目を閉じる。

 ……土に沁み込んだ魔力が、少しだけ土の密着を緩ませるイメージで。

 ゆっくりとイメージに合わせて両手から魔力を土に注ぐと、手の平にあたる土の感触がほんの少しだけ柔らかく、耕された農地のような土になる。
 これは土魔法が使えるようになった訳ではなく、生活魔法だ。

 お父さんとお母さんや町の大人たちには生活魔法はコップ一杯の飲み水を出したり、種火を出す魔法だと教わってはいたが、今までの様々な検証の結果、属性にかかわらずイメージ次第でちょっとした魔法を使えるスキルが生活魔法だと分かったのだ。
 そしてそのちょっとした魔法でも、込める魔力の量によって威力が変わる。

 その結果、少しの風をおこしたり、こうして少しだけ土を柔らかくしたり、ということが出来るようになった。
 水は魔力をこめた分だけ量を自由に出せるようになったが、水を放射状に出して攻撃に使ったり、火もファンタジー定番のファイアーボールのように出すことは出来なかった。

 そこは魔力が不足しているのか、やはり攻撃魔法を使うには属性専用のスキルが必要なのかはまだ分からない。そこまで検証するだけの魔力や時間に余裕はまだ無かった。

 少しだけ柔らかくなった土を、ズキズキと傷む右手でスコップで土を掘り返し、なんとか表面の血がついた土を埋めた。
 心なしか血の匂いが減ったように感じて少しだけ安心すると、手を交互に水を出してしっかりと洗い、タブレットからベリーを取り出して食べる。

 甘酸っぱくて美味しい。まだまだ実っていたから、明日様子を見てまた採りに行こうかな。

 今日は運悪くあの男達と遭遇してしまったが、まさか明日の朝からあの場所で私を見張っている、ということはないだろう。むしろ時間を置けば、あの男達が私を探してあの辺りをうろつくだろうから近寄れなくなる。

 とりあえず今日はもう寝よう。結構出た血の量が多かったから、二、三日はあまり動かないでゆっくりしよう。
 
 夕食も終わり、一息ついてから結界を張り直して少しだけ寝ようと思った時、ふと目の前の暗闇に、ぼうっと光る目があることに気が付いたのだった。


 


ーーーーーー
その光の正体はーーーーー!ということでもふもふカウントダウン1です!明日もふもふ登場です!( ´艸`)
やっと登場人物(もふもふは一人扱いなのです!)が増えます。(5万字も書いてやっと……)
明日から仕事も3連休なので、その間は早めに更新できるかと思います。どうぞ宜しくお願いします<(_ _)> 
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