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神竜家
選ばれし子
しおりを挟む─ 神竜貴史の誕生 ──
今日は10月27日。
世界的に起きた大災害で沢山の人が命を落とした日。そして沢山の人の命を繋ぐ新しい資源が発見された日。
世界共通の祝日『命の日』
世界史に刻まれた29年前の10月27日と同じ日だ。
「はぁ、はぁ、うっっっっあーーっ!」
「頑張れ、#里見_さとみ__#! あともう少しだぞ!」
ベッドに横になって荒い声を上げているのは神竜里見。
そして、その横で里見を励ましているのが神竜巌上だ。
「ママさん、あと少しですよ。呼吸法を教えたでしょ? はい、ひっひっふー、ひっひっふー」
助産師さんが里見に、事前に教えていた呼吸法をするように促している。
「は、はい、ひっひっふー、ひっひっふー」
「さあ! いきんで!」
「は、はい! んんっっ……はあーー!」
「はい! もう一度!」
「はいー! んーーい゛ーんあーー!」
巌上は左に右に行ったり来たり。
「お父さん、もう少し落ち着いて下さい。──そうだ、赤ちゃんの名前はもう考えてるんですか?」
助産師さんの言葉に巌上が立ち止まった。
「は、はい! お、男の子だと聞いているので……貴史、神竜貴史です!」
「神竜貴史君……いい名前ですね~。──あっ! 貴史君、出てきましたよ~」
「──おんぎゃ~、おんぎゃ~!」
助産師さんの声と同じくして、元気のいい赤ちゃんが産声を上げた。
「で、でかしたぞ、里見!!」
助産師さんが赤ちゃんを抱き上げ。
「ママさん、パパさ~ん、元気な男の子でちゅよ~」
助産師さんも嬉しいのか、里見と巌上に赤ちゃん言葉を使っているのが可笑しい。
「か、看護師さん! あ、ありがとうございます。看護師さんのお陰で、里見も安心して出産できたと思います!」
「いえいえ~。そんなことより……あ~、きましたよ~。さあ、ステータスが浮かび上がりますよ~」
産まれて間もなくすると、赤ちゃんの体がプルプルと震えだす。
ステータスが浮かび上がるサインだ。
「こ、これは……」
「えっ?」
浮かび上がった貴史のステータスを見た巌上と里見は、口を開き固まってしまった。
ついでに看護師さんまでもが……。
━━━━━━━━━━━
名前 ─ 神竜貴史
価値 ─ 0円
ランク ─ ━
職業 ─ ━
状態 ─ 良
総合力 ─ ━
スキル ─ 最強
━━━━━━━━━━━
スクリーンに映写するように浮かび上がったステータスには価値が0円と表示され、文字が表示される筈のないスキル欄には『最強』の文字が。
そして、文字の色が通常の白ではなく、赤色で表示されていた。
口を開いたまま動きが止まっている三人だったが、時を経て動き出す。
「──価値が0円だと? しかも文字が真っ赤じゃないか!」
「あなた……この子、もうスキルを保有してるわ。しかも『最強』だって!」
生唾を飲み込んでいる巌上。
「ああ、俺も見てるよ。──正直驚いたが、この子は選ばれし子なのかもしれないぞ。──さ、里見? まだ起き上がっちゃ駄目だろ!」
「だって、興奮しちゃって寝転んでなんていられないもの!」
出産直後だというのに、二人は踊り出し狂喜乱舞していた。
「駄目ですよ、ママさん。パパさんも、ママさんを興奮させないで下さい!」
助産師に怒られる巌上と里見。
巌上も里見も一瞬戸惑っていたが、余りにも見たことの無いステータスに、「選ばれた子」だと何度も言う。
価値が0円なのも化ける前触れかもしれないと、笑顔が絶えない2人。
巌上に至っては。
「これは、6歳の定期検診と、10歳の誕生日に行う儀式が楽しみだな! 10歳の儀式で全てのステータスが構築された貴史を想像すると……ああ、いかんいかん、今産まれてきたばかりなのに、親馬鹿も程々にせんとな。──っ駄目だ、顔がニヤつく。
貴史は10歳の儀式で職業が決まると、化け物のようなステータスが構築されるぞ! あ~、早く大きくなってくれ~」
などと喚いている。最早、親馬鹿を通り越し、ただの妄想バカだ。
巌上は立ったまま、里見はベッドに横になって頷き合っている。
巌上はまだ「この子は他とは違う、必ず大物になるぞ!」と、叫んでいる始末……。
「あの~、お静かにしてもらえます?」
助産師さんが当たり前の言葉を発すると、巌上は頭を下げて反省の意を表した。
「それでは、出産前に同意して頂いていました通り、ステータスロックを今から施しますね」
「お騒がせして申し訳ない。──ステータスロックですね、確かに同意しました。──お願いします!」
巌上が今度は深々と頭を下げた。
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