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第2章
その4
しおりを挟む「…であるからして春の訪れを祝う花祭りが行われるようになりました。
それから…」
いかにも教師!というどこかの貴族で
厳しい顔つきをした先生が教壇にたち教本を片手に
この国の歴史を熱弁している。
リリアは最前列の席にいるにも関わらず
教本で隠した布に関係する本を読んでいた。
(やっぱり綿の生地についてはのってないのね。)
あんなに安価で日本ではありふれている
コットンなのにここではシルクとかの少し高価なもののほうが
多く出回っている。
世界が違うせいなのか。
(ハンカチでさえシルク…。いやここは貴族社会だしな)
うんうん頭を捻りながら考えているが
たかだか1枚Tシャツを作るだけでこんなに悩むことになるとは。
色々この世界のお裁縫事情も知りたいと思うところだけど
ミシンも手に入る予定だしまずはやっぱりTシャツづくり。
それにはどうしても妥協したくないという気持ちもある。
だからミシンが届くまでの間でも綿について調べようと思う。
(この国にないだけで外にはあるかもしれないしね)
幸い学園の図書の種類は豊富だ。
外交関係の貴族たちもこの学園に通っているから
外国の本もちらほらあったのは確認済み。
(また明日から通うしかないわね。)
そうしてリリアはこの日から毎日のように図書館に通うようになる。
◆◆◆
図書館に通いだして1週間。
コットンの生地のことを中心にして色々読み漁っているが
一向に見つからず。
「はぁー。やっぱりないわね。」
探し出して2.3日あたり。
薄々この世界には本当に存在しないのではと思ったものの
諦めたくない一心で探したが手掛かりすら掴めず。
諦めるしかないのか。
本棚に並ぶ本を見つめながら
腕を組んで人差し指を顎に当てながら考える。
ふと扉付近にいつもいるエリック・ルトファンを思い出す。
図書館に通いだして1週間。
リリアが昼食後に毎度訪れているが
必ず彼は扉付近の近くにある大テーブルに
腰かけて本を読んでいる。
初めのころはリリアが姿を現すたび
どこか警戒しているような怯えているような。
なんとも言えない気まずい気持ちにさせられていたが
1週間もすれば彼も慣れたみたいで
分厚い眼鏡と前髪で目が見えないものの
リリアが入室してもおそらくチラリとみるだけになったと思う。
(彼の家は大商家よね。)
本棚からこっそりと椅子に浅く腰掛けて
綺麗な姿勢で本を読んでいるエリックの背中を盗み見る。
陛下の覚えもめでたいルトファン商会。
扱っている商品は多岐にわたり
あちこちの国とも取引をいている。
(ダメ元で聞いてみようか)
リリアはそっとエリックに近づいて声をかけた。
「ねぇ?」
後ろから声をかけられたエリックは
面白いくらいに肩をびくつかせる。
笑いそうになったのを堪えつつもさらに声をかけた。
「あなた、同じクラスのエリック・ルトファンよね?」
「…そ、そうですが」
エリックは恐る恐る振り返るもその厚い眼鏡と前髪で
彼がどんな表情をしているのかわからない。
ただいきなり声をかけてきたから驚いているのか。
はたまた公爵家の令嬢が声をかけたからか。
なぜかプルプルと震えているのでおそらく彼は今怯えている。
(とってたべたりしないのにそんな怯えなくても)
まぁ気にしない。と思いリリアは努めて平常に聞く。
「あなたの家はたしかルトファン商会は世界をあちこち回っていると聞いたわ。」
「…はっはい!」
(一々びくつかせたり震えられても
苛めたりしないのに困るんだけど…。)
。
エリックには気づかれないように
はぁと小さくため息をついてしまう。
「それで聞きたいことがあって。」
「…な、なん、なんでしょうか?」
「ある生地について聞きたいのだけど…コットン或いは綿の生地を取り扱っていたりしないかしら?」
「…わ、わかりかねます。」
「…そう。」
「……」
「……」
シンと静まり返る図書館。
気まずい。非常に気まずい。
この場に二人いるのに1人でいる気分になる。
これ以上聞くこともないか。とお礼を言おうとしたら
「あの。僕はまだ父に時々ついてまわるだけなので知らないだけかもしれません。
リリア様が待って下さるのであれば父に聞いてみますが…。」
先ほどまでのびくついた彼からはわずかにしゃべり方がはっきりとしたものに
かわりリリアは少しばかり訝しむ。
「そう・・・。私は何時でも大丈夫ですわ。お願いできるかしら?」
「はい。良い返事は期待できるかわかりませんが・・・。」
「構わないわ。ありがとう。」
リリアはエリックの机に置かれていた右手を掴んで
お礼を言ったと鐘が鳴ったので図書館をあとにした。
(彼の本性が少し気になるけど聞いてくれるのは有難いわね)
図書館を出て廊下を歩きながらふと思う。
学園内ではじめて学園の男子生徒と話したなと。
学園行事の一環で舞踏会や茶会など色々催しものをするけども
リリアに近づいてくる男性はいない。
チラリと目線があってもすぐに外されて
ダンスの誘いは皆無だ。
いつも父か癪だけどアベル殿下以外躍ったことがないし
まして今日みたいに面と向かって異性と話すことなど
今までなかった。
びくびくして会話っていう会話というか
質問だけだったけど
こんなに話したことに今更気づいて
リリアは少しばかり胸がドキドキしそうになった。
(いや待って。リリアとしては確かに初だけども。前世では普通というか朝飯前だわ)
一瞬浮かれかけたが先日記憶を取り戻したので
高鳴りかけた鼓動はあっさりと通常に戻る。
(とりあえずこれで見つからなければ綿は保留ね。)
そう思って午後の講義を受けるため足早に戻った。
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