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待ってるから
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第3話
待ってるから。
私は、茉莉乃のいる病院に向かった。
茉莉乃がいるのは南棟の精神科。204室。
「あら。貴方松谷 茉莉乃ちゃんのお姉ちゃんよね。」
「はい。」
「茉莉乃ちゃん落ち着いてきたわよ。今なら全然面会できるわ。来て。話していってちょうだいね」
とても明るい看護婦さん。
優しい顔。
吸い込まれるような綺麗な瞳。
こんな人になりたい。
そんな事を思った。
「茉莉乃ちゃん。開けるわよ」
看護婦さんが茉莉乃の部屋のカーテンを開ける。茉莉乃はベッドに座って本を読んでいた。
「茉莉乃。」
「お姉ちゃん」
「茉莉乃。日を改めて外出許可がでたら、すぐに実咲ちゃん達の両親にも謝罪しに行きましょう。」
「…会わせる顔ない。」
「だめよ。逃げちゃだめよ。どうにか自分で収集をつけなさい。自分で蒔いた種は自分で摘むのよ。実咲ちゃん達をまた今度ここに連れてくるわ。まずは実咲ちゃん達に謝りなさい。許してくれなくても何度でも。貴方は謝る義務があるのよ。」
「………」
「それと…ママが再婚するって」
「え?」
「再婚するんですって。」
「だれと?!」
「前原裕二さん。。私たちの知らない男の人」
「なんで…」
「茉莉乃がパパ パパいうから、ママ。茉莉乃には新しい人が必要って思っちゃったのよ。」
「私が欲しいのはパパなのに。お義父さんなんかじゃない。ましてや、そんな、私たちの知らない。ママだけしか知らないお義父さんなんていらない。」
茉莉乃。私も思いは一緒よ。
でもね。ママには、幸せになって欲しいのよ。
お義父さんと再婚して、幸せになって欲しいのよ。
「お姉ちゃん。そのおじさんどんな人?」
「優しそうでかっこいい人よ。静かそうな人で、38歳よ。パパに似ている。。さっきまでファミレスで一緒にお茶してたのよ。でも、飛び出してきちゃった。」
「え?」
「だって、あの人にパパの代わりは勤まってもパパには慣れっこないもん。」
「お姉ちゃん」
まるで、大好きな目的の漫画を買っておまけで付いてきた必要のないあってもなくても変わらないそんな付録みたいだ。
「…私もう帰るね。また、電話するから」
「あ…うん。私もまた連絡する。」
家に帰る。
見たことない車が止まっている。
もしかして、おじさんの…
私は帰りたくない。
「雪乃?」
この声は。
「ママ」
「雪乃。コンビニ行ってたのよ、さっきの事は咎めないわ。さぁ、裕二さんもお待ちよ。家に入りなさい。」
やっぱり。
おじさんがいるんだ。
ママに無理やり家に入れられる。
和室のパパの仏壇の前におじさんが座っている。いやだ。離れて。
こんな人はパパじゃない!
