拗らせ王子は悪役令嬢を溺愛する。

サラの片思い

サラの片思い3

貴族の学園にしては
珍しい体育の授業なんてものも
あったりするこの学園。

授業を終えて玄関先で
靴を履き替えようと
したところでピタリと止まる。


「靴が…ない。」


私に設けられた専用のロッカーには
片方だけの靴がなかった。
出るときに落としたのかと
辺りを見回すけどもちろんない。

落とせば音がなって大体わかるんだから
落としてるわけが無いと思いつつも
念のため見回したのだけど。

まぁないわよね。


「はぁー。」


時々だけど口で敵わないと思ったのか
こうやって陰湿な嫌がらせを
してくるのだ。

おそらく犯人は朝の人たち。

もうなんだか疲れた。

どうしてここまで
されないといけないのか。

突然平民が貴族社会に入ったからって
あの人たちになんら関係ないじゃない。

気に食わないのならほっといて
くれればいいのに。


このまま片足だけ履いて教室に
入ろうものならおそらく
嘲笑ってくるのが目に見えている。


「もう帰りたい…。」


今帰ればきっとお爺様に怒られるし
片方の靴がないなんてバレたら
いっぱい心配させてしまう。

お母さんだって悲しんでしまう。

どうしようもなく
ただなんとなく中庭にとぼとぼと
向かった。


中庭につくとマーケル様が
いつも座っている木陰に向かう。

今は授業中だから
もちろんここにマーケル様はいない。

そっといつも彼が見つめてる先の
ベンチを見やる。

ベンチはこちらを背にして
太陽の光で照らされていた。

木陰には座らずに
ベンチの方に近寄る。

恐れ多くも私はいつもシェニー様が
座っているベンチに腰掛けた。

ここからだとマーケル様がいつも
座っている木陰は見えない。

きっと彼はいつもシェニー様の
後ろ姿をそっと見守っていたのだろう。

私はシェニー様が
羨ましくて仕方なかった。


だんだん涙が溢れてくる。

足元を見やれば片方は靴を履いていなくて。

考えが甘かった。

貴族になれば彼に会えるんだ。

そのことしか考えてなくて
それだけでここまできて。

惨めで情けない。

平民が夢見るシンデレラストーリー。

そんなものは現実にあり得ない。
わかっていたのに…。



スカートにポタポタと涙が落ちて
シミができていく。


もうお爺様に頼んで学園
辞めたいな。

無理だろうか…。


そんなことを考えていた時。


「これあんたの？」


落ち込んでいた私の前に
見慣れた私の靴が差し出された。


「そうです！探していたんです！ありがとうございます！」

咄嗟に靴を見つかったことが
嬉しくてつい思わず顔もちゃんと
確認せずに勢いよく彼の手を掴んでいた。


掴んで顔を見れば
まさかのこの国の王太子様だ！
なんて理解した瞬間


「アインス様、なにしてますの？」


今にも消え入りそうな声が
王太子様の後ろから聞こえてきた。


王太子様は掴まれていた手を
パッとひいて勢いよく
シェニー様の方に向き直った。

その際少しだけ見えたシェニー様は
なんだか泣きそうになっていた。


誤解させてしまったかも。


慌てて誤解を解こうと
前に出ようとしたら
何故だか急に王太子様が慣れ慣れしく
私の肩を掴みだしては

「別にシェニーには関係ないよ。」

なんて言って何故そんな
ニヤリと笑うのか。


「ちょっ！王太子さま！？」

さっきまで落ち込んでいたのも
忘れて王太子様を凝視してしまう。


だけど王太子様は私の方には
見向きもせずにじっとシェニー様を
見ている。

まるでシェニー様の反応を
楽しむかのように。

そしてシェニー様の方を向けば
少し頬を膨らませて目は潤んでいる。


…なんて可愛らしいのかしら。


じゃなくて！

思わずシェニー様に見惚れかけて
ハッとしてから
また王太子様を見れば
シェニー様とは反対に頬が緩んでいる。

…
……
………。

これは完全に好きな子を苛める
頭の悪い男の子ですわ。


この国の時期国王で
秀才だと言われている王太子様。

そんな彼がまさかこんな
好きな子をいじめて喜ぶ
拗らせ王子様だなんて…。


あぁシェニー様。



お疲れ様です。



こうして私は何故だか
拗らせ王太子様がシェニー様を
苛めて楽しむために
無理やりお友達にされてしまったのだった。