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筋肉は決して裏切らないのです
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ナハト様と結婚してからそろそろ二ヶ月が経過しようとしている四月の下旬は、春爛漫を絵に描いたようでシルフィード公爵邸の庭園は様々な色彩に溢れていた。
ゾンネ王国の首都の隣にあるシルフィード公爵領は広大で、従来より領地の主な産業は鉱石の加工と流通だった。けれど、ナハト様が領主になってからは、農業と観光業にも力をいれるようになり、領地は右肩上がりで豊かになっている。
ナハト様はシルフィード公爵家を継ぐ前は、シュテアネ侯爵として領地を管理し、その傍らで王宮医師として働いていた。
義理兄と義理母が事故で他界して、後継者のお鉢が廻ってきてしまったナハト様は渋々シルフィード公爵家の当主となった。
当主となったナハト様は、侯爵領のほかにも伯爵領、子爵領も持ち、財務大臣職をも継ぐ事になり、元から多忙であったのに益々忙しさに拍車がかかった。そんな中で王宮医師を続けられる筈もなく、ナハト様は渋々医師の職を辞した。
ナハト様が医師になったのは病弱な私の為で、王宮医師と云う立場に執着があったわけではないそうで、辞める事には未練は無いけれど、薬の研究に全力で取り組めない事には思うところがあるそうだ。
私が何度も死にかけて、余命宣告を受けたのは十二歳の時で、ナハト様はまだその時医師になるために世界の南西にあるエアデ王国の医術専門学校に留学中だった。
エアデ王国にある王立医術専門学校は医師を目指す人々の間では名門中の名門で、この学校を卒業した医師はどの国でも引く手数多の名医を輩出している事で有名だった。
ナハト様はその学校で、私が患っている心不全性魔力過多症を治癒する特効薬の研究に取り組んでいた。
余命宣告を知ったナハト様は、特効薬とまではいかないけれど、心臓の目詰まりを緩和する薬を開発し、私はその薬によって余命宣告を取り消されるレベルにまで回復した。
ナハト様が学校を卒業した後は、ゾンネ王国の王宮医師として国の医術研究機関で特効薬の開発を続けていて、最初の緩和薬よりも更に改善された緩和薬を開発し、それによって私は今の閨事も出来る病弱レベルまでになった。
けれど、ナハト様が安心して満足出来るまで閨事を行えるには、体力が足りない。
そもそも、何故私が早死にするに到ったかと云えば、私に横恋慕したこの国の王太子から側室に望まれてしまい、世間から隠す為に邸の地下に監禁されて、ヤンデレが悪化したナハト様に凌辱され続けたからだ。監禁中に悪役令嬢となる娘を身籠り、出産後に他界した。
まぁ、心臓の病を抱えて、日も当たらない地下室に監禁されながら凌辱され続けたら儚くもなるわよね。
例えば、今後地下室に監禁されて凌辱され続けるような事になっても、私に体力があれば、出産後に力尽きて儚くなる事はないと思うのよね。
だから、私は幸せ家族のラブラブライフを手に入れるために、主に三つの目標を立てたわ。それらは、体力強化、引きこもり、そして子供は二人以上産む事です。
邸に引きこもり社交界に出なければ、王太子どころか誰にも認知されずにナハト様の執着心と独占欲を刺激せず、ヤンデレ化を防止できる。
悪役令嬢となる娘は一人っ子で、ヤンデレ毒親のナハト様に溺愛されて傍若無人で唯我独尊に育ってしまうから、姉弟がいれば少なくとも貴族令嬢のちょっと甘やかされた我が儘レベルくらいになると思うのよね。姉弟がいれば、我慢も譲る事も覚えるし、もし私がいなくなっても支えてくれる人が出来る。ナハト様のヤンデレ化も緩和されるはずだわ。
そして、体力強化、これが一番重要です。病が完治しなければ、病弱は返上出来ないけれど、体力が増えれば病弱レベルが低くなる。体力が増えれば、ナハト様と沢山愛し合えるし、余程の事が無ければ簡単に儚くならない。
前世の記憶が戻った時に見た自分の顔色の悪さは衝撃的だったし、何より全く筋肉が付いていないから長く歩く事も出来ない。直ぐに疲れて寝室に引きこもっているから、体力がつかない。
悪循環を断つためには、やはり地道にコツコツと筋トレするしかないわよね。
「セラフィナイト様、本日の鍛練はここまでに致しましょう」
週に三回、ナハト様にお願いして、シルフィード公爵家専属騎士団の女性騎士達にトレーナーをしてもらって、無理なく効率的に筋肉をつけられるように指導してもらっています。
筋トレを始めてから早一ヶ月ですが、以前より体が締まってきたように思います。
元から華奢で細過ぎる体だったけれど、今は二の腕にうっすらと筋肉の筋が見え始めて、腕立て伏せが二回出来るようになりました。
腹筋と背筋は三回続けて出来るようになって、スクワットなんか五回も出来るようになったわ。
体力向上の為にどうすれば良いのかナハト様に相談したら、当初はナハト様本人が指導してくれると言ってくれたのだけれど、実際問題ナハト様は多忙であるため、シルフィード公爵家の騎士団に所属する女性騎士達に私の護衛を兼ねた指導を命じた。
基本的には騎士団の鍛練が終了した後に指導してもらっていて、今日も夕陽が美しい時間帯に鍛練は終了した。
「……本日も、ありがとう、ございました…」
一周が200メートルくらいあるだろう練習場を、必ず一周は完走するのがノルマで、今日は前回よりも早く走り終える事が出来た。
