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The Stranger/We Both Know
「I didn't expect to see you here!」
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Well we all have a face that we hide away forever
And we take them out and show ourselves when everyone has gone
僕らは皆、隠し続ける顔を持っている
誰もいなくなった時にだけ、その顔を引っ張り出して見せるのさ
Some are satin, some are steel
Some are silk and some are leather
They’re the faces of a stranger
But we’d love to try them on
サテンの顔、鋼鉄の顔
シルクやレザーでできた顔
どれも見覚えのない顔だけど
僕らはそれをつけたがる
Well, we all fall in love
But we disregard the danger
Though we share so many secrets
There are some we never tell
僕らは皆、恋に落ちる
その危険も無視してね
どれほど秘密を共有しても
決して言えない事はある
Why were you so surprised that you never saw the stranger?
Did you ever let your lover see the stranger in yourself?
君は随分驚いているね、"別の顔”なんて知らないって?
恋人に見せた事はないのかい? 君の中にあるその顔を
【The Stranger/Billy Joel】
◆
シャンデリア輝く黄金色の広間には、ワルツの調べが流れていた。滑らかなバイオリンの音が響き渡り、金銀の仮面を付けた無数の男女が踊っている。彼らは仮面越しの視線で互いを誘惑し、シャンパンのグラスをかち合わせては、笑い声を響かせていた。スクリーン越しの舞台のように、甘美で、官能的で、そして煌びやかな時が過ぎる。
しかし彼らは皆、貴族、政治家、大企業の重役……英国の中枢に触れる一握りの「選ばれし者」たちだ。彼らにとって夜会とは単なる社交の場ではなく、密約を交わし、互いの価値を計り合う――言わば戦場である。顔を隠していようがいまいがそれは変わらない。
外面ばかり華やかな、腐敗の温床――それが今宵、白亜の大邸宅で開かれた仮面舞踏会の本質だろう。
この邸宅の主であるチャールズ・ミルヴァートンという議員もまた、英国政府の重鎮と崇められる裏で、数々の黒い事業を手がけているという話だった。
だが、彼らを責める気はない。
俺はシャーロック・ホームズ――表では探偵を名乗り、裏ではマフィアの“仕事”をこなす者。仮面の上に仮面を付けているという点では、広間のブルジョワたちよりも悪質と言えるかも知れない。
俺がここにいるのは、前述の男、ミルヴァートン議員とビジネス上の話し合いをするためだった。と言っても、筋書きはもう決まっている。
ファミリーのボスであり俺の義兄であるマイクロフトからの伝言と小切手を議員に渡し、目当てのものを受け取る――ただそれだけだ。
ファミリーが議員に交渉を持ち掛けるのはこれが初めてだが、俺もマイクロフトも、それ以外の結末は認めない。
◆
議員がいるという二階の書斎は、邸宅の中でも最も奥まった場所にあった。階下の喧騒はここにも届き、分厚いカーペット越しにワルツが足裏をくすぐった。
