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出会い

俺の初陣、華々しく飾ってやるぞ!

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 ──その時。


「──ん? あれはなんだろう……」

 空を飛ぶ物体。

 鳥ではなく、飛行機でもない。

「マント? 人か? 何かのスキルかな?」

 考えている間に飛び去ってしまった。

 今は、スキルがスマホ程に当たり前の時代だ。目の前で人が消えたり飛んだりしても、凄いスキルだと羨ましく思うことはあるが、宇宙人を見たような驚きはない。

 飛び去った物体を気にするでもなく先に進むと、いきなり想定内? のモンスターが現れる。

「──モ、モンスターだ。まさかこんなにすぐに遭遇するなんて……」

 急いで木の陰に隠れた。

 この町にモンスターが出てくることなんて無かった。
 最近になって目撃情報が増えてきているとは聞いていたが、現れたモンスターが大群とはついていないのか何か理由があるのか……。

 栗山町全てを見回った訳ではないが、ここに来るまでの惨状や、日本UAFのヘリコプターが着陸せずに飛び去って行った事も、町が崩壊したと思わせるに十分であった。

 町が一日で崩壊するというあり得ない事態。そんな事態を可能にするのは、家の中にまでモンスターが襲撃してきた事も踏まえると、モンスターの大群が押し寄せたと推察するのが妥当ではないだろうか。

 そして今、目の前いるのはその大群の中にいたであろう一体のモンスター。

「図鑑を持ってきて正解だな……」

 俺はモンスターが現れなかった町に住んでいたので、モンスターのことは殆ど知らない。モンスターに興味もなかったので、このモンスター図鑑さえ見るのは初めてだ。

 モンスターがまだこっちに気付いていないうちに、リュックを下ろしモンスター図鑑を開いて特徴などを調べた。

「──ええと……こいつか。俺にも相手のステータスを見れるスキルがあったら、こんな図鑑なんか見なくてもいいのに」


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 名前  ─ ゴブリン
 価値  ─ 1500円
 ランク ─ E
 総合力 ─ 50
 特徴  ─ 素早い
 スキル ─ 盗賊【相手の持ち物を奪う】
 属性  ─ 黄

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「まぁ、これくらいの情報があれば何とかやれるはずだ……って、こいつ価値が1500円もあるのか……。俺は0円だから、1500倍か? いや、1円の1,500倍が1500円だから……0円にいくら掛けても0は0で……算数は苦手だから考えるのは止めとこう」

 これ以上数字のことを考えると、モンスターどころではなくなる。

「──お兄ちゃんが12歳で1200円だよなぁ、そのお兄ちゃんに素手では全く敵わなかったんだから、ゴブリンはかなり強いということだ。だからって、戦う前から敗ける事を考えてちゃ話にならないよな。今の俺には最強の矛があるんだから、自信を持って立ち向かわないと。後は相手のスキルをどう対処するか……」

 スキルを保有しているのに使えない俺は、大人がスキルを使うところさえ見るのが嫌だつた。クラスメートの中には誕生日が来て10歳になり、職業が決定してスキルを保有する人もちらほらと出てきていた。

 そんなヤツに限って俺に嫌味をいってくる。

「お前のスキルはお飾りスキル~! バーカバーカ!」

 そのなことを言われて腹が立ったが、怒ったところで喧嘩をしても敵わない。悔しかったが、言われ放題だった。

 でも、今の俺は違う。

「──スキル『盗賊』は相手の持ち物を奪う、か。スキルを発動される前に殺らないと、この最強の矛を取られたら終わりだからな。──総合力は50か。特徴が素早いだから、素早さに多く割り振られてるだろうな。なら、攻撃力は然程でもないかな? まぁ、俺よりは全然強いだろうけど……。そっと近付いて不意打でやっつける! とにかくこいつを倒して、どんどん経験を積んでいこう。──ん? この属性ってなんだろう?」

 疑問は取り敢えず無視し、図鑑をリュックの上に置き最強の矛を抜刀した。

「大丈夫だ……今の俺なら戦える! これから遭遇する全てのモンスターには、俺が強くなる為の糧になってもらうんだ!」

 まだ体が小さいので刀のサイズが大きく扱い難いが、この最強の矛だけが俺の生きる希望だ。

 10歳の誕生日から、弱気な俺はもういない。そして、モンスターに火のボールで殺されそうになってから何故かは分からないが、最強の矛が前よりも軽く感じる。

 それでもこの身長に俺の腕力では扱い難くい事に変わりはないが、この最強の矛を振らないことにはモンスターを倒すことなど出来ない。


 ── この最強の矛さえ当てられれば、俺の今の力でも倒せるはずだ……。俺の初陣、華々しく飾ってやるぞ!


 背中を木に預けて、大きく深呼吸をした。

 気合は十分。

 ゴブリンがいる所まで息を殺して近付いた。そして、ゴブリンまで後少しになった距離を目で確かめ、意を決しゴブリンに向かって走る。

「やーー!」

 ゴブリンが俺に気付いた。

「グギーー!」

 ゴブリンも叫びながら右手に持っていた斧を振り上げ向かってくる。

「しまった! 声を出しちゃ駄目だった。ええい、ヤケクソだぁー!」

 もう近くまで来ていたので、あっという間に間合いが無くなっていく。

 この大事な局面に、いきなり下半身が涼しくなったと思った瞬間、ゴブリンの左手には見たことのあるズボンが握られていた。

「──あっ! そ、それ、俺のズボン!」

 今すぐに最強の矛を振らないと間に合わない状況だ。

「ズボンかえせーー!」

 叫び声と共に目一杯最強の矛を振り下ろした。

 お互いが相手をあやめようと武器を振り下ろす。
 俺の最強の矛とゴブリンの斧とが磁力で引き寄せられるように近づき、今まさにぶつかり合う……と思った瞬間。

 ゴブリンの斧がスパッと斬れ、俺の最強の矛がそのままゴブリンの右肩から左の脇腹まで斜めに走っていく。

「やーーっ!」

「ギギャーー!」

 最強の矛を一気に振り抜くと、上半身と下半身に別れたゴブリンが断末魔を上げた。

 ゴブリンを倒すことに成功すると、心臓が大きく脈を打った。

「す、凄い。なんだこの刀……。こんな俺がすんなり勝てたぞ。本当に最強の矛なんだなぁ。それに、初めてモンスターを倒したから興奮したのかな? 心臓が一回ドックンって大きく動いたような気が……」

 初陣を圧倒的勝利で華々しく飾り、とにかく興奮冷めやらぬ状態だ。

「──待てよ……こんな凄い刀を普通に刀や最強の矛って呼ぶのもなんだよな。んー……そうだ! 愛刀あいとうってどうかな? 俺にしか扱えないってのが愛らしいから、愛刀あいとうにしよう。ヨロシクな、愛刀あいとう!」

 幸先のいいスタートを切れた、という事にしておく。

 倒れたゴブリンが消えていき、完全に消えた後にビー玉のような玉が転がった。

「あっ! エネビ玉だ!」

 綺麗なガラスの玉。
 材質はガラスではないだろうが、見た目はビー玉そのもの。

 父がこのエネビ玉を家に一杯飾っていた。

 このエネビ玉は、様々なエネルギーに代替えが可能らしい。お金にも換金出来ると聞いたことがある。

 俺はそういったことに疎いので、どうやって使えばいいのかを知らないが……。

「黄色いエネビ玉だ。取り敢えず拾っておこう」


 ── ゴブリンの属性が【黄】だったから黄色いエネビ玉が出てきたのかな?


 ゴブリンを倒して気分が高揚し、調子が上がってきた気がした。

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