アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ

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王宮での断罪③

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 しかし【CAMERA】は床に落下する前に、誰かの手により掬い上げられる。

「我々が記録映像は確かなものだと保証したのだが、それをバカディ公爵家令息は信用できないと言われるのですかな」

 アフォネン伯爵の手だった。
 魔導師団団長が技術研究所所長と共にやって来て、じろりとシューサイに威圧を掛ける。
 ふふふ、監視カメラの件が話題に上ったら来てくださいねーと、予めお願いしていたのよ。

「父上! 本当に本物なのですか!?」

 本物だったら、セシルの嘘が確定するもんね。
 信じたくないんでしょう。やって来た父親に縋るようなナルシスだけど、アフォネン伯爵の目は冷たい。

「くどい! それにおまえを既に廃籍した。今後父と呼ぶな!」

 吐き捨てるような物言いに、ナルシスは理解が追いついていないみたい。

「……ハイセキって……廃籍!? 何故ですか!」

 何も解ってない息子に、アフォネン伯爵は苦々し気に顔を顰めた。
 ナルシスと同じ銀の長髪に紫紺の瞳だけれど、顔立ちはあまり似てなくて、どちらかと言えば精悍な感じだ。

「リズボーン家の至宝、マリアージェ公女殿下に対しありもしない罪を着せようとは王族に対する“反逆”である。
 第二王子とつるんで自身も高位の存在と驕ったのか!?
 お前のような愚か者は、もはや我が子とは認めん。愚か者どもと共に処罰を受けよ!」

 アフォネン伯爵の言葉にぎょっとしたのは、シューサイもだ。
 王妃様に寵愛されている第二王子の側近で、実家も公爵家だから、の公爵家令嬢のわたしを貶めたとしても大丈夫だとか思ってたんだろうな。
 それなのに王妃は幽閉、王子は継承権剥奪だ。でも実家の公爵家と宰相の父親がいればまだ何とかなるとか、甘えた事考えてたんじゃねーだろーなこら!
 バカが今更ながら顔を蒼褪めさせているわ。

 しかし……イケオジに至宝とか言われちゃったんだけど、え、何それ、こっぱずかしい!
 なんて内心悶えていたら、すっとシューサイに叩かれた左手をお兄様に掬い上げられる。
 ん? と振り仰いでみたけど……表情が読めねー。
 ピリピリイライラとは違う不機嫌さがあるような……何ですか? お兄様。
 手の甲を親指の腹でスリスリ。……なになになに!?

 わたしが別方向に意識を逸らしている間に、第二王子バカが呆然自失から戻って来た。
 口を半開きにアホ面晒していたんだけど、我に返ってダンダンと足を踏み鳴らす。

「セシル! どういう事だ!?」

 あ、セシルは第二王子バカが呆然としている隙に、後方へと距離を取ってるわよ。
 ほらほら、あんたの後ろよー。

 キョロキョロ見回して、やっと見つけたら二歩で詰め寄って腕を掴んでいる。
 ノーキングはバカと反対側に詰め寄った。

「ボクたちに嘘をついたのかっ!」

「セシル、本当の事を言ってくれ!」

 セシルは左右から上背のある男に圧を掛けられて、怯えた様にちょっと涙ぐんでいる。

「ちがっ……ヒドイ……ぐすん。“ある方”に頼まれたからぁ、仕方なかったんだもん」

 “もん”て。
 ビッチから幼女にシフトチェンジか!
 泣くか!? 泣いたー! 女優だな、セシル。
 だけどなんでこっちをちらっと見るかな。第二王子バカとノーキングが視線誘導されてるじゃないの!
 見る見る次男ズのご面相が憤怒に歪んでくわー。

「貴様のせいかーーー!!!」

 叫んだのは第二王子バカだけど、剣を抜きながら突進してきたのはノーキング。
 さすがにこれはシャレにならない。
 阿鼻叫喚。

 ガキーンと金属がぶつかり合う音が響いた後、ドカッバキッと鈍い音が続く。
 待機していた数名の騎士たちが、四馬鹿次男ズを無力化し床に沈め拘束していた。
 あ、我が家の騎士もいるわ。グッジョブ!

