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一章 辺境の森の中の小さな集落
9話
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「なんで初めて来たのがエルフなのーーーーっ!!」
エルフなんて今、いるとはされているけど確認されていないから、絶滅危惧種より珍獣扱いじゃないのーーっ!?
この集落は大陸を横断するバルティモア山脈の麓の深い森、通称魔森の中に張った結界の中にある。
結界自体は呪術師であるエリザナおばあちゃんから私が受け継ぎ、今でも張り続けており、定期的に結界内の見回りしては、補修や部分的な張り直しなどを行っている。
害意や悪意があるものは人や獣、それに魔獣や果ては魔物まで、何であれ絶対に越えられないのが結界だと、エリザナおばあちゃんには教わった。だからこの結界があることで、この森で暮らして行けているのだ、と。
それ以外にも実は様々な効果があることに最近村に行った時に話を聞いて気が付き、結界が何なのかを実は自分が知らないことにその時に自覚した。私はエリザナおばあちゃんに教わったことしか知らなかったのだ。
だから村から戻って来てから、おばあちゃんの遺産である家の荷物を見直して、見つけたおばあちゃんの研究書や本などを読み漁った。それで気づいてしまったことがある。
魔素や魔力についてさえ簡単なことしか書かれていなかったが、精霊について探しても。
『精霊は、人には認識できないが存在していると伝えられており、人ではないエルフには精霊を認識することができたと古代の遺跡には記されている』
と、ほとんどの本に書かれていたのは基本的にはこれだけだった。エルフなどの人間以外の他種族のことも、全てが記述は伝承のみだった。
魔素が何故減衰したのか、何故人に精霊が見えないとされているのか、そういった謎については全く検証が進んではいなかった。ただ、それに関してはエリザナおばあちゃんの本が、かなり古い物ばかりだからなのかもしれないからここまではいい。
私が精霊が見えて会話も出来るのも、何故か前世の顔と姿が一緒なのも、私がこの世界にとってはイレギュラーな存在なのだとすると全て説明がつく。私の存在に対する説明以外は、だが。でも、それよりも重要なことがあった。
それは、結界についてはどの本にも全く何の記述もされていなかったことだ。まるで結界が、全く認識されていないかのように。
どう考えても結界の有用性を思えば、知られていない方が不自然なのに、だ。
それと同じように全く記述が無かったのが、『呪術』についてだ。
エリザナおばあちゃんは自分のことを『呪術師』と言い、呪術を使えたしそれを私は受け継いでもいる。でも、『呪術師』の存在も、『呪術』の文字も記されていた本もまた一冊としてなかった。
可能性としてはかなり低いと思うが、もしかしたらエリザナおばあちゃんが『呪術』に関する本を持っていないだけなのかもしれない。けれど、そのことが妙に気になっていた。
昔、呪術の修行をしていた時に何度か尋ねた、『何故こんな森に結界を張って住んでいるのか?』の問いに、一度もエリザナおばあちゃんはまともに答えを返してくれたことは無かった。それは他の集落の人も同じで、エリザナおばあちゃんが亡くなった後に尋ねたけれど、やはり誰も答えてはくれなかった。
でもわざわざこんな誰も踏み入れない森の中に集落を造った理由はある筈で、それが『呪術師』と『結界』が世に知られていない訳と繋がっているのだろうと予測していたし、物心ついてからこの集落に外から人が来たのは、行商人のロムさんだけだったことからも、この集落は隠れ里なのだと思ってもいた。
だからーーーー。今回がこの集落で、ロムさん以外の外の人との初の会合、ということになるのだが……。しかも、結界について知っている初めての人だ。なのに……。なんで、エルフなんてものがここで出て来るの!!
