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第3章

第28話

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あれから長谷川さんは
忙しいであろうに
社長自らの依頼とのことで
親身になってドレスを仕立てるために
色々奮闘してくれた。

そうしてある程度、案が出来てきたので
実際に一度作る事になり
仕上がったらまた見にくることになった。


私達は夕方ごろオフィスを後にした。



「よし。いい感じに出来そうだな。サイズに関しては追い追い調整してくれるから音羽今日から死ぬ気で痩せろよ。」


「わかってます。頑張る!」


いいデザインのドレスに
なるのだから
着る人間がこんなちんちくりんでは
ドレスが可哀想だ。

平々凡々な顔に似合うのかと
言われればそれまでだけど
体型なら少しでも変えれるだろう。

せっかく作ってくれるなら
私も私なりに頑張りたいと思った。


「じゃあさっそく今日からだな。もう準備は万端だ。」

そう言ってニコリと不敵に笑う
社長に首を傾げながら
二人して社長のマンションに帰った。




「お帰りなさいませ。天宮社長。」

家に入ると知らない女性がいて
思わずびっくりする。

スラリと女性にしては
長身の綺麗な女性が笑顔で
出迎えてくれた。


(泥棒!?って違うか。…誰?)


まさか社長歳上もイケる口なのか!
と思って

そういえば最近この家に
社長が女性を連れ込むことは
随分前から無くなっていたことを
思い出す。


そして出迎えてくれた
この綺麗な人を見て

あぁ忘れていたけど
社長は女癖が悪かったんだ。

とつい落ち込んでしまう。

(最近社長と楽しく過ごしていたから忘れてた…。嫌だな…)

さっきまで楽しい気持ちで
帰ってきたのに
沈んでしまう。

「じゃあ私は部屋にいくから何かあれば言って。」


私はこの場に居たくなくて
女性に会釈だけしてから
自室に入ろうとした。


「待て。何逃げるんだ。」


社長の横を通り過ぎ用とした時
腕を掴まれた。


「え?だってこれからお楽しみじゃ…?」

「はぁ?」

振り返って社長を見れば
心底意味不明だと言う顔で
私を覗き込んでいる。

「天宮社長。きっと音羽様は勘違いされています。」

そんな私たち二人をみながら
綺麗な女性はクスクス笑って言う。


「…まさか俺があいつと寝ると思ったのか?」

その女性の言葉を聞いて
数秒後に理解した社長が
確認のように私に聞いてくるので
私は咄嗟に視線を外しながら頷いた。

「はぁ…。まぁ今までの俺が悪いから仕方ないか。」


社長は大きくため息をついてから
何か納得したようにボソリと呟く。


「天宮社長のこれまでの行いが悪いから勘違いされるのですよ。」

「ああ。その意見には耳を傾けるわ。」

なにやら二人で話が進むけど
私からすれば親しげにされて
ついついヤキモチを妬いてしまう。

(なんかモヤモヤする!)


早く部屋に戻りたくて
社長に掴まれている手を離そうとすれば
強い力で握り返されて
思わず逸らしていた視線を社長に戻す。


「俺はもう二度と女は連れ込まん。」

いつになく真剣な表情で言われる。

「…社長?」


振りほどこうとしたのを忘れて
いつのまにかその真剣な顔に
見入ってしまう。


「もうこれからは他の女に手を出すつもりはないから安心しろ。」


言われた言葉がよく理解できなくて。


そんな風な言い方をされれば
勘違いしそうになる。

なんだか自分だけ見てくれる。
そんな風に。

(まさかね。)


「天宮社長。あまり伝わってないみたいですよ?」

「うるさい。これからじっくり落とすつもりだからお前は口出しするなよ。」


「かしこまりました。本当に大人になりましたね。蓮ぼっちゃま。」


…ん?


「おい!その呼び方はやめろ!」

「あら?お小さい頃からおしめを取り替えたことのあるわたくしに随分な態度ですね。蓮坊っちゃま?」


小さい頃?…おしめ!?


「音羽の前で言うな!」

「ふふ。あらあらお顔が真っ赤ですわよ?」

「くそっ!これなら健斗に頼む方がよっぽどマシだった!」

「あら。健斗ちゃんに頼めばあっさり音羽様は攫われるかもしれないですがよろしいんですの?」

「っく!」


いつも物怖じしないあの社長が
たじたじだ。
目の前の女性は高らかに笑いながら
社長を圧倒している。

二人の会話の中の内容になぜか
私の名前が出てくるも
さっぱり理解ができず
私は二人のやりとりをただただ
見守るしかなかった。

そして私はさっきからずっと
この女性が誰なのか
気になって仕方がない。


社長のことをお坊っちゃまといい
長谷川さんのことを健斗ちゃん呼び。

さらに社長のお、お…おしめ…
を変えた人。



一体誰!?
そしていくつなの!?
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