乱れた服の男女が馬鹿のように笑い合いながら行き過ぎるのを待って、俺は扉の前に立った。そしてノックを二回。だが返事がないので、手袋を嵌めた指先で軽くノブを押した。扉は開いた。
その瞬間、俺はすでにこの夜の筋書きが崩れたことを悟った。
天井の梁から吊るされたロープ。その先にぶら下がっているのは、紛れもなくチャールズ・ミルヴァートン議員だった。
きつく締め上げられて真っ赤に染まったブルドックのような首。顔もまた紫に変色していた。目はこれ以上ないほど見開かれていたが虚ろで、細い涙の筋が光っている。肥えた身体はぐったりと垂れ下がり、床に薄い影を落として不自然に揺れていた。
だが、異変はそれだけではなかった。
「やあ、シャーロック。こんな所で会うとはね」
輝くようなプラチナブロンド、海よりも深い青の瞳――女と見紛うほどに華奢なブラウス姿の男が、床に転がる椅子を何気なく動かしながら、こちらに向かって親しげに手をふった。
それは俺が知る中で最も厄介な男だった。
名はロバート……いや、ロビン。英国諜報機関MI6の諜報員で、マフィアに籍を置く俺にとっては宿敵のような存在である。
「著名人の自殺の九割は他殺だ」
俺は仮面をかなぐり捨て、冷やかに言った。
「知ってる」
妙に甘く響く声で、ロビンは悪びれもせず答える。素顔に浮かぶ笑みは、まるで悪戯を成功させた子供のような無邪気さがあった。
「ちょっと待っててくれ、シャーロック。もう少しで終わるからさ」
そう言って、ロビンは“仕事”に戻る。
議員を吊ったロープの結び目、足元の椅子の倒れ方、テーブルの上の品々や調度品の位置――ロビンはさながら死の舞台監督だった。大胆な手つきとは裏腹に繊細に施される仕掛けは俺の目の前で真実を歪め、虚構の物語に誘って行く。それは一種の芸術で、浜辺に刻んだ文字を波が消し去る様にも似ていた。
「新年早々、ご苦労だな」皮肉を込めてそう言うと、
「君こそ」ロビンは薄手袋を嵌めた手で絨毯をいじりながら振り返った。
「今日は君の誕生日じゃなかったっけ? 誕生日にも仕事とは、さすがマフィアの忠実なる猟犬だね」
思わぬ切り返しに俺は眉をひそめた。
「誕生日だと? 俺にそんなものはない」
「そうだろうね。でもさ――今日、一月六日は君がファミリーの一員になった日だろう?」
――なるほど。どうやらこいつの言う“誕生日”とは、裏社会に足を踏み入れた日を指すらしい。
「シャーロック、眉間に皺が寄ってるよ。僕の冗談はそんなに悪趣味かい?」
「いや。ちょうど、ここにぶら下がる死体と巷の厨房にある肉塊とでは一体何が違うのだろうと考えていたところだ」
「はは、凄い皮肉だ」
仕事を済ませてしまうとロビンは立ち上がり、まるで自分がこの部屋の主であるかのような馴れ馴れしさで棚を物色し始めた。やがて棚の奥から年代物の酒瓶を一本取り出すと、手早くコルクを抜き、テーブルにグラスを並べて注ぎ始めた。
「良いウィスキーがあるんだけど、飲む?」
俺はそのグラスを受け取った。口に運ぶと、濃厚な香りと共に深い味わいが広がる。ミルヴァートン議員が後生大事にしまい込んだ酒――その黄金の一口には、確かに贅が詰まっていた。
ロビンもグラスに口をつけ、うっとりしたように目を細めた。その顔には、死体の存在など完全に忘れてしまったかのような平静さが漂っている。
「僕がここにいる理由を教えてあげようか?」
俺はグラスを置いた。ロビンは待ってましたと言わんばかりに続ける。
「簡単な話だよ、シャーロック。僕はこのパーティ中に彼――チャールズが見つけた数いる愛人の一人で、その盛りに盛った性欲の、最後のぶつけどころだったんだ」
「何だって?」俺は驚きを顔に出さずに奴を見た。
「でもさ、酷かったんだ。チャールズはキスもなんもかんも下手でね! 僕はちょっと気まずいくらいだったよ」
その言葉はあまりにあっけらかんとしていて、かえって重々しい真実のように響いた。