「いやー、今の住処が限界でして。里の結界を張れる者が百年以上も前に絶えてしまって……。結界がない今では、点々と移住しながら暮らしているんだ。でも、山脈の麓に近い場所には魔獣や強い獣が多数生息しているから、そろそろ混血を重ねて来た私たちには山脈に近い場所に住むのも限界でね。かといって森の浅い場所に移住して人の住処に近づいて、里が人に見つかりでもしたら、何が起こるか……」
突然のエルフの出現に興奮しまくって、すったもんだを終えてやっと落ち着いて事情を聞いています。
ちなみにすったもんだとは、ピュラの言葉はエーデルドさんには聞こえず、そこから話も食い違い、やっと私がエーデルドさんが精霊の声が聞こえないと気づいて、ピュラ達から聞いたことをエーデルドさんに確認する、というあたふたとしたやり取りがあったのだ。
そこまで来て、やっと今ここに居る事情の説明、ということに……。動揺してすったもんだする私の隣ではシルバーがずっと警戒して唸っていたので、首筋を撫でながらもふもふするのも同時進行です!
ピュラの言った通り、獣人とエルフのハーフエルフだというこの人は、エーデルドと名乗った。見せて貰うと、少しだけ耳が長くて尖っていた。
エルフと獣人は人に伝わっている通り、バルティモア山脈の向こうに住んでいるそうだ。向こう側はほぼ山と森で覆われていて、その中にいくつかの国もあり、エルフや獣人、ドワーフやハーフリングなどの種族がそこで暮らしているらしい。
何故らしい、なのか?エーデルドさんも、実際にバルティモア山脈の向こうには行ったことがないから、だそうだ。
エーデルドさん達の先祖は、それこそ大気中に魔素がどこにでもあった時代に、山脈を越えてこちら側に来たそうだ。そして山裾の森の中に住居を作って定住した。
エルフ、獣人、ドワーフ、そしてハーフリングも一緒だったそうだ。ただある時に何かが起こり、大気中に含まれる魔素が著しく激減した。
そのことにより魔法に特化していたエルフは大幅に弱体化し、他の種族も魔力に適した能力を失った。そしてその時にはもう、バルティモア山脈を越えて向こうに戻ることは出来なくなっていた。
それから何百年も結界を張り、山脈の麓に人を避けて暮らしていたらしい。
ただ、その里では魔素が激減する以前から、エルフも獣人もドワーフもハーフリングも、時代が経つにつれて進む混血により、種族に特化した魔法や能力を使える人や、精霊を見える人も少なくなっていたこともあったのだそうだ。
そしてとうとう百年と少し前、結界を張れる適正を持った人もいなくなってしまった、と。それ以降は山裾は魔獣や強い相手が多いので、森の中に住居を移しながら安全な場所を求めて転々としていた、ということらしい。
人の血は入ってはいませんが、今では更に混血が進んでいて、ハーフエルフと言っても恐らくほとんど人間とやれることはもう変わりませんよ、とエーデルドさんは笑って言った。だからもう深い森の強い相手には勝てない、と。
「次の移住する候補地を探して、里の皆で手分けして山脈からもっと離れた場所を、と森の中を探し回っているんだ。それで偶然結界を見つけて、住んでいる人がいるのかと確認しに入って来たんだけど」
「私達がいた、ということね?私達からしたら、貴方が侵入者ですが」
ということだったらしい。今現存している結界があることにも最初は信じられなかった、と。
この集落を見つけたのは、偶然だったそうだ。これ以上人里へ近づく訳にもいかない、と引き返そうと思った時に丁度結界があるのを見つけたらしい。
エーデルドさんは結界がまだかろうじて残っていた時に生まれたそうで、結界のことを知っていた。だから結界はこちらに悪意や敵意が無ければ通れることを知っていたので、そのまま入って来たらしい。
エルフは、やはり想像通りに長寿の種族みたいだ。
「それは、ごめんね。周囲にほとんど気配が無かったから、無断で入って来てしまったんだ。しかし驚いたよ。結界が生きているのもそうだけど、精霊の力がこんなに満たされている場所があるなんて、誰も想像さえしないだろうな」
精霊の力、ね。私には魔素と同様に感じることは出来ていないみたいだけど、ここは精霊の力に満ちているとエリザナおばあちゃんも言っていた。その時は精霊を見れて話しも出来る私がここで育った影響だろうと言っていたが、元々ここがそういう土地なのかは私には分からない。
エリザナおばあちゃんは精霊のことは誰にも言うな、って言っていたし、もしかしたらその辺の事情もおばあちゃんは知ってたのかな……。それに結界のことも、だ。
でも、エーデルドさん反応を見ていると、結界は山脈の向こう側では当たり前のものなのだろう。
どうりでこちらの本に載っていない訳よね。でも、そうするともしかしたら『呪術』も……?
