チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ

文字の大きさ
上 下
3 / 53
1章 テムの町

2 転生した時のことを振り返る

しおりを挟む
「え?え?な、なんで、お父さん?お母さん?なんでそんなに血を流して……。いやっ、いやーーーーーっ!!」

 目を開けた時に、血を流し、血の気のない両親の顔を見た瞬間、頭の中に、佐藤乃蒼として生きた前世の記憶と、ノアーティとして両親に大事に育てられた記憶がまざって蘇って来て、気が付くと悲鳴を上げていた。

「いやーーーっ!お父さんっ、お母さんっ!そんな、いやっ!起きて、ねえ、起きてよ、お父さん、お母さんっ!!」

 両親の間から出て起き上がり、力なく横たわる二人をゆすって起こそうとしても、死後硬直の始まった身体は温もりを取り戻すことなくどんどん固く、冷たくなって行く。そんな二人がもう起き上がることはない、と理解した時、涙が後から後から溢れて思いっきり泣き伏した。


 ねえ、確かに転生させてくれる、という言葉には頷いたし、一つだけ能力をくれると言われて、まだその答えを返していなかった筈だったのに。なんで私はこんなことになっているの?ねえ、神様ーーーーー!




 前世では私、佐藤乃蒼は、日本という国で普通のOLとして働いていた。
 職場はブラックと言うには薄いがグレーというくらいで、たまに深夜まで残業する以外は定時で帰れる時もあった。
 仕事が生きがいとう程ではなく、全てを懸けた趣味がある訳でもない、ただ毎日を流されるままに過ごしていた。

 そんな私の死因はーーーーー多重衝突事故だった。
 取引先に向かう為にバスに乗っていると、大型タンクローリーが横転して次々と車にぶつかり、そして炎上。その事故に私の乗ったバスは巻き込まれたのだ。

 あっと思った時には横転したタンクローリーに吹き飛ばされた車が迫って来ていて、バスの横腹にぶつかった。吹き飛ばされたかのような衝撃とともにバスは横転し、そのすぐ後にタンクローリーの炎上の炎が襲って来たのをかすかに覚えている。

 その時バスに乗っていた乗客は、多分十人以上はいたと思う。ちょうど学生の早めの帰り時間だったから、十代の子も何人もいたが、あの状況ではバスの乗客で助かった人はいないだろう。
 それを考えると恐らくこの事故で二十人以上は亡くなったのだと思う。大事故だ。

 だからか、気が付いた時には真っ白な空間をふわふわと半透明になって浮いていた時、何十人も同じ場所にいたことをぼんやりと覚えている。


『いいですかー、皆さーーん!今回の事故は、地球の人口減少の一環でしたー。なので、皆さんそれぞれ別の世界に転生していただきまーすっ!』

 なに、それ!と思っても、声は出ず、身動きもできずにただ天使なのか白い羽を生やしたサングラスをかけた胡散臭い人の話をただ聞いていることしか出来なかった。
 周囲の人影も一瞬蠢いた気がしたが、私と同じことを思ったに違いない。

『それではそれぞれの転生先の世界の神のところに今から飛ばしますのでー、そこで世界についての説明を聞いて下さいねー!あー、因みにー、転生する世界の中には地球で今流行りの魔法と剣のファンタジー世界じゃない世界もありますのでー、世界に対する苦情は承っていませんのであしからずー!神に説明を受けて文句を言ったら、転生せずに魂を消される可能性もありますので、そこはご注意くださいねー!ではーーー。いってらっしゃいませーーー!』

 ちょっと!転生させるって言ったのに、消されるってどういうこと!とさすがにあまりにも自分勝手ないい様に腹が立ったが、その時にはあちこちへと弾き飛ばされていたのだった。



 そうして次に気づいた時も、また同じような真っ白な空間に今度は一人で浮かんでいた。

『ーーーーお前が地球という世界から来た魂か。今回は試験的に一人ずつ受け入れる、ということだからな。我が世界へ転生させてやろう』

 気づいた時には、圧倒的な威圧感に押され、土下座に近い体勢になっていた。当然顔を上げることなど出来ず、恐らくこの世界の神だろう存在の姿を見ることはかなわなかった。

 それから一方的にこの世界、エルーディアについて基本的なことを説明された。
 まあ簡単に、魔法があり、魔物や魔獣がいて、人が世界の主ではない、ということだけだったが。