確かにロビンのブラウスは胸元が大きくはだけ、ひだは乱れて皺が寄り、白すぎるうなじが露わになっていた。殺人の後ではこの乱雑さも当然だろうが――奴の何処か湿った瞳はそれ自体が扇情的で、腹の底から怒りにも似た奇妙な不快感が湧き上がる。
「それで? お前はそんなくだらん理由で、議員を殺したというわけか?」俺は冷たく尋ねた。
ロビンは短く笑い、再びグラスに口を付ける。
「世の中にはそういう三文芝居がゴロゴロしているだろう? だから僕が一時の感情で彼を殺したとしても、別に珍しかないさ。さっきまでめちゃくちゃ酔ってたしね」
「本当にそうか?」
「何が?」
「お遊びの延長にしては手間がかかりすぎているように思うが。俺はもっと物騒な話を聞いているぞ。さる高名な女性にまつわる話を」
◆
つい数ヶ月前のことだ。英国に籍を置く者なら誰もが低く頭を垂れる、さる身分の女性が書いた個人的な手紙の束が、何者かによって盗み出され、野望に燃える一人の男――チャールズ・ミルヴァートンの手に渡った。
一国を預かる女性が、束の間その重責を忘れ、感情のほとばしるまま綴った秘密。それは自身や身内のスキャンダルか、他国への独断的かつ独善的な私見か、まあそんなところだろう。「ネットの時代にはアナログ的手段の方が安全」とでも思っていたのかも知れないが、軽率なのは間違いない。
さて、手紙を手にした男は、一山当てた山師のように己の幸運にのぼせ上がった。
あるときは夜会で、あるときはもっと公式な場で、女性にうるさくまとわりついては、毒の籠もった世辞と、自らの要求と、秘密の一部を述べ立てた。そうしたことが一度ならず七度もあった。
女性は尊厳を著しく踏みにじられ、怒髪天を貫いた――。しかし状況が状況だ。安易に事を公にするわけにも行かず、大いにお悩みだという。だが、話はそれで終わりではない。
「その女性は、頼るべきものを見つけたはずだ。手塩にかけて育てた組織のとっておきの駒を」
俺は冷ややかに続ける。
「そいつに任せれば、色仕掛けか暴力か――方法はともかく、上手く事を納められるからな」
ロビンは軽く笑ったが、目の奥にはもう、先ほどまでの緩さはない。
「なるほどねえ、シャーロック。あるいは君の言う通りかも」ロビンは飄々と続ける。
「だけど、僕がその女性なら、こうも考えるだろうね。手紙を悪用しようとする者が一人だけだとは思えない。だから、手紙を回収するのはもちろん、泥棒を始末するのも当然だけど、この件をゴールド・ラッシュか何かと勘違いして群がって来る者たちも――もれなく全員消すしかないってね」
俺は頷いた。
「そうだな」
And we take them out and show ourselves when everyone has gone
僕らは皆、隠し続ける顔を持っている
誰もいなくなった時にだけ、その顔を引っ張り出して見せるのさ
Some are satin, some are steel
Some are silk and some are leather
They’re the faces of a stranger
But we’d love to try them on
サテンの顔、鋼鉄の顔
シルクやレザーでできた顔
どれも見覚えのない顔だけど
僕らはそれをつけたがる
Well, we all fall in love
But we disregard the danger
Though we share so many secrets
There are some we never tell
僕らは皆、恋に落ちる
その危険も無視してね
どれほど秘密を共有しても
決して言えない事はある
Why were you so surprised that you never saw the stranger?
Did you ever let your lover see the stranger in yourself?
君は随分驚いているね、"別の顔”なんて知らないって?
