悪役令嬢の早死にする母親に転生したらしいので、幸せ家族目指して頑張ります。

百尾野狐子

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好事魔多しなのです

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家庭円満。
家内安全。
シルフィード公爵家は毎日穏やかで、優しい幸せに満ちていました。
「…28…29…30っ」
「やりました!セラフィナイト様!」
「目標達成です!」
護衛騎士のシェリーとミネルバが手を取り合って喜んでくれています。
石の上にも三年です。やりました。目標達成です。健康的に体力増加を目指して、コツコツ頑張ってきた成果です。
最初は一回も出来なかった腹筋、腕立て伏せ、背筋、スクワットですが、三年間の努力で目標回数三十回を達成致しました。
一年間に十回ずつ目標回数を増やし、とうとう本日三十回を達成致しました。
初夜で前世を思い出し、健康になって早死に回避の目標を立ててから三年経過しました。私はまだ生きています。以前と比べれば格段に健康になり、発作の回数も減って寝込む事も減りました。
たまに寝込む事はありますが、それはナハト様との情熱的な営みの結果なので、体は疲れていても心は元気百倍なセラフィナイトなのです。あら、このフレーズは何処かの誰かが言っていたような。ああ、そうです、前世で見た顔がパンの正義の味方です。あのパン、今世で再現出来ないかしら。今度料理長に相談してみましょう。リヒトが喜ぶかもしれません。
「お母様!」
「まぁ、リヒト、来てくれたのね」
二歳になった私の愛息子が、白皙の美貌を健康的にピンクに染めて駆け寄って来てくれます。
生後十ヶ月で歩き始めたリヒトは、言葉の成長だけでなく体の成長も早いスーパー美幼児です。今も伸びやかな脚を力強く踏み出しながら、元気一杯に駆け寄って来てくれました。
「お勉強は終わったのですか?」
私のお胸に頬を押し付け、ぎゅっと抱き付いてくれるリヒトに母性が膨らみます。ああ、可愛い。食べてしまいたいです。
「はい、終わりました。お母様がタンレンなさっていると聞いたので、一緒にやりたくて来ました。僕も一緒に良いですか?」
小さなお手々が私のお胸を無意識に触っています。一生懸命に私を見上げるリヒトの可愛さに、内心身悶えしてしまいます。
一歳のお誕生日から、ナハト様に母乳断ちを命令され、夜の添い寝も禁止されてしまったリヒトには寂しい思いをさせてしまっています。
今までが特別に許されていただけで、今の状態が本来の高位貴族の子息の在り方なのですが、寂しいものは寂しいのです。
周りの目が少ない今のような状況ならリヒトを存分に甘えさせてあげられるので、私はリヒトの体を更に抱き寄せて頭頂部にキスの雨を降らせます。
ナハト様と同じ濃い金の髪は艶々で芳しい香りがします。この世界の貴族は髪を伸ばす傾向がございますので、リヒトも例に漏れず伸ばしていて今は肩より少し短いおかっぱ頭です。
「お母様、くすぐったいです」
うふふと恥ずかしそうに笑うリヒトは、嬉しさを隠しきれずに私に更に体を寄せます。お胸の谷間に鼻先を入れて左右に頭を振るので、私のお胸がユサユサと揺れます。
無理にお胸断ちさせられたからか、未だにリヒトは私のお胸に執着があるように見えます。あら、それともナハト様に似て、お胸が好きな性癖なのかしら。よく似た父子なので、その可能性は高いです。そうすると、もしかしたらリヒトもヤンデレ属性なのかもしれません。気を付けなければなりませんね。
「ではリヒト、お母様と一周致しましょうか」
「はい、お母様」
私達は手を繋いで練習場のトラックに向かいます。私が筋トレするようになってから、練習場は以前より整備されて使いやすくなったと、騎士団の方々から好評を頂いています。ナハト様が整備するよう指示なさった事は、使用人達のお喋りで知りました。
引きこもりな私ですが、公爵邸の管理は私の仕事なので、使用人達の内緒話や人間関係はしっかり把握させて頂いております。
体力増加のための邸内や敷地内のお散歩は、私にとっての情報収集でもあるのです。ナハト様はお外のお仕事がお忙しいのですから、他の事でお手間を取らせるわけにはまいりません。
