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第1章

第11話

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「んーーー!美味しい!やっぱりクッ○パッ○さすが!」

シチューを一口口に入れると
野菜の甘味と鶏肉の旨味がミルクのまろやかさと合わさって口の中に広がり美味しすぎて
思わず頬に手を当てる。

「おい。お前いつもアプリ見て作ってたのかよ!」

やば。つい口が滑ってたみたい。

「だって私レシピなしでは作れないので。」

「さすがクッ○パッ○だな。素人でこんな上手くなるなんてな美味しいぞ。」

そう言って社長はパクパク美味しそうに
食べている。

私はなんだかとても嬉しくなった。
レシピ頼みで作ったとはいえ
美味しいと言ってたくさん食べてくれるのは
やっぱり嬉しいものだ。
そして社長は惜しげもなく素直に
言葉にしてくれる。

そりゃあ世の美女…いや女なら
社長に惚れますわ。

「ありがとうございます。」

ついつい顔が緩んでしまうが
決して社長に惚れたからではない!
褒められたら嬉しいだけなの!

それからなんだかんだ談笑しつつ
二人で夕食を食べた。

食後のコーヒをご所望されたので
社長の前に置きついでに私も一緒に飲む。

お前も飲めって言われたので。

「お前がきてからもう3ヶ月か。こんなに長く続いたのは初めてだ。」

猫舌な私はフーフーとコーヒー
冷ましながカップを両手で持った。

3ヶ月が長いなんて前の人は
そんなにすぐ辞めたのかな?
社長はたしかに小言は多いけど
別にめちゃくちゃ厳しいわけでも
怖いでもないしプライベートは
充実してるしお給金も半端ないのに。

私はもう正直この生活が幸せすぎて
一生ここで働きたいくらいには好きだけど、
前の人たちはどうして辞めたんだろ。

「前の人はどうして辞めたんですか?」

「ああ俺がつい手を出したから辞めてもらった。」

ん?

「…えっと、家政婦さんは今まで何人雇われたんですか?」

「そうだな。2じゅう…36....まぁそこそこ雇ったな。」

待て!待て!待て!

今ボソッと36って言った!?

家政婦36人!?

多くないか!?え!多いよね!!

しかも私が一番長いってどうゆうこと!?
3ヶ月が最長って36人の皆様は
一体どうして辞めたの!?

…ま、…まさ…まさか

「皆んな可愛くて食べたらつい気まずくなって辞めてもらった。」

それはないなと考えたことを忘れて落ち着けようとコーヒーを口に含んだ瞬間に
堂々と言われてコーヒーを吹き出しかけた。

絶妙なタイミングで言うなよ!

そりゃあ気まずいわ!当たり前だ!

「だから長くても1週間そこそこだったんだがお前は3ヶ月だもんな。大和には感謝だな。」

そういえば大和さんあの時
君はこの仕事にピッタリだとか言ってたよね。
そして社長と出会った時ボソリと
ついにブスを寄越したとか言ってたよね。

それってさ。それって…

「全然食指が動かないから良かったよ。」

ニッコリ微笑む笑顔はまさに
爽やかでそれこそ王太子様レベルだ。

しかしその笑顔とは裏腹に
発言した内容がもはやクズだ!
クズ以下だ!この悪魔め!

これでもメンタルミジンコレベルで
弱いのに!!

「そうですか。それは良かった!私も社長なんてまっっっっっっったく!タイプではないので。」

満面の笑顔でお返ししてやる!

もうお腹の中が
沸々とマグマが噴出しそうで
今にも手に持ってるコーヒーを
頭からぶちまけたい心を必死で宥める。

彼は雇い主彼は雇い主彼は雇い主!
お給金お給金お給金お給金!

脳内で理性を保てるように
言葉を繰り返す。

高額なお給金のため!
リッチな生活のため!

クズな雇い主だけどそれでも
懐面では最高なのだ!
我慢!我慢!我慢だ!山川音羽!!

「なんだよ。この俺を見てタイプじゃないなんてお前目がおかしいんじゃないか?」

はぁー!?

何様なの!こいつ!!
どんだけナルシストなんだよ!!

と悪態は心の中だけで呟く。

(彼は雇い主様)

「そうかもしれません。でも私は社長をただの一度も素敵だなんて思いませんでしたから。」

目をさらに細めて口角を上げて
笑みを作る。

本当はかっこいいとか素敵とか
思ったこともあったけど
もう思わないからな!
どんだけ顔がよくても中身最悪なら
もうそれは全てが最悪なんだからな!

「なんだかそう言われたらムカつくな。
おい本当に思わないのか?」

そう言って少しだけ腰を浮かせて
私からコーヒーの入ったマグカップを
取り上げて机に置く。

その間も真っ直ぐ私の目を見て
そのまま社長の長い指が頤を掴んできて
より社長の顔が近づいてくる。

ドキッ

突然の社長の行動に男慣れしていない
私はその社長の色香に思わず赤面してしまう。

「ふっ顔真っ赤だけど?」

間近で私の顔を覗き込んでいるんだから
赤面している姿はバッチリ見られている。

社長は普段シトラス漂う爽やかなのに
こんな流し目されてフェロモンむんむんに
されたら誰だって赤くなる!

私はその目に吸い込まれそうになって
思い切り目を閉じた。

「全然!全然ときめかないもん!!」

真っ赤にしながら言ったって
説得力ないけど負けられない。
ここまで馬鹿にされて
簡単にときめいたりしないんだから。

グッとさらにきつく目を閉じて
社長が離れていくのを待った。

少し間が空いた後にフッと社長は小さく笑った。

「お前面白いな。」

急に声のトーンが優しくなった気がして
ゆっくり目を開けたら
さっきよりもさらに社長の顔が近くて
目を見開いた瞬間、唇に暖かくて柔らかい
何かが…社長の唇が押し当てられていた。


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