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神竜家

2人の支部長

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 ─ 福井県磯良市 C級ダンジョン ──



 ここはダンジョン内最深部。

 栗山支部の神竜支部長と磯良いそら支部の河井支部長が2人でモンスターを間引きにやってきていた。

「かぁ~……C級っつっても、2人だけじゃ骨が折れるぜ」

「はっはっ。河井よ、爺さんみたいなことを言うなよ」

 2人の支部は市を跨いで隣にあり、冒険者ランクも同じA級ということもあってとても仲が良かった。
 いわゆる悪友というやつだ。

「こんな仕事、下っ端にやらせときゃいいじゃねぇか……全く。──巌上がんじょう……何か美味しい仕事はねぇのかよ? 真面目に働いて給料貰ってもたかが知れてる。俺はもっと、こう……ガバっと儲けてぇんだ」

「お前も支部長なんだから、良い給料もらってるだろ?」

「馬鹿野郎! もっとだよ、もっとガバっとだ」

 そんな話をしながらダンジョンの空洞内を調べていると、巌上が地面の隅にあるソレを指差した。

「おい、河井! これ見てみろ」

「ああん? こんな隅っこに何があ……何だこれ? もしかして、ここからまだ下があるってぇのか? ──お前……まさかコレを知ってて俺を誘ったのか……」

「ガバっと儲けたいんだろ? 誘ってやったんだ、有難く思えよ。宝物庫の入口かもしれないんだからな……。さあ、開けてみよう」

 巌上が地面にある出入口らしき蓋に手を掛けると、河井がそれを手伝う。

 蓋を開けると階段が下へと続き、その先にはダンジョンと似た通路があった。

「──通路がある。河井、入るぞ」

「ああ……」

 中へ足を踏み入れ少し歩くと、通路の隅に白い物が沢山転がっていた。
 2人は同時に、その白い物体を近くで見ようと腰を落とした。

「コレは……エネビ玉?」

 巌上の言葉に河井が答える。

「似てるが、白い色なんてぇのは聞いたこともねぇぞ」

 巌上がソレを拾って口を聞いた。

「冷たい……。もしかして、冷的なエネビ玉じゃないのか?」

「だ、だとしたら、新資源の大発見じゃねぇか!」

 河井が興奮している。

「おい、巌上。コレを上に報告すれば俺達は英雄だが、金は入らねぇんじゃねぇのか?」

「だろうな」

「だろうなって、お前……。ガバっと儲けさせてくれるんじゃ……」

 巌上が眉を下げた河井を見て笑った。

「はっはっはっ。情けない顔をするなよ。こんなお宝があるとは思わなかったが、金になる物があればと思ってちゃんと考えてる事がある。あの人に持って行けば高く買ってくれる筈だ」

「あの人?」

「河井よ、頭を働かせろ。俺達みたいなのが憧れる人が一人いるだろ?」

 河井が腕を組んで考えている。

「あーっ! 天里支部長か!」

「そうだ。なんか最近研究にはまってて、金が幾らあっても足りないって言ってるらしい。コレを持って行けば、あの人なら金にしか見えないだろうよ」

「ああ、間違いねぇな。アメリカとの繋がりもあるっちゅう話だしな……」

 2人が顔を見合わせてニヤついている。

「あっ!」

 後から聞こえたその声に、2人が剣を抜き振り向いた。

「何者だ!」

 巌上の威圧的な声に後退りする子供。

「子供? ──何だ……目が、黒い……」

「人か?」

 2人共に警戒している。

「め、目が白い……だ、誰? どうして剣を構えるの? や、やめて……」

「喋ったってぇことは、人……だな」

 そう言って、河井は構えを解いた。

「河井……こいつ、人じゃないんじゃないか……」

 巌上にそう言われ、唾を飲み込みながらもう一度構える河井。

「なに? そ、そんなこと何故分かる?」

親父おやじの日記を読んだことがあってな、そこに黒い目の人らしからぬ人って表現があった。──こいつは、モンスターだ。殺すぞ」

 河井が首を横に振る。

「駄目だ……俺には出来ねぇよ。だって、子供だぞ? 神竜巌上しんりゅうがんじょうには人の心がねぇのか? お前、確か3人目の子供が出来たばかりじゃねぇのか?」

「ふん! それはそれ、コレはコレだ。そんなものより金だろ! 出来ないならそこで見ておけ。俺がやる!」

「た、助けてー!」

 目の黒い子供が大声を出して逃げ出した瞬間、巌上が間合いを詰め剣を振り下ろした。

「ぎぃやーー……」

 大きな叫び声を上げた子供の胴体から血が吹き出し、ゆっくりと倒れていく。

 その声が聞こえたからなのか、通路の奥の方から何やら足音のようなものが聞こえてきた。

「河井! その白いエネビ玉を拾えるだけ拾え! 奥から来る奴は大人かもしれん! 拾えるだけ拾って逃げるぞ!」

「あ、あ、ああ! わ、分かってる! 神竜巌上しんりゅうがんじょう……お前は恐ろしいヤツだよ」

 2人は急いで来た道を引き返した。



 ❑  ❑  ❑



「ニック! お父さんの声が聞こえるか!」

「お……お父さん……」

「いったい誰がこんな事を……血が、血が止まらない!」

「が……がん」

「駄目だ……もう喋るな! ──クソっ、ち、血が、血が止まらないぞー!」

 ニックと呼ばれる子の父親が、血が吹き出ている傷口を押さえている、が。

「が……がん……が、ん、じょ、う……。し、しん、りゅう……が、ん、じょ……」

 目の黒い子供の息が止まった……。

「ニーーック! おい、嘘だろ? 何でこんな事に……ニック! 返事をしてくれ! ──ううっ、クソっ! 許さん……がんじょう……しんりゅうがんじょう……この名は絶っっ対に忘れん!」


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