悪役令嬢の早死にする母親に転生したらしいので、幸せ家族目指して頑張ります。

百尾野狐子

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小休止:とある公爵家の研究主任の独白

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「こちらが、今回開発中の媚薬です。スライムの分泌液と鈴蘭のエキスを主原料にし、ゴブリンとオークの睾丸から摘出した体液を加えた物です」
僕はドキドキしながら研究開発中の媚薬が入った容器を、公爵閣下に差し出した。
シルフィード公爵家商会部門の商品開発研究所の主任となった僕は、今現在、月に一度の公爵閣下との報告会に挑んでいる真っ最中だ。
公爵閣下は対面のソファに座りながら、研究開発資料を読まれていた。僕の説明に一度視線を容器に走らせた後、再び資料に目を落とされて部屋に静寂が落ちる。
毎度の事ながら胃が痛い。公爵閣下の怜悧な眼差しが怖い。今回は何を言われるのだろうか。公爵閣下は多忙なお方なのに、どんな仕事も手を抜かない。商品開発の報告会だって、閣下御本人が来る必要は本来無いはずだ。他所の家門だったらあり得ない事だ。
「…ライス、君は私の意図を理解していなかったようだな」
「……っ」
冷たい声が静寂を切り裂く。静かな声なのに鋭い。部屋の空気も僕の体も一気に零下になった気がする。
「も、申し訳…っ」
「謝罪はいらない。私は君に伝えた筈だ。既存の媚薬よりも更に上の媚薬を作れと。それは単純に性欲を増加させたり、持続力を維持出来るようにするためでは無い」
「は、はい」
公爵閣下は資料をテーブルに置き、成分が記載されているデータ表を長い指でコツコツと弾いた。
「先ず、この成分はなんだ?」
「は、はい、あの、スライムの分泌液、ゴブリンとオークの体液は古来から強い精力を」
「スライムの分泌液は百歩譲って許容しよう。だが、ゴブリンとオークの睾丸から摘出した体液とは何だ?君はそんな物の成分が入った媚薬を愛する者に使用したいと思うのか?」
不思議な淡い青をした瞳が、氷の刃の様に僕の心を切り裂く。うう、怖い、痛い、ファーマ様、助けて下さい。
「そ、それは、あの、いえ、でも…」
公爵閣下の指摘に僕は脳内に愛しい人の顔を思い浮かべた。確かに、僕以外の体液を愛しい人に纏わせたくは無い。
「残念ながら私は多忙だ。自身で開発するには時間が無いから君達に頑張って貰っている。既存の媚薬は商品価値は高く、まだまだ需要が見込める。しかし、今の媚薬を私の妻には使用したいと思えない。況してやこの開発中の媚薬など論外だ」
ああ、また、お蔵入りか。公爵閣下の求める境地に辿り着くのは茨の道だ。
「この開発中の媚薬の試薬を先ず作り、臨床試験に移れ」
え?あれ?開発中止なのでは無いのか?
「は、はい。あの、でも、閣下」
「一般に普及させるのは危険な媚薬だが、使い処はある。これはこのまま開発を進めろ」
「は、はい」
「それから、私が求めている媚薬は…そう、私の妻にも使用出来うる物だ」
「それは……っ」
公爵閣下の言葉にはっとさせられた。そうか、そうなのか。正直、公爵閣下が求めていらっしゃった物の具体的なイメージが出来ていなかったが、公爵閣下を理解していたら気が付いていたはずだ。
ナハト・シルフィード公爵は、奥方のセラフィナイト様の為だけに生きておられる方なのだから。
僕は一代貴族である騎士を父親に持つ準貴族だ。父が亡くなれば平民になるため、王立魔法学院には入学出来なかった。領地の学校を卒業した後は、公爵閣下が公爵家当主になる前に治めていらしたシュテアネ領の研究所に伝手を使って入所し、閣下の卓越した英知と実力に心酔し、崇めてきた。
閣下が努力を惜しまないのは、全て愛する婚約者様の為だと知った時は驚いたが、尊敬する気持ちは変わらなかった。
閣下が公爵家当主になり、シルフィード公爵領に移り住む事を知った時、必ず追いかけると心に決めて今に至る。
「分かりました!必ずや、閣下にご満足頂ける物を作ってみせます!」
僕は自分の胸を拳で叩きながら宣言した。閣下の奥方であるセラフィナイト様は僕も敬愛しているのだ。あんなに美しくてお優しい方を僕は他に知らない。病弱な奥方のための媚薬を作るのは挑戦ではあるが、研究者としてやり甲斐がある。それに、僕自身も、体に優しく且つ効果的な媚薬で愛しい人を愛してみたい。
「…年齢より体力はあるが、受け入れる方は辛いはずだ。次回の報告に期待する」
公爵閣下は音も無く立ち上がり、僕の反応を待たずに部屋を出て行かれた。
うーむ。ハッキリと指摘された事はないが、閣下は僕の相手をどうやら知っているようだ。
「よし!頑張るぞ」
先ずは相談を口実にあの人を今夜誘おう。既存の媚薬に耐性があるから、それに一手間かけて使用したら久しぶりにあの人を朝まで独占出来るだろうか?ああ、今夜が楽しみだ。
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