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第3章

その13

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ワクワクする気持ちを抑えきれずに
この日は深夜までミシンのことを考えては
逸る気持ちを持て余すことになり
そうして夜が明け、本当はサボって
早く先生を呼んでミシンの使い方を
マスターしたかったのだけど
そこはやはり一学生であるリリアは
学園に行かなくてはならない。
しぶしぶ支度をして学園に向かう。

学園に着くとなにやら自分の教室がザワザワと
騒がしかった。
何事だろうかと訝しみながら扉から教室を覗き込む。

「僕たちよりも身分が下のくせに偉く取り入っているな?」

「どんな手を使ったんだよ?」

「メガネの分際で調子に乗るなよ?」

中を覗き込めば丁度エリックがクラスメイトに
絡まれていた。

エリックはずっと言われっぱなしで
クラスメイト3人を相手にしていなかった。

リリアは扉に手をついて一歩前に足を踏み出して
その場に行こうとしたのを躊躇う。

自分が乗り出て彼らを追い払うことは簡単だ。

だけどこの世界はどんな小さいことでも
婚約者以外との男女の絡みはあまり醜聞がよくない。

まして自分は公爵家の娘で一応はアベルと婚約中である。
相手は平然と別の女性を侍らせているわけだけれど
王族であるがゆえの特権だ。

こういうところでも差別や身分差があるのが
この世界の汚点だとリリアは悔しく思う。

これが前世の日本ならば…。

そう思っていた矢先クラスメイトがエリックのメガネを
面白おかしく奪ってしまった。

(この瞳のせいで色々あったもので…)

以前図書館でエリックが寂しそうに言った言葉が
瞬時に頭を駆け巡った瞬間
さっきまで身分がとか体勢がとか
そういうもの全部吹き飛んでリリアの足は
エリックの元へと足ばやに向かった。

「ちょっと貴方達!何しているのよ!!」

メガネを奪われて目を隠すため俯いている
エリックの前に庇うようにしてクラスメイトと対峙する。

頭に血が上ったリリアは周りの目など気にもせず
クラスメイトに詰め寄り怒鳴った。

クラスメイト達や騒動をみていた周りの人たちも
リリアの剣幕に唖然と驚いている。

それまでのリリアは淑女然として男に自ら近寄ることもなく
いつも静かに慎ましく行動していたのが
嘘のように大声で怒鳴ったからだ。

リリアもきっと前世の記憶が戻らなければ
見て見ぬふりをしていたかもしれない。

ここはじっと耐えて後でエリックに慰めの言葉を
かけるだけだったかもしれない。

けれど記憶が戻った今
絶対にここでやり過ごす気になんてなれなかった。

エリックはリリアが生まれてはじめてできた友人だ。

いつも必死で妃教育や勉強にばかり費やしてきた今世で
はじめて心から笑い合える相手ができた。
身分差や男女差なんて関係なく
素で話せるのはエリックだけなのだ。

ナナだって気を許せる相手だけど
友達と言うよりはどこか姉妹のような
家族だから。

だからこそ友達であるエリックが
困っているところを見て放っておくことなんて
できなかったんだ。

頭ひとつ分高いクラスメイトに負けじと
下から睨みつける。

睨まれたクラスメイトは呆気に取られていたけれど
少し落ち着きを取り戻すと今度は小馬鹿にしたように
ニヤニヤと笑い出した。

リリアは内心訝しむもキッと睨み付けていると
その小馬鹿にしたクラスメイトは
嘲り声で今度はリリアに向かって言ってくる。

「リリア様。これはこれは噂をすればというやつですかね。しかし彼を庇うなんて
一体お二人はどういう関係なんでしょうかね?」

言われたことに瞬時に理解すれば
このクラスメイトはリリアとエリックの関係を怪しんでいるのだ。

リリアはなんの躊躇いもなく目を見て言った。

「エリックとは友達だわ。友達を助けて何か悪いかしら。」

「友達ですかぁ?男女の間で友情なんて生まれるんですかね?
 しかし貴方はアベル殿下の婚約者ですよね?いいんでしょうか?
王族に歯向かう行為では?」

クスクスと男のくせに笑い合う姿を見て嫌悪する。

確かにこの世界での婚約者以外との異性との接点は
よろしくないけれど。

だけどアベルだって彼女いるじゃん。

王族だろうと婚約者がいるのに堂々と浮気してるじゃん!

なんて口にはできず

「でもエリックとは何にもないわ。本当にただの友達よ。」

まっすぐにはっきりとそういえば
クラスメイトはハッハッハと馬鹿笑いしてから
一歩前に出てくるとリリアとの距離を縮めてくる。

「では是非とも僕ともお友達になってくれませんか?
彼が友達になれるんだから僕だっていいですよね?ほら…今夜とかどうです?」

そう言ってリリアの髪を一掬いしてから
髪にキスをされる。

その瞬間リリアは気持ち悪さに身震いし全身に鳥肌が立った。

クラスメイトはエリックとリリアが夜の関係を持っている友達なのだと
言外に匂わせて自分も相手してほしいと迫ってきたのだ。

こんな教室の真ん中で周りに沢山人がいる中
彼自身、醜聞を気にもしないのだろうか。

リリアはさっきまで威勢よくしていたのが
ここまであからさまに言われたことにショックを隠せないでいると
後ろに庇っていたはずのエリックが
すごい勢いでクラスメイトの胸倉を掴むと

「取り消せ。お前が簡単に触れていい相手ではない」

低い声でクラスメイトに食ってかかるエリックは
彼より少し高い相手の胸倉を掴んでいるため
自然と前髪で隠れていた目がみんなの前で晒されてしまう。

エリックの顔が露わになると
今まで黙っていた周りにいる令嬢達が
一気に色めき立つ。

口々になんて美丈夫なのかと
頬を染めるものが多数現れる。

あまりにも色めき立つ令嬢達を見て
少しだけ気が逸れて安堵したものの

リリアはエリックが言っていたことの意味を知る。

確かに瞳の色は他に見ない珍しい色だけれど
色以外にもあまりにも整いすぎている顔は
周りを変えさせてしまうのかもしれない。

それほどまでにエリックはアベルと同じか
あるいはそれ以上の美貌の持ち主だったのだ。


「私の婚約者のリリアのことで何か揉め事かな?」

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