選定書官リンネと飛べない動物たち

橙と猩々

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飛べない動物と武官

3 アベメタタリア② 体表を鱗で覆われた有羊膜類を意味する。

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「カラ城は帝政時代、皇帝の居城としても使用されていました。最新の発掘調査によると少なくとも二千五百年前から存在していたことが分かっています。立地的にも国境の要として重要な役割をもち、何度も戦火に晒された為、現在の城は二百年前に建て直されたものです。中には木造建築物もありましたが、先日の火災で焼け落ちてしまいまして…」
 
 カラ城に着いた私達は荷ほどきもほどほどに、管理人から説明を受けていた。想像以上に立派な城塞の中を小柄な管理人が忙しなく動いて先導する。
 小柄?いや彼らでは普通か。
 青年でも子供程の背丈、腕を覆う鱗、下部瞼に瞳が三つ連結したように見える眼。
 アベメタタリアの性質が色濃く出ている。

「それは残念でしたね」

 火災による消失の話になると管理人がしょんぼりと肩を落とした。観光地の目玉の一つを失うなんて、と言いたくなるが、目の前の可愛らしい青年の哀れさが勝って同情してしまう。

「城壁は随分高さのあるものでしたね。一定の間隔で木材が飛び出しているのはなぜなのかしら?」

 ウィラビィが自然に話を逸らした。私は広場に面した背高い城壁を思い出す。砂漠に同化するようなレンガで積み上げられた壁には水抜きの穴とともに、木の棒がささっていた。私は、到着した時の歓迎の演奏に気を取られてあまり注視していない。白く塗られた城門の上に設けられたテラスから流れる郷愁的なメロディが素晴らしかったのだが、ウィラビィはそんなことよりも、武官として気になることがあったようだ。

「あれは、城壁の建設の際に足掛かりとして使われたものなんです」
「それは随分不用心じゃないかしら。わざわざ敵に足場を与えるなんて」

 ウィラビィが小声で私に言った。

「最後の大戦は二百年も前の事。城壁の後方はその時に壊されたままになってはいますが、警備面は万全です。どうぞ首都の使者様方にはご安心して寛いで頂きたい」

 管理人にも聞こえていたようだが、気にする様子もなく礼の形を執った。更に案内されて細い石畳の通路を抜けると、中庭を中心に回廊が左右に分かれる。

「この奥には玉座の間や警備の詰め所、家畜用の小屋などがございます」

 見て回られますか?と聞かれるが私は頭を振った。

「せっかくなら、図書室を見せて頂きたい。この規模の城ならきっとあるだろう」
「ああ、リンネ様は選定書官様でしたね。残念ながらこちらは打ち捨てられた城塞ですのでそう言った立派なものは……。限られた蔵書ならございますので、後程お部屋へ運ばせましょう」

 申し訳なさそうに管理人が言った。選定書官から古書を隠匿することは罪に問われる行為だ。彼が隠しているとは思わないが、この城に書庫がないなんて。思案している所に、彼の部下がやって来た。明日に控えた式典の打ち合わせがしたいのだろう。

「明日の式典の主役をこれ以上拘束してはいけませんね。後は私達で見て回りますよ」

 私は軽く笑ってウィラビィに目配せする。管理人は恭しく私の手を取って頭を下げた。

「どうぞ私の事はクルロとおよび下さい。この砂漠の中では若き官吏様たちの友とお思い頂きたい」

 管理人達が遠ざかった所でウィラビィが話しかけて来る。

「なかなか面白そうな所ね。貴女の大好きな古本はどこかしら?匂いを嗅いでちょうだい」
「犬猫のように言われてもね。古書探索は地道にいくしかない。とりあえず内部を見て回ろう」

 私達は回廊に続く部屋を隈なく調べ歩くことにする。

「ところであの管理責任者は嘘をついていると思う?」
「さあ、どうだろう……ここは拷問部屋だ。趣味が悪いな」
「こっちは牢獄かしら?」

 お互いちらりと中を確かめて廊下に戻って来る。

「ねぇ、この城塞随分小高く作っていると思わない?」

 ウィラビィの言葉に頷く。

「地下があるんじゃないかって?私もそう思うよ」
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