「おまえたち、捕まえるのはマリアージェだ! 王子のボクにこんな狼藉を働いてただで済むと思っているのかー!!」

 『俺様』じゃねーのかよ! 素のボクちゃんに戻ってるよ、ははは。
 実はもう王子じゃないあんたを拘束したからって罪に問われないわよ。
 無実なら問題だけど、このパーティだけで既に無自覚に罪を自供しているものね。

「なんで? なんで? なんで魔法使えないの!?」

 いやーナルシス、なんか右手を掲げてキザなポーズ決めてるなーと思ったんだ。攻撃魔法を放とうとしてたのかよ!

 拘束されて尚喚くナルシスは、拘束している騎士が更に膝を背中に載せてきたから、「ぐぅ」を呻いて床で潰れてしまった。
 細っこい身体だから、あばら骨が折れたかもしれないわね。

「王宮内で魔法は禁じられている事も知らんのか!」

 アフォネン伯爵、息子の頭を蹴るのはどうかと思うよ。

 王宮内では原則魔法は禁止。使えないよう一帯に防衛魔法陣が敷かれている。
 でもそれは主に攻撃魔法と精神操作系魔法。生活魔法と防御魔法は使えるのよ。
 ということで、わたしは防御結界を展開していたから、たとえナルシスが攻撃してこようと、ノーキングが剣を振り下ろしても防いでいたわ。
 我が家は国内一二を争う高魔力保持者一家なのでね!

「ダイク騎士団長!」

「はっ、ここに」

 お兄様が急に大きい声を出すからびくっとしてしまったじゃない。
 つーか、いつの間にかわたしは肩を抱かれていたわ。守ってくれようとした……のよね? 冷血公子がちょっと優しい。

「卿の子息は真剣を持ち込んでいたが、卿が許可を出したのか」

 騎士団長はノーキングのお父さん。
 ノーキングも体格がデカイけど、父親は更にデカイ。
 その大きな体で、騎士の礼をした後、ちょっと縮こまっている。なんだこれ。厳めしい大の男がしゅんとしてるのってなんかカワイイ。

「いえ、公子殿下。真剣の帯刀を許可しているのは、警備の騎士たちと、特免を出した護衛騎士のみです。もちろん、この愚息に許可は与えておりません」

「だが実際真剣を持ち込まれている。この責任の所在はどこか」

「会場への手荷物検査は衛兵の仕事ではありますが、これを見逃した者、関係者を洗い出すよう指示を出しております。
 しかし、全責任は騎士団長である某にあります。公子殿下、公女殿下に伏して謝罪いたします」

 騎士団長は片膝を付き、首を差し出すように深く頭を垂れた。

「確かこの愚物は、ダイク侯爵家より除籍されていたな。
 では、この度の顛末に関わる全ての騎士、衛兵、兵士を洗い出し、厳正に処罰することで卿の謝罪として受け入れよう。
 レネ、それでいいか?」

「ええ、わたくしも同意いたします」

 ノーキングはここで切り殺されても、家族は文句を言えなかったんだよ。
 でもねぇ、王宮内で血を流すのは憚られるし、大体今日は貴族学院の卒業パーティなんだからってことを、騎士たちはちゃんと心得ていた。

「1・2…………父上、オレは……」

 何を言いたいんだか知らないけれど、ノーキングの言葉はそれ以上続かなかったし、騎士団長は見向きもしなかった。

 他の連中はどうなるか裁判次第だけれど、王族に刃を向けたノーキングだけは極刑を免れない。

 ああ、後味悪くなるなぁ。
 バカどもの暴挙がどれほどになるかなんて想像がつかなかった……訳じゃない。
 ノーキングは学院でも帯刀していたし、剣を持っていれば何かの拍子に抜刀するだろう。
 学院ではわたしや教師たちから何度も注意していたし、ダイク侯爵家にも抗議をしていた。にもかかわらず、『第二王子』という盾に守られた。