「……エーデルドさんは声は聞こえなくても、精霊は見えているんですよね?」
魔素があった時代には、エルフは精霊を見えていたというのなら、その能力を受け継いでいるからピュラ達が見えたのだろう。
「ああ、いや、ただ私は、精霊の存在を感じることが出来るだけなんだ。たまに光の玉のようにうっすらと見える時があるけど、それも滅多にないよ。それでも普段はほんのかすかに感じるだけなのに、先ほどはリザさんの周りに精霊がいるのははっきり感じられて見たら、ほのかな光がかすかに見えたんだ。リザさんのように精霊が見えて話も出来るというのは、里の長老からも聞いたことがないな。そんな人がいるなんて、初めて知ったよ」
声を掛けられた時、ピュラやスヴィー、ドォルの方に視線が向いている気がしたので、私が見えているものだと思い込んでしまったようだ。それでさっきは更に混乱したのに。
「……そうですか。エルフでもそう、なんですね」
なら、私はなんで精霊を見て話しをすることが出来るのだろうか?やはり、普通の転生とかじゃ、ないんだろうな。
「まあ、山脈の向こうは私も知らないから、もしかしたら純粋なエルフはそういう力を持っているのかもしれないよ?もう里の長老も、山脈の向こうのことを知らないのだから。ただ、人で精霊を、となると恐らく他にはいないんじゃないかな?」
初めて声を掛けられた時。こっちはこっちで初の遭遇者がエルフでかなり混乱したけれど、彼は彼で私が人間だと答えたことでかなり混乱したらしい。自分たちのように、遥か昔に山脈を越えて来たエルフと人との混血で、ここがその隠れ里か何かだと思ったのだそうだ。
まあ言われてみれば、そう考える方が多分普通なんだよね……。こんな場所に、隠れるようにひっそりとある集落なのだから。エリザナおばあちゃんが私に言わなかった事情も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
とりあえず私のことは、異世界からの転生者で、顔も以前のままだからどうやら特異な存在かもしれない、などと初対面の相手には告げることなんて出来ないから、ここで育った人間だってことで通したけど。
「……まあ、そのことは今ここで考えても分からないことなんで、ひとまず置いておくとして。エーデルドさん。あなたはここに、里ごと移住を希望されますか?」
ただ遭遇した、というだけならエルフも獣人もドワーフも、それにハーフリンクもこの世界にはいたんだ!で終わるけど、彼がここに来たのは目的があったからだ。
「はい、お願いしたい。ここの結界はまだ生きている、ということはあなたが結界を張ることが出来る、ということで間違いないのだろう?私達はもう、この森の中ではどこにも行き場もないと思っていたんだ。里ではずっと前から、人里まで下りて人と交渉するか、このまま滅びるまで森を放浪するか、という終わりの見えない議論で疲れ果てている。あなた一人の肩に、私達の里の全てを背負わそうとは思わない。けれど、あなたが私たちに手を差し伸べてくれるのなら、すがりたいと思っているよ」
何百年もの間、誰にも知られずに山裾や森の中でひっそりと暮らしていた人達。その生き方は、この集落と似ている。
私としては、この場所に人を呼び込むつもりはまったくなかった。だけど、人間じゃない彼らなら……?