その後は、基礎的な筋トレを行うのだけれど、まだまだ目標回数には届かない。
たった一周を走っただけでフラフラになってしまう私を心配しながらも、温かく応援してくれる女性騎士達に励まされながら、今日も何とか筋トレを終了させた。今日は回数を増やす事は出来なかったのが残念だ。
ゼェゼェと、上位貴族の夫人にあるまじき呼吸の荒さに、事情を知らない第三者が見たら乱心を疑われる私の様子に、最初は同じ様に引いていた騎士達も、今は慣れたのか心配しながらも温かい眼差しを送りながら労ってくれる。
「凄いですね、セラフィナイト様。今日は前回より二秒も早く一周出来ましたよ」
私にタオルを渡しながら誉めてくれるのは、女性騎士の中で一番大柄な短髪赤髪のシェリー。見た目は前世のテレビで観た某女性プロレスラーのようだ。ちなみに、私は200メートルを現在七分かけて完走する。走ると云うより速く歩く感じだ。最初は完走出来なかったのだから、かなりの進歩だと自分では思う。
「回数は増えませんでしたが、姿勢が安定していましたね。体軸がしっかりしてきました」
ワゴンの上に用意されている冷たいレモネードをピッチャーからグラスに注ぎ、私に差し出してくれながら誉めてくれるのが、騎士にしては女性的な色気をムンムンに醸し出しているダイナマイトバディな茶髪のミネルバ。某有名女怪盗に似ている。
基本的に、この二人が私のトレーナーをしてくれている。
最初は公爵夫人である私に畏まった態度でいた二人だけれど、私の貴族らしくない振る舞いに緊張を解いたのか、今の比較的気安い感じの態度をとってくれるようになった。
「ありがとう…、次も頑張るわ」
グラスのレモネードを半分程飲み、タオルで汗を拭きながら二人に笑顔で頷きをかえした。辛くても、笑顔は大事よね。
シェリーとミネルバは私の顔をうっとりとした表情で見つめると、感嘆の溜め息を洩らした。
「本当に…何て美しいの…妖精…?」
「…魅惑の華奢グラマー…素敵過ぎる…」
お二人とも、心の声が駄々漏れですわ。
あの麗しのナハト様が一目惚れするくらい、今の私であるセラフィナイトは絶世の美女だから、シェリーとミネルバの気持ちもよく分かるけれど。
腰まである艶々の白金の髪。透き通るように美しい緑の瞳。柔らかそうな小さなサクランボ色の唇。小さな顔に華奢な体。それなのに、お胸だけは豊かに実っている。筋トレを始めてから、ウエストの括れが際立つようになって、胸に比べると小さなお尻にも肉が付いてきて、エッチな漫画のヒロインのようにフェロモンが滲み出ている。
不健康な青白い顔色も、適度な運動と食事療法で以前より艶が良い。
適度な運動のおかげで食べられる量が増え、以前より体の調子が良いから笑顔も自然に増えて、なんだか邸全体の雰囲気も明るくなったような気がするわ。
「シェリーやミネルバの様に、素敵な力こぶが出来るのはいつになるのかしら…」
私は力こぶを作ろうと右腕を上げて肘を曲げた。
普段は人前で肌を出すような事はしないけれど、練習場で女騎士しかいない時は、運動の後は体が熱いので、はしたないけれど前開きの白い綿の上衣の紐を二つ外して襟元を開き、長袖を二の腕まで捲って熱を逃がす。
平民ならいざ知らず、この世界の貴族の服にはTシャツ、短パンは無いから、運動する時はYシャツに似た衿の立った長袖の上衣とスラックスの様なズボンを着用し、革のブーツを履く。貴族女性が運動なんて基本しないから、女性用の運動着なんて無いので、男の子が着る服で代用する。
「始めた当初に比べたら、しっかりと筋肉が付いてきておりますよ」
「そうですよ。やればやるだけ、筋肉は応えてくれます。筋肉は裏切らないのですよ」
シェリーとミネルバが口々に慰めてくれる。あぁ、なんて優しいの。
前世も今世も友人らしい友人がいなかったから、二人の親愛が嬉しい。
「ありがとう、シェリー、ミネルバ」
私の両側にいた二人の右腕と左腕に自分の腕を絡め、二人の肩に交互に頭を乗せた。女性だけれど、確かな筋肉の張りを感じて感嘆の溜め息を吐いた。
そういえばナハト様の腕も、触れると騎士の様に硬い筋肉の隆起を感じたわ。
医師や財務大臣なんて筋肉とは縁の無い職種だと思うのだけれど、鍛練を欠かさずにいるナハト様は素敵だわ。
ああ、ナハト様。今夜は早く帰宅出来るのかしら。二回目の閨事の後にナハト様のお仕事が忙しくなってしまって、私が起きている間に帰宅出来ずにすれ違い生活だったし、早く帰宅出来る日があっても私の月の障りで閨事が出来ず、まだ三回目に挑めずにいるわ。
今なら、前回より体力がついたから、ナハト様の要求に応える事が出来るはずだわ。
「…そんな…艶かしいお顔を…」
「ああ…セラフィナイト様…」
何故かシェリーとミネルバの頬が赤らみ、私を困った様に見下ろしてくる。
「…セラ、何をしているんだ?」
突然背後から聞こえた抑揚の無い冷たい声に、私達三人は弾かれた様に振り返った。
「ナハト様!」
夕日をスポットライトに現れた長身のナハト様は、地面に伸びる影さえ尊い。鮮やかな金の髪が、夕日を浴びてオレンジに輝いて、まるで神様降臨の様な高貴さに溢れていた。
ナハト様が現れた瞬間、シェリーとミネルバは素早く私から離れて背後に控えた。逞しい筋肉の感触が失くなって少し寂しい。
ナハト様がゆっくりと近付く度に、何故かピリピリとした空気が肌を刺す。
怜悧な淡青色の切れ長の双眸が、いつもは優しい温もりに溢れているのに、今は冷気が滲み出て自然と体に緊張が走った。
あれ?何で?もしかして、ナハト様怒っている?