そんな念をおじさんに送る。
おじさんは立ち上がってリビングに行く。
私はホッとした。でも、それも束の間。
おじさんはパパが座っていた椅子に腰をかけたのだ。。
私は自分が怖かった。
おじさんを殴ってしまいそうだ。
自分の部屋に行く。
階段を上る。
「雪乃ちゃん」
おじさんが私の名前を呼んだ。
少しホッとした。
雪乃ちゃん。この呼び方はパパはしていなかった。良かった。ホッとした。
パパは、『雪』か、『雪乃』だった。
安心した。
「はい?」
「雪乃ちゃんは今日の夜ごはんなにがいい?」
「え。?」
「今日は僕が作るんだよ。。何が食べたい?」
ママ。私はパパとママのごはんが好きなのよ。
おじさんのごはんなんて…
「やっぱり、ハンバーグとか、オムライスとか?あっ!おじさんの得意料理はね。麻婆豆腐なんだよ。」
私は胸が痛くなった。
パパの得意料理と一緒。
パパの麻婆豆腐は、少し辛くてでも美味しくて大好きだった。茉莉乃も大好きだった。
ママ。貴方はなぜパパと似ている人を再婚相手に選んだの?嫌だよ。
こんな、こんなおじさんが、パパに似ているなんて。パパについてくる付録みたいなものなのに。
「雪乃ちゃんは何がいい?」
「…す…いませ…ん。私気分が悪いので今日よりごはん入りません。もう部屋で休みます、」
私は逃げるように部屋へ向かう、
部屋へ戻って至る所にある家族写真。
その中でも1番特別。
パパと最後に行った旅行での写真だ。
パパは優しく微笑んでいる。
ママはパパを見てニコニコしている。
茉莉乃はカメラを見て歯を出して笑っている。
私はこれが最後の家族旅行になるとは思ってもいなかった。
「パパ。一度で良いから…会わせてよ。言いたいことたくさんあるよ。」
パパじゃなきゃ嫌なのよ。
なんで…これまでのあの時間を大切にしなかったの。そう後悔してももう遅い。
翌日
「おはよう」
「おはよう。」
「おはよう」
2人に挨拶するとこだまのように帰ってきた。
莉央は、場を盛り上げようとしているのかニコニコ。
南は私の心を察知しすぎて暗い顔。
「ねぇー。きいてよおー!!」
「どしたの?莉央」
「バカな私追試なんだよぉ~」
「莉央。場の空気を読んでよ!」
南に怒られている莉央。
「南。いいのよ、、私も明るい場にいないとやっていけないもの」
「雪乃」
明るいところ。
そんなところに入れる私は幸せね。
「ちょっと、二階に行ってくるね。。」
「なんでぇ?」
莉央が首をかしげる
「部活の後輩。実咲ちゃん達に用があって」
「あ…あぁ。そうだったね。ついていこうか」
「ううん。大丈夫。ありがとう。南」
「…もう直ぐ授業始まるから、急ぎなね。」
「うん。行ってくるわ」
「ただいまー」
私は家に帰った。
今日は疲れているの。
そういう相手がいないのは悲しい。
「あ。おかえりなさい」
「え。」
家にはおじさんがいた。
なんで。
「な…んで。」
「あ。驚かせちゃったね。ごめんね。百合さんに鍵をもらったんだよ。」
「え。。あ、、いえ。こんにちは。」
おじさんは台所の掃除をしていた。
フライパンの場所を変えている。
わたしは心の中で確かに叫んだ。
フライパンはパパのお気に入り。
勝手に触らないで。パパのお気に入りの思い出のもの。やめて、、
「叔父さん。フライパンは触らないで。」
「え?」
わたしはとっさにそういった。
「そのフライパンはパパのお気に入りのなんです。パパがそれを使ってよくオムレツを作ってくれた大切な思い出のものです。」
「あ、、ごめんね。そうだよね。」
「いえ。これから、気をつけていただければ」
ハッとした。
私はこの人を認めているんだ。。
『これから』なんて…これからも私はこの人を家に入れるの??なんで…
「雪乃ちゃん?」
「あ、なんでもないです」
「そう?。今日は、百合さん遅いみたいなんだ。だから、今日は僕が泊まって、夕飯を作ってくれって頼まれたんだ。今日は何がいいかな?」
