悪役令嬢の早死にする母親に転生したらしいので、幸せ家族目指して頑張ります。

百尾野狐子

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始まりは破瓜の衝撃

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あ、いや、嘘、無理…っ!
「はっ、あ…っ」
「…っ…すまない…セラ…っ」
夫となった愛しい彼に指や舌で沢山愛撫を施され、私の狭い処女地は丹念に解されていた。
唾液と愛液で泡立つ程に濡れてぬかるんだ処女地は、けれど彼の怜悧な美貌には似つかわしく無い凶悪な迄に猛々しくも長大な男性自身を、容易に受け入れる事は難しかった。
「ひっ…っ…」
常ならば過保護で心配性な彼なら、痛みで涙を流す私に無体な行為を続ける筈は無かった。
けれど、今夜の彼は謝罪を口にしながらも、私の最奥に彼自身を埋める事を止めなかった。
「あ、あぁ~…ひっっ…」
「セラ…あっ…くっ…」
焼けるような痛みが、脊髄を通って頭の中に火花を散らした。
痛い、痛い、痛い!
物理的に無理。凹凸が合わない。
そう思っていても、ああ、何て不思議な人体構造なのでしょうか。
下半身は焼けるように痛むけれど、それより痛むのは頭。頭に割れるような痛みを感じて私は失神寸前だった。
「セラ…愛してる…」
情欲に濡れるナハト様の瞳が、一瞬迷うように揺れた。
ああ、駄目よ。ナハト様の想いに応えなくては。痛くても辛くても笑うのよ、私。
笑おうとしたけれど失敗して痛みに唇を歪めた私の唇に、彼は薄い唇を重ねて食むように何度も啄んだ。
愛しい愛しい彼。
艶やかな黄金の髪。宝石のように煌めく淡青色の瞳。高く筋の通った鼻梁と酷薄な印象の強い薄い唇。滑らかな白い肌。神が細部にまで拘って創造した美の具現のような人。
「な…ナハト…っ…様ぁ…っ」
「ああ…セラっ…」
ずくり、とナハト様の熱塊が私の最奥を抉るように穿った瞬間、痛みと快感に脳がスパークしたような感覚に目を見開いた。
膨大な量の情報が螺旋を描くように脳内をかき回し、シナプスの一つ一つに電流を流した。
シナプス…?
電流…?
先程から脳内を巡る馴染みの無い言葉の数々に、けれど何故か親しみを感じている。
不思議な薄い板から流れてくる美しい旋律と、極彩色の動く絵達。
ちょっと待って。嘘でしょ?
「ああ…セラっ…セラ、私の愛しい人」
「ひっ!あ、い、ああっ!」
問答無用で子宮に注がれる夥しい量の精液を身の内で感じながら、私の脳味噌は容量不足でショートしたように意識を手放した。


