悪役令嬢の早死にする母親に転生したらしいので、幸せ家族目指して頑張ります。

百尾野狐子

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小休止:とある公爵家の侍女の独白

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 「あ、ああ、やぁ、あっ、ダメ、もう…っ」
「うん?何が駄目?もう…っ、くっ、もう何だ?」
「やぁ、はぁっ、あう、ナハト、様ぁ…」
「駄目だ、セラ。ほら、きちんと言葉にしなさい。何が駄目だ?」
「奥が、奥が駄目ぇ」
「奥?セラが一番好きな処だろ?」
「ああ!」
「っ…」
ガタガタと家具が床に擦れて立つ音と肌を打つ音。湿り気を帯びた呼吸に体液が擦れ合って立つ水音。高く澄んだ喘ぎに絡み合う嫌味な程良く通る声。
「熱い…っ、熱いの…、ん、んん、ああ!」
「セラ…っ、凄い…っ…」
何が凄いというのでしょうか。ああ、腹立たしい。
私の命であるセラフィナイト様を我が物顔で蹂躙する腹黒男の逸物を、常に装備している短剣で切り取ってやりたいです。しかし、そんな事をしたらセラフィナイト様が哀しまれる。腹立たしい事に、我が主セラフィナイト様は、あの腹黒男との閨事を愛していらっしゃるのだから。
「ナハト様…も…っ…お願い、もう…っ、駄目ぇ、イッたから、あ、あ、やぁ!」
「何度でも…っ…セラっ!」
腹黒男の執務室の隣の部屋の扉の脇で控えている私の耳に先程から聞こえてくる情事の生々しい音の数々に、私は内心で舌打ちをし続けておりました。あの腹黒男はこの国きっての魔力保有者で、宮廷魔法使いも裸足で逃げ出す程の魔法の使い手です。消音魔法など朝飯前に出来る筈なのに、敢えてしない腹黒さに反吐がでます。ヤツ、いえ、失礼、あの方は私にわざと聞かせているのです。
私はモーント王国のとある子爵家の娘として生まれて育ちましたが、家が没落して矜持も生命さえも消えそうになっていた私を救って下さったセラフィナイト様に生涯の忠誠を誓ったこの私に、あの腹黒男は思い出したようにマウントを取ってくるのです。腹立たしい事に私は性別も出自も容姿も、腹黒男に敵うわけもない、しがない平民女ですが、セラフィナイト様への愛だけはヤツ、いえ、あの方に負けないつもりです。
私の張り合う気持ちを察しているからこそ、定期的にマウントを取りにくるあの方の腹黒を、セラフィナイト様に教えて差し上げたい。まぁ、教えたところで、腹黒男への愛情が揺らぐ事はないでしょうし、新たなナハト様の発見、などとおっしゃって喜ぶだけなので無駄な事はいたしませんが。
「…ん、あん、はぁ、ダメぇ…」
「ほら、セラ…、いやらしいな。腰が揺れてる」
ああ、もう、いい加減にして。執務室で何回励むつもりなの!セラフィナイト様がお可哀想です。せめて、盛るなら寝室の寝台の上でやって下さいよ。
本当に、何故セラフィナイト様はあんな男にメロメロなのでしょうか。
まぁ、確かに、腹黒だけれど有能なのは間違いないですが。
セラフィナイト様のお輿入れの際に、本来ならばお供出来る身分ではなかった私の存在を目敏くあの腹黒男は見付け、条件付きで一緒にこの家に来る事を許された私は、悔しいですがあの腹黒男の手足の一人としてセラフィナイト様をお守りする役目を頂いております。
気にくわないけれど、セラフィナイト様至上主義の同志ではあるから、大人しくヤツ、いえ、あの方の手足の一人でいてあげてます。ええ、とりあえず今は。
「ナハト様…っ…ナハト様…ん、好き、好きぃ」
「愛してるよ、セラ…私のセラ!」
愛する主の情事を延々と聞かされ続ける私に今出来る事は、静かに長い溜め息を吐く事だけです。
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