ナハト様は私の目の前で立ち止まり、慣れた仕草で人払いをした。シェリーとミネルバは騎士の礼をして素早く姿を消した。
え?忍者?一度瞬きをしただけなのに、もう気配どころか姿が無い。あ、そうか、木に隠れただけ?私達が休憩していた場所は、木々に囲まれた小さめの四阿だから。
「セラ、質問に答えて」
キョロキョロと周囲を見渡す私の挙動に不審を覚えたのか、いつもは真綿で包むように優しく触れてくるナハト様が強引に私の顎を指で掴んで上げた。
こ、これは!もしかして、顎クイと云うものでは!
私の身長は160センチでナハト様との身長差は25センチあるので、この姿勢は少々辛い。
「ナハト様…?」
質問って何だったかしら。あ、そうか、何をしているんだ、だったわ。私が説明しようと口を開いた瞬間、ナハト様の唇が重なった。
「んん?!」
腰を引き寄せられ、バランスを崩して後ろに倒れそうになって慌てたけれど、ナハト様に片腕だけで抱き上げられて更に唇を深く重ねられた。
私よりも厚くて長い舌が私の縮こまる舌に絡まり、強く吸われる。ジュジュッと唾液ごと舌を強く吸われて、痛みと痺れに眉が寄った。
噛み付くような口付けに驚きながらも、いつもよりワイルドなナハト様にドキドキして、外なのに体の奥が切なくなった。口付けられた途端に、下半身が切なく疼いて濡れるなんて、私は淫乱の類いなのかしら。
「…ん、んふ…っ…はぁ、あん…っ」
婚約時代からキスだけはしていたから、慣れたつもりでいたけれど、キスは唇を重ねるだけじゃなかった事を、初夜で初めて知ったから、深い口付けには未だに不慣れだわ。
「ん、んん?んふ…っ」
口付けを続けながらナハト様は私の体をそっと四阿のベンチに座らせると、腰に巻いていた布ベルトを解いてしまった。
紐で締めていたズボンを緩めると、背中に沿って手をズボンの中に差し入れて私のお尻を掴んで揉んだ。
え?待って?こんな所で直接肌に触れるなんて。ナハト様に求められるなら応えたいけれど、運動した後で汗もかいているし、ここは人払いされた四阿と云えど、外である事に変わりはないわ。お外での情事は初心者にはまだ時期尚早だと思うのだけれど。
「セラ…早く答えなければ罰を与えるよ?貴女はあの二人と何をしていたんだ?」
罰?お外でラブラブするのが罰なの?私にとってはある意味ご褒美なのだけれど、なんとなく誤解されたままだとシェリーやミネルバ達に迷惑がかかりそうだから説明する。
「鍛練の後に、休憩していました。あの二人のような筋肉になるには程遠くて、少し落ち込んでしまって…シェリーとミネルバは私を慰めてくれたので…それが嬉しくて甘えてしまいました。公爵夫人の立場を弁えずに気安い態度を取ってしまいました。申し訳ございません」
「…本当に?」
「え?」
ナハト様は私の体を持ち上げて、ナハト様のお膝の上に跨がるように私を座らせた。
私の口付けで濡れた唇を親指で一度拭い、鋭い眼差しのまま私の瞳を射抜く。
優しいナハト様の眼差しも大好きだけれど、今の危険な眼差しのナハト様もゾクゾクするほど素敵だわ。
「襟元を開き、肌を晒して、あんなに艶かしい顔で二人を見つめて、腕に抱き付いて甘えて…。私には、不貞を疑わざるを得ない光景に見えたが?」
私の唇から指を滑らせ、肌の露出がいつもより多い私の首筋から鎖骨をナハト様の指が辿り、シャツの紐を解いてまた露出を多くした。
このままでは私のお胸が見えてしまうわ。今は閨用のセクシー肌着じゃないから恥ずかしいわ。この世界の貴族女性の普段の肌着はコルセットやドロワーズに長い布を下半身に巻き付ける褌タイプや腰巻きタイプがある。
私は前世を思い出してから、メイド達にお願いしてチューブトップに似せた下着と紐パンツを作って貰って着用している。残念ながらこの世界にはまだゴム素材が見つかっていないようで、基本は紐やボタンで布を留める仕様が主流なのだ。
でも、閨用の肌着はベビードールに似た刺繍やレースが沢山使われたセクシーランジェリーがあって、私は基本的に夜はいつもそれらを着用している。だって、いつでもウエルカムだから。
「…不貞…ですか?シェリーもミネルバも女性ですわ」
