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学園の沙汰は委員(おに)次第
腐った縁(えにし)はちぎれそうでちぎれない
しおりを挟む何度目かもわからない一撃が、鬼神の鳩尾に入る。
立ち上がろうにも、足ががくがくと震え、上手く立てない。呼吸も乱れ、肩で息をしている状態だ。
初めは、此処までは酷くなかった。
力の差も五分五分と言ったところだった。むしろ、鬼神の方が少々上回っていたと思う。
が、戦いが長引けば長引く程、力の差は少しずつ表に出てきた。
目前にいる赤い髪の男は、一撃を食らわせても倒れるどころか、ニコニコと笑みを浮かべていた。
倒れもせず、息一つ乱さずにその場に立っている。
昨日は、あんなにもあっさりと床に沈められたのに。
柄で自身の肩を軽く叩きながら、高貴は口を開いた。
「どうした? 終わりか? こっちはまだまだやりたりねーんだけど。なんせ、店どころか家族にまで手出されたんだからな」
ゆらりと、鬼神は一歩踏み出す。
憎たらしい笑顔、憎たらしい赤。
この男さえいなければ、自分は何事もなく平和に暮らせていただろう。
でも、自分でも気付いているのだ。それは、逆恨みだと。
本当は、自分から日常を捨てたのだ。
いくらでもやり直せただろうに、自ら諦めて捨てた。
それを認めたくないから、誰かのせいにして正当化させる。
「今更、やめられるか……!」
走り出して、拳を振り上げる。
全身全霊を込めて、この拳を叩き込む。
拳は、高貴の頬にねじ込められた。
が、倒れる気配は無い。
また、憎たらしい笑みを浮かべて、奴は自分を見た。
「軽い」
「…………!」
「憎しみの拳と、愛を込めた拳じゃあ、憎しみの方が軽いんだ。昨日伊織にボコられて、身に染みた。てなわけで……」
桃娘さんの家来より、鬼神様へ愛を込めて。
屈辱を受けた伊織の気持ちと、店の店員の気持ち、学校を壊された生徒の気持ち。
そして、自分の腹立たしい気持ち。
その気持ちを込めた拳を鬼神に見せて、高貴は言う。
「重たい拳……その身で受けてみな!」
【執行委員会報告日誌。×月○日、歌舞鬼高等学校に奇襲を仕掛けてきた鬼神一派を執行委員会で撃退。教頭の通報を受けた獄卒警察が彼らを引き取る】
「その後、学校は校内の補修工事で一時閉鎖。二週間後に再開。以上っと……」
せっせと執行委員会の活動日誌に筆ペンを走らせ、剛はたまりにたまった報告書を片付けていた。
あの事件から、二週間が経った。
冥府の若い不良たちをまとめていた鬼神が警察に捕まった事により、抑えられていた不良達が「次は俺だ」「いや、俺だ」と鬼神を名乗り出て、高等学校は抗争の舞台となった。
こんな状態でも、未来の獄卒たちだ。偉い人……特に閻魔大王辺りの大人たちは「元気がよろしい」の一言だけ発言しただけで、特に問題視されていない。
過激化する不良達に対抗するべく、執行委員も内部強化に取り組む。
停学を終えたレンが正式に加入し、非常事態になった場合の武器(拷問道具)も新調。獄卒が使う本物の拷問道具に、伊織ははしゃぎっぱなしだ。
高貴の方も面倒そうな態度を崩さないが、なんだかんだで執行委員副委員長として活動している。
十二年の腐れ縁には敵わないとこぼしていたが、その時の表情は満更でもなさそうだった。長い物には巻かれろという判断かもしれないが。
休憩にしようと剛は立ち上がり、部屋の片隅にあるティーセットから粉末タイプの緑茶を取り出す。
紙コップに粉末と水を注ぎ入れていると、廊下の方から騒がしい声が響いてきた。
見回りに行っていた他の委員たちが戻ってきたようだ。ついでだからみんなの分も用意しよう。
扉が開いたのは全員分のお茶を用意した時であった。
「プリン代くらいどうって事ないですよ、伊織様。寧ろ、孤児院の生活費全額負担させりゃあいいんだ。人気キャバクラ店経営者の坊ちゃんなんだから!」
「なんの話してるんですか?」
耳に届いた会話の内容が突拍子もなく、つい聞いてしまった。
レンが口を開くよりも先に、伊織が室内を大股で横切り剛に詰め寄る形で口火を切った。
「剛、聞いてくれ! あの男、今朝方私のカスタードプリンを黙って食べたんだ!」
「黙って食べてませーん。『プリン食っていい?』って言いましたからー」
「食べて良かったのは焼きプリンの方だ! 四つ入りの小さいやつ! 私のカスタードプリンは大きいやつだっただろう!」
子供の喧嘩みたいなやりとりだな。
きゃんきゃんと騒ぐ委員長と副委員長に、思わず苦い笑みがこぼれる。
そこにレンも加わるのだから手に終えない。もう大混乱だ。
どうするんだ、この状況。
どうやって静かにさせるかと頭を抱えた時、剛の傍らに人が立つ気配を感じた。
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