「え。」
ママ。ひどいよ。
よくそんなひどいことができるね。
パパが可哀想だよ。
パパに会いたいよ。
「雪乃ちゃん?」
「あ、今日は、、なんでもいいです。ちょっと病院に行ってきます」
「え?風邪でも引いたの?だいじょうぶ?」
「茉莉乃がいる病院です。」
「あ、そうなんだ。ごめんね。1人で行けるかな。。僕が送ろうか」
「大丈夫です。バスで駅まで行って、一駅乗るだけですから。」
「そう…なんだ、」
この人は何も知らない。家の事情も、、茉莉乃のことも、。私の好きだったパパがどんな人かそんなことさえも知らない。大嫌いだ。
私はスマホと財布を通学鞄から取り出して、
鞄にもう一度詰めて、家を足早に出る。
…でも、パパがいなくなることを理解できない茉莉乃の気持ちは痛いほどわかる。
私だって、涙が出なかった。茉莉乃と同じで。
私たちは、パパのお葬式の時も涙が全く出なかった。涙が出なくて、よく分からなかった。
親戚の人にもママにも不謹慎だと、なぜ泣かないのかと、問い詰められたりした。
その質問には答えられなかった。パパは帰ってくる。家に帰ったらパパがいるんだ。そう思ってそう信じていた。火葬をする時まで。
なんで焼くの?熱いじゃん。パパが可哀想だと、私はその時初めて涙を流した。パパはもう帰ってこない。そう、教えられた気がした。
もう会えないと。
でも、それでも茉莉乃は、
『お姉ちゃん。パパはね。家にいるんだよ。早く帰りたいね』
そう言っていた。
その言葉を聞いた親戚の大人たちはみんな泣いていた。この子は本当にパパを愛しているのだと、そう確信できたからだ。
この、茉莉乃が1番可哀想だ。1番…優しい子だと。そんな風に思った。
その日家に帰って、茉莉乃は泣いた。
パパが家にいないからだ。
『なんでいないの?』と言って…
ママも誰も茉莉乃を諭す人はいなかった。
それから、茉莉乃は、笑う、ということを一切しなくなった。
パパが死ぬことが私たち一家を狂わせたんだ。
パパをひいた人が憎い。
「お姉ちゃん」
ハッとした。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?」
「うん。茉莉乃。みさきちゃんたちに謝ってきたよ。許してくれたわ。だから次はあなたが謝りなさい。それで解決だから」
「うん。」
「まぁ、もうすぐ退院だろうから、前を向いてね。いこうね。」
「うん。私も早くそのおじさんに会いたい。どのくらい変な人かも知りたいわ」
「物好きね。あんな人が。いるとムカムカするだけなのに」
「お姉ちゃん。」
「あ、ごめんごめん。」
「私も気持ちが落ち着いてきたし、また支えるよ。」
「うん。ありがとう。」
でも、あなたにはまだそんなことできないよ。
出来るはずがないのよ。。あの人が家に入り込んできて、、私たちがいる場所も消されてしまいそうだ。
「あ、もうこんな時間ね。帰るわ。あの人が家でなんか作って待ってるみたいだし」
「お姉ちゃん…」
「ん?」
「お姉ちゃん。結局その人受け入れてるじゃない。」
「え。」
私は、くらっとした。確かに私はあの人を受け入れてる。
何をやってるんだ。
でも…
「受け入れてないわ。ただ、。あの人。寂しそうなの。さみしそうにしているの。まるで落ち込んでいるパパみたいで。。なんとなく。ほっとけなくて。。茉莉乃。パパと似ている人は、嫌ね。本当に嫌ね。」
私は、そのまま、病室を出た。
病院を歩いている。
背後からざわざわした声と足音が聞こえる。
「お姉ちゃん!!」
茉莉乃の声だ、
茉莉乃が病室から出て私の方に走ってくる。
それを必死に止めている病院の人たちがいた。
「お姉ちゃん!私。治すから!!心も、これまでのように、お姉ちゃん!待ってて。置いていかないで!」
茉莉乃は、寂しかったの?