私の専属侍女のセーラ、リヒトの専属侍従のロビンソン、私の元侍女で現在はリヒトのお世話係りのポリー、専属護衛騎士のシェリーとミネルバ、試験農場の研究所長のファーマ氏達は、私に様々な情報を纏めて教えて下さる頼もしい方々です。
「お母様、大丈夫ですか?」
リヒトが私の手を引いて歩いてくれています。
「ありがとうございます、リヒト。大丈夫ですよ」
練習場のトラックを手を繋ぎながら速足で歩く母と息子の姿は、事情を知らない方々が見たら変な光景かもしれません。
長い髪を一つに纏めて縛ったポニーテールみたいな髪型で、男性用のシャツとスラックスのような軽装をした汗だくな私は、公爵夫人にあるまじき姿でしょう。そんな私の手を引いて速足で歩くシャツと半ズボン姿の美幼児の、楽しそうなお顔の組み合わせはシュールかもしれません。
そんな私達を優しく見守ってくれる使用人達の姿も相まって、シルフィード公爵邸は以前より随分と穏やかで温かい空気が流れるようになったのではないかと思います。変な物も、日常的に目にしているとそれが当たり前になってしまう典型ですね。
この調子で、病む事の無い雰囲気作りを続けて行かなければなりませんね。
殺伐とした雰囲気は、人の余裕を磨耗させてしまいますから、肩の力が抜ける雰囲気作りを私なりに考えて実行しているのです。
「セラフィナイト様、リヒト様、お疲れ様でした」
トラックを一周し、休憩場所である四阿に戻ってきた私達に、ロビンソンが素早くタオルを渡してくれます。その隙にミネルバは冷たいレモネードを用意し、シェリーは周囲に目を光らせて警護の仕事をしてくれています。セーラはロビンソンが来たので、邸内に戻ってお風呂等の準備をしてくれているはずです。
「皆、ありがとうございます。リヒト、しっかり飲んで下さいね」
熱中症予防のスペシャルレモネードは、幼児には少々酸味が強い仕上がりになっているのです。
「はい、お母様。頂きます」
前世の記憶のせいで、無意識に物を食べたり飲んだりする前には手を合わせて頂きますの挨拶をしていた私を見て育ったリヒトは、やはり無意識に同じ動きをするようになってしまいました。
周囲は不思議な顔を致しますが、見苦しい習慣では無いので訂正はさせておりません。生命を頂く礼の所作は、きっと古今東西、異世界においても、通じる何かがあるのだと思います。
「…まぁ、美味しい。このレモン、いつもと少し違うわ」
爽やかなレモンの香りが強く鼻に抜け、酸味も爽やかに溶けてくどくありません。
「試験農場で出来た改良レモンの初摘みで作った物だとセーラが申しておりました」
ロビンソンの説明に私は笑みが溢れました。
このところ体調が良くて、試験農場で私の力を奮っていた成果の一つが実感出来て喜びも一入ひとしおです。
このレモンなら、シルフィード公爵領の新しい名産品になるはずです。早々に、ライス君と相談しなければなりませんね。
ライス君はファーマ氏の優秀な助手でしたが、加工技術に詳しく、発想が豊かで、今ではシルフィード公爵家の商会部門の商品開発研究所の主任をしています。彼は私より一歳下で、一代爵位である騎士爵を父に持つ平民ですから、王公貴族専用の王立魔法学院に入る事は出来なかったので、公爵領の学校を主席で卒業した後、シュテアネ侯爵領で当時ナハト様が始めていた試験農場の研究所の門を叩いたのだそうです。
私は存じ上げませんでしたが、農業、植物、薬草等の研究を行っている方々の間では、ナハト様の取り組みは知る人ぞ知ると云うものであったらしく、しかもその研究所に入るには優秀な者しか入れないと云う事でも有名であったそうです。何より注目すべきは、貴賤を問わないと云う事です。なんともナハト様らしいです。素敵です。
ナハト様は余りご自分のお話しを自らはなさいませんから、色々な方々からナハト様のお話しを引き出してエピソードを回収している私なのです。ナハト様はゲーム上ではモブですから、細かいエピソードを知る術が前世では無かったのです。
ナハト様を知れば知るほど、好きが溢れてしまいます。生まれ変われて嬉しいです。今の調子で、幸せ家族を目指し、ナハト様と手を繋いで一緒に老衰で儚くなるのが今の私の野望です。
そのためには、やはり近い未来にやってくるカオスによる世界規模の秩序の乱れに備えなければなりません。
ゲームが開始する正確な年は分かりませんが、フローライトが断罪される年齢は十五歳でした。ナハト様に凌辱されて死亡する年齢は確か十八歳だったはずです。物語の進み方によって多少の誤差があるようですが、様々な問題が起こる未来はこのままでは確実に来てしまいます。
