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第1章

第2話

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----3ヶ月前。


何気なく暇を持て余した昼過ぎ
自分の部屋でゴロゴロだらだらと
スマホをいじりながら有名なsnsを見ていた。

適当に写真をスクロールしてみていたら
見慣れた人物が隣に写った男性と
左手を見せつけるかのように
2人揃ってその薬指にキラリとひかる
指輪の写真が目に入った。

勢いよくベッドから起き上がり
震える指で"続きを読む"をタップすると

[私たち結婚します。]


ドン!と鈍器で頭を叩かれたかのような
衝撃が走った。

写真に写っている女性は
私の大学時代からの友人で
ずっと2人して結婚したくない!と
朝まで飲みコースを共にした
私のよき理解者だった。


(待って!え!待って!聞いてないんだけど!!!)

慌てて彼女の通話ボタンを押して
耳に当てた。

プルルルルー
プルルルルー
プルルルッ

「なぁに?今仕事中で忙しいんだけど。」

「ちょっと!礼奈!聞いてない!」

「あっ?あっあー。えへへ。」

聞いてない!の一言で察するということは
礼奈にも私からかかってくることは
おおよそ見当がついていたのだろう。

「いつの間に彼氏いたの!?」

「うん。まぁとりあえず今日仕事終わるの早いから夜会おうよ。」

「うん!夜ね!詳しく!おしえてよ!?」
 
「はいはい。じゃあうるさい上司が来る前に切るわね。18時に〇〇駅前で!」

「わかった!」

プツリと通話が切れたあと
スマホを耳から外した。

勢いで礼奈に電話をかけたあと
少し話したことで幾分か落ち着きを
取り戻した。

遂に恐れていたことが起きたのだ。

大学時代からの付き合いで
まだ5.6年の付き合いしかないが
礼奈とは出会った当初からすぐに
打ち解けてお互い結婚願望がなかったことに
更に共感を得て親友という間柄になった。

周りが徐々に落ち着いていく横目で
2人して結婚とか無縁だわ~。と
笑いながら話していたのに。

いつの間に結婚する相手がいたのか。

いつの間に恋愛する時間があったのか。

…まぁ確かに最近付き合い悪いなぁ
とはちょっとだけ
いやかなり思ってたけど。

「はぁー。」


大好きな親友が結婚するんだから
嬉しくないわけがない!
本当におめでたいことだし
親友には心から幸せになってほしい。

だけどそれと同時に
じゃあ私はこのままでいいの?

と途端に不安になっていく。

これまでは周りが結婚していっても
礼奈もいるからまだ大丈夫!
世間は晩婚だしまだ焦ることない!
 そう余裕綽々でいたのに。

同じラインにいた礼奈が
いつのまにか一歩前に踏み出したことで
言いようのない不安がどんどんと
押し寄せてくる。


ちなみに私は27でありながら
今現在正職に着かずフリーターだ。
それも3年前にバイトを辞めて
いわゆる世間からは非難される
ニートである。

働いていたアルバイト先で
少しトラブルが起きてから
居づらくなって辞めたきり
仕事も付かずにこうやって実家の自分の部屋で
昼前ごろに起きて朝日が昇る少し手前に
寝るという自堕落な生活を送っているのだ。

両親はそんな私をみて呆れつつも
娘の1人くらいなら面倒見てやれると
言うのでそれに見事に甘えている。

近所には小さい頃からの馴染みのある人たちがいるので年々外にも出づらくなり
殊更家に引きこもってばかりいる。

ふとした時にどうしてあの時
もっとちゃんと就活しなかったのか。
と何度も悔やむものの
じゃあ今からすぐにハローワークに行け!
と言われても足がすくんで行けない。

大学卒業してフリーターで
今はニートで。

なぜ就職しなかったのか。
なぜ今ニートなのか。

聞かれたところでちゃんとした理由がない
私を企業さんは雇うのか?と
思うとどうしても行く勇気がなかった。

徐々に体力も落ちてきて
27歳という年齢ではアルバイトの採用も
なかなかしてくれなくて

選り好みするのはよくないけども
やっぱりしんどいのは嫌だ。

じゃあ婚活を頑張れと周りにも
言われたが結婚したくない私には
その選択肢はひとつもなかった。

趣味で始めたハンドメイドの販売が
思いのほか売れていたので
もうこれでいいやと投げやりなまま
今日まで至る。

このままこうやってここで過ごしていきたい。

このままがいい。

そう思うのに
どうしてこんなに不安と焦りが
出てくるのだろう。

就活も婚活も嫌だ。

だけどこのままでは、、、、。


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