私は恥ずかしいけれどナハト様の手を拒まず、寧ろ自分からナハト様の首に両腕を回して身を寄せた。お胸がナハト様の手に包まれて形を変える。ナハト様は意図的に指の間に私のお胸の中心を挟みながら、ゆったりと揉みしだく。ビリビリと甘い痺れが走って、自然と甘えた鼻息が洩れた。
「ん…っ」
「性別など関係無い。セラ…頼むから自覚してくれ。貴女は美しい。貴女にそのつもりは無くても、人は貴女に魅了されてしまうんだ」
死亡フラグ立ちまくりの絶世の美女だから、やっぱりセラフィナイトは先天的に魅了の持ち主設定なんだろうなぁ。
「ナハト様…」
私を奪われる恐怖を感じているのか、ナハト様は私の体を問答無用で愛撫しながらも、その瞳はとても不安定で苦し気に揺れていた。
お外なのにお胸を晒して、シャツは着たままで下半身は紐パンツだけと云う、いかにもな姿で私は今まさにナハト様の熱い欲望を受け入れ様としていた。
引きこもっていても、こうして何かの切っ掛けでナハト様のヤンデレ属性が発動してしまうんだから油断ならないわ。
大丈夫ですよ、ナハト様。私は昔も今も貴方だけなんですから。
「セラ…セラ…っ」
「あぁっ、あ、あ、んんー…っ」
ナハト様に触れられるだけで直ぐに濡れてしまう私の花園は、とても立派なナハト様自身をしっかりと受け入れた。余裕がなくて余り解されてなくて、前回よりも圧迫感は強いけれど、ナハト様自身だと思うだけで洪水のように濡れ、お腹の奥がキュンキュンと疼いて腰が揺れた。
「セラがそれほど筋肉が好きなら、私も鍛練の時間を増やす。だから…頼むから…私以外の者に触れないでくれ…」
ナハト様が切なく懇願してきて、私はナハト様が更に愛しくて堪らなくなった。
シェリーとミネルバの筋肉を喜んでいたのをしっかりナハト様は見破っていたから、ヤンデレ属性が発動してしまったのだと私は反省した。
でも、そんな事で嫉妬してくれるなんて、なんて可愛いの、ナハト様。
「んふ…ん、あ、違うの…」
「何が、違う…?」
対面座位でお互いに腰を擦り付け合いながら、キスの合間に私は言葉を紡ぐ。
「ナハト様を思い出していたの…ナハト様の筋肉はもっと素敵だった…早く、もう一度、抱き締めて貰いたいって…あ、あ、や、駄目っ、深いのっ、駄目ぇっ」
私の言葉を聞いた途端に、私の中のナハト様が更に硬く撓り、膨れて私の奥を穿った。重くて鋭い快楽に、私は急激に登り詰めた。
視界が白くなって弾け、多分暫く意識を飛ばしていたのだと思う。
私が意識を取り戻した時は、既に乱れた服は調えられ、ナハト様に横抱きにされて運ばれていた。
「…セラ」
意識を取り戻した私を見て安堵の表情を浮かべたナハト様に、私は眉を下げて唇を引き結んだ。
「セラ?」
筋トレの成果が出ず、一人だけ気持ち良くなって達してしまった自分が情けなくてしょうがない。
「…すまない…怒っているのか?」
「え?」
「まだ慣れない貴女に、外での行為を強要してしまった…」
邸の二階に続く階段を登りながら、ナハト様は私の耳元で囁く。くすぐったいです、ナハト様。確かに、使用人達が周りにいるから、声高に話すわけにはいかない内容ですけど。
「…違うの…」
「ん?」
だから、ナハト様。耳元でその美声を聞かせないで。またお腹の中が熱くなってしまいます。
「ナハト様と二人で…一緒に…その…」
二人で達したかったとは、恥ずかしくて言えないわ。
「セラ…」
ナハト様は突然顔から表情を消し、歩く速度を上げた。
え?何?どうしたの?
夫婦の私室の扉の前で待機していた執事長にナハト様は夕食の変更を指示し、人払いをして部屋に入った。続き部屋の寝室へ迷わず入り、寝台に私を下ろすと、直ぐに私に覆い被さって口付けてくれた。
「ん、はぁ、あふ…」
「セラ…セラ…愛してる」
ナハト様のスイッチが未だ良く分からないけれど、何かがナハト様のやる気スイッチを刺激したのね。
まさかの場所を移動しての二回戦突入に、私はリベンジに燃えた。
今こそ筋トレ効果を発揮する時よ、セラフィナイト!大丈夫、筋肉は決して裏切らないわ!ナハト様、存分に愛して下さいませ!