恋人に見せた事はないのかい? 君の中にあるその顔を
【The Stranger/Billy Joel】
◆
シャンデリア輝く黄金色の広間には、ワルツの調べが流れていた。滑らかなバイオリンの音が響き渡り、金銀の仮面を付けた無数の男女が踊っている。彼らは仮面越しの視線で互いを誘惑し、シャンパンのグラスをかち合わせては、笑い声を響かせていた。スクリーン越しの舞台のように、甘美で、官能的で、そして煌びやかな時が過ぎる。
しかし彼らは皆、貴族、政治家、大企業の重役……英国の中枢に触れる一握りの「選ばれし者」たちだ。彼らにとって夜会とは単なる社交の場ではなく、密約を交わし、互いの価値を計り合う――言わば戦場である。顔を隠していようがいまいがそれは変わらない。
外面ばかり華やかな、腐敗の温床――それが今宵、白亜の大邸宅で開かれた仮面舞踏会の本質だろう。
この邸宅の主であるチャールズ・ミルヴァートンという議員もまた、英国政府の重鎮と崇められる裏で、数々の黒い事業を手がけているという話だった。
だが、彼らを責める気はない。
俺はシャーロック・ホームズ――表では探偵を名乗り、裏ではマフィアの“仕事”をこなす者。仮面の上に仮面を付けているという点では、広間のブルジョワたちよりも悪質と言えるかも知れない。
俺がここにいるのは、前述の男、ミルヴァートン議員とビジネス上の話し合いをするためだった。と言っても、筋書きはもう決まっている。
ファミリーのボスであり俺の義兄であるマイクロフトからの伝言と小切手を議員に渡し、目当てのものを受け取る――ただそれだけだ。
ファミリーが議員に交渉を持ち掛けるのはこれが初めてだが、俺もマイクロフトも、それ以外の結末は認めない。
◆
議員がいるという二階の書斎は、邸宅の中でも最も奥まった場所にあった。階下の喧騒はここにも届き、分厚いカーペット越しにワルツが足裏をくすぐった。
乱れた服の男女が馬鹿のように笑い合いながら行き過ぎるのを待って、俺は扉の前に立った。そしてノックを二回。だが返事がないので、手袋を嵌めた指先で軽くノブを押した。扉は開いた。
その瞬間、俺はすでにこの夜の筋書きが崩れたことを悟った。
天井の梁から吊るされたロープ。その先にぶら下がっているのは、紛れもなくチャールズ・ミルヴァートン議員だった。
きつく締め上げられて真っ赤に染まったブルドックのような首。顔もまた紫に変色していた。目はこれ以上ないほど見開かれていたが虚ろで、細い涙の筋が光っている。肥えた身体はぐったりと垂れ下がり、床に薄い影を落として不自然に揺れていた。
だが、異変はそれだけではなかった。
「やあ、シャーロック。こんな所で会うとはね」
輝くようなプラチナブロンド、海よりも深い青の瞳――女と見紛うほどに華奢なブラウス姿の男が、床に転がる椅子を何気なく動かしながら、こちらに向かって親しげに手をふった。
それは俺が知る中で最も厄介な男だった。
名はロバート……いや、ロビン。英国諜報機関MI6の諜報員で、マフィアに籍を置く俺にとっては宿敵のような存在である。
「著名人の自殺の九割は他殺だ」
俺は仮面をかなぐり捨て、冷やかに言った。
「知ってる」
妙に甘く響く声で、ロビンは悪びれもせず答える。素顔に浮かぶ笑みは、まるで悪戯を成功させた子供のような無邪気さがあった。
「ちょっと待っててくれ、シャーロック。もう少しで終わるからさ」
そう言って、ロビンは“仕事”に戻る。
議員を吊ったロープの結び目、足元の椅子の倒れ方、テーブルの上の品々や調度品の位置――ロビンはさながら死の舞台監督だった。大胆な手つきとは裏腹に繊細に施される仕掛けは俺の目の前で真実を歪め、虚構の物語に誘って行く。それは一種の芸術で、浜辺に刻んだ文字を波が消し去る様にも似ていた。
「新年早々、ご苦労だな」皮肉を込めてそう言うと、
「君こそ」ロビンは薄手袋を嵌めた手で絨毯をいじりながら振り返った。
「今日は君の誕生日じゃなかったっけ? 誕生日にも仕事とは、さすがマフィアの忠実なる猟犬だね」
思わぬ切り返しに俺は眉をひそめた。
「誕生日だと? 俺にそんなものはない」
「そうだろうね。でもさ――今日、一月六日は君がファミリーの一員になった日だろう?」
――なるほど。どうやらこいつの言う“誕生日”とは、裏社会に足を踏み入れた日を指すらしい。