エルフなんて今、いるとはされているけど確認されていないから、絶滅危惧種より珍獣扱いじゃないのーーっ!?
この集落は大陸を横断するバルティモア山脈の麓の深い森、通称魔森の中に張った結界の中にある。
結界自体は呪術師であるエリザナおばあちゃんから私が受け継ぎ、今でも張り続けており、定期的に結界内の見回りしては、補修や部分的な張り直しなどを行っている。
害意や悪意があるものは人や獣、それに魔獣や果ては魔物まで、何であれ絶対に越えられないのが結界だと、エリザナおばあちゃんには教わった。だからこの結界があることで、この森で暮らして行けているのだ、と。
それ以外にも実は様々な効果があることに最近村に行った時に話を聞いて気が付き、結界が何なのかを実は自分が知らないことにその時に自覚した。私はエリザナおばあちゃんに教わったことしか知らなかったのだ。
だから村から戻って来てから、おばあちゃんの遺産である家の荷物を見直して、見つけたおばあちゃんの研究書や本などを読み漁った。それで気づいてしまったことがある。
魔素や魔力についてさえ簡単なことしか書かれていなかったが、精霊について探しても。
『精霊は、人には認識できないが存在していると伝えられており、人ではないエルフには精霊を認識することができたと古代の遺跡には記されている』
と、ほとんどの本に書かれていたのは基本的にはこれだけだった。エルフなどの人間以外の他種族のことも、全てが記述は伝承のみだった。
魔素が何故減衰したのか、何故人に精霊が見えないとされているのか、そういった謎については全く検証が進んではいなかった。ただ、それに関してはエリザナおばあちゃんの本が、かなり古い物ばかりだからなのかもしれないからここまではいい。
私が精霊が見えて会話も出来るのも、何故か前世の顔と姿が一緒なのも、私がこの世界にとってはイレギュラーな存在なのだとすると全て説明がつく。私の存在に対する説明以外は、だが。でも、それよりも重要なことがあった。
それは、結界についてはどの本にも全く何の記述もされていなかったことだ。まるで結界が、全く認識されていないかのように。
どう考えても結界の有用性を思えば、知られていない方が不自然なのに、だ。
それと同じように全く記述が無かったのが、『呪術』についてだ。
エリザナおばあちゃんは自分のことを『呪術師』と言い、呪術を使えたしそれを私は受け継いでもいる。でも、『呪術師』の存在も、『呪術』の文字も記されていた本もまた一冊としてなかった。
可能性としてはかなり低いと思うが、もしかしたらエリザナおばあちゃんが『呪術』に関する本を持っていないだけなのかもしれない。けれど、そのことが妙に気になっていた。
昔、呪術の修行をしていた時に何度か尋ねた、『何故こんな森に結界を張って住んでいるのか?』の問いに、一度もエリザナおばあちゃんはまともに答えを返してくれたことは無かった。それは他の集落の人も同じで、エリザナおばあちゃんが亡くなった後に尋ねたけれど、やはり誰も答えてはくれなかった。
でもわざわざこんな誰も踏み入れない森の中に集落を造った理由はある筈で、それが『呪術師』と『結界』が世に知られていない訳と繋がっているのだろうと予測していたし、物心ついてからこの集落に外から人が来たのは、行商人のロムさんだけだったことからも、この集落は隠れ里なのだと思ってもいた。
だからーーーー。今回がこの集落で、ロムさん以外の外の人との初の会合、ということになるのだが……。しかも、結界について知っている初めての人だ。なのに……。なんで、エルフなんてものがここで出て来るの!!