ゲームでは、世界規模で起こる天変地異によって、食料問題が発生し、更に魔物の異常発生、戦争、内乱と、かなりシリアスな問題が起きます。ヒロインとヒーローは、その問題を解決したり未然に防いだりしながら互いの愛情を育てて行き、最終的にはヒロインが闇の乙女となってヒーローのカオスを封印出来る依り代の力を目覚めさせて問題を解決させてゲームの物語は終わります。
乙女ゲームのラブの部分としては、ヒーローを決めるまでは、ヒーロー候補者とのイベントを経て、愛情や親密度によって誰のルートに行くかが決まります。
私としてはゲームが始まらない方が良いので、出来る事はしておいて未来に備えたいです。ですから、微力ながら私の能力で食料問題を解決するお手伝いをしたくて日々精進しているところなのです。
「お母様、大丈夫ですか?」
レモネードを飲みながらつらつらと思考の海に沈んでいたら、リヒトが心配して私の顔を覗き込んできました。
宝石のように澄んだ美しい瞳の色に、私は吸い込まれそうになりました。ああ、尊いわ。ナハト様にそっくりな、私とナハト様の子です。この子のためにも、世界は平和であって欲しいです。
「リヒト、大好きです」
私はリヒトの柔らかな頬にキスを贈りました。リヒトは嬉しそうに笑うと、私の胸に飛び込んでくれました。
「リヒト、そろそろ戻りましょうか」
「え…」
邸に戻ると、今のような距離感でいられないので、リヒトは戻るのを渋りました。しかし、汗をかいて汚れが気になる私としては、綺麗な状態でリヒトを甘やかしたいのです。そうだわ、久しぶりに一緒にお風呂に入るのも良いかもしれません。赤ちゃんの時に何度か一緒に入ったきり、一歳以降は一緒に入る機会がなかったのです。
ナハト様は忙がしくて最近夕食もご一緒出来ていませんし、今日もお帰りは遅いはずですから一緒にお風呂に入っても問題は無いはずです。
「リヒト、今日は久しぶりに、お風呂に一緒に入りましょう」
「え…っ」
私の言葉に驚いたリヒトですが、直ぐに破顔して嬉しそうに何度も頷きました。
「お母様!早く戻りましょう」
「まぁ、リヒトったら」
腕を引っ張るリヒトの子供らしい様子に自然と私も笑顔になります。
リヒトと手を繋ぎながら四阿を後にしましたが、シェリーやミネルバ、そしてロビンソンの微妙な笑顔が気になります。子供と一緒にお風呂入る行為は、高位貴族では一般的ではないので、やはり若干引かれているのかもしれません。けれど、私は自分の子を愛でたいのです。出来るなら毎日一緒にお風呂に入りたいですが、周囲が許してくれません。
前世では、ほぼ病院で暮らしていたような日々でしたので、家族で一緒にお風呂に入った記憶はございません。出来ればナハト様も一緒に三人で温泉の大浴場でお風呂に入ってみたいものです。シルフィード公爵邸には温泉も大浴場もございませんから、残念ながらその願いは叶う事はないでしょうが。
「お待たせ致しました、セラフィナイト様、リヒト様」
私の私室にリヒトと戻り、お風呂の準備をして待っていたセーラにリヒトと一緒にお風呂に入ると伝えたところ、やはり微妙な顔をされましたが、素早く要望に応えてくれました。
広いお風呂には、シャワー室と浴槽が別れて設置されていて、先に私達はシャワー室で体を洗いました。まだ小さくて細いリヒトの体を、石鹸をたっぷりつけた海綿で優しく隅々まで洗います。赤ちゃんだった時と比べたらとても大きく成長して、私の感慨も深いです。余命宣告を受けていた私が、今では自分の子供をお風呂に入れているのです。この時間が嬉しくて、愛しくて堪りません。
「お母様…?」
ついつい涙腺が弱くなってしまった私を心配したリヒトに、頭をよしよしと撫でられました。ああ、可愛い。尊いです。
「大丈夫ですよ…リヒト、お母様の背中、洗えますか?」
「はい!」
リヒトは私から海綿を受けとると、しゃがむ私の背中を優しく洗ってくれました。
ああ、感無量です。優しい洗い方がナハト様とそっくりです。
ナハト様とは何度も一緒にお風呂に入っています。私のお世話をするのが当たり前だと思っているのか、ナハト様は私に何もさせて下さいません。ご自分は私の体を隅々まで優しく丹念に洗って下さいますが、私には背中さえ洗わせて下さらないのが不満と云えば不満です。そう云えば、一度もお風呂で最後まで営んだ事がないのは何故なのでしょうか?