 ……馬鹿者どもめ。
 わたしがもっと早く畳みかけていればなんとかなったかな……。

 沈み込みそうなわたしの肩を、お兄様の手がぐっと掴んだ。
 ハッとして顔を上げる。
 いけないいけない。わたしは筆頭公爵家令嬢。弱気は禁物。
 ううっ、胃が痛いよー。

「この者たちは貴族家から除籍されている。一般牢へ収監しろ。ジェイソン第二王子は貴賓牢へ連れて行け」

 お兄様が上から目線で指示出しているけれど、誰も文句を言わない。
 何故なら、国王陛下とウチの両親がいないこの会場の最上位者がお兄様だからだ。
 元より采配する許可を国王より頂いているのよ。

 騎士たちに連行されようとした時、シューサイが我に返ったみたいだ。

「あ、兄上、わたしが除籍されたなどと、嘘ですよね?」

 バカディ公爵は宰相で現在大忙しだから、この会場には来ていない。代わりに嫡男夫妻が出席していたの。
 この騒ぎに、彼らもいつの間にか傍に来ていた。
 弟と似た面差しのシューサイのお兄さんってば、背景にブリザードを背負っているかのよう。

「愚か者が! 何度教育してもその傲慢さを矯正出来なかったのは我が家の恥だが、おまえにはほとほと呆れたぞ。
 除籍はもう一週間も前の話だ。おまえは家に帰らず、知らせようもなかったがな」

 こちらのお兄さんは、確か五歳年上で、現在宰相補佐の仕事についていたはず。
 今回の一件で父親の公爵は、責任を取って宰相を辞任するかもしれないな。
 騎士団長も魔導師団長もそうだ。
 ようやく成人を迎えた子供たちの浅はかな企みに、どれだけの人が責任を追及される事か。
 しかもこの企み事は、そうなるよう仕向けられたものだ。やるせない。

 あー、そういえばライアー男爵には事前に、令嬢がこんなことをしているから、もしかしたら罪に問われるかもしれないよーとお知らせしたら、すぐさま除籍届を書いて提出したってね。

 どこの貴族家も、不始末を起こした子供をすぐに見捨てた。
 でも大人もちゃんと責任を取るんだから、ただ薄情って責められない。
 家門を維持し、守り、存続させる為に、時には非情になる貴族。
 はぁぁ、わたしには向かないー胃が~胃が痛いぃぃ。

「あたしは悪くない! 義父のライアー男爵と殿に頼まれてやったのよー!! あたしのせいじゃないんだからぁ!!」

 騎士に連行されて行くセシルが、最後のあがきとばかりに暴れて叫ぶ。
 ああ、あんまり暴れると胸がポロリするから。片脚が腿まで丸見えじゃない。誰か上着貸してあげてぇ。

「黙れ!」

 拘束していた騎士が、セシルに猿轡を噛ませた。残念な事に上着は貸してくれない様だ。
 今後セシルは『稀代の悪女』と呼ばれるかもね。王子と高位貴族子息を次々と手玉に取り破滅させたって。
 
 『四馬鹿次男ズ』は、惚れ込んでいたセシルの醜態に呆然自失のまま、騎士たちに連れられて会場を後にした。
 それを確認したかのように、入れ替わりに国王陛下が、ウチの両親と騎士たちを引き連れて大広間へと姿を現した。
 わたしたち兄妹がすぐさま頭を下げると、波紋上に次々と皆が頭を下げる。ざわついていた会場に静寂が訪れた。

「皆の者、面を上げよ」

 ザっと音がして皆姿勢を戻す。

「まずは貴族学院の学生たちよ、卒業おめでとう。
 晴れの日が、このような顛末を迎えてしまったことを、余は遺憾に思う。
 後日改めて諸君を招いて夜会を催そう」

 わっと歓声が上がる。
 台無しにされたもんね。

「次に――先ほど公女マリアージェより話が出たと思うが、王妃は重罪を犯した為、廃妃となり、『北の離宮』で生涯幽閉とした。
 この決定は予の一存である。
 更に元妃の実家、アサマシィ侯爵家も同罪であり一族が捕縛された。
 罪は数多あり、捜査が終了後裁判を行うものとする」