ゾンネ王国の首都の隣にあるシルフィード公爵領は広大で、従来より領地の主な産業は鉱石の加工と流通だった。けれど、ナハト様が領主になってからは、農業と観光業にも力をいれるようになり、領地は右肩上がりで豊かになっている。
ナハト様はシルフィード公爵家を継ぐ前は、シュテアネ侯爵として領地を管理し、その傍らで王宮医師として働いていた。
義理兄と義理母が事故で他界して、後継者のお鉢が廻ってきてしまったナハト様は渋々シルフィード公爵家の当主となった。
当主となったナハト様は、侯爵領のほかにも伯爵領、子爵領も持ち、財務大臣職をも継ぐ事になり、元から多忙であったのに益々忙しさに拍車がかかった。そんな中で王宮医師を続けられる筈もなく、ナハト様は渋々医師の職を辞した。
ナハト様が医師になったのは病弱な私の為で、王宮医師と云う立場に執着があったわけではないそうで、辞める事には未練は無いけれど、薬の研究に全力で取り組めない事には思うところがあるそうだ。
私が何度も死にかけて、余命宣告を受けたのは十二歳の時で、ナハト様はまだその時医師になるために世界の南西にあるエアデ王国の医術専門学校に留学中だった。
エアデ王国にある王立医術専門学校は医師を目指す人々の間では名門中の名門で、この学校を卒業した医師はどの国でも引く手数多の名医を輩出している事で有名だった。
ナハト様はその学校で、私が患っている心不全性魔力過多症を治癒する特効薬の研究に取り組んでいた。
余命宣告を知ったナハト様は、特効薬とまではいかないけれど、心臓の目詰まりを緩和する薬を開発し、私はその薬によって余命宣告を取り消されるレベルにまで回復した。
ナハト様が学校を卒業した後は、ゾンネ王国の王宮医師として国の医術研究機関で特効薬の開発を続けていて、最初の緩和薬よりも更に改善された緩和薬を開発し、それによって私は今の閨事も出来る病弱レベルまでになった。
けれど、ナハト様が安心して満足出来るまで閨事を行えるには、体力が足りない。
そもそも、何故私が早死にするに到ったかと云えば、私に横恋慕したこの国の王太子から側室に望まれてしまい、世間から隠す為に邸の地下に監禁されて、ヤンデレが悪化したナハト様に凌辱され続けたからだ。監禁中に悪役令嬢となる娘を身籠り、出産後に他界した。
まぁ、心臓の病を抱えて、日も当たらない地下室に監禁されながら凌辱され続けたら儚くもなるわよね。
例えば、今後地下室に監禁されて凌辱され続けるような事になっても、私に体力があれば、出産後に力尽きて儚くなる事はないと思うのよね。
だから、私は幸せ家族のラブラブライフを手に入れるために、主に三つの目標を立てたわ。それらは、体力強化、引きこもり、そして子供は二人以上産む事です。
邸に引きこもり社交界に出なければ、王太子どころか誰にも認知されずにナハト様の執着心と独占欲を刺激せず、ヤンデレ化を防止できる。
悪役令嬢となる娘は一人っ子で、ヤンデレ毒親のナハト様に溺愛されて傍若無人で唯我独尊に育ってしまうから、姉弟がいれば少なくとも貴族令嬢のちょっと甘やかされた我が儘レベルくらいになると思うのよね。姉弟がいれば、我慢も譲る事も覚えるし、もし私がいなくなっても支えてくれる人が出来る。ナハト様のヤンデレ化も緩和されるはずだわ。
そして、体力強化、これが一番重要です。病が完治しなければ、病弱は返上出来ないけれど、体力が増えれば病弱レベルが低くなる。体力が増えれば、ナハト様と沢山愛し合えるし、余程の事が無ければ簡単に儚くならない。
前世の記憶が戻った時に見た自分の顔色の悪さは衝撃的だったし、何より全く筋肉が付いていないから長く歩く事も出来ない。直ぐに疲れて寝室に引きこもっているから、体力がつかない。
悪循環を断つためには、やはり地道にコツコツと筋トレするしかないわよね。
「セラフィナイト様、本日の鍛練はここまでに致しましょう」
週に三回、ナハト様にお願いして、シルフィード公爵家専属騎士団の女性騎士達にトレーナーをしてもらって、無理なく効率的に筋肉をつけられるように指導してもらっています。
筋トレを始めてから早一ヶ月ですが、以前より体が締まってきたように思います。
元から華奢で細過ぎる体だったけれど、今は二の腕にうっすらと筋肉の筋が見え始めて、腕立て伏せが二回出来るようになりました。
腹筋と背筋は三回続けて出来るようになって、スクワットなんか五回も出来るようになったわ。
体力向上の為にどうすれば良いのかナハト様に相談したら、当初はナハト様本人が指導してくれると言ってくれたのだけれど、実際問題ナハト様は多忙であるため、シルフィード公爵家の騎士団に所属する女性騎士達に私の護衛を兼ねた指導を命じた。
基本的には騎士団の鍛練が終了した後に指導してもらっていて、今日も夕陽が美しい時間帯に鍛練は終了した。
「……本日も、ありがとう、ございました…」
一周が200メートルくらいあるだろう練習場を、必ず一周は完走するのがノルマで、今日は前回よりも早く走り終える事が出来た。
その後は、基礎的な筋トレを行うのだけれど、まだまだ目標回数には届かない。
たった一周を走っただけでフラフラになってしまう私を心配しながらも、温かく応援してくれる女性騎士達に励まされながら、今日も何とか筋トレを終了させた。今日は回数を増やす事は出来なかったのが残念だ。
