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CAPÍTULO1
Episodio4. 贈物
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執務室の扉の前で名乗ると、すぐさま内に開かれた。側近兼護衛武官のトリが招き入れてくれたようだ。正面の重厚な机に近づいて軍式の挨拶を形通りに行うと、執務室の主は笑いながら軽く片手を振る。
「いつも通りに接してくれ、セレノ。ここには私とトリしかいないから」
「そうですか?ではお言葉に甘えて……。
婚約おめでとう、キンギイ」
落ち着かせて発した一言は、案外にするりと出た。
良かった、と安堵する。
熱っぽくはなかったが、冷たい印象にもならなかった筈だ。
彼は、キンギイ・ヘンフィールは大事な幼馴染なのだ。祝福してやりたいのが本心だ。
キンギイは突然の祝いの言葉に、一瞬、目を瞠ってから嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。君たちに——親友に祝福されるのは本当に嬉しいものだね。君たちは、よく知っているだろう。如何に私がウィレイア嬢との未来を切望したか」
「それはもう。いい加減諦めて頂くようにセレノと画策するところでしたからね」
長身痩躯のトリがすまして言う。普段もの静かな彼が発した愚痴が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「二度も振られたのにまだ言い寄ってたなんてな!憲兵に捕まったっておかしくなかったんだぜ、キンギイ。」
「工廠の総務部長が変質者扱いで逮捕されたら大変な事態でしたよ。まあウィレイア様はお美しい方ですから、簡単に思いを断ち切れるとは思っていなかったんですがね…」
トリが首を傾げている。急に婚約まで漕ぎ着けたのが不思議なのだろう。俺も知りたい所だ。意中の女性をものにできる方法があるって言うならな。
「絶え間ない愛には愛で応えてもらえるものなんだよ」
キンギイがうっとりと言った。心酔しているのか、そう見せて詳しくは語らないつもりなのか。
「なんの参考にもならないな。お前のような色男でない限り」
「ん?お前も造作は悪くない顔だろう、セレノ。……まあ、少し幼い感じだが」
「セレノはやっと成人したばかりのような小僧にも同期だと思われているんですよ。愛とやらはまだ先のことになりそうですね」
どうせ俺は童顔だ。同僚のマーシュが明け透けに話をするのは、年が近いと勝手に思い違いをしているからだというのは分かっている。それを指摘しないのは俺の沽券に関わるから。なんたって十歳以上俺の方が年上なんだから。
二人の揶揄いの矛先が俺に替わった所で話題を変更することにする。
「ところで、お祝いの品を贈らせて頂きたく存じますが、何か御所望の物がございますか?キンギイ中佐閣下」
お道化た言い方をしたものの、正面に座る上官は執務机の上で手を組んで押し黙った。体格が良く、黒髪黒目の彼がそうすると他者を威圧する雰囲気がある。しかし俺は、全く違う事を考えていた——黒髪の彼の横に銀髪のたおやかな女性が並べば、さぞお似合いで人目を引くことだろう、と。
「資材部のエースに是非用意してもらいたいものがある」
キンギイの闇夜のような瞳がじっと俺に向く。
「公国で三番目に孵化した極楽鳥だ。
ウィレイア譲は鳥を好むとのことだから是非にお見せしたい。
目の前でさえずりを聞きたいから、一羽根も欠かすことなく連れてきて欲しい」
室内はしんと静まり、彼の一言一句途絶えることなく届いた。
勿論言葉通りでない意味も。
難題だが、組織の中で否、という答えは出来ない。
「では、かの鳥が美しく映える闇夜にお披露目いたしましょう」
俺が慇懃に答えると、彫像のような肉体美を持つ黒髪の上官は満足そうに頷いた。
「いつも通りに接してくれ、セレノ。ここには私とトリしかいないから」
「そうですか?ではお言葉に甘えて……。
婚約おめでとう、キンギイ」
落ち着かせて発した一言は、案外にするりと出た。
良かった、と安堵する。
熱っぽくはなかったが、冷たい印象にもならなかった筈だ。
彼は、キンギイ・ヘンフィールは大事な幼馴染なのだ。祝福してやりたいのが本心だ。
キンギイは突然の祝いの言葉に、一瞬、目を瞠ってから嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。君たちに——親友に祝福されるのは本当に嬉しいものだね。君たちは、よく知っているだろう。如何に私がウィレイア嬢との未来を切望したか」
「それはもう。いい加減諦めて頂くようにセレノと画策するところでしたからね」
長身痩躯のトリがすまして言う。普段もの静かな彼が発した愚痴が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「二度も振られたのにまだ言い寄ってたなんてな!憲兵に捕まったっておかしくなかったんだぜ、キンギイ。」
「工廠の総務部長が変質者扱いで逮捕されたら大変な事態でしたよ。まあウィレイア様はお美しい方ですから、簡単に思いを断ち切れるとは思っていなかったんですがね…」
トリが首を傾げている。急に婚約まで漕ぎ着けたのが不思議なのだろう。俺も知りたい所だ。意中の女性をものにできる方法があるって言うならな。
「絶え間ない愛には愛で応えてもらえるものなんだよ」
キンギイがうっとりと言った。心酔しているのか、そう見せて詳しくは語らないつもりなのか。
「なんの参考にもならないな。お前のような色男でない限り」
「ん?お前も造作は悪くない顔だろう、セレノ。……まあ、少し幼い感じだが」
「セレノはやっと成人したばかりのような小僧にも同期だと思われているんですよ。愛とやらはまだ先のことになりそうですね」
どうせ俺は童顔だ。同僚のマーシュが明け透けに話をするのは、年が近いと勝手に思い違いをしているからだというのは分かっている。それを指摘しないのは俺の沽券に関わるから。なんたって十歳以上俺の方が年上なんだから。
二人の揶揄いの矛先が俺に替わった所で話題を変更することにする。
「ところで、お祝いの品を贈らせて頂きたく存じますが、何か御所望の物がございますか?キンギイ中佐閣下」
お道化た言い方をしたものの、正面に座る上官は執務机の上で手を組んで押し黙った。体格が良く、黒髪黒目の彼がそうすると他者を威圧する雰囲気がある。しかし俺は、全く違う事を考えていた——黒髪の彼の横に銀髪のたおやかな女性が並べば、さぞお似合いで人目を引くことだろう、と。
「資材部のエースに是非用意してもらいたいものがある」
キンギイの闇夜のような瞳がじっと俺に向く。
「公国で三番目に孵化した極楽鳥だ。
ウィレイア譲は鳥を好むとのことだから是非にお見せしたい。
目の前でさえずりを聞きたいから、一羽根も欠かすことなく連れてきて欲しい」
室内はしんと静まり、彼の一言一句途絶えることなく届いた。
勿論言葉通りでない意味も。
難題だが、組織の中で否、という答えは出来ない。
「では、かの鳥が美しく映える闇夜にお披露目いたしましょう」
俺が慇懃に答えると、彫像のような肉体美を持つ黒髪の上官は満足そうに頷いた。
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