 後ろの方で、バタバタと数人が倒れているみたいね。
 アサマシィ侯爵家は『貴族派』の筆頭で、かなり幅を利かせていたからねぇ。侯爵以下の貴族ではだけど。

 第一王子派と第二王子派と最近は言われているけれど、元々は『王家派』と『貴族派』、『中立派』という派閥があるの。
 『王家派』が第一王子を推し、『貴族派』が第二王子を推していた。つまり、アサマシィ侯爵家を筆頭に『貴族派(王妃派)』が勢力拡大してたんだ。
 今回の一件で『貴族派(王妃派)』は失墜し、本来の『貴族派』派閥のみに縮小される。

 『中立派』はどっちからも距離を置いている派閥で、筆頭が我がリズボーン家。
 各派閥の調整役でもあるから、派閥争いが最悪になりそうな場合、仲裁に入ったりするのよ。
 何だか一番面倒くさい立場じゃない? なのに「日和見」とか陰口叩かれるってさぁ、割に合わないわよねー。
 
 この卒業パーティに注目を集めている間に、アサマシィ侯爵家の王都別邸、領地の本邸、一味の邸、ご用達の商会を一斉検挙する手はずで、今頃遂行されているだろう。
 更に、先行して王宮内で働く武官・文官・侍従・侍女・従僕・メイドに至るまで、王妃の企みに関わった者たちが捕縛されている。
 牢屋は満員じゃね?

 そんな訳で働き手が不足していた為、急遽リズボーン公爵家とミカエラ公爵家から騎士や使用人が助っ人に入ってるの。
 早いとこ補充してくれないと大変だよ? 使用人たちが。

 ミカエラ公爵家というのは、先代の王弟殿下が臣籍降下して興した家。
 ここのご令嬢が第一王子の婚約者で、時々王子妃教育で一緒になったりしたわ。 
 優秀なのに控えめで、性格のいいお嬢さん。それなのに第一王子の婚約者ってだけで、王妃様から意地悪されていたのよ。

 あのクソ王妃から授業を受けたことがあったけど、クソつまんない初級レベルだった。侯爵令嬢だったのに何あれって感じで。
 それに比べて我が母の教育の厳しかった事よ。
 母は王女だったから、兄とわたしに王族教育を施してくれたの。マジで泣き入って熱が出たわ。
 
 あ、ちょっと物思いに耽っていたけど、王様のお話の途中でした。反省。

「尚、先ほど捕えられた第二王子以下四名は、各当主より除籍届が出され受理されておるが、それぞれの身内も捜査対象となる。
 なに、廃籍した子の単独犯行であることが立証されたなら、それ以上の咎を求めたりせん」

 王様は厳しい表情を、ここで緩め、ほんのちょっと口元に笑みを浮かべた。
 あー、もしかして、ダイク侯爵家一族が連座で死刑にされないよう釘を刺したのかな。
 裁判は公平でなければならないけど、王の意向は汲み取られるんだ。王制国家だからな。
 あとは、今回の事でかなりの人数が粛清される。フツーに仕事が回らなくなるから、有能な人は出来るだけ生き残れるようにしたいって切実な気持ちもあるかも?

 距離があるけれど、お父様と目が合う。軽く頷いてくれたので、わたしも目礼で返した。
 実はこの後、わたしは療養の為、南の別荘に行くことになっている。事後処理は任せておけ……という事かな。
 都合よく解釈してみたけど、とにかくわたしは疲れたのだ。胃がやばいのだ。別荘で命の洗濯をするんだー!

 あ、顔が緩んでいたかしら。母、公爵夫人の目が厳しいわ。
 それに王様の目も……いや、わたしじゃない、お兄様に目線が行ってる。何やらもの言いたげな、意味深な眼差し。
 はて? とお兄様を見上げて見ても、安定の鉄仮面で読めない。二人だけで通じ合ってるみたいだな。

 数秒間の視線の絡みから、王様の視線が一同へ戻った。

「ではこれにて解散とする。皆の者、大儀であった」

 全員がまた頭を下げると、王様たち一行は退出していった。



 ――こうして、概ねに、この断罪劇は幕を閉じた。
 戯作者不在のまま。
 

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