「いやー、今の住処が限界でして。里の結界を張れる者が百年以上も前に絶えてしまって……。結界がない今では、点々と移住しながら暮らしているんだ。でも、山脈の麓に近い場所には魔獣や強い獣が多数生息しているから、そろそろ混血を重ねて来た私たちには山脈に近い場所に住むのも限界でね。かといって森の浅い場所に移住して人の住処に近づいて、里が人に見つかりでもしたら、何が起こるか……」
突然のエルフの出現に興奮しまくって、すったもんだを終えてやっと落ち着いて事情を聞いています。
ちなみにすったもんだとは、ピュラの言葉はエーデルドさんには聞こえず、そこから話も食い違い、やっと私がエーデルドさんが精霊の声が聞こえないと気づいて、ピュラ達から聞いたことをエーデルドさんに確認する、というあたふたとしたやり取りがあったのだ。
そこまで来て、やっと今ここに居る事情の説明、ということに……。動揺してすったもんだする私の隣ではシルバーがずっと警戒して唸っていたので、首筋を撫でながらもふもふするのも同時進行です!
ピュラの言った通り、獣人とエルフのハーフエルフだというこの人は、エーデルドと名乗った。見せて貰うと、少しだけ耳が長くて尖っていた。
エルフと獣人は人に伝わっている通り、バルティモア山脈の向こうに住んでいるそうだ。向こう側はほぼ山と森で覆われていて、その中にいくつかの国もあり、エルフや獣人、ドワーフやハーフリングなどの種族がそこで暮らしているらしい。
何故らしい、なのか?エーデルドさんも、実際にバルティモア山脈の向こうには行ったことがないから、だそうだ。
エーデルドさん達の先祖は、それこそ大気中に魔素がどこにでもあった時代に、山脈を越えてこちら側に来たそうだ。そして山裾の森の中に住居を作って定住した。
エルフ、獣人、ドワーフ、そしてハーフリングも一緒だったそうだ。ただある時に何かが起こり、大気中に含まれる魔素が著しく激減した。
そのことにより魔法に特化していたエルフは大幅に弱体化し、他の種族も魔力に適した能力を失った。そしてその時にはもう、バルティモア山脈を越えて向こうに戻ることは出来なくなっていた。
それから何百年も結界を張り、山脈の麓に人を避けて暮らしていたらしい。
ただ、その里では魔素が激減する以前から、エルフも獣人もドワーフもハーフリングも、時代が経つにつれて進む混血により、種族に特化した魔法や能力を使える人や、精霊を見える人も少なくなっていたこともあったのだそうだ。
そしてとうとう百年と少し前、結界を張れる適正を持った人もいなくなってしまった、と。それ以降は山裾は魔獣や強い相手が多いので、森の中に住居を移しながら安全な場所を求めて転々としていた、ということらしい。
人の血は入ってはいませんが、今では更に混血が進んでいて、ハーフエルフと言っても恐らくほとんど人間とやれることはもう変わりませんよ、とエーデルドさんは笑って言った。だからもう深い森の強い相手には勝てない、と。
「次の移住する候補地を探して、里の皆で手分けして山脈からもっと離れた場所を、と森の中を探し回っているんだ。それで偶然結界を見つけて、住んでいる人がいるのかと確認しに入って来たんだけど」
「私達がいた、ということね?私達からしたら、貴方が侵入者ですが」
ということだったらしい。今現存している結界があることにも最初は信じられなかった、と。
この集落を見つけたのは、偶然だったそうだ。これ以上人里へ近づく訳にもいかない、と引き返そうと思った時に丁度結界があるのを見つけたらしい。
エーデルドさんは結界がまだかろうじて残っていた時に生まれたそうで、結界のことを知っていた。だから結界はこちらに悪意や敵意が無ければ通れることを知っていたので、そのまま入って来たらしい。
エルフは、やはり想像通りに長寿の種族みたいだ。
「それは、ごめんね。周囲にほとんど気配が無かったから、無断で入って来てしまったんだ。しかし驚いたよ。結界が生きているのもそうだけど、精霊の力がこんなに満たされている場所があるなんて、誰も想像さえしないだろうな」
精霊の力、ね。私には魔素と同様に感じることは出来ていないみたいだけど、ここは精霊の力に満ちているとエリザナおばあちゃんも言っていた。その時は精霊を見れて話しも出来る私がここで育った影響だろうと言っていたが、元々ここがそういう土地なのかは私には分からない。
エリザナおばあちゃんは精霊のことは誰にも言うな、って言っていたし、もしかしたらその辺の事情もおばあちゃんは知ってたのかな……。それに結界のことも、だ。
でも、エーデルドさん反応を見ていると、結界は山脈の向こう側では当たり前のものなのだろう。
どうりでこちらの本に載っていない訳よね。でも、そうするともしかしたら『呪術』も……?
