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第2章

その6

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それからしばらくリリアはお昼休みの間は
エリックとの時間を楽しんだ。

コットンの資料を捜しつつも
エリックと何気ない会話を楽しんだり
図書館では飲食厳禁だけど
司書もいないリリアとエリックの
二人だけなのでこっそりと
お菓子を持参すれば、
エリックはダメですよ!と慌てつつも
口にお菓子を放り込んでやると
殊の外美味しかったのか
仕方ないですね。と言いながら
もぐもぐとお菓子を頬張っていた。

「エリック実は甘いもの好きでしょう?」

「…どうしてわかるんですか?」

一度食べてしまってから
吹っ切れたように彼もお菓子を持参
するようになって
プチお菓子パーティを開いていた。

「だってあなたが持ってくるもの全部甘いもの。それに口に入れた時あなたニヤついてるわ。」

「ニヤッ…ついてませんよ。しかし、甘いものは好物です。」

反論しかけたけど
甘党であることを認めた。

「今度王都にある有名なケーキ屋さんがあるんだけど買ってきてあげる。」

机には散乱した本たち。
高いヒールの靴は窮屈なだけなので
リリアは最近ではエリックの前だというのに
ヒールを脱ぎ捨てて座っている。

なんとも淑女らしくないのだが
エリックはなにも言わないので
リリアも気にせず素のままでいられる。

「そんな!リリア様に買ってきてもらうなんて恐れ多いです!」

手を前にしてブンブンと振る。

(なんだかエリックっておっきい犬みたい。)

「気にしないで!というかそれよりもいい加減様呼びしないでって言ってるでしょ?」

リリアは少し前からエリックに
様呼びをしないでほしいと頼んでいた。

色々話すようになって
かなり仲良くなったはずだ。
だからいい加減様呼びと丁寧口調は
やめて砕けた感じで話そうって言ってるのに
根っからの貴族気質なのか
エリックは相変わらずリリア様。
と様呼びだ。口調なんか最初から
直す気はないらしい。


(ある意味無礼よね。こっちのが身分上なんだからいうこと聞きなさいよ!…ってこれこそ典型的なわがまま令嬢の思考じゃない。危ない危ない。)

「無理ですよ!位も上のお方に様をとるなんて。リリア様はリリア様です!」

少しだけ挙動不審になりながらも
エリックは頑なにリリアとは
呼んでくれないことに
リリアは痺れを切らし始める。

「もう!」

怒ったリリアはエリックの
両手を掴んで顔をぐいっと
近づける。

「り、リリア様!?」


心なしか頬が赤くなった気がするけど
厚いメガネの向こうにある瞳は
見えないのでエリックがどんな表情を
しているのかは読めない。

「呼んでくれなきゃそのメガネ取るからね?」

ずいずいと顔を近づけると
エリックは反り返らしながら
顔を背ける。

それが気に食わなくて掴んでいた手を
話してからエリックの両頬に触れると
強引にこちらに向けさせる。

「呼んでったら!」

ゴクリと固唾を飲む音が聞こえてくる。

エリックはしばらく
黙った後にぼそりと言った。

「……リリア…」


小さな声だったけど聞こえてきた
自分の名前に嬉しさがこみ上げてきて
リリアは満面の笑みになった。


「やっと呼んでくれた!」


にこにこと笑うリリアを前に
再びエリックはなにも言えなくなって
固まってしまう。

リリアはそんなエリックに訝しめば
慌ててまた顔を逸らしてしまう。


その行動に理解ができなかったものの
気にせずに机に置いてあった
本を適当に選んで調べ物を始めた。


そんなリリアをエリックが
見つめていたことにリリアは
知らなかった。


そんな毎日の中、
糸屋さんを巡ったり王立図書館にも通ったりとして色々調べたりする
けれどもコットン生地は見つからない。


学園の図書館の本は大方調べ終えたので最近はエリックとの時間を楽しんでいた。

エリックとの時間は素の自分で入れるので自然と居心地がよかった。

教室では11年間もの培ってきた
淑女の仮面を被って
凛とした姿でいるものの
エリックと図書館でいる時は
だいたい怠けている。

今日もリリアは履いていたヒールの靴を脱いで足をバタバタさせながら
エリックと話していた。

「教室は退屈で授業も面白くない!
エリックとここで話しているほうがずっといいわー。」

天を仰ぎみながら言う。

「そういえば熱心に本を読まれたりしていますが、以前僕に聞いてきた生地のことについてですか??」

「ん?そうね。その生地をずっと捜してるんだけど…」

「ドレスでも作らせるんですか??」

「ドレス…」

ドレスと言われて困ってしまう。
本当はドレスではなくTシャツをつくりたいんだけど
エリックにTシャツを作るなんて
いえない。

「そうね!ドレスを作ってみたくて!」


「リリアさ…こほん。リリアが??」

様呼びしそうになって
咳払いをしてから
再び質問してくる。

貴族令嬢が自ら洋裁するのは
珍しいらしく
エリックも不思議に思ったのだろう。

「ええ!前にブティックを開きたいって言ったでしょ?やっぱり自分でも作り方とか知っときたいなーって。」

あながち間違ってはいないけれど
少しだけ嘘を混ぜる。

「そうなんですか。いいですね。」

嫌悪や信じられない。って思うのかな
なんて身構えていたら
微笑まれて肯定されて
ちょっとだけ嬉しくなる。

エリックはこの貴族社会において
数少ない貴族女性の職につくことに
肯定派だ。

彼のような貴族がたくさんいれば
女性でも職につくことができるのに。


これ以上話をすればボロが出てしまいかねないので
会話はここで終了します。

と言う意味も込めて
はは。とだけ笑って再び本に
視線を戻した。
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