意識を手放した後、次にしっかりと目を覚ました時は初夜から何と五日経過した後だった。
私は高熱を出して寝込み、寝込んでいた間に膨大な量の情報を脳内で整理し、熱が下がった今はハッピーエンドな人生を掴むために努力するべく、メラメラと静かに闘志を燃やしていた。
そう。
私は、初夜の破瓜の最中に前世を思い出した。
私の前世は享年二十歳という短い人生だった。
生まれた時からの虚弱体質に加え、後から後から湧いて出る病魔達のおかげで、私は死ぬまで殆んど病院から出る事が出来ない人生だった。
そんな前世の私の楽しみは、映画鑑賞や読書。
よくある異世界転生モノの主人公達は生前親しんだ乙女ゲームの中に転生して奮闘する事が定番だけれど、私自身は特にゲームが好きなタイプではなかった。
けれど、私は乙女ゲームの中に異世界転生をしてしまった。しかも、姉が考えた乙女ゲームの世界に。
前世の私の姉はオタクと云われるタイプの人間だった。姉は好きな二次元の世界で才能を開花させ、イラストレーター、漫画家、作家、ゲームクリエイターとして様々な物語を生み出して成功していった。
姉の創造の原動力になっていたのは、病院から出る事が出来ない私を楽しませる為だったことは、母親から聞いて知ったのだけれど、実は私は姉の創る作品が苦手だった。
何故なら、作品の八割がR18、つまりエロが主体だったからだ。
そんな中で、全年齢版の作品であった『闇の乙女と七人の求婚者』という乙女ゲームを、私は珍しく好んでプレイした。
このゲームは主人公が世界を救う鍵となる闇の乙女となり、様々な困難を乗り越えて運命の相手と結ばれて世界を救うと云うモノだ。
選んだ求婚者によって発生するイベントが変化し、多種多様なエンディングと秀逸なグラフィックが人気で、ゲームから漫画、ライトノベルやアニメ化までされた作品だ。
私は闇の乙女となる主人公には感情移入しなかったが、主人公のライバル役である所謂悪役令嬢の父親にド嵌まりして、彼の姿を拝む為だけにゲームをやり込んだ。
悪役令嬢の父親の名は、ナハト・シュテアネ・シルフィード公爵。
大国ゾンネ王国の財務大臣であるが、ゲーム内では溺愛していた妻を亡くし、その妻の忘れ形見である悪役令嬢フローライトを病的に溺愛してスポイルする典型的ヤンデレ毒親である。
前世の私は、ナハト様の兎に角容姿が大好きだった。勿論、神ボイスにも魂を持って行かれる程メロメロだった。
攻略対象ではないため、公式プロフィールも無い脇役中の脇役ではあるけれど、悪役令嬢の悪役たる由縁の核である父親の存在は、作品に無くてはならないモノだった。
ゲームだけでなく、他の媒体でも物語の土台に必要な存在である為、必ず登場してくれるその麗しいお姿を見つけ出して愛でる日常は、確かに私の楽しみの少ない人生に潤いを与えてくれる存在だった。
「ああ…ナハト様…」
私は豪奢な天蓋付き寝台の中で熱い溜め息を溢した。
もう、本当に、大好きだったの。
まさか、自分が異世界転生して、大好きな推しの妻になれるなんて、今世の私ってば何て幸運なんでしょう!
しかも、ちゃんと、推しに愛されて結婚して、純潔を初夜で捧げる事が出来たなんて、何のご褒美?
「…ん?…あ、れ…?推しの妻…?」
私は、舞い上がっていた思考を止めて、ベッドサイドのテーブルの上の手鏡をそっと手に取って自身の顔を確認した。
今は寝乱れているけれど、波打つ白金の髪は文句なく美しい。澄んだ緑の瞳。髪と同色の睫毛や眉毛、細く通った鼻筋と紅く柔らかそうな小さな唇。
顔の造りは完全な美少女で、推しの横に並んでも遜色無い。
けれど、その顔色の悪さったら…前世の私と同じくらい不健康。
薄く青白い肌は良く言えば儚げで神秘的だけれど、明らかにビタミン不足で日光が足りていない。
ちょっと待って、もしかしなくても、私ってばナハト様を置いて早死にする溺愛されていた妻?絵姿さえ出て来ない、設定上だけに登場する悪役製造の諸悪の根源?
「セラ!セラフィナイト!」
ノックも無くいきなり寝室の扉が開き、推しのナハト様が世界の終わりのような悲愴な顔で寝室に駆け込んで来て、私はアワアワとしながらも推しの美しい姿にうっとりとした視線を注いだ。
「意識が戻ったと聞いて王城から戻ってきたんだが…ああ…良かった…本当に…」
ナハト様は深い暗赤色のマントを纏ったまま私を抱き寄せ、水分不足のかさついた唇に唇を重ねてきた。
遠慮の無い深い口付けに目を白黒させながらも、推しの抱擁を甘受する。
彼氏いない歴年齢で、処女のまま死んだ前世平民の私だが、今世のモーント王国プランツ侯爵家の令嬢として生きた十五年の記憶もしっかりとある。
セラフィナイトとしてナハト様と出逢い、恋をして結婚に至った記憶も私の大切な記憶であり、私が私である事に何の違和感も無い。
違和感は無いが、物申したい事は沢山ある!
前世同様、今世も病弱早死に設定ってどういう事よ!
私は死なないわよ!今世こそは、長生きして推しとラブラブハッピーライフを過ごすんだから!
絶対、何としても、健康になってゲーム設定を変えてやるわ!
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