寂しいのは誰よりも私がよくわかっている。
茉莉乃が寂しいのも、私も寂しいのよ。
「茉莉乃、、、待ってる!早くこっちにおいで!」
茉莉乃は床に座って泣いている。
13歳の子が背負うには大きすぎる重荷だったのかもしれない。
茉莉乃は、私にとって大切な家族。
私は歩き出した。
私たちが前へ進むために、歩き出した。。
まだまだゴールは先だと知るために…
待ってるから。
私は、茉莉乃のいる病院に向かった。
茉莉乃がいるのは南棟の精神科。204室。
「あら。貴方松谷 茉莉乃ちゃんのお姉ちゃんよね。」
「はい。」
「茉莉乃ちゃん落ち着いてきたわよ。今なら全然面会できるわ。来て。話していってちょうだいね」
とても明るい看護婦さん。
優しい顔。
吸い込まれるような綺麗な瞳。
こんな人になりたい。
そんな事を思った。
「茉莉乃ちゃん。開けるわよ」
看護婦さんが茉莉乃の部屋のカーテンを開ける。茉莉乃はベッドに座って本を読んでいた。
「茉莉乃。」
「お姉ちゃん」
「茉莉乃。日を改めて外出許可がでたら、すぐに実咲ちゃん達の両親にも謝罪しに行きましょう。」
「…会わせる顔ない。」
「だめよ。逃げちゃだめよ。どうにか自分で収集をつけなさい。自分で蒔いた種は自分で摘むのよ。実咲ちゃん達をまた今度ここに連れてくるわ。まずは実咲ちゃん達に謝りなさい。許してくれなくても何度でも。貴方は謝る義務があるのよ。」
「………」
「それと…ママが再婚するって」
「え?」
「再婚するんですって。」
「だれと?!」
「前原裕二さん。。私たちの知らない男の人」
「なんで…」
「茉莉乃がパパ パパいうから、ママ。茉莉乃には新しい人が必要って思っちゃったのよ。」
「私が欲しいのはパパなのに。お義父さんなんかじゃない。ましてや、そんな、私たちの知らない。ママだけしか知らないお義父さんなんていらない。」
茉莉乃。私も思いは一緒よ。
でもね。ママには、幸せになって欲しいのよ。
お義父さんと再婚して、幸せになって欲しいのよ。
「お姉ちゃん。そのおじさんどんな人?」
「優しそうでかっこいい人よ。静かそうな人で、38歳よ。パパに似ている。。さっきまでファミレスで一緒にお茶してたのよ。でも、飛び出してきちゃった。」
「え?」
「だって、あの人にパパの代わりは勤まってもパパには慣れっこないもん。」
「お姉ちゃん」
まるで、大好きな目的の漫画を買っておまけで付いてきた必要のないあってもなくても変わらないそんな付録みたいだ。
「…私もう帰るね。また、電話するから」
「あ…うん。私もまた連絡する。」
家に帰る。
見たことない車が止まっている。
もしかして、おじさんの…
私は帰りたくない。
「雪乃?」
この声は。
「ママ」
「雪乃。コンビニ行ってたのよ、さっきの事は咎めないわ。さぁ、裕二さんもお待ちよ。家に入りなさい。」
やっぱり。
おじさんがいるんだ。
ママに無理やり家に入れられる。
和室のパパの仏壇の前におじさんが座っている。いやだ。離れて。
こんな人はパパじゃない!