ゼェゼェと、上位貴族の夫人にあるまじき呼吸の荒さに、事情を知らない第三者が見たら乱心を疑われる私の様子に、最初は同じ様に引いていた騎士達も、今は慣れたのか心配しながらも温かい眼差しを送りながら労ってくれる。
「凄いですね、セラフィナイト様。今日は前回より二秒も早く一周出来ましたよ」
私にタオルを渡しながら誉めてくれるのは、女性騎士の中で一番大柄な短髪赤髪のシェリー。見た目は前世のテレビで観た某女性プロレスラーのようだ。ちなみに、私は200メートルを現在七分かけて完走する。走ると云うより速く歩く感じだ。最初は完走出来なかったのだから、かなりの進歩だと自分では思う。
「回数は増えませんでしたが、姿勢が安定していましたね。体軸がしっかりしてきました」
ワゴンの上に用意されている冷たいレモネードをピッチャーからグラスに注ぎ、私に差し出してくれながら誉めてくれるのが、騎士にしては女性的な色気をムンムンに醸し出しているダイナマイトバディな茶髪のミネルバ。某有名女怪盗に似ている。
基本的に、この二人が私のトレーナーをしてくれている。
最初は公爵夫人である私に畏まった態度でいた二人だけれど、私の貴族らしくない振る舞いに緊張を解いたのか、今の比較的気安い感じの態度をとってくれるようになった。
「ありがとう…、次も頑張るわ」
グラスのレモネードを半分程飲み、タオルで汗を拭きながら二人に笑顔で頷きをかえした。辛くても、笑顔は大事よね。
シェリーとミネルバは私の顔をうっとりとした表情で見つめると、感嘆の溜め息を洩らした。
「本当に…何て美しいの…妖精…?」
「…魅惑の華奢グラマー…素敵過ぎる…」
お二人とも、心の声が駄々漏れですわ。
あの麗しのナハト様が一目惚れするくらい、今の私であるセラフィナイトは絶世の美女だから、シェリーとミネルバの気持ちもよく分かるけれど。
腰まである艶々の白金の髪。透き通るように美しい緑の瞳。柔らかそうな小さなサクランボ色の唇。小さな顔に華奢な体。それなのに、お胸だけは豊かに実っている。筋トレを始めてから、ウエストの括れが際立つようになって、胸に比べると小さなお尻にも肉が付いてきて、エッチな漫画のヒロインのようにフェロモンが滲み出ている。
不健康な青白い顔色も、適度な運動と食事療法で以前より艶が良い。
適度な運動のおかげで食べられる量が増え、以前より体の調子が良いから笑顔も自然に増えて、なんだか邸全体の雰囲気も明るくなったような気がするわ。
「シェリーやミネルバの様に、素敵な力こぶが出来るのはいつになるのかしら…」
私は力こぶを作ろうと右腕を上げて肘を曲げた。
普段は人前で肌を出すような事はしないけれど、練習場で女騎士しかいない時は、運動の後は体が熱いので、はしたないけれど前開きの白い綿の上衣の紐を二つ外して襟元を開き、長袖を二の腕まで捲って熱を逃がす。
平民ならいざ知らず、この世界の貴族の服にはTシャツ、短パンは無いから、運動する時はYシャツに似た衿の立った長袖の上衣とスラックスの様なズボンを着用し、革のブーツを履く。貴族女性が運動なんて基本しないから、女性用の運動着なんて無いので、男の子が着る服で代用する。
「始めた当初に比べたら、しっかりと筋肉が付いてきておりますよ」
「そうですよ。やればやるだけ、筋肉は応えてくれます。筋肉は裏切らないのですよ」
シェリーとミネルバが口々に慰めてくれる。あぁ、なんて優しいの。
前世も今世も友人らしい友人がいなかったから、二人の親愛が嬉しい。
「ありがとう、シェリー、ミネルバ」
私の両側にいた二人の右腕と左腕に自分の腕を絡め、二人の肩に交互に頭を乗せた。女性だけれど、確かな筋肉の張りを感じて感嘆の溜め息を吐いた。
そういえばナハト様の腕も、触れると騎士の様に硬い筋肉の隆起を感じたわ。
医師や財務大臣なんて筋肉とは縁の無い職種だと思うのだけれど、鍛練を欠かさずにいるナハト様は素敵だわ。
ああ、ナハト様。今夜は早く帰宅出来るのかしら。二回目の閨事の後にナハト様のお仕事が忙しくなってしまって、私が起きている間に帰宅出来ずにすれ違い生活だったし、早く帰宅出来る日があっても私の月の障りで閨事が出来ず、まだ三回目に挑めずにいるわ。
今なら、前回より体力がついたから、ナハト様の要求に応える事が出来るはずだわ。
「…そんな…艶かしいお顔を…」
「ああ…セラフィナイト様…」
何故かシェリーとミネルバの頬が赤らみ、私を困った様に見下ろしてくる。
「…セラ、何をしているんだ?」
突然背後から聞こえた抑揚の無い冷たい声に、私達三人は弾かれた様に振り返った。
「ナハト様!」
夕日をスポットライトに現れた長身のナハト様は、地面に伸びる影さえ尊い。鮮やかな金の髪が、夕日を浴びてオレンジに輝いて、まるで神様降臨の様な高貴さに溢れていた。
ナハト様が現れた瞬間、シェリーとミネルバは素早く私から離れて背後に控えた。逞しい筋肉の感触が失くなって少し寂しい。
ナハト様がゆっくりと近付く度に、何故かピリピリとした空気が肌を刺す。
怜悧な淡青色の切れ長の双眸が、いつもは優しい温もりに溢れているのに、今は冷気が滲み出て自然と体に緊張が走った。
あれ?何で?もしかして、ナハト様怒っている?
