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一章 辺境の森の中の小さな集落

7話

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 青い空、そして降り注ぐ夏の日差し。村から戻って早二月が経ち、季節は夏へと移り変わっていた。

 この集落は森の中にあり、バルティモア山脈からの吹きおろしの冷たい風が吹くので温度はそれ程高くはならない。それこそ日本の夏を思えば、湿気もないのでともて過ごしやすい。けれど。


「あーーーーっ。やっぱり動くと汗が凄いわ。シルバー、そこ終わったら休憩にしましょ!」
「ガウっ」

 村から集落に帰ってから、まず最初に取り組んでいるのが畑の区画整理だ。ロムさんに調味料になる苗を貰ったののもあり、全て見直すことにしたのだ。

 シルバーは野菜も出せば少しは食べるが、肉食なのでほぼ肉だ。だから野菜を食べるのは私一人なのだが、天候次第で不作の年もあるので、作付け面積は変更しない予定だ。
 あまりにも余ったら、村へ売りに行けばいいと思っている。ロムさんにもまた会いたいしね。村に住む気はないが、たまの買い出しなら行ってもいいよね。


 現代日本知識チートで内政しよう!
 と意気込んで集落に戻っては来たものの、ただ単に一人だから生活を日本式にしてみよう!という思いつきであって、別に急いでやることでもない。できるだけ快適に生活できるよう、欲しいと思った物を自分で作っていくだけだ。

 ただやることがあれば、一人きりになってしまった寂しさから気がまぎれる気がしたのだ。
 まあ失敗してもどうせ一人だしね?誰にも見られる訳でもないし、迷惑かけることもない。となったら好き放題にするだけだ。時間もたっぷりあるから、欲しい物はどんどんチャレンジしたいと思っている。

 それで最初に取り掛かったのが、今まで住んでる人数が少なかったことから、各家の傍に少しずつあった畑を整備することだ。そうすることで、効率良く畑を使うるもりだ。
 整備と言っても思い出がたっぷりある家々をどうこうするつもりもない。各家の畑毎に植える種類を変えたのだ。

 麦や大麦、根菜などの主食になるものは集落の外側に作ってある広い畑に。葉類やその他の野菜にハーブ、そして貰って来た調味料の苗の畑は個別の畑で作る。調味料に関しては本数を増やす予定で広めの場所をあらかじめ決めておいた。

 これを輪作にして、同じ場所に同じ野菜を作らないようにする予定だ。
 あとは花なども森から根ごと持って来て植えたりもしている。そのうち染料の研究でもしようと思っている。自分の好きな色の服を着たいからね!

「せっかくだから、ピュラに木の実の苗木もわけて貰って果樹園も作っちゃおうかなー」

 作っても食べるのは自分の分とシルバーだけでも、保存食各種もこの機会に作ってみたいと思う。今までは作ろうと思っても、集落の全員の分の食べる物を一人で畑の世話から収穫、森での調達をしていたのでそれだけで手いっぱいだったのだ。

 この森の木の実は日本での過度に甘い品種改良品とは違うが、自然の甘さがあってこっちの方がリザの好みに合っていた。なのでお酒や酢、ジャム各種、などいくらでも作りたい物があるのだ。
 これだけ準備しておけば、不作や、もし体調が悪くなったとしても食べ物に困るということもないだろう。


「よーし、シルバー休憩にするよー!昨日焼いたクッキー、シルバーも食べる?大麦で作ったヤツ」
「バウッ!」
「よし。じゃあ準備してくるから広場で待っててね」
「グウウっ」
 ドンっという衝撃とともに背中にもふっとした感触が。

「んんん?シルバー、家まで帰るだけだよ?そんなに心配しなくても……」
「ガウっ、ガウウっ!」
「あー、はいはい。じゃあ一緒に行こうか」

 横に並んだシルバーの毛皮をもふもふしながら家へと向かった。まったく、心配性なんだから。
 村から帰って来てから、最低限の狩りの時間以外はずっとシルバーが私の傍から離れなくなった。以前もほぼ一緒だったが、今では家の中でさえついて回る程だ。
 まあ、いつでももふもふ出来るから、私的にはいいんだけど。この集落にいるのに、そんなに心配しなくてもいいのにね。まあ、ついて回るシルバーもかわいいからいいけどね。