『転生するにあたり、一つだけスキルという形で望む力を与えてやろう』

 そう言われた時、思い浮かべたのが最近読んでいた無料のWEB小説のチート能力、異世界通販、だった。

 でもすぐに物語ではなく現実として異世界の物を好き放題に取り寄せることが出来るなんてことは無理だろう、と思い立った。

『異世界の物をそのまま我が世界へ持ち込むことなどスキルの範囲を越えている。ーーー我が世界に反しない範囲での再現なら、なんとか出来るやもしれんが、それを望むか?』

 そう言われて、一瞬通販で手に入れた物を売ってウハウハ無双生活、を思い浮かべた。そして、でもそうなった時に現地の家族にはどうやって説明するのか?いや、通販能力で生きて行くなら、そうなった時には一人で生きて行けばいいのか?

 そう、確かに一瞬、その時の私は考えたのだ。でも、すぐにそれは現実的ではないから、別の結界のような安全に生き抜く為の能力の方がいい。

 そう思考を切り替えた瞬間。

『ではな。転生した後は我との繋がりは消える。もう二度と我が関わることはない。すぐに死んでもその結果があればいいだけだからな』

 その声と共に一気に意識が拡散し、消えて行くのを感じていた。

 え?私、まだ選んでいないよね?答えてない、よね?え、えええっ!ちょっと、ど、どういうことーーっ!!



 そうしてはっきりと意識を取り戻したのが、今、だった。
 前世の記憶を取り戻したきっかけは、恐らく洗礼の時の読めない文字、だろう。
 今思い返せば、水晶の板に表示されていた文字は日本語で、通販、結界、と書かれていたのだ。

 そこまで思い出して、ふと気づいてしまった。


 ーーーーもしかして、お父さんとお母さんが死んだのは、私のせい?私が通販スキルを使うのに、家族の存在はいらないかも?と、一瞬考えてしまったから?だから私が通販のスキルを授かる為に二人は死なないといけなかったの?

 いや、まさか。そんな筈はない。だって私は実際には希望しなかった。でもーーーー。

 あの時は声を出せない状態だったが、異世界の物を持ち込むのは無理だと断られたのだから、私の考えは当然あの神に筒抜けだったということだ。

 え?やっぱり私があの時考えてしまったことが、叶えてくれるという一つの望みとして私に授けられたってこと?異世界通販は無理だから、その分として通販、結界と二つの能力を貰えた?

 ーーーならやっぱり、私のせいで二人は、お父さんとお母さんはここで死ぬ運命を授けられてしまった、ということなの?私が前世を思い出したから、いや、転生なんてした魂だったから、あの優しいお父さんとお母さんはこんな最後を迎えねばならなかったというの?


「……いやっ、そんなの、いやよっ!お父さん、お母さんっ!私、そんなこと望んでない、望んでなかったのっ!う、うわぁああーーーーーーっ!!」

 確かに前世を、佐藤乃蒼としての記憶をハッキリと思い出したのはついさっきだったが、でも、この世界でノアーティとして生を受け、八歳まで暮らして来た私も私なのだ。ずっとお父さんとお母さんに見守られ、愛されながら育ったことを、しっかりと覚えている。

 目を閉じれば、「まだ嫁になんて出さないからな!」と口癖のように言っていたお父さんのことも、それにお母さんが困ったように返す声も、「お父さんのお嫁さんになる!」と私が言った言葉にお父さんがうれし泣きをしたことも、全部、全部思い出せるのだ。

「お父さん、お母さんっ……。私を、一人にしないでっ!いや、いやだよ、お父さん、お母さんっ!!」


 少しずつ夕暮れが迫る中、ここが森の中の街道だということなど忘れて、すっかり冷たくなってしまった両親の身体にすがり、涙が枯れて疲れ果てて寝てしまうまで、ずっと泣き崩れていたのだった。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

オカン気質の公爵令嬢〜転生しても代わり映えしません!

himahima
ファンタジー
卒業パーティーで婚約破棄・・・ 別にいいんですけどね…後処理めんどくさいな〜 設定ゆるめ、異世界転生ものです。 さっくり読める短編です。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...