ナハト様は私の目の前で立ち止まり、慣れた仕草で人払いをした。シェリーとミネルバは騎士の礼をして素早く姿を消した。
え?忍者?一度瞬きをしただけなのに、もう気配どころか姿が無い。あ、そうか、木に隠れただけ?私達が休憩していた場所は、木々に囲まれた小さめの四阿だから。
「セラ、質問に答えて」
キョロキョロと周囲を見渡す私の挙動に不審を覚えたのか、いつもは真綿で包むように優しく触れてくるナハト様が強引に私の顎を指で掴んで上げた。
こ、これは!もしかして、顎クイと云うものでは!
私の身長は160センチでナハト様との身長差は25センチあるので、この姿勢は少々辛い。
「ナハト様…?」
質問って何だったかしら。あ、そうか、何をしているんだ、だったわ。私が説明しようと口を開いた瞬間、ナハト様の唇が重なった。
「んん?!」
腰を引き寄せられ、バランスを崩して後ろに倒れそうになって慌てたけれど、ナハト様に片腕だけで抱き上げられて更に唇を深く重ねられた。
私よりも厚くて長い舌が私の縮こまる舌に絡まり、強く吸われる。ジュジュッと唾液ごと舌を強く吸われて、痛みと痺れに眉が寄った。
噛み付くような口付けに驚きながらも、いつもよりワイルドなナハト様にドキドキして、外なのに体の奥が切なくなった。口付けられた途端に、下半身が切なく疼いて濡れるなんて、私は淫乱の類いなのかしら。
「…ん、んふ…っ…はぁ、あん…っ」
婚約時代からキスだけはしていたから、慣れたつもりでいたけれど、キスは唇を重ねるだけじゃなかった事を、初夜で初めて知ったから、深い口付けには未だに不慣れだわ。
「ん、んん?んふ…っ」
口付けを続けながらナハト様は私の体をそっと四阿のベンチに座らせると、腰に巻いていた布ベルトを解いてしまった。
紐で締めていたズボンを緩めると、背中に沿って手をズボンの中に差し入れて私のお尻を掴んで揉んだ。
え?待って?こんな所で直接肌に触れるなんて。ナハト様に求められるなら応えたいけれど、運動した後で汗もかいているし、ここは人払いされた四阿と云えど、外である事に変わりはないわ。お外での情事は初心者にはまだ時期尚早だと思うのだけれど。
「セラ…早く答えなければ罰を与えるよ?貴女はあの二人と何をしていたんだ?」
罰?お外でラブラブするのが罰なの?私にとってはある意味ご褒美なのだけれど、なんとなく誤解されたままだとシェリーやミネルバ達に迷惑がかかりそうだから説明する。
「鍛練の後に、休憩していました。あの二人のような筋肉になるには程遠くて、少し落ち込んでしまって…シェリーとミネルバは私を慰めてくれたので…それが嬉しくて甘えてしまいました。公爵夫人の立場を弁えずに気安い態度を取ってしまいました。申し訳ございません」
「…本当に?」
「え?」
ナハト様は私の体を持ち上げて、ナハト様のお膝の上に跨がるように私を座らせた。
私の口付けで濡れた唇を親指で一度拭い、鋭い眼差しのまま私の瞳を射抜く。
優しいナハト様の眼差しも大好きだけれど、今の危険な眼差しのナハト様もゾクゾクするほど素敵だわ。
「襟元を開き、肌を晒して、あんなに艶かしい顔で二人を見つめて、腕に抱き付いて甘えて…。私には、不貞を疑わざるを得ない光景に見えたが?」
私の唇から指を滑らせ、肌の露出がいつもより多い私の首筋から鎖骨をナハト様の指が辿り、シャツの紐を解いてまた露出を多くした。
このままでは私のお胸が見えてしまうわ。今は閨用のセクシー肌着じゃないから恥ずかしいわ。この世界の貴族女性の普段の肌着はコルセットやドロワーズに長い布を下半身に巻き付ける褌タイプや腰巻きタイプがある。
私は前世を思い出してから、メイド達にお願いしてチューブトップに似せた下着と紐パンツを作って貰って着用している。残念ながらこの世界にはまだゴム素材が見つかっていないようで、基本は紐やボタンで布を留める仕様が主流なのだ。
でも、閨用の肌着はベビードールに似た刺繍やレースが沢山使われたセクシーランジェリーがあって、私は基本的に夜はいつもそれらを着用している。だって、いつでもウエルカムだから。
「…不貞…ですか?シェリーもミネルバも女性ですわ」