そんな念をおじさんに送る。
おじさんは立ち上がってリビングに行く。
私はホッとした。でも、それも束の間。
おじさんはパパが座っていた椅子に腰をかけたのだ。。
私は自分が怖かった。
おじさんを殴ってしまいそうだ。
自分の部屋に行く。
階段を上る。
「雪乃ちゃん」
おじさんが私の名前を呼んだ。
少しホッとした。
雪乃ちゃん。この呼び方はパパはしていなかった。良かった。ホッとした。
パパは、『雪』か、『雪乃』だった。
安心した。
「はい?」
「雪乃ちゃんは今日の夜ごはんなにがいい?」
「え。?」
「今日は僕が作るんだよ。。何が食べたい?」
ママ。私はパパとママのごはんが好きなのよ。
おじさんのごはんなんて…
「やっぱり、ハンバーグとか、オムライスとか?あっ!おじさんの得意料理はね。麻婆豆腐なんだよ。」
私は胸が痛くなった。
パパの得意料理と一緒。
パパの麻婆豆腐は、少し辛くてでも美味しくて大好きだった。茉莉乃も大好きだった。
ママ。貴方はなぜパパと似ている人を再婚相手に選んだの?嫌だよ。
こんな、こんなおじさんが、パパに似ているなんて。パパについてくる付録みたいなものなのに。
「雪乃ちゃんは何がいい?」
「…す…いませ…ん。私気分が悪いので今日よりごはん入りません。もう部屋で休みます、」
私は逃げるように部屋へ向かう、
部屋へ戻って至る所にある家族写真。
その中でも1番特別。
パパと最後に行った旅行での写真だ。
パパは優しく微笑んでいる。
ママはパパを見てニコニコしている。
茉莉乃はカメラを見て歯を出して笑っている。
私はこれが最後の家族旅行になるとは思ってもいなかった。
「パパ。一度で良いから…会わせてよ。言いたいことたくさんあるよ。」
パパじゃなきゃ嫌なのよ。
なんで…これまでのあの時間を大切にしなかったの。そう後悔してももう遅い。
翌日
「おはよう」
「おはよう。」
「おはよう」
2人に挨拶するとこだまのように帰ってきた。
莉央は、場を盛り上げようとしているのかニコニコ。
南は私の心を察知しすぎて暗い顔。
「ねぇー。きいてよおー!!」
「どしたの?莉央」
「バカな私追試なんだよぉ~」
「莉央。場の空気を読んでよ!」
南に怒られている莉央。
「南。いいのよ、、私も明るい場にいないとやっていけないもの」
「雪乃」
明るいところ。
そんなところに入れる私は幸せね。
「ちょっと、二階に行ってくるね。。」
「なんでぇ?」
莉央が首をかしげる
「部活の後輩。実咲ちゃん達に用があって」
「あ…あぁ。そうだったね。ついていこうか」
「ううん。大丈夫。ありがとう。南」
「…もう直ぐ授業始まるから、急ぎなね。」
「うん。行ってくるわ」
「ただいまー」
私は家に帰った。
今日は疲れているの。
そういう相手がいないのは悲しい。
「あ。おかえりなさい」
「え。」
家にはおじさんがいた。
なんで。
「な…んで。」
「あ。驚かせちゃったね。ごめんね。百合さんに鍵をもらったんだよ。」
「え。。あ、、いえ。こんにちは。」
おじさんは台所の掃除をしていた。
フライパンの場所を変えている。
わたしは心の中で確かに叫んだ。
フライパンはパパのお気に入り。
勝手に触らないで。パパのお気に入りの思い出のもの。やめて、、
「叔父さん。フライパンは触らないで。」
「え?」
わたしはとっさにそういった。
「そのフライパンはパパのお気に入りのなんです。パパがそれを使ってよくオムレツを作ってくれた大切な思い出のものです。」
「あ、、ごめんね。そうだよね。」
「いえ。これから、気をつけていただければ」
ハッとした。
私はこの人を認めているんだ。。
『これから』なんて…これからも私はこの人を家に入れるの??なんで…
「雪乃ちゃん?」
「あ、なんでもないです」
「そう?。今日は、百合さん遅いみたいなんだ。だから、今日は僕が泊まって、夕飯を作ってくれって頼まれたんだ。今日は何がいいかな?」
「え。」
ママ。ひどいよ。
よくそんなひどいことができるね。
パパが可哀想だよ。
パパに会いたいよ。
「雪乃ちゃん?」