リヒトと楽しくお風呂に入っているのに、いつの間にかナハト様の事を考えて気持ちを乱している私は母親としてまだまだ未熟ですね。これではいけません。ナハト様の帰宅がこの数ヵ月また遅くなり、時には帰宅なさらない時もございますので、明らかにナハト様が不足しているからなのだとは思いますが。
「さぁ、リヒト、浴槽へ向かいましょうか」
体の汚れを流し、ピカピカになった私達はレモンが浮かぶ湯船に入りました。爽やかな柑橘の香りに、乱れた心が解れて行きます。
私の膝の上にリヒトを乗せて、背後から抱き締めるような体勢で一緒にお風呂に浸かっていると、浴室の扉の外がざわついた気配を感じました。
扉をノックする作法は普通四回ですが、耳に入ったノックの音はとても早い二回で、私の返事を待つ事無く開きました。
扉を開いて中に入って来たのは案の定ナハト様で、マントさえ外していないお姿です。
「まぁ、ナハト様…お帰りな」
「ポリー、リヒトを部屋へ」
私が言葉を終わらせる間も無く、ナハト様は私の膝の上にいたリヒトを抱き上げると、扉の外に控えていたポリーに渡しました。
感情の読み取れない怜悧なポーカーフェイスでリヒトを見たナハト様は、泣きそうな顔をしているリヒトに気付くと額に貼り付いた濡れた髪を優しく後ろに流して小さく頷かれました。
リヒトは唇を一度強く引き結ぶと、ナハト様へ小さく頷きを返しました。
んん?何ですか、その、男同志の謎のやり取り。
リヒトは私を見てニッコリと笑うと、大人しくポリーに抱かれて浴室を出ていきました。
ナハト様が現れてからの一連の流れを、膝立ちで湯船の中からポカンと間抜けに見ている事しか出来なかった私は、更にナハト様が無造作に衣服を脱ぎ捨てて全裸になるのもポカンと見守っているだけでした。
それにしても、何て美しいナハト様のお身体なのでしょうか。
ご尊顔が美しいのは分かりきっていますが、ナハト様の骨格の美しさといったら、神様も太刀打ち出来ないのではないでしょうか?
