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第1章

第12話

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あまりの衝撃に固まったままでいると
数秒後に社長がゆっくりと離れていった。
離れる際ペロリと私の口を舐めた。

「な!な!な…!」

慌てて自分の口元を両手で塞いで
ふるふる震えながら離れていった社長を
睨みつける。

「食指は動かないが随分楽しめそうだ。」

そう言って自分の口元を紅い舌で
舐める姿は獲物を見つけた猛禽類さながらだ。
そして先ほど感じた倍以上の
色気を醸し出している。

(こんな男に私が敵うわけない!)


私は自分が家政婦なのも忘れて
そのまま慌てて自分に割り振られた部屋に
逃げ込んだ。

勢いよく扉を閉めて鍵をかけて
その場にへなへなと座り込む。

逃げ込む前にチラリと社長をみれば
ニヤリと意地悪い顔をしてこっちを見てた。

(完全に遊ばれてる!!)

本当にクズだ!最低だ!

頭は沸々と怒りでいっぱいなのに
心はドキドキいってベッドに横になっても
ずっとうるさいままだった。




チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてきたと思うと
ジリジリジリーと勢いよく目覚まし時計がなる。

カーテンの隙間から陽射しが入ってきて
今日もどうやら晴天らしいことが伺える。

片手で目覚まし時計を止めて
再度頭までこっぽりと布団を被り直す。

毎朝目覚まし時計で起きるが
とりわけ急いで起きる必要もない。
なんせ社長は朝食を食べないから。

じゃあなぜ鳴らすのかと言うと
社長を見送らないといけないので。


「今日は顔見たくない。」


うううー。と唸りながら
ベッドの中で丸まる。

ひどい寝不足で若干頭がいたい。

理由はもちろん昨日の出来事。

なかなか寝付けなくて
ベッドの上で右に左にゴロゴロと
転がったり足をばたつかせたりしてたら
いつのまにか日が昇りかけていた。
慌てて目をつぶって寝たものの
起きたのはそれから2時間後。

謎の夜更かしをしてしまった。

鈍い頭なのに昨日の社長との
キ…キ…キスを鮮明に覚えてて…

そのことを考えるとまた顔から火が出そうになるんだもん!


こんな顔であのクズ社長の前に
出たくない。
絶対揶揄わられる。

「勝手に一人で行けばいいのに。」


「おい。随分冷たいな。」


返ってくるはずのない声が届いて
目を見張りかけた時バサリと
勢いよく布団を剥がされる。

「おはよう。音羽」

剥がされて身一つになった私の両肩に
手を置いてから社長の低音ボイスが
耳元で囁く。

「ひいーーー!」

慌てて私は飛び起きた。


「ちっ色気ないな。」

いきなり現れて
いきなり布団剥がされて
耳元で囁かれれば

キャッなんて、可愛い声でるわけないだろ!

女がみんな可愛く反応できると思うな!!

「なんで人の部屋に入ってきてんのよ!」

「この客室は俺の家の客室だ。だから俺の自由に入っていい。」

確かにそうだけど!!

振り返って社長を見ればすでに
スーツを来ていて朝からシトラスが
香りたつ。

なんて朝が似合う男なのだろう。

「それでも今は私が借りてるので!」

「そんな怒んなよ。それより朝の見送りはしてくれないのか?ん?」

ベッドに腰掛けてこちらを
流し見る社長はいつのまにか
シトラスの香りから濃厚な甘い香りを放ち出す。

そう広くないシングルベッドだから
いくら距離を取ろうとしても
大きい社長だと簡単に届いてしまう。

伸びてきた手にピクリと肩が震える。
社長の手は私の頭をポンポンと撫でた。

その大きくて温かい掌にびっくりする。

「音羽行ってくる。」

そう言ってぼーっとしちゃった
私を置いて社長は仕事に向かった。


(いや。ほんと!無理!)

揶揄わられているのわかってて
あんな爽やか…色気ダダ漏れイケメンに
攻撃されたら誰だってやられるわ!

ムカつく!

膝の上の手は無意識強く握って
パジャマに皺をつくる。

「こうなったら意地でもときめかない!
クズ社長なんかに絶対負けないんだから!」



こうして異世界好き乙女vsハイスペック社長の攻防が始まったのだった。











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