 畑の区画整理以外にも、集落には井戸しかなく、お風呂を作っても入れないので、思い切って近くの小川から水を引いて水路を作る準備をしている。今は引く予定の場所を決めて、整地代わりに草をむしったりと近場の森の管理も初めた。

 そして夜にはゆっくりとエリザナおばあちゃんの持っていた本も読み直している。この森のことも少しだけ書いてはあったが、村の結界についてはエリザナおばあちゃんの書き残してあった紙などを見直していても、まだ見つかってない。魔素についても推測が多く、確かなこととして書かれている本は無かった。

 夜は他にも買って来た布を、チャックとかはないがボタンを作って日本風の服を作っている。かわいいスカートは作っても森しかないので無駄になるので、いつも着ているチュニックをアレンジして日本風のワンピースチュニックにしてみた。

 型紙を立体型にし、ズボンも動きやすく工夫をするだけで大分着心地が違った。靴に関してはゴムの木を見つけたいところだけど、諦めつつはある。まあピュラでさえ見たことないって言ってたから、ここら辺の森にはないのだろう。
 自作でも、好きな服を好きな時に着れるように頑張るつもりだ。

 自分でもあれもこれもと欲張りすぎているとは思うけれど、その日にやりたくなったことをやっていたりする。まあ、内政チートをしようと決めたし、なら自由にやりたいことをやればいいよね!



「はい、シルバー」
 家の前の木陰で寝そべったシルバーのお腹にしっぽに包まれて座り、クッキーを二人で食べる。当然もふもふに包まれてもふもふしないなんてことはできないので、お腹や胸の柔らかい毛やしっぽを堪能しつつ、だ。

「これからどうしようか、シルバー。畑はシルバーのおかげで大体耕せたから、あとは畝作って苗植えるだけだから、明日の早朝の涼しい時間がいいかなー」
「グルゥ」

 首元に抱き着いて胸毛にうりうりと顔をすりつける。ああ、幸せだ。この一時があれば、また頑張れる。
 今日は朝からシルバーに作ってみた犂を引いてもらい、農地を耕した。
 犂は、朧げな記憶を頼りに適当に試作した物だ。木工は教わったので、木に大きな動物の肋骨を組み込んで作ってみた。木と骨で作るので固定が甘くてすぐにガタガタになってしまうが、それでも使わないよりも断然早い。

 さすがにこの集落に鍛冶工房はないので、金具を作ることが出来ないのだ。いつか鍛冶もやってみたいけど、教わる人がいないのが難点だ。
 村には鉄製の鍬はあったが、さすがにシルバーは使えない。それでもいくつか犂は使いつぶしたが、無事に畑を耕すことが出来た。
 

「汗もかいたし、これから少しだけ水路を掘って、その後水浴びをしようか。あ!水で思いついたけど、お風呂用に水を引くにも近くに水場があった方が便利だよね。どうせなら水路だけじゃなく、ため池も作ろう。小麦畑の近くに作れば、そこから畑に水路も作れるよね」

 集落では家で使う水は広場の井戸を使い、雨が降らずに畑に水が不足している時は、小川まで汲みに行っていた。それを一人でやるのは大変だ。
 だから小川から真っすぐ、この畑の近くまで引く予定だった。

「で、ため池のそばにお風呂を作ればいいかなー。キレイな水をどうやって引いてくるか、どうしようかと思っていたけど、それなら造れそうよね」

 そうなると、お風呂の為の小屋も必要になるけど、屋根と囲いだけで露天風呂でもいいかな。風呂桶は木で作ろう。シルバーも入れるようにとっても大きいやつ!水が漏れそうな隙間は、粘り気のある木の樹脂でつなげれば少しはもつだろうし。後で伐採していい木をピュラに教えて貰おう。

「よし!水路の道筋を変更して、ため池ね!シルバーも協力お願いね!」
「ガウガウっ!」

 水路には高低差を考えて掘らないとね。ローマ帝国の水道、どうやって作ったんだったっけ。頑張って思い出さないと!水道橋をあの時代につくれたのだから、頑張れば私も水路くらい引けるはずよ!


「じゃあタオルと着替えを家から持って来て、小川まで行きましょ!鍬も忘れずに持っていかないとね!」
 スコップはないから、シルバーにも頑張って掘って貰おう。

 さあ、少し水路を掘ったら水浴びして夕ご飯の支度よ!



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