「あ、今日は、、なんでもいいです。ちょっと病院に行ってきます」
「え?風邪でも引いたの?だいじょうぶ?」
「茉莉乃がいる病院です。」
「あ、そうなんだ。ごめんね。1人で行けるかな。。僕が送ろうか」
「大丈夫です。バスで駅まで行って、一駅乗るだけですから。」
「そう…なんだ、」
この人は何も知らない。家の事情も、、茉莉乃のことも、。私の好きだったパパがどんな人かそんなことさえも知らない。大嫌いだ。
私はスマホと財布を通学鞄から取り出して、
鞄にもう一度詰めて、家を足早に出る。
…でも、パパがいなくなることを理解できない茉莉乃の気持ちは痛いほどわかる。
私だって、涙が出なかった。茉莉乃と同じで。
私たちは、パパのお葬式の時も涙が全く出なかった。涙が出なくて、よく分からなかった。
親戚の人にもママにも不謹慎だと、なぜ泣かないのかと、問い詰められたりした。
その質問には答えられなかった。パパは帰ってくる。家に帰ったらパパがいるんだ。そう思ってそう信じていた。火葬をする時まで。
なんで焼くの?熱いじゃん。パパが可哀想だと、私はその時初めて涙を流した。パパはもう帰ってこない。そう、教えられた気がした。
もう会えないと。
でも、それでも茉莉乃は、
『お姉ちゃん。パパはね。家にいるんだよ。早く帰りたいね』
そう言っていた。
その言葉を聞いた親戚の大人たちはみんな泣いていた。この子は本当にパパを愛しているのだと、そう確信できたからだ。
この、茉莉乃が1番可哀想だ。1番…優しい子だと。そんな風に思った。
その日家に帰って、茉莉乃は泣いた。
パパが家にいないからだ。
『なんでいないの?』と言って…
ママも誰も茉莉乃を諭す人はいなかった。
それから、茉莉乃は、笑う、ということを一切しなくなった。
パパが死ぬことが私たち一家を狂わせたんだ。
パパをひいた人が憎い。
「お姉ちゃん」
ハッとした。
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?」
「うん。茉莉乃。みさきちゃんたちに謝ってきたよ。許してくれたわ。だから次はあなたが謝りなさい。それで解決だから」
「うん。」
「まぁ、もうすぐ退院だろうから、前を向いてね。いこうね。」
「うん。私も早くそのおじさんに会いたい。どのくらい変な人かも知りたいわ」
「物好きね。あんな人が。いるとムカムカするだけなのに」
「お姉ちゃん。」
「あ、ごめんごめん。」
「私も気持ちが落ち着いてきたし、また支えるよ。」
「うん。ありがとう。」
でも、あなたにはまだそんなことできないよ。
出来るはずがないのよ。。あの人が家に入り込んできて、、私たちがいる場所も消されてしまいそうだ。
「あ、もうこんな時間ね。帰るわ。あの人が家でなんか作って待ってるみたいだし」
「お姉ちゃん…」
「ん?」
「お姉ちゃん。結局その人受け入れてるじゃない。」
「え。」
私は、くらっとした。確かに私はあの人を受け入れてる。
何をやってるんだ。
でも…
「受け入れてないわ。ただ、。あの人。寂しそうなの。さみしそうにしているの。まるで落ち込んでいるパパみたいで。。なんとなく。ほっとけなくて。。茉莉乃。パパと似ている人は、嫌ね。本当に嫌ね。」
私は、そのまま、病室を出た。
病院を歩いている。
背後からざわざわした声と足音が聞こえる。
「お姉ちゃん!!」
茉莉乃の声だ、
茉莉乃が病室から出て私の方に走ってくる。
それを必死に止めている病院の人たちがいた。
「お姉ちゃん!私。治すから!!心も、これまでのように、お姉ちゃん!待ってて。置いていかないで!」
茉莉乃は、寂しかったの?
寂しいのは誰よりも私がよくわかっている。
茉莉乃が寂しいのも、私も寂しいのよ。
「茉莉乃、、、待ってる!早くこっちにおいで!」
茉莉乃は床に座って泣いている。
13歳の子が背負うには大きすぎる重荷だったのかもしれない。
茉莉乃は、私にとって大切な家族。
私は歩き出した。
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