首筋から鎖骨にかけての線と、引き締まった腰から骨盤の線は色気に溢れて耳が熱くなってきてしまいます。肩から腕を通って指先に向かう男性的なのに優美さも兼ね備えた骨格の美しさは合掌ものです。ああ、それから、脚ですが、駄目です、これ以上は言葉が出てきません。視線がナハト様の逞しい中心に集まってしまうのです。
「セラフィナイト」
濡れた浴室の床をヒタヒタと歩くナハト様のお顔は微笑みを浮かべてはいますが目が笑っていません。怖いです。何故か既にヤンデルモードです。デレていません、病んでるのです。一体何故なのでしょうか。分かりませんが、私が今危険な状態である事は分かります。分かりますが、やはり目はナハト様の逞しい中心に釘付けです。まだそれほど漲ってはいませんが、それでも既にかなりの存在感です。
「…私以外の者に、その体を触れさせたね」
「え…」
ナハト様の言葉にまたまたポカンと間抜けな顔になってしまいました。いやいや、ナハト様、ですからリヒトは私達の子供なのですよ。子供は例外なのではないでしょうか?しかも触れさせただなんて。背中を洗って貰っただけですわ。
「あ、あの、ナハト様…」
「セラフィナイト」
嫌だわ、愛称呼びをして下さいません。しかも被せ気味に名を呼ばれました。
「私以外の者にその体を触れさせてはならないと、以前伝えたはずだが」
確かに仰っておられましたが、お胸限定ではなかったのですね。
「あ…」
ナハト様の指先が私の顎に触れました。触れられただけで、ぞくぞくと明らかな快感の兆しが脊髄に走りました。
「…ん…っ…」
顎から離れた指先が、私の体の線をなぞるようにゆっくりと動きます。耳殻、首筋、鎖骨、肩、腕、指先。余りにも優しいその感触が、逆に私の体を期待に濡れさせます。ただなぞられているだけなのに、私のお胸の先端は尖り、叢の奥はじんわりと蜜を滲ませています。
「…どうした?息が乱れてきたな」
指先からまた腕を通って脇までなぞり上げながら、ナハト様が冷静に、けれど囁くように告げました。くぅ、声まで美しいなんて、犯罪です。ぞくぞくが止まりません。ナハト様がお忙しくて、暫く閨事から遠ざかっていたからか、もう体が発情しているのが自分でも分かります。
もっとしっかり触って欲しいです。
「ナハト…様…っ…」
はぁはぁと息を上げながら、膝立ちのままナハト様を見上げます。ナハト様の逞しい中心は、既にお腹に付くほどそそり立っていらっしゃるのに、ナハト様のお顔は先ほどと変わらず冷静です。けれど、瞳の奥に病んだ熱が渦巻いて見えます。
一体何があったのでしょうか。いつものナハト様ではありません。私はずっと敷地から出ない生活を送ってきたので、私が原因でナハト様のヤンデレを刺激したとは思えないのですが、この様子だと原因の一つが私なのは間違ってはいないと思います。
「セラ…」
不意にナハト様の瞳の奥に、いつものナハト様が戻ってきました。この隙を逃してはなりません。
「ナハト様…寂しかったです…抱き締めて欲しいです…」
ナハト様を見上げながら両手を掲げます。ナハト様は私の瞳の奥を暴くかのように視線を逸らさず私を見つめました。
私の体は既に発情していて力が上手く入らない状態でしたが、抱き締めて貰いたくて立ち上がろうとしました。
「あ…」
「セラっ」
ふらついた私の体を抱き寄せて下さったナハト様の体からは、ナハト様の香りとシトラスが混ざった初めて嗅ぐ良い香りがしました。この香りはもしかしたら、改良レモンで加工した香水か香油かもしれません。流石ナハト様、仕事が早いです。
「ナハト様…良い香りです…」
抱き寄せられたので、ナハト様の首に腕を巻き付ける私を、自然な動きでナハト様は私を横抱きにしました。首筋に鼻先を埋めると更に素敵な香りがして、もうお腹の奥が痛む程です。
「不貞を疑わないのか?」
以前の薔薇の香りが原因でナハト様を疑った事を揶揄されるなんて、ナハト様ったら意地悪です。けれど、そんなところも好きです。
「ふふふ…潔白をその身で証明して下さいませ」
夫婦の寝室に運ばれた私は、寝台の上に横たわらせられるとナハト様の腰に脚を絡めました。
「いやらしいな…セラは…」
「ん…あ…」
既に期待でぐちゃぐちゃな花園を、ナハト様の逞しい屹立に擦り付ける私の淫らな動きに、ナハト様は意地悪な笑みを浮かべました。
花園の花弁の上に咲き誇る前の芽が期待に膨らんで今にも芽吹きそうで、私の腰がはしたなくも痙攣したように前後に動きます。
「私よりも、セラの潔白の証明が必要ではないのか?暫く触れていないはずのここが、既にこんなに解れて柔らかくなっている。私に隠れて、私以外を咥えたりしていないだろうな?」
ナハト様の言葉に私は愕然としました。何て事を仰るのかしら。私がナハト様以外の方と不貞を犯したと言うのですか?
