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第1章

その2

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それまで周りで騒いでいた
令嬢達はアベルがユリアを選らんだことで
ひとりまたひとりとアベルから
離れていった。

最初は皆がそれは嘘だと思った。

それまで二人が一緒にいた所を
誰も見たこともなく
しかもユリアは男爵家の令嬢。

王族であるアベルとユリアでは
あまりにも身分に差がありすぎる。

男爵家は貴族の中でも最下位貴族で
王城で開かれるパーティなどは
絶対に招待されない。
学園内でも常にアベルには
伯爵家以上の令嬢しか取り巻いていなかったのだから
二人の接点がないのにどうして
そんなことになったのか
皆がその噂を嘲笑った。

しかしその噂が立った翌日から
アベル自身がユリアの元に
出向いたのだ。
それが毎日のように続けば
噂は真実であったと思うようになる。
仲睦まじく話す二人を見て
この話は真実なのだと。

そうなれば尚更アベルとリリアの仲は
本当に不仲であり、
政略的な婚約だと誰もが思うようになった。

リリア自身も
両親に婚約話を聞かされた時から
これは政略的な婚約だと思っていた。
だからこそ自分よりも
付き合っているユリアを婚約者に
した方がいいと噂を聞いた時
アベルに自分との婚約は無しにして
ユリアを婚約者にどうかと言ったこともあった。

アベルの返事は曖昧で
なんだかんだ有耶無耶にされ
あまりアベルと話すのが苦手な
リリアはとりあえず時期が来れば
婚約解消されるだろうと
この話から一歩引くことにしたのだ。


そうして今日の今日まで
アベルとユリアの仲も相変わらず
仲睦まじいまま
リリアとアベルの婚約は続いていた。

(学園を卒業するまでには破棄したいよね。卒業した後だと将来的にも厄介だし)

そう考えると今までのように
ただがむしゃらに勉学に励むことよりも
将来どうするかという不安が
先立ち最近は思うままに過ごせないでいた。

(本当に私がしたいことってなんなのかしら。)

貴族の令嬢でまして公爵家の娘である
リリアは恐らく婚約が解消されれば
別の貴族の子息とまた婚約して
家の利益のために嫁ぐのが普通だ。

それは心得ている。
だけどもやっぱり将来は
自分がしたいことを仕事にしたいと
思うのはわがままなのか。
ただ旦那になる人を支え
守られるだけの人生は
リリアにとっては苦痛だった。

(貴族の女性でも男性みたいにお仕事に就けれたら迷わず私も仕事するのに。)

こんな窮屈なドレスを脱ぎ捨てて
思うままに生きてみたい。

(そうよ。貴族の女性だって仕事してもいいじゃない。だってあそこでは身分なんてなくて女性であってもみんな働いていたわ!)

そう思った瞬間、リリアは
自分の頭の中に映った映像が
この世界ではないことに気づき
目を見開いて驚く。

(待って。私は今どこの事を思ったの?)

膝の上に置いていた両手が
少しだけ震えだす。
目の前にある腰掛けの一点をじっと見つめているが
見ているのは頭に流れた映像だ。


そこは今いる王都内ではなく
見上げるばかりの長方形の建物達。
男性も女性もたくさんの人が行き交っている。
男性の服も女性が着ている服も
どちらも国内にはない"もの"たち。
そして馬車よりも早い四角い塊が
ひっきりなしに走っている。

リリアはその映像が流れ出してから
途端にひどい頭痛に襲われ
吐き気にえづいてしまう。

(何この映像は。何この人たちは)

頭が割れるように痛くなり
思わず両手で頭を抱えうずくまる。

(この映像は何なの?初めてみるものばかりだわ。)

しかし何故か懐かしい気持ちが
溢れだし心を温かくしていく。

(…違うわ。初めてみるものじゃない。私は知ってる。私はここを…)

ガタッと馬車が音を立てて止まる。
その音を聞いた刹那。
頭痛が治り一気に頭の中の記憶が蘇った。

リリアは頭をあげ目を大きく見開いて
頭を抱えていた両手を胸下まで下げた。

御者が馬車の扉をあけて恭しく
頭を下げると

「リリア様。学園に着きました。」

そう言って手を差し伸べてくる。

しかしリリアはその手を取らずに
御者に向かって

「学園には行かないわ!急いで屋敷に帰るわよ!」

そう叫んだ。

御者は驚いた顔をしたが
リリアが早く!と言ったので
慌ててまた扉を閉めて学園の門の前を
旋回して踵を返した。

「そうよ。そうだわ!どうして今まで忘れていたの!」

興奮気味に目を輝かせて
普段ならば独り言など淑女としては
あり得ないのに
リリアはそんな事は忘れて大きな声でごちった。

馬車はたちまち元来た道を戻っていく。

その馬車を見えなくなるまで
男二人はそれぞれにその馬車を
見つめていた。
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