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清風の頃

名残

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 あいつの事務所のライブを告知するポスターが目に入るようになった。
 夏になると、八月の中旬か下旬に行われる、あいつの事務所の若手ばかりが出るというライブ。もちろんあいつも出るし、なんなら若手の中でも中心に立つ存在だ。アイドルをやると聞いた時は、本当に出来るのかと心配したが、なんやかんやと続いているところを見る限り、性にあっていたようだ。
 告知ポスターの前で立ち止まった俺に、寺の孫が「どうした?」と首を傾げた。
 今日は珍しく二人飲みをするのだ。飲むのはお酒ではなくソフトドリンクだが、お互いに好きな菓子を持ち寄ったり、新発売の謎菓子を買ったりと、準備万端である。
 本当ならあいつも呼びたかったが、ライブが近いせいか。それとも別の仕事か。「時間が無い」と断られた。大変行きたそうな声をしていたので、休みが三人とも重なったらリベンジである。
 寺の孫は、俺の視線がポスターに向いていることに気づくと、納得した表情を見せた。

「もう直ぐ、恒例の夏ライブか」

「あいつは今年の分が終わったら卒業なんだって」

 この前の、寝付けなくて困ってたところにかかって来た電話で聞いた。このライブを卒業したら晴れて一人前のアイドル様だ。

「はえーなあ。そんで? 一人暮らし云々はどうなったんだよ。保留か?」

「よくぞ聞いてくれました」と、俺は口の端をつり上げた。

「とりあえず、していいかどうか、聞いてみるって」

 あいつの一人暮らしは、防犯のことや仕事の送迎やらを考えねばならない。住む場所も住む家も、今の立場では勝手には決められないのだ。

『パパからいいよって言われたらさ、助けてくれる?』

 恐る恐る聞いてきたあいつの声が、耳にはっきりと残っている。
 セフレにはならないようだが、このままの関係は続けても良いと言ってくれたみたいで、ほっとした。
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