「シャーロック、眉間に皺が寄ってるよ。僕の冗談はそんなに悪趣味かい?」
「いや。ちょうど、ここにぶら下がる死体と巷の厨房にある肉塊とでは一体何が違うのだろうと考えていたところだ」
「はは、凄い皮肉だ」
仕事を済ませてしまうとロビンは立ち上がり、まるで自分がこの部屋の主であるかのような馴れ馴れしさで棚を物色し始めた。やがて棚の奥から年代物の酒瓶を一本取り出すと、手早くコルクを抜き、テーブルにグラスを並べて注ぎ始めた。
「良いウィスキーがあるんだけど、飲む?」
俺はそのグラスを受け取った。口に運ぶと、濃厚な香りと共に深い味わいが広がる。ミルヴァートン議員が後生大事にしまい込んだ酒――その黄金の一口には、確かに贅が詰まっていた。
ロビンもグラスに口をつけ、うっとりしたように目を細めた。その顔には、死体の存在など完全に忘れてしまったかのような平静さが漂っている。
「僕がここにいる理由を教えてあげようか?」
俺はグラスを置いた。ロビンは待ってましたと言わんばかりに続ける。
「簡単な話だよ、シャーロック。僕はこのパーティ中に彼――チャールズが見つけた数いる愛人の一人で、その盛りに盛った性欲の、最後のぶつけどころだったんだ」
「何だって?」俺は驚きを顔に出さずに奴を見た。
「でもさ、酷かったんだ。チャールズはキスもなんもかんも下手でね! 僕はちょっと気まずいくらいだったよ」
その言葉はあまりにあっけらかんとしていて、かえって重々しい真実のように響いた。
確かにロビンのブラウスは胸元が大きくはだけ、ひだは乱れて皺が寄り、白すぎるうなじが露わになっていた。殺人の後ではこの乱雑さも当然だろうが――奴の何処か湿った瞳はそれ自体が扇情的で、腹の底から怒りにも似た奇妙な不快感が湧き上がる。
「それで? お前はそんなくだらん理由で、議員を殺したというわけか?」俺は冷たく尋ねた。
ロビンは短く笑い、再びグラスに口を付ける。
「世の中にはそういう三文芝居がゴロゴロしているだろう? だから僕が一時の感情で彼を殺したとしても、別に珍しかないさ。さっきまでめちゃくちゃ酔ってたしね」
「本当にそうか?」
「何が?」
「お遊びの延長にしては手間がかかりすぎているように思うが。俺はもっと物騒な話を聞いているぞ。さる高名な女性にまつわる話を」
◆
つい数ヶ月前のことだ。英国に籍を置く者なら誰もが低く頭を垂れる、さる身分の女性が書いた個人的な手紙の束が、何者かによって盗み出され、野望に燃える一人の男――チャールズ・ミルヴァートンの手に渡った。
一国を預かる女性が、束の間その重責を忘れ、感情のほとばしるまま綴った秘密。それは自身や身内のスキャンダルか、他国への独断的かつ独善的な私見か、まあそんなところだろう。「ネットの時代にはアナログ的手段の方が安全」とでも思っていたのかも知れないが、軽率なのは間違いない。
さて、手紙を手にした男は、一山当てた山師のように己の幸運にのぼせ上がった。
あるときは夜会で、あるときはもっと公式な場で、女性にうるさくまとわりついては、毒の籠もった世辞と、自らの要求と、秘密の一部を述べ立てた。そうしたことが一度ならず七度もあった。
女性は尊厳を著しく踏みにじられ、怒髪天を貫いた――。しかし状況が状況だ。安易に事を公にするわけにも行かず、大いにお悩みだという。だが、話はそれで終わりではない。
「その女性は、頼るべきものを見つけたはずだ。手塩にかけて育てた組織のとっておきの駒を」
俺は冷ややかに続ける。
「そいつに任せれば、色仕掛けか暴力か――方法はともかく、上手く事を納められるからな」
ロビンは軽く笑ったが、目の奥にはもう、先ほどまでの緩さはない。
「なるほどねえ、シャーロック。あるいは君の言う通りかも」ロビンは飄々と続ける。
「だけど、僕がその女性なら、こうも考えるだろうね。手紙を悪用しようとする者が一人だけだとは思えない。だから、手紙を回収するのはもちろん、泥棒を始末するのも当然だけど、この件をゴールド・ラッシュか何かと勘違いして群がって来る者たちも――もれなく全員消すしかないってね」
俺は頷いた。
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