「……エーデルドさんは声は聞こえなくても、精霊は見えているんですよね?」
魔素があった時代には、エルフは精霊を見えていたというのなら、その能力を受け継いでいるからピュラ達が見えたのだろう。
「ああ、いや、ただ私は、精霊の存在を感じることが出来るだけなんだ。たまに光の玉のようにうっすらと見える時があるけど、それも滅多にないよ。それでも普段はほんのかすかに感じるだけなのに、先ほどはリザさんの周りに精霊がいるのははっきり感じられて見たら、ほのかな光がかすかに見えたんだ。リザさんのように精霊が見えて話も出来るというのは、里の長老からも聞いたことがないな。そんな人がいるなんて、初めて知ったよ」
声を掛けられた時、ピュラやスヴィー、ドォルの方に視線が向いている気がしたので、私が見えているものだと思い込んでしまったようだ。それでさっきは更に混乱したのに。
「……そうですか。エルフでもそう、なんですね」
なら、私はなんで精霊を見て話しをすることが出来るのだろうか?やはり、普通の転生とかじゃ、ないんだろうな。
「まあ、山脈の向こうは私も知らないから、もしかしたら純粋なエルフはそういう力を持っているのかもしれないよ?もう里の長老も、山脈の向こうのことを知らないのだから。ただ、人で精霊を、となると恐らく他にはいないんじゃないかな?」
初めて声を掛けられた時。こっちはこっちで初の遭遇者がエルフでかなり混乱したけれど、彼は彼で私が人間だと答えたことでかなり混乱したらしい。自分たちのように、遥か昔に山脈を越えて来たエルフと人との混血で、ここがその隠れ里か何かだと思ったのだそうだ。
まあ言われてみれば、そう考える方が多分普通なんだよね……。こんな場所に、隠れるようにひっそりとある集落なのだから。エリザナおばあちゃんが私に言わなかった事情も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
とりあえず私のことは、異世界からの転生者で、顔も以前のままだからどうやら特異な存在かもしれない、などと初対面の相手には告げることなんて出来ないから、ここで育った人間だってことで通したけど。
「……まあ、そのことは今ここで考えても分からないことなんで、ひとまず置いておくとして。エーデルドさん。あなたはここに、里ごと移住を希望されますか?」
ただ遭遇した、というだけならエルフも獣人もドワーフも、それにハーフリンクもこの世界にはいたんだ!で終わるけど、彼がここに来たのは目的があったからだ。
「はい、お願いしたい。ここの結界はまだ生きている、ということはあなたが結界を張ることが出来る、ということで間違いないのだろう?私達はもう、この森の中ではどこにも行き場もないと思っていたんだ。里ではずっと前から、人里まで下りて人と交渉するか、このまま滅びるまで森を放浪するか、という終わりの見えない議論で疲れ果てている。あなた一人の肩に、私達の里の全てを背負わそうとは思わない。けれど、あなたが私たちに手を差し伸べてくれるのなら、すがりたいと思っているよ」
何百年もの間、誰にも知られずに山裾や森の中でひっそりと暮らしていた人達。その生き方は、この集落と似ている。
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