「な、ナ、何て…」
全身を赤く染めながらナハト様を見る私に、ナハト様は更に意地悪な笑みを浮かべました。
「潔白なら、自分で自分を拡げて見せなさい。貴女の其処は貞淑だから、一日触れないだけで乙女のように戻ってしまうからね」
なんと!まさかの自慰プレイと云うヤツですか!これはかなりの難易度です。自慢じゃありませんが、自慰なんてした事がございません。そもそも、性欲と云う物を前世では感じた事はございませんし、今世では深窓過ぎる令嬢でした。前世の記憶を思い出してからも、体が疼く日は有ってもナハト様以外で感じるのが嫌で自慰目的で触れた事はございません。
「セラフィナイト、出来ないのか?」
躊躇する私から身を離そうとするナハト様の腰を、絡めた脚に力を込めて固定します。恥ずかしいですが、ナハト様の温もりを失いたくありません。ええ、そうです。女は度胸です。
「…んっ」
左手の人差し指と中指で花園の襞を割り開きました。蜜で濡れていて、指が滑って上手く奥まで開けません。
「ナハト様…っ…」
クパクパといやらしい音をさせて、花園の孔が開閉します。体が熱くて堪りません。私の頭はナハト様の漲った欲望で貫いて貰う事しか既に考えられなくなっていました。
「綺麗だ…」
ナハト様は視線で私を犯すように、蜜に濡れた淫らな孔を見つめます。
「セラ…指を入れてみて」
「ナハト様…私、もう…っ」
「セラフィナイト」
「うう…んっ…」
太ももにナハト様の漲った欲望が触れています。指を伸ばせば直ぐ傍にございますのに、何が哀しくて自分の指を入れなければならないのでしょうか。私は促されるままに自分の右手の人差し指をゆっくりと孔に差し入れました。ぬるぬるとした花園の入り口は柔らかく、直ぐに指を受け入れましたが、奥に進んだだけ中が狭く、指を締め付けているのが分かりました。けれど、自分の指では何も感じません。
「入れた指を出し入れしながら、この膨らみを自分で弄ってごらん」
花園の入り口の膨らんだ芽に私の指をずらして充てたナハト様の瞳は熱を孕んで、私が欲しいと訴えているようです。
私に恥ずかしい事をさせるのは、ナハト様のヤンデレ属性の特徴です。何がまたナハト様を不安にさせたのかは分かりませんが、こんな事でナハト様が安心して下さるなら幾らでも弄ってみせますわ。
「腰が動いてきた…気持ちいいか?」
膨らんだ芽を中心に、覚えのある感覚が下半身に生まれます。中の指は私の良い処に届かなくて余り快感は感じませんが、刺激すればするほど蜜が溢れて、寝台のリネンを濡らします。
「ん、んっ、ナハト様…お願いします…ナハト様が良いの…ナハト様の熱いのが欲しいの…っ」
決定的な刺激が無い状態の生温い快感は辛く、無意識に目から涙が溢れます。
「セラ…っ…」
ナハト様が私の唇に口付けして下さいました。舌を吸われながら、まだ私の指が入ったままの花園にナハト様の漲った欲望が入ってきました。
「ん!んん!んー…っっ」
突然の強い刺激に、視界も脳内も白くスパークしました。自分でも何が起きたのか分かりませんが、ナハト様と繋がった瞬間に何かが吹き出して私達の体を濡らしました。
そこから私の記憶はおぼろ気で、自分が何を口走り、どのようにナハト様に愛されたのか定かではございません。
私が目覚めたのは翌日の正午過ぎで、寝台から自力で起き上がる事が出来ないほどでした。しかも目覚めた寝台が、昨日愛し合った夫婦の寝台ではなく、見知らぬ部屋の物でしたので思考が暫く止まりました。
「設定から卒業したのでは、なかったの…?」
誰もいない部屋に、掠れた私の声だけが虚しく溶けて消えました。
今世では初めて見る部屋ですが、前世では見覚えのある部屋です。娘のフローライトがナハト様に凌辱される時に使われた地下の監禁部屋です。つまり、最愛の妻を監禁していた部屋で、娘も監禁して同じように凌辱したと云う語られなかった設定を今知る事となりました。
「ナハト様…」
一体何故私はこの部屋にいるのでしょう。もしや、このまま凌辱死亡エンドなのでしょうか。
ああ、この状態を何と申せばよいのでしょう。頭が回りません。ええ、そうですね、今の状態は、好事魔多しと申せましょうか。
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