私は恥ずかしいけれどナハト様の手を拒まず、寧ろ自分からナハト様の首に両腕を回して身を寄せた。お胸がナハト様の手に包まれて形を変える。ナハト様は意図的に指の間に私のお胸の中心を挟みながら、ゆったりと揉みしだく。ビリビリと甘い痺れが走って、自然と甘えた鼻息が洩れた。
「ん…っ」
「性別など関係無い。セラ…頼むから自覚してくれ。貴女は美しい。貴女にそのつもりは無くても、人は貴女に魅了されてしまうんだ」
死亡フラグ立ちまくりの絶世の美女だから、やっぱりセラフィナイトは先天的に魅了の持ち主設定なんだろうなぁ。
「ナハト様…」
私を奪われる恐怖を感じているのか、ナハト様は私の体を問答無用で愛撫しながらも、その瞳はとても不安定で苦し気に揺れていた。
お外なのにお胸を晒して、シャツは着たままで下半身は紐パンツだけと云う、いかにもな姿で私は今まさにナハト様の熱い欲望を受け入れ様としていた。
引きこもっていても、こうして何かの切っ掛けでナハト様のヤンデレ属性が発動してしまうんだから油断ならないわ。
大丈夫ですよ、ナハト様。私は昔も今も貴方だけなんですから。
「セラ…セラ…っ」
「あぁっ、あ、あ、んんー…っ」
ナハト様に触れられるだけで直ぐに濡れてしまう私の花園は、とても立派なナハト様自身をしっかりと受け入れた。余裕がなくて余り解されてなくて、前回よりも圧迫感は強いけれど、ナハト様自身だと思うだけで洪水のように濡れ、お腹の奥がキュンキュンと疼いて腰が揺れた。
「セラがそれほど筋肉が好きなら、私も鍛練の時間を増やす。だから…頼むから…私以外の者に触れないでくれ…」
ナハト様が切なく懇願してきて、私はナハト様が更に愛しくて堪らなくなった。
シェリーとミネルバの筋肉を喜んでいたのをしっかりナハト様は見破っていたから、ヤンデレ属性が発動してしまったのだと私は反省した。
でも、そんな事で嫉妬してくれるなんて、なんて可愛いの、ナハト様。
「んふ…ん、あ、違うの…」
「何が、違う…?」
対面座位でお互いに腰を擦り付け合いながら、キスの合間に私は言葉を紡ぐ。
「ナハト様を思い出していたの…ナハト様の筋肉はもっと素敵だった…早く、もう一度、抱き締めて貰いたいって…あ、あ、や、駄目っ、深いのっ、駄目ぇっ」
私の言葉を聞いた途端に、私の中のナハト様が更に硬く撓り、膨れて私の奥を穿った。重くて鋭い快楽に、私は急激に登り詰めた。
視界が白くなって弾け、多分暫く意識を飛ばしていたのだと思う。
私が意識を取り戻した時は、既に乱れた服は調えられ、ナハト様に横抱きにされて運ばれていた。
「…セラ」
意識を取り戻した私を見て安堵の表情を浮かべたナハト様に、私は眉を下げて唇を引き結んだ。
「セラ?」
筋トレの成果が出ず、一人だけ気持ち良くなって達してしまった自分が情けなくてしょうがない。
「…すまない…怒っているのか?」
「え?」
「まだ慣れない貴女に、外での行為を強要してしまった…」
邸の二階に続く階段を登りながら、ナハト様は私の耳元で囁く。くすぐったいです、ナハト様。確かに、使用人達が周りにいるから、声高に話すわけにはいかない内容ですけど。
「…違うの…」
「ん?」
だから、ナハト様。耳元でその美声を聞かせないで。またお腹の中が熱くなってしまいます。
「ナハト様と二人で…一緒に…その…」
二人で達したかったとは、恥ずかしくて言えないわ。
「セラ…」
ナハト様は突然顔から表情を消し、歩く速度を上げた。
え?何?どうしたの?
夫婦の私室の扉の前で待機していた執事長にナハト様は夕食の変更を指示し、人払いをして部屋に入った。続き部屋の寝室へ迷わず入り、寝台に私を下ろすと、直ぐに私に覆い被さって口付けてくれた。
「ん、はぁ、あふ…」
「セラ…セラ…愛してる」
ナハト様のスイッチが未だ良く分からないけれど、何かがナハト様のやる気スイッチを刺激したのね。
まさかの場所を移動しての二回戦突入に、私はリベンジに燃えた。
今こそ筋トレ効果を発揮する時よ、セラフィナイト!大丈夫、筋肉は決して裏切らないわ!ナハト様、存分に愛して下さいませ!
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