運命を超えて、ただ君を

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【プロローグ】― 風に揺れる未来

 その日、風が吹いていた。
 公爵家の庭園に広がる花々が揺れ、木々がざわめく。
 そして――白銀の髪もまた、風に踊るように揺れた。

 リリアーヌ・フォン・アーデルハイトは、紫の瞳を細めながら静かに立ち尽くしていた。
 目の前には、小さな妖精が宙に舞っている。透き通る翅を持ち、光の粒子を散らしながら、彼女の前でくるくると宙返りをした。

「リリアーヌ、あなたに特別なものを見せてあげる」

 妖精の声はまるで鈴の音のようだった。
 その瞬間、視界が白く染まる。風が強くなり、髪が大きく揺れた。

 ――そして、リリアーヌは「未来」を見た。

 ひとつの未来。
 そこには、王子アレクセイが愛する人と微笑み合う姿があった。
 その隣に、彼女はいなかった。

 もうひとつの未来。
 そこには、彼女が王子に想いを告げ、彼が彼女の手を取る姿があった。
 だが、それはあまりに幻想的で、現実味がなかった。

「どうする?」妖精は微笑んで問いかける。

 リリアーヌは、そっと唇を噛みしめた。
 運命を変えることはできる。
 でも――それをする勇気が、彼女にはなかった。

「……私は、何もしない」

 そう答えた瞬間、未来の光景はすべて消え去った。
 まるで、夢を見たかのように。

 風が吹き、夕日が赤く彼女の姿を染める。
 それは、